イグ・ノーベル賞 雌雄逆の昆虫発見 

 ノーベル賞のパロディーとしてユニークな研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」の授賞式がアメリカのハーバード大学で行われ、メスにオスのような生殖器がある昆虫を発見した北海道大学などの研究者が「生物学賞」に選ばれ、日本人の受賞は11年連続となった。

「イグ・ノーベル賞」は、1991年にノーベル賞のパロディーとしてアメリカの科学雑誌が始めた賞で9月14日、ハーバード大学で、授賞式が行われた。

 このうち、「生物学賞」は北海道大学の吉澤和徳准教授と、慶応大学の上村佳孝准教授らが受賞し、日本人は11年連続の受賞となった。吉澤准教授らは、ブラジルの洞窟で、メス側の生殖器が伸縮可能な形で、オスの腹部に差し込まれる「チャタテムシ」の仲間の昆虫を発見した。



 この昆虫は、メスがオスの腹部から精子を受け取って生殖するということで、性の違いを考えるのに重要な示唆を与えるとされている。

 研究内容が発表されると、会場は困惑した雰囲気になったが、吉澤准教授らが「世界中の辞書には、男性の生殖器は男性のものと書かれていますが、私たちの発見によってすべて時代遅れになりました」と話すビデオメッセージが紹介されると、笑いと拍手に包まれた。

 会場で研究内容を聞いていた女性は、「私の友人にも性の区別を超えて生きている人がいるので、興味深い研究だと思いました」などと話していた。


 吉澤准教授「ほとんど見向きもしなかった」

 北海道大学の吉澤和徳准教授が研究対象としたのは、「チャタテムシ」。私たちの家の中でも見つけることができるごくありふれた昆虫のため、ほかの研究者は、ほとんど見向きもしなかったという。

 吉澤さんは「自分は、チャタテムシ研究の第一人者と思っているが、それは、日本で研究しているのは、私ぐらいしかいないためで世界的に見ても数人しかいないのでは」と話している。

 このため吉澤さんが研究をスタートさせると国内外から新種のチャタテムシを次々と発見することができたという。中でも光が届かず、餌もわずかしかないため生物が独自の進化を遂げる可能性がある洞窟に着目したところ、オスとメスの生殖器の逆転という世界的にも例がない研究成果にたどりつけたという。

 今回の授賞式も九州地方の洞窟での調査があり出席できなかったという吉澤准教授は「とても著名な賞ですし、すごくうれしく思いました。われわれの感じている性の差がどうして生じたのか、わかっていない部分も多いのでこれからも研究を進めたい」と話している。

 分類学に詳しい九州大学の丸山宗利准教授は「今回の発見は緻密な形態の観察があってこその成果で、性の差という生物学の重要な問題を考えるうえでとても大きな発見だ。形態をもとにした分類学はなかなか日の目を見ない学問だが、現在大きく報道されているヒアリのような問題も、ヒアリがほかのアリと形態的にきちんと区別できることが重要であり、分類学のさまざまな積み重ねがあって初めてそれが可能になっていることを多くの人に知ってほしい」と話している。


 日本からの受賞11年連続「すごいことだと思う」

 イグ・ノーベル賞を主催しているマーク・エイブラハムズさんは、日本からの受賞が11年続いていることについて「日本は、世界中が必要としている電気製品や自動車を作ってきたように、イグ・ノーベル賞受賞者を生み出す方法を見つけ出したのではないか。世界がどう思っているかはわからないが、私はすごいことだと思う。日本の研究者がほかのものをコピーするのではなく、独自の新しいものを考えていることを示していると思う」と評価している。

 そのうえで、日本の研究者へのメッセージとして「純粋に新しいことを試したいと考えるのはすばらしいことで、それが笑える内容ならば、なおのことすばらしい。ずっと続けていってほしい」と話している。

 イグ・ノーベル賞は、「人を笑わせ、そして考えさせる」、独創的でユニークな研究をたたえるもので10の部門に贈られました。

このうち、「平和賞」は、オーストラリアの先住民アボリジニの木管楽器を日常的に演奏することが睡眠時無呼吸症候群やひどいいびきの改善に役立つかどうかを調べたスイスやカナダなどの研究グループに贈られました。

「経済学賞」は、ワニと接触することで、ギャンブルにのめり込む度合いがどう変わるのかを実験したオーストラリアなどの研究者が受賞しています。

 自然科学の部門では、「解剖学賞」を、なぜ年配の男性は耳が大きいのかを医学的に調べたイギリスの研究者、「医学賞」をチーズが嫌いな人がチーズをどれくらい嫌がっているかを最新のMRIを使って脳内の様子を調べたフランスなどの研究グループ、「認識賞」を一卵性双生児の多くは、写真では自分たちを見分けられないことを明らかにしたイタリアなどの研究グループが受賞している。

 さらに、アジアからは日本以外に韓国の研究者が、コーヒーの入ったカップを持って後ろ向きに歩いたときにコーヒーがどのように波打つかを解析した研究で「流体力学賞」を受賞しました。


 チャタテムシとは何か?

