地球の最も深いところに棲む生物とは?

 2015年7月、日本を中心とする国際研究チームが、「世界で最も深い海底地下の生物を発見した」と発表した。一体どんな生き物だろうか?

 場所は下北半島沖の水深1200mの深海の底を、さらに2500m近く掘った地中だ。これまで生物が見つかった中で最も深い海底地下になる。海洋研究開発機構の探査船「ちきゅう」で、海底をボーリングして掘った中から見つかったもので、世界的な科学雑誌にも取り上げられた。

  海の水の中なら1万mの深海でも甲殻類が見つかったりしているが、地下ではそこまで深い場所で生きていくのは難しいと考えられている。というのは、地中深くにマグマがあるように、地下は深くなるほど温度が高くなって、4000mあたりでは100℃ぐらいになってしまう。水や栄養も僅かだし、そのあたりが限界に近いと考える専門家も多い。これまで、海底地下での生命発見の記録は、地下1900mであった。



 このときの調査でも、深く掘るにつれて生物の量がどんどん少なくなっていったが、2500m付近にこれまで未確認の石炭の地層が見つかって、その中にだけは、沢山の微生物がいた。

 「海底の地下の石炭の中」と言っても、どんな所かイメージしにくいが、温度は60℃と、既にかなり高温。しかも、圧力は地上の300倍の300気圧以上という超高圧。岩石がぎゅっと詰まっているため、酸素も水も殆ど無い厳しい環境だ。

 こんな「極限環境の生物」を調べることで、生命はどんな環境なら生きられるのか、生命の起源や進化はどうなのか知ることができる。そして、もう一つ現実的な意義として、エネルギー資源の謎と大きく関わっている。このような微生物が、重要なエネルギー資源を生み出しているの可能性がある。

 今回さらに深い、海面下1万mに微生物の存在する“証拠”が発見された。海底の泥火山から採取された蛇紋岩のサンプルには、地下深くに生息する微生物の排泄物らしき有機物が含まれていた。研究チームは、地球上で最も深いマリアナ海溝の海底下に、今も微生物が生息していることを示す痕跡を探し当てた。


海底下1万mに生命か、深海の火山から有機物

 およそ40億年前の地球は、生命が存在するにはきわめて過酷な場所だった。隕石がひっきりなしに衝突し、地表はどろどろに溶けた岩に覆われ、手に入る栄養分も、すむことのできる場所もわずかだった。このような環境を、微生物はどのように生き延びたのだろうか。

 科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に4月10日付けで発表された論文によると、初期生命の中には、海底からさらに1万メートル下の地中に潜り込んで命をつないでいたものもあったようだ。

 地球の生命がいつ、どこで、どのように発生したかのかは確かな証拠が得られていないために現在は複数の説が唱えられている状況だが、生命誕生の場として最も有力とされるのが、「蛇紋岩」と呼ばれる岩石に伴う温泉環境だ。

 蛇紋岩は現在の地表にはわずかしか露出していないが、地球誕生直後の海底では最もありふれた岩石だったと考えられている。 蛇紋岩は水と反応することで高濃度の水素ガスを生成する特徴を有しており、蛇紋岩が生命誕生に必要なエネルギーと有機物の合成を促したとする説が有力だ。

 蛇紋岩は、上部マントルのかんらん岩が沈み込み帯から出た水と反応してできる鉱物のこと。このとき高濃度の水素ガスやメタンガスを生成する特徴を有しており、これを蛇紋岩化作用という。これらの水素やメタンガスを利用する微生物が存在する。


 深海底のさらに下に生命圏?

 マリアナ海溝は、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込んでいる地帯で、周囲には熱水噴出孔や泥火山が数多く点在し、地下深くから様々な物質を吐き出している。

 マリアナ海溝の近くにあるサウス・チャモロ海山は、すぐ下の沈み込み帯の活動によって形成された海底泥火山だ。ここから研究チームは、鉱物が豊富に含まれた泥を採取した。それを分析してみると、微生物こそ出てこなかったものの、何かが生息していることを示す興味深い有機物の痕跡を発見した。これが、地球上で最も過酷な環境でも生存できる生命がいることの証明になるかもしれない。

 「この地球の広大で奥深い生命圏についての新たな手掛かりです」と、オランダのユトレヒト大学の研究者で、今回の研究を率いたオリバー・プルンパー氏は言う。「それは、巨大かもしれないし、とても小さいかもしれない。とにかく、まだ私たちの理解していない何かがあるのは確実です」

