9月5日~7日、太陽フレアーによる磁気嵐発生

 太陽の活動を観測しているNASA(アメリカ航空宇宙局)は、日本時間の9月5日から7日にかけて、5回にわたって「太陽フレアー」を観測した。そのうち9月6日に発生した2回の大規模なものは、ともに「X」クラスと呼ばれる最も規模の大きい爆発に分類されるが、このうち、日本時間の午後9時ごろに観測された2回目は、2008年12月以降、最大の爆発だったという。

 この影響で、9月8日午後から深夜にかけて電気を帯びた微粒子が地球に到達し、GPSや無線通信などに影響が出た。また、この「フレア」の影響で今月、地球で磁気嵐が起きて日本でも北海道でオーロラが見られ話題となった。

 今回、およそ250年前の江戸時代に観測史上最大の磁気嵐が発生し、京都市で夜空の半分を覆うようなオーロラが観測されていたとする研究成果を国立極地研究所などのグループが発表した。



 江戸時代の1770年9月17日には、当時「赤気」と呼ばれたオーロラが観測されたことが多くの絵図や文献に残されている。国立極地研究所と国文学研究資料館などの研究グループは、このうち京都市伏見区の神社に保存されていた文献に赤いオーロラが夜空の半分を覆ったとかオーロラの筋が天の川を貫いていたといった詳しい記載を見つけ、これを基にオーロラの規模や見え方を計算した。

 その結果、当日の天の川の位置などから、オーロラは真北を中心に天頂まで伸び、扇のように広がって見えていたことがわかり、絵図に残された形とも重なった。

 さらにこれを基に計算したところ、このオーロラを作り出したのは今月上旬、太陽表面の爆発現象、「フレア」によって発生しGPSなどに影響を与えた磁気嵐の10倍程度という、観測史上最大の磁気嵐だったとしている。

 国立極地研究所の片岡龍峰准教授は「確率は低いが今でも同じような磁気嵐が起きないとは言えない。オーロラが見える期待もあるが同時に大停電などの影響にも注意する必要がある」と話している。


江戸時代の古典籍に記録が残る史上最大の磁気嵐

 江戸時代の日記や文献に残された記述から、1770年に京都で観測された巨大なオーロラを発生させた磁気嵐が史上最大規模であったことが推定された。 

 太陽で爆発が起こると、太陽磁場と共に大量のプラズマが放出され、それが地球に到達すると、地球の磁場が一時的に減少して「磁気嵐」が起こる。大きな磁気嵐の場合、極域だけでなく低緯度でもオーロラが見られるようになり、1859年9月に発生した観測史上最大の磁気嵐「キャリントン・イベント」の際には、青森県や和歌山県でもオーロラが見られたという記録が残っている。

 キャリントン・イベント以前にも、日本国内におけるオーロラ観測の記録がある。古くは藤原定家の日記『明月記』に記されたもので、1204年の京都で1週間のうちに何度もオーロラが見られたと記述されている。また、古典籍『星解』には山から放射状に吹き出すような形のオーロラが描かれており、「北にある若狭の国で火事が起こったのではないか」という記載から1770年9月17日の深夜に京都から見えたオーロラだと考えられている。

 『星解』に描かれた1770年9月のオーロラ。赤い筋の中にさらに赤い筋があるという細かい構造も描かれている。オーロラの下の部分や西や東の端が黒っぽく描かれていることもわかる(松阪市郷土資料室所蔵。提供:三重県松阪市)

 国立極地研究所および総合研究大学院大学の片岡龍峰さんたちの研究グループは、京都市伏見区の東丸神社に所蔵されている江戸時代の古典籍、東羽倉家の日記にも同日のオーロラの記述があることを発見した。「オーロラが天の川を貫いた」という記述と、この日の天の川が京都の天頂付近に位置していたことから、オーロラが京都の天頂にまで広がっていたと仮定してシミュレーションで見え方を再現したところ、『星解』の絵図とほぼ同じ形が得られた。

 この結果は仮定が正しいということ、つまり、京都から見えたのは遠くの空に輝くオーロラの末端ではなく、京都の天頂近くまで広がった巨大なオーロラだったことを示している。当時の京都の磁気緯度は24度であり、磁気緯度の低い場所にまでオーロラが広がっていたことになる。

 1859年のキャリントン・イベントの際にも低い磁気緯度の場所で天頂にまで伸びるオーロラが見られていたが、地磁気は1770年のほうが強かったことを考慮すると、磁気嵐の規模は1770年のほうが1割程度大きいと推定される。『星解』や東羽倉家の日記に記されたオーロラは、史上最大と言われたキャリントン・イベントと同等か、さらに規模の大きな磁気嵐によって発生していたということだ。同規模の磁気嵐が現代に発生すると、ハワイのような低緯度の場所でも『星解』の絵図のような放射状のオーロラを見ることができるかもしれない。

 また、今回の研究は、『星解』や東羽倉家の日記が現在の科学の分析に耐えうるものであることを改めて示すものとなった。江戸時代、人々の天文に関する関心は高く、特に珍しい天体現象を細かく書き残して後世に情報を伝えていく習慣があった。本成果は、こうした江戸時代の記録管理のあり方が現在の最新の科学研究と結びついて導かれた、250年前の“市民科学”による研究成果といえる。


 磁気嵐とは何か?