 チャタテムシ(茶立虫)は、昆虫綱咀顎目(Psocodea)のうち、寄生性のシラミ、ハジラミ以外の微小昆虫の総称。側系統だが、かつてはチャタテムシ目(噛虫目、Psocoptera)に分類された。多くは仲間は、本のあいだに潜む虫だっだり、乾燥食品を食す害虫でしかない。

 チャタテムシ目は現在でも便宜的に使われるが、亜目などに格下げされたのではなく、正式な分類群としては認められていない。有翅のものと無翅のものがいる。咀嚼口式で、触角は糸状である。有翅のものでは体長より長い。

 無翅のチャタテムシ: コチャタテ科、コナチャタテ科などの昆虫などで無翅である。体長は1 - 2ミリメートル程度、形状がシロアリなどに似て、頭部が相対的に大きい。コナチャタテ科のものでは雄と雌で体長にかなりの差がある。

 書物、乾燥食品、動植物標本、皮革製品などを食害する害虫として知られ、しばしば大発生してかなりの被害をもたらすこともある。

 有翅のチャタテムシ: チャタテムシ科、ホシチャタテ科などで有翅である。体長は3 - 7ミリメートルほどで、前翅のほうが大きい。カビや地衣類などを食べる。ウンカやショウジョウバエと間違えられることもあるが、本体の形状がそれらとは著しく異なるため、区別できる。

 いわれてみると「ああ、あの害虫」とようやく思い出すことができた。何でも自分が独自の視点で興味を持ち、研究することは大切だと思う。今回のように「雌雄逆転」という、思わぬ発見があるかもしれない。


 ここ最近、イグノーベル賞を受賞した日本人

 今年で11年連続の受賞となるイグノーベル賞。ここ最近の日本人受賞者の研究を見てみよう。どれも、賞を取らなければ注目されないかもしれないが、その独自性が素晴らしい。また、独自性がなければ世の中面白くない。

 現に昨年、2016年は「股のぞき効果」の研究で知覚賞を受賞した。立命館大学文学部の東山篤規教授と大阪大学人間科学研究科の足立浩平教授は、「若い学生・研究者は、誰もしないこと、自分が面白いと思うことを研究してほしい。そして、この賞が、そうした研究の励みになることを願っています。」と述べている。

 2015年は、大阪府寝屋川市大阪府寝屋川市にある木俣肇クリニックの木俣肇院長が「キスをすることで皮膚アレルギー反応が低減すること」を示した研究で医学賞を受賞した。

「キスをするとアトピー性皮膚炎患者のアレルギー反応が弱まる」ことを示した大阪府寝屋川市の開業医、木俣肇院長(62)が医学賞をスロバキアの研究者らと共同受賞した。

 2014年 物理学賞 床に置かれたバナナの皮を、人間が踏んだときの摩擦の大きさを計測した研究に対して 馬渕清資(北里大学教授)、田中健誠(北里大学)、内島大地(北里大学)、酒井里奈(北里大学)らが受賞した。

 馬渕教授らのグループは、ふだん研究する人工関節の性能向上に、バナナの皮の滑りやすい仕組みを応用できないかと考えた。バナナの皮の内側を下にして床に置き、靴で踏む実験を100回以上繰り返した結果、皮がない時に比べて、6倍滑りやすくなることがわかったという。皮の外側を下にした場合は3倍だったという。

 2013年 化学賞では、たまねぎに多く含まれているアミノ酸を反応させると、涙を誘う「催涙物質」が作られ、目を刺激し、涙が自然と出てくる仕組みになっている研究で、今井真介、柘植信昭、朝武宗明、永留佳明、澤田 博(以上、ハウス食品)、長田敏行 東京大学名誉教授(法政大学教授)、熊谷英彦 京都大学名誉教授(石川県立大学長)が受賞。

 2012年 音響賞 自身の話した言葉を、ほんの少し遅れて聞かせることで、その人の発話を妨害する装置「スピーチジャマー」(Speech Jammer)を発明したことに対して 栗原一貴(産業技術総合研究所)、塚田浩二(お茶の水女子大学)が受賞

 医学賞では、心臓移植をしたマウスに、オペラの「椿姫」を聴かせた所、モーツァルトなどの音楽を聴かせたマウスよりも、拒絶反応が抑えられ生存期間が延びたという研究で、内山雅照(順天堂大学・帝京大学)、平井敏仁(東京女子医科大学)、天野篤(順天堂大学)、 場集田寿(順天堂大学)、新見正則(帝京大学)らが受賞した。


参考 サイエンスポータル: http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/09/20170919_02.html


動物たちの奇行には理由がある ~イグ・ノーベル賞受賞者の生物ふしぎエッセイ~ (知りたい!サイエンス)
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