ことしのノーベル賞予想に日本人研究者

 今年もノーベル賞のシーズンが近づいてきた。今年の発表は、10月2日に医学生理学賞、3日に物理学賞、4日に化学賞が、6日に平和賞、9日に経済学賞の予定である。文学賞の日程は後日発表される。

 さて、今年のノーベル賞の発表を前に、受賞が有力視される世界の研究者22人をアメリカの学術情報サービス会社が発表し、日本からは化学賞で桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の名前が上がっている。

 宮坂特任教授は、「ペロブスカイト」と呼ばれる特殊な結晶の構造を持つ物質を金属板などに塗るだけで、太陽電池を作ることができることを発見した。ペロブスカイト太陽電池は、現在の太陽電池に比べて軽くて生産コストが安いうえ、折り曲げることも可能になることから、次世代の太陽電池として注目を集めている。



 アメリカの学術情報サービス会社「クラリベイト・アナリティクス」は、およそ6300万本もの研究論文の引用回数をもとに、ノーベル賞の受賞が有力視される世界の22人の研究者を発表した。このうち日本からは、化学賞で桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授(64)が挙げられた。

 「クラリベイト・アナリティクス」は、前身の「トムソン・ロイター」を含め、去年までに世界の278人を有力な研究者として発表していて、このうち43人がノーベル賞を受賞している。

 日本人も、アメリカ国籍を取得した人を含めて24人が選ばれていて、山中伸弥さんと大隅良典さんが医学・生理学賞を、中村修二さんが物理学賞をそれぞれ受賞している。ノーベル賞をめぐっては、ことしも日本人が受賞すると初の4年連続の受賞となるだけに、その行方が注目される。


 ペロブスカイト太陽電池とは

 ペロブスカイト太陽電池とは、「ペロブスカイト」と呼ばれる特殊な結晶の構造をした物質を材料にした太陽電池で、次世代の太陽電池として注目されている。

 宮坂さんは、平成21年、鉛などを含む有機化合物をペロブスカイト構造の結晶にして金属板などに塗ると、太陽電池ができることを発見した。

 当初は太陽光を電気に変える発電効率は3%余りだったが、3年後には10%、現在は従来の太陽電池に匹敵する20%を超えるレベルに達し、製品化に向けた動きも出始めている。

 特に、ペロブスカイトを1マイクロメートルにも満たない厚さで金属板などの電極に塗るだけで太陽電池ができることから、安くて軽いうえ、折り曲げることも可能なのが特徴だ。

 このため宮坂さんは、衣服やかばんに太陽電池を貼り付けることで身の回りのパソコンや医療用の機器を動かすほか、人工衛星などへの応用も期待できるとしている。

 桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授は、「ペロブスカイト太陽電池の研究がものすごい勢いで広がっていることから、ノーベル賞への道もあるのかなと考えていましたが、実用化には数年かかると思うので、非常に早い反応に驚いています」と話している。

 そのうえで、「この技術は日本が発見したのに、欧米や中国、韓国などで研究に火がつき、日本があとから追いかける状況になってしまった。現在は、マラソンでいう先頭集団にようやく上がってきた状況なので、若い研究者に、もっとこの分野に参加してもらうとともに、私自身も努力していきたい」と話している。


 世界から注目されるペロブスカイト太陽電池

 太陽の光エネルギーを直接電気に変換する太陽電池。その種類は、原料として使われる半導体によって様々だが、現在量産されている太陽電池の多くは、「シリコン系太陽電池」と「化合物系太陽電池」と呼ばれるタイプのものだ。これらの太陽電池は壊れにくく、高変換効率(高いものでは25%を達成)である一方で、材料や製造コストが比較的高いというデメリットがあった。さらに、シリコン系太陽電池ではシリコンが厚く、曲げることができないことが設置場所を制限していた。

 そこで次世代の新規太陽電池材料として期待を寄せられているのが、「ペロブスカイト太陽電池」だ。ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池であり、「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」にも匹敵する高い変換効率を達成している。

 ペロブスカイト膜は、塗布(スピンコート)技術で容易に作製できるため、既存の太陽電池よりも低価格になる。さらに、フレキシブルで軽量な太陽電池が実現でき、シリコン系太陽電池では困難なところにも設置することが可能になる。

 このような特徴を有する太陽電池で、シリコン系太陽電池と同程度の変換効率を有するものは無かった。ペロブスカイト太陽電池の登場によって、理想的な太陽電池が実現可能になった。このことから、ペロブスカイト太陽電池は、世界で最も注目されており、太陽電池に関する世界中の論文の大半がペロブスカイト太陽電池に関するものになっている。

 2009年にこの画期的な太陽電池を最初に提案したのが宮坂力教授で、世界的な注目を集めた。2013年からは、JSTの先端的低炭素化技術開発(ALCA)が取り組む「太陽電池および太陽エネルギー利用システム」に参画し、現在では実用技術化プロジェクトのなかで、有機無機ハイブリッド高効率太陽電池の研究開発を世界レベルでリードしている。


 ペロブスカイト構造、フレキシブルで低価格

 宮坂教授が太陽光吸収に用いるNH3CH3PbI3という化学式で表されるペロブスカイト結晶は、濃い褐色であり、可視光の利用率が高い。宮坂教授はこの材料を、世界で最初に太陽電池に応用した。