 磁気嵐(Magnetic-storm)とは、地磁気が通常の状態から変化し、乱れが生じること。通常は中緯度・低緯度において全世界的に地磁気が減少する現象のことを指す。

 典型的な磁気嵐では地磁気は数時間から1日程度の時間をかけて減少し、その後数日かけて徐々にもとの強さまで回復していくという過程をとる。このうち地磁気が減少し磁気嵐が発達する過程を主相、回復する過程を回復相と呼ぶ。磁気嵐にともなって変化する地上の磁場は通常時の1000分の1程度だが、大規模な磁気嵐のときは通常時の100分の1程度の変化が観測される場合もある。

 磁気嵐の原因の多くは、太陽フレアに伴ってコロナ質量放出(CME)と呼ばれるプラズマの塊が太陽から放出され、それが強い南向き磁場をともなって地球磁気圏に吹きつけた場合に発生する。このような磁気嵐はフレア発生から1~数日後に観測され、太陽フレアが太陽黒点の活動と関係していることから太陽黒点数が多い太陽の活動が活発なときに発生しやすい。

 また、太陽のコロナが希薄な領域から吹き出る高速の太陽風によって弱い磁気嵐が起きる場合もある。このような磁気嵐は、太陽活動が最も活発な時期から数年経過した頃によく観測される。磁気嵐の主相時は激しいオーロラ嵐も一緒に発生する場合が多く、その場合、特に高緯度地域ではその効果による激しい磁場の変化も観測される。

 このような磁場変化は地上の送電線などに誘導電流を作るので、まれに高緯度地域の人々の生活にも影響を及ぼすこともある。例えば1989年3月13日、太陽フレアによる強い磁気嵐が起きた際には激しいオーロラ嵐による磁場の変動が原因となってカナダのケベック州にある発電所の送電システムが障害を起こし長時間の停電が発生した。

 その他、磁気嵐が発生すると人工衛星の電子精密機器の故障、無線通信の障害などの悪影響が出る場合がある。これらを未然に防ぐため近年、磁気嵐を予測する宇宙天気予報の研究が進められている。

 1988年6月、フランスからイギリスへ向けて行われた国際伝書鳩レースは、たまたま強い磁気嵐が起きている日に行われてしまったので、放たれた5000羽の鳩のうち、2日後のレース終了までにゴールに到着したのはわずか5%程度という、まれに見る悲惨な結果になってしまった。

 鳩の体内には磁気コンパスがそなわっており(つまり磁場で方位を感じ取る能力があり)それを用いて旅をしているようだ、とは以前から言われていたが、この事件をきっかけに学者らにより鳩の帰巣能力と鳩の磁気コンパスとの関係を検証するいくつもの実験が行われ、鳩が磁気コンパスを用いていることが証明されることになった。


 太陽フレアとは何か?

 太陽フレア(Solar flare)とは太陽における爆発現象。別名、太陽面爆発という。

 太陽系で最大の爆発現象で、小規模なものは1日3回ほど起きている。多数の波長域の電磁波の増加によって観測される。特に大きな太陽フレアは白色光でも観測されることがあり、白色光フレアと呼ぶ。太陽の活動が活発なときに太陽黒点の付近で発生する事が多く、こうした領域を太陽活動領域と呼ぶ。太陽フレアの初めての観測は、1859年にイギリスの天文学者、リチャード・キャリントンによって行われた(1859年の太陽嵐)。

 「フレア」とは火炎(燃え上がり)のことであるが、天文学領域では恒星に発生する巨大な爆発現象を指している。現在では太陽以外の様々な天体でも観測されているが、本稿に於いては人類の近傍にある唯一の恒星である太陽のフレアについて説明する。

 フレアの大きさは通常1~10万km程度であり、威力は水素爆弾10万~1億個と同等である。100万度のコロナプラズマは数千万度にまで加熱され、多量の非熱的粒子(10keV-1MeVの電子や10MeV-1GeVの陽子)が加速される。同時に衝撃波やプラズマ噴出が発生し、時おりそれらは地球に接近して、突然の磁気嵐を起こす。

 フレアの発生機構については、太陽活動領域中に蓄えられた磁気エネルギーが、磁気再結合によって熱エネルギーや運動エネルギーに変換されるという説が有力である。このフレア発生の際には太陽表面に2種類の特殊な磁場構造が生じていることが地球シミュレータによる詳細な計シミュレーションと太陽観測衛星ひので (人工衛星)による観測データの精密解析で明らかとなった。また、全てのフレアを説明するモデルとして、京都大学教授柴田一成の「フレアの統一モデル」がある。

 フレアが発生すると、多くのX線、ガンマ線、高エネルギー荷電粒子が発生し、太陽表面では速度1000km/s程度で伝播距離50万kmにも及ぶ衝撃波が生じる事もある。またフレアに伴い、太陽コロナ中の物質が惑星間空間に放出される(コロナル・マス・エジェクション (CME))ことが多い。高エネルギー荷電粒子が地球に到達すると、デリンジャー現象、磁気嵐、オーロラ発生の要因となる。

 2003年は、大規模なフレアが頻発し、デリンジャー現象により、地球上の衛星、無線通信に多くの悪影響を与えた。また地球磁気圏外では、フレア時のX線、ガンマ線による被曝により、人の致死量を超えることもある。

 フレアの活動は、太陽活動周期や黒点の蝶形図(コロナの蝶形図)によって、関係付けを説明されることもしばしばある。フレア時の高エネルギー荷電粒子の地球への到達、あるいは、フレアの発生そのものを観測・予報することは宇宙天気予報と呼ばれ、太陽研究者にとって重要課題となっている。


参考 NHK news: http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170924/k10011153821000.html


NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2012年 06月号 [雑誌]
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