エルニーニョとラニャーニャ

 エルニーニョといえば、南米ペルー沖の海水温が平年よりも上昇する現象だ。では平年よりも低かったらどうなるのかというと、ラニーニャと呼ばれ、どちらも地球規模での自然災害につながるといわれる。

 世界気象機関(WMO)は10月5日、南米ペルー沖で海面水温が低くなる「ラニーニャ現象」が今年10~12月に「50~55%の確率で発生する可能性がある」と発表した。発生した場合、大雨や高温など異常気象が世界各地で起きる恐れがあり警戒が必要としている。

 気象庁によると、2010年夏~11年春に発生した際は、10年夏に日本が記録的猛暑に見舞われた。



 WMOによると、8月以降、ペルー沖の太平洋赤道海域で海面水温が急速に低くなっており、ラニーニャ発生の基準値に近づきつつあるという。WMOは今年4月、ラニーニャとは逆にペルー沖で海面水温が高くなる「エルニーニョ現象」が17年後半に「50~60%の確率で発生する可能性がある」と発表していた。WMOは17年のエルニーニョ発生の可能性はほぼなくなったとしている。

 一方、今年いっぱいはエルニーニョ、ラニーニャどちらでもない状態が続く可能性も45~50%の確率であると指摘。さらに仮にラニーニャが発生しても弱く、18年の1~3月にエルニーニョ、ラニーニャどちらでもない状態に戻るとみられるとしている。

 日本の気象庁も、エルニーニョ現象が6月ごろまでに終息して8月までにはラニーニャ現象が発生する可能性がある、と5月11日発表していた。ラニーニャ現象が発生すると、日本付近では太平洋高気圧に覆われやすくなり、夏は暑く冬は寒くなることが多いという。

 2010年の夏。この年は沖縄・奄美地方を除き平年よりも暑い夏となり、北日本、東日本は記録的猛暑となった。日本でのラニーニャでは夏が猛暑になり、冬が厳しい寒さになる。冬に記録的な降雪がある場合がある。


 「スーパーエルニーニョ」の終息のカギは巨大な雲群(MJO)

 エルニーニョ現象には、ときとして極端に強まった「スーパーエルニーニョ」と呼ばれる状態のものがある。最近ではスーパーエルニーニョを「ゴジラ・エルニーニョ」とする論文もある。これは日本生まれの「ゴジラ」の影響であることは言うまでもない。

 継続的な観測が始まって以来、1981-1982年, 1997-1998年, 2015-2016年の3度「スーパーエルニーニョ」は現れている。特に、1997-1998年のものは急激に終息し、場所によっては1か月に8℃も海面温度が低下した。

 この急激な海水温の低下は、強まった東風と地球の回転の影響を受けて東太平洋赤道域の海水が極向きに輸送されることによって、入れ替わりに冷たい海水が下から上がってきたことが主な原因と考えられている。しかし、東風が強まった原因が何であったかについては、スーパーエルニーニョの存在によって通常と様相の違った季節進行など、複数の説があった。

 東京大学(東大)は9月20日、雲の生成・消滅を詳細に計算できる全球大気モデルNICAMに、全球気候モデルMIROCの海洋部分を連結させた気象-海洋モデル「NICAM-COCO(NICOCO)」を開発し、熱帯域を東進する巨大な雲群「マッデン・ジュリアン振動(MJ0)」と、東太平洋の海面温度が通常より高くなるエルニーニョ現象との相互作用の再現を可能にしたと発表した。

 MJOとおぼしき降水域がスーパーエルニーニョの終息期に太平洋を通過する様子が衛星観測から指摘されていたことから、この降水域に伴う東風の影響も議論されていた。しかしMJOは数値シミュレーションでの再現が難しく、十分な裏付けは得られていなかった。

 今回の研究では、MJO再現性能を持つ大気モデルのNICAMに、気候モデルMIROCの海洋部分を連結させた気象-海洋モデルNICAM-COCO(NICOCO)を開発し、スーパーコンピュータ「京」上で動作させることで、1998年5月に起きたスーパーエルニーニョの急激な終息とMJOとを同時に再現することを試みた。MJOに伴う東風の強弱と海面水温低下との関係を調べた。

 その結果、1998年5月事例の実験データでは、MJOの雲活動の中心位置がインドネシア多島海付近にあって勢力の強かった5月半ば頃に、東太平洋赤道域において東風の強まりとともに冷たい水が海面へ上昇してくる様子がよく再現されていた。