 ペロブスカイト太陽電池を作るには、薄膜の形成と塗布プロセスが必要になる。まず原料を含む溶液を、金属酸化物(チタニアやアルミナ)の膜上に塗布してペロブスカイト結晶薄膜を形成する。この薄膜は波長800nmまでの可視光を吸収できる性能を持つ。その上層に、プラスの電気(正孔)が集まる有機の正孔輸送材料を接合して薄膜セルを作る。ペロブスカイト太陽電池の作製が容易であることから各所で研究が開始され、変換効率が急速に向上した。

 宮坂教授らは、これまでのALCAの研究で、材料や結晶構造、プロセスを最適化することで、ペロブスカイト太陽電池として最高クラスの変換効率(21.6%)と1.15V以上の高い電圧出力を実現している。

 曲げられるフィルムタイプの太陽電池の実用化に向けて ペロブスカイト型構造の太陽電池には、他にも大きな特長がある。製造するときの温度を、シリコン系に比べて低くできる点だ。これはプラスチックを痛めない範囲に収めることができ、プラスチックフィルムタイプの太陽電池の製造を可能にする。

 シリコン系太陽電池は薄くすると太陽光のエネルギーが吸収できなくなるため、変換効率が大きく低下する。しかし、ペロブスカイト太陽電池であれば、太陽光の吸収係数が大きいため、高い変換効率を維持したフィルムタイプ太陽電池の実現が可能である。

 変換効率をさらに高めて、実用に耐えられる耐久性も備えられれば、加工しやすい透明フィルムの太陽電池を開発できる。屋外用や屋内用、携帯用など、広い用途の民生用産業材料が誕生するはずだ。宮坂教授らがこのフレキシブル太陽電池を100回以上曲げる試験を実施したところ、その性能が安定していたことも確かめている。


 変換効率30%以上の太陽電池とPbフリー化を目指す

 ペロブスカイト太陽電池と別種の太陽電池とを組み合わせたタンデム構成にすることで、従来のシリコン系太陽電池(変換効率は25%以下)を大幅に上回る変換効率30%以上の太陽電池を作ることにも挑む。また、30年以上の使用に耐える高信頼性化も視野に入れる。そして同時に、人体へ悪影響のある鉛を使わないPbフリーペロブスカイト太陽電池の開発も目指している。これらによって、あらゆる場所に設置でき、少ない面積で大きな電力が得られる理想的な太陽電池が実現し、CO2低減に貢献できる。


ペロブスカイト太陽電池、「格安で超高性能」を実現へ

 2006年に日本で産声を上げたペロブスカイト太陽電池。全固体セルの変換効率は2008年の0.4%から4年で10.9%、さらに3年後には22%を超えた。今から数年後には、GaAs系太陽電池並みの高効率発電を、Si系太陽電池の数分の1の価格で実現できる可能性がある。その成否は、日本や世界のエネルギー問題を大きく左右しそうだ。

 「これは本物」─。京都大学 准教授の若宮淳志氏は、太陽電池の“期待の大型新人”であるペロブスカイト†太陽電池(Perovskite Solar Cell:PSC)をこう評価する。同電池の最大の特徴は、極めて発電性能が高く、しかも格安で製造できる太陽電池になる可能性が高いことだ。

 ペロブスカイト=本来は「灰チタン石」とも呼ばれる鉱物CaTiO3を指す。その後、そのABX3という結晶構造が多くの鉱物に非常に一般的であることが分かり、その構造を備えた材料全般を指すようになった。コンデンサーなどに使われるチタン酸バリウム(BaTiO3)や、圧電材料のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)もペロブスカイト構造を採っている。


GaAs系並みの性能をSi系より安く実現へ 

 今後実現可能と見られている変換効率や価格と、既存の太陽電池各種とを比較した。人工衛星や集光式と呼ばれる特殊な太陽電池で使われているGaAs系太陽電池は変換効率は高いが、価格は普及したSi系太陽電池の100倍前後と高い。PSCは近い将来、GaAs系太陽電池並みの高い性能を、普及したSi系太陽電池の数分の1の価格で実現できると推測されている。

 開発に携わる研究者や技術者は、理論的には変換効率33%を見込む。現実的に考えても、近い将来に変換効率25%の太陽電池を、現在普及しているSi系太陽電池の1/5の価格で実現できる、とみる。「変換効率25 %のPSCの場合、年産1GW程度の量産規模で、運搬費用なども含めた初期導入コスト15円/W、発電コスト7円/kWhを実現できる」(東京大学 教授の瀬川浩司氏)。

 7円/kWhは経済産業省などが、技術的に大きなブレークスルーを前提に2030年に実現する目標を立てている。PSCがその技術的ブレークスルーとなり、しかも実現時期を10年近くも前倒しできる見通しになったわけだ。PSCパネルの変換効率は25%、耐久性は10年を想定した試算である。

 さらに、Si系太陽電池などと積層する「タンデム型」にすれば、人工衛星に使われているような変換効率35%前後の太陽電池を、約1/100の価格で入手できるようになる見通しだ。

 太陽光発電は日本および世界のエネルギー源として既に重要な位置を占めつつある。PSCは、太陽光発電の重要性をさらに大きく高める可能性がある。


参考 マイナビニュース: http://news.mynavi.jp/news/2017/09/21/032/


nature [Japan] January 22, 2015 Vol. 517 No. 7535 (単号)
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ネイチャー・ジャパン
有機薄膜太陽電池の開発動向 (CMCテクニカルライブラリー―エレクトロニクスシリーズ)
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