 生命がここまで深い場所で生存できるのは、沈み込み帯の温度が比較的低いためと考えられる。沈み込んだ地殻は、マントルの下の方までいかなければマグマにぶつかることはない。したがって、海底から少なくとも1万メートル下まで潜らなければ、生命が存在できる温度の限界とされる122℃前後には達しないと、プルンパー氏は推測する。

 ということは、これらの微生物は地球上で知られている限り最も深い地中に生息する生物と言える。これまでも海底の堆積物の中から地下数千メートルに生息する微生物が発見されたことがあるが、今回はそれよりもさらに深い。

 米ミシガン州立大学の地球微生物学者マシュー・シュレンク氏は、「この論文の主な成果は、地下を奥深く潜った場所でも生命が生息している可能性を示したことだと思います」と話す。シュレンク氏は、蛇紋岩化作用を栄養源にする微生物の生態学を研究している。

「生命圏の深さの限界を見つけようというのであれば、この研究でその限界が大きく引き伸ばされることになりそうです」


 鉱物の反応が微生物のエサに

 プルンパー氏の研究チームは、蛇紋岩と呼ばれる岩石の中で見つかった有機物を分析した。蛇紋岩とは、上部マントルのかんらん岩が沈み込み帯から出た水と反応してできる鉱物のことで、いくつかの種類がある。この蛇紋岩化作用の過程で、微生物のエサとなる水素とメタンガスが発生する。

 蛇紋岩化作用は海底の熱水噴出孔などでも見られ、微生物が生息できる環境を作り出している。しかし研究チームは、発見した有機物について、さらに深い場所に生息してガスを食べる微生物による排泄物なのではないかと考えている。泥に含まれていた炭化水素と脂質を分析した結果、他の細菌の出す排泄物にとてもよく似ていることがわかった。とはいえ、今のところはまだ何も確定していないと研究チームは断っている。

「これらの微粒子は確かに生命の存在を示唆していますが、論文の執筆者も認めているように、その生命がどこから来たかということに関してははっきりしていません」と、米ウッズホール海洋研究所で蛇紋岩化作用について研究しているフリーダー・クライン氏は言う。

 有機物が外部から入り込んだ可能性もあるが、いくつかの確認項目のうち、炭酸ガスについては検査の結果否定された。クライン氏は論文の結果を高く評価しているものの、有機物が地殻など別の場所から紛れ込んだという可能性は捨てきれないとしている。


 地球外生命はこうした環境にいる?

 1960年代に蛇紋岩化作用の研究が始まると、それがいたるところで発生していることがわかった。大陸同士がぶつかり合う部分、熱水噴出孔、かつて海の底だった山岳地帯などに見られる。

 地球上では珍しくない現象であり、極限状態でも生命を支えることのできる可能性を秘めている点が、地球外生命を探す研究者たちの興味を引いた。
「地球上で研究しているこの作用と直接つながるような作用が、太陽系のほかの場所で起こっているかもしれません」と、クライン氏。

 なかでも注目されているのが、木星の衛星エウロパと、土星の衛星エンケラドスだ。どちらも氷に覆われているが、その下には海が広がっていると考えられている。

 エンケラドスには、地殻変動が起こっていることを示唆する証拠もある。地殻変動があれば、プルンパー氏のチームが研究しているような沈み込み帯が形成されるが、これもまだはっきりとはわかっていない。

 「岩石惑星でかんらん岩が発生する場所なら、蛇紋岩化作用もおそらく起こっていると考えられます。光合成がないところでは、それが生命を支える物質を作り出すことができるでしょう」と、プルンパー氏。

 しかし、地球外生命を探すにしても、地球上で行われている研究と同じ問題にぶつかるであろうことに変わりはない。微生物が潜んでいるかもしれない地下深くまで到達するのが不可能であれば、間欠泉や岩石、そのほか地下深くから掘り出したサンプルを分析して解釈するしかないということだ。

 深海掘削によって採取したサンプルは、「瓶に入れられた手紙のようなものだと思います」と、プルンパー氏はいう。「地下から掘り出した瓶を開け、何が起こっているのかを推測しようとしているのです」


参考 National Geographic news: 海底下1万mに生命か、深海の火山から有機物


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