「ゴジラ・エルニーニョ」の最期が再現された

 ゴジラはすごい。気象学や海洋学の世界にまで入り込んでいる。太平洋の赤道沿いで、海面水温が平年の状態から外れる「エルニーニョ」という現象がときどき起きる。その規模がとくに大きいものは、ゴジラ・エルニーニョと呼ばれることがある。SFではなく、専門的な科学論文の中にそう書いてあるのだ。

 太平洋の赤道沿いでは、インドネシアやフィリピンがある西のほうで水温が高く、ペルーなどの南米に近い東のほうの水温が低い。水温がこのような「西高東低」になっているのが、普通の状態だ。エルニーニョになると、「西高東低」の差が弱まる。だから、東の海域では平年より水温が高くなる。この差が逆に強まり、海面水温が西でより高く、東でより低くなるのが「ラニーニャ」だ。

 エルニーニョやラニーニャは、じつは海だけの出来事ではない。海の上の大気と一体になった現象だ。海のすぐ上を吹く風の向きが、海面水温に大きな影響を与えている。赤道の海上でさかんにできるたくさんの雲も、関係があるはずだ。

 エルニーニョもラニーニャも、地球全体に異常気象をもたらすので、昔から研究者の関心は高かった。大気のシミュレーションと海洋のシミュレーションを結びつけた「結合モデル」を使ってコンピューターで計算した論文も、たくさん出ている。だが、その始まりや終わりを、赤道上空の雲や風向きとの関係できちんと再現できていない。つまり、どのように始まり、そして終わるのかが、まだはっきり分かっていないのだ。

 1997年の春に発生した観測史上最大のゴジラ・エルニーニョは、1998年5月に急に終息した。平年より温かかった東方の海面水温が、1か月で最大8度も下がったのだ。

 東京大学大気海洋研究所の宮川知己(みやかわ ともき)特任助教らの研究グループは、このゴジラ・エルニーニョの急な終息は、赤道沿いに発生した大規模な雲集団による「マッデン・ジュリアン振動」が原因であることを明らかにし、このほど発表した。雲の発生や移動と海水温の変化を両方とも再現できる新しい「結合モデル」を開発し、シミュレーションした結果だ。


 インド洋赤道域から東進する「マッデン・ジュリアン振動(MJO)」

 インド洋の赤道域では、上昇気流で発生したたくさんの積乱雲がまとまって大規模な集団になり、秒速5メートル、つまり自転車くらいの速さで赤道沿いに東進して太平洋に出る。東西の広がりは数千キロメートルにも及ぶ。それが30~60日くらいの間隔で繰り返される。これがマッデン・ジュリアン振動という現象だ。振動といっても、スマートフォンのバイブレーションのようにぶるぶる震えるわけではなく、気象学では、同じ現象が繰り返されることを指す。

 宮川さんらは、このゴジラ・エルニーニョが終息する約1か月前にあたる1998年4月下旬の状態からシミュレーションをスタートさせ、大気の状態と海水温がどのように推移するかを調べた。その結果、マッデン・ジュリアン振動の雲集団が東進してインドネシア諸島のあたりに達したとき、はるか東方の東太平洋で、この雲集団に向けて、赤道沿いに東からの強い風が吹くことが分かった。

 地球上では、海の上を風が吹いたとき、海の水は風の方向には動かない。地球の自転の影響で、北半球では風向の直角右向きに、南半球では直角左向きに動く。だから、赤道上を東から西に風が吹くと、その北側では北向きに、南側では南向きに水が動く。つまり、海水は赤道から南北に離れていく。それを補うように、深いところから冷たい水が湧き上がってくる。「湧昇(ゆうしょう)」という現象だ。

 東方海域でこの東風が強く吹いた結果、湧昇で海の深くから冷たい水が急上昇し、海面の水温も急降下した。これが、ゴジラ・エルニーニョの最期の真相だった。

 この研究には、もうひとつの大きな意義がある。雲ができるということは、そこで上昇気流が生まれていることを意味する。上昇気流は、さまざまな大気の現象に影響を与える。だから、たとえば台風のような上昇気流が根本的に重要な現象をシミュレーションで再現しようとすれば、雲を再現できるかどうかが研究の成否に直結する。

 宮川さんらの「結合モデル」は、それができるうえに、海の変化も計算できる世界で唯一のものだ。だから、海水温が季節とともにゆっくり変わったとき、台風のできかたがどう変わるかといった現実的な変化も検討できる。宮川さんによると、ゴジラ・エルニーニョの最期を再現した今回の計算も、この新たな「結合モデル」の仕上がり具合を実証するという意味合いがあったのだという。


参考 サイエンスポータル: https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/09/20170928_02.html


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