ノーベル医学・生理学賞にアメリカの研究者

 ことしのノーベル医学・生理学賞に、生物がどのようにして24時間のサイクルを把握し、体内のリズムを作り出しているかという「体内時計」のメカニズムを明らかにしたアメリカの3人の研究者が選ばれた。

 スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は日本時間の午後6時半ごろ記者会見し、ことしのノーベル医学・生理学賞に、いずれもアメリカの、メーン大学のジェフリー・ホール博士、ブランダイス大学のマイケル・ロスバッシュ教授、それにロックフェラー大学のマイケル・ヤング教授の3人を選んだと発表した。

 体内時計とは何だろう? 人間には1日周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっており、意識しなくても日中はカラダと心が活動状態に、夜間は休息状態に切り替わる。体内時計の働きで人は夜になると自然な眠りに導びかれる。体内時計は毎朝光を浴びることでリセットされ、一定のリズムを刻む。体内時計はカラダのさまざまな 生体リズムを調節している。



 人の体内時計の中心は、脳の「視交叉(さ)上核」という部位にある。カラダのほぼすべての臓器にも体内時計があり、脳の体内時計からの指令でさまざまな生体リズムを刻んでいる。例えば、血圧の日内変動やホルモンの分泌や自律神経の調節なども、体内時計が刻む生体リズムのひとつである。


時計遺伝子とは何か?

 時計遺伝子(clock gene)は、概日リズム(体内時計)をつかさどる遺伝子群を指す。動物では period (per)、 Clock (Clk)、cryptochrome (cry) などが知られている。時計遺伝子に変異が起こると、モデル生物では恒常条件下(恒常的な暗黒や連続照明)概日リズムが保てず、活動にリズムがなくなったり(無周期)、短い、あるいは長い周期(短周期、長周期)で行動するようになる。

 ジェフリー・ホール博士、マイケル・ロスバッシュ教授、マイケル・ヤング教授の3人は、1980年代に、植物や動物、それにヒトなどの生物が、どのようにして24時間のサイクルを把握し、体内のリズムを作り出しているのか、その仕組みを調べようと、ショウジョウバエを使った実験を行って、体内のリズムを制御している遺伝子を発見した。

 この遺伝子は、「時計遺伝子」と呼ばれ、太陽の光を浴びることで時間を把握し、夕方になると発現して、たんぱく質を作り始めることがわかった。

 さらに、このたんぱく質が増えることで、ヒトなどの昼間に行動する生物は眠気を感じるようになり、逆に、減ると目が覚めることがわかり、この遺伝子が、いわば「体内時計」の役割を果たしていることを突き止めた。

 「体内時計」の仕組みは、ホルモンや代謝、体温の変化なども制御していて、このリズムに逆らって生活を送ると、体に大きな負担がかかり、さまざまな病気を引き起こすリスクが高まると考えられている。

 ノーベル賞の選考委員会は、授賞理由について「3人は、生物が持つ体内時計に関する遺伝子を発見し、その遺伝子が光によって調節されていることを見つけた。この発見は、健康維持に重要な、体内時計という新たな研究分野を切り開いた」と評価している。


 体内時計のメカニズム

 人間の身体は、24時間のリズムで変化している。活動や睡眠といった目に見える変化だけでなく、朝が来ると血圧と心拍数が上がり始め、昼には血中のヘモグロビン濃度が最も高くなる。夕方には体温が上がり、夜には尿の流出量が多くなる。真夜中には免疫を担うヘルパーT細胞の数が最大になり、成長ホルモンがさかんに分泌する。こうした周期のことを、サーカディアンリズム(概日リズム)と呼ぶ。一般には「体内時計」と言ったりする。

 概日リズムの研究は植物から始まった。ドイツの生理学者ビュニングは1930年代にマメ科の植物の動きを丹念に計測し、照射する光に変化がなくても、夜になると葉が閉じることを示した。生物のサーカディアンリズムは光に対する反応ではなく、生物に生来備わっているのではないか。そんな見方が次第に強くなっていきたが、実際のメカニズムは長く不明のままだった。

 突破口を開いたのは、カリフォルニア工科大学のベンザー(Seymour Benzer)博士とコノプカ(Ronald Konopka)博士。1970年代の初め,ショウジョウバエに突然変異を誘発する誘発する物質を与え、その子孫2000匹の行動を観察した。

 ショウジョウバエは普通、1日のうち12時間は動き回り、残りの12時間は眠る。ですが3匹だけ、このパターンから外れた個体がいた。周期が19時間のもの、28時間のもの、脈絡なく寝たり起きたりするものだった。これらを調べることで、X染色体の一定領域に、リズムに関わる遺伝子があることを突き止めた。

 この遺伝子を最終的に特定したのが、今回ノーベル賞を受賞するホールとロスバシュのグループと、ヤングらのグループ。1984年に両チームが独立に見いだした遺伝子は、per(period)遺伝子と名付けられた。さらにヤングらは1995年、概日リズムを生み出すもう1つの遺伝子、tim(timeless)遺伝子を発見した。

 3氏は、これらの遺伝子がどのように24時間のリズムを生み出しているのかを明らかにした。per遺伝子が作るPERタンパク質とtim遺伝子が作るTIMタンパク質は、細胞内で複合体を作る。この複合体は遺伝子の働きを制御する転写因子で、per遺伝子とtim遺伝子にフィードバックをかける。そのため24時間のリズムが生まれる。(日経サイエンス 2017.10.3)


 人間生活と時計遺伝子

 よく生活のリズムは大切だというが、寝る前に何かを食べたり、不規則な生活をすると太りやすくなることが、時計遺伝子を使った実験でわかる。

 時計遺伝子(clock gene)は、体内時計をつかさどる遺伝子群を指す。動物では period (per), Clock (Clk), cryptochrome (cry) などが知られている。時計遺伝子に変異が起こると、生物は生活のリズムが保てず、行動にも変化が起きるとされる。

 2013年3月には、肝臓の糖・脂質代謝の中核的な役割を担うカギ分子である「C/EBPα」が存在することが見出された。C/EBPαは、生化学的解析によると、肝臓で24時間活動している遺伝子の産物であり、肝臓におけるグリコーゲン合成や糖新生、脂肪の蓄積などに関わるさまざまな遺伝子の発現をコントロールする因子である。

 夜中の飲食や不規則な生活が肥満につながるのは経験的に知られているが、この「C/EBPα」が関係しているらしい。

 時計遺伝子「Clock」が働くと、「C/EBPα」がつくられ、これがグリコーゲン合成や脂肪蓄積する酵素ができるのを制御。その結果、糖や脂肪が代謝されるつまり太りにくい体質になるのである。時計遺伝子が働かないと、C/EBPαもつくられず、糖がグリコーゲンとして蓄積されたり、脂肪が蓄積されたりする。

 発見したのは、産総研 バイオメディカル研究部門の石田直理雄 上級主任研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間3月11日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。また、2013年6月25~30日にアイルランドで開催される第22回国際行動学会議で発表された。

 こうした日本人研究者の時計遺伝子に関連する研究も、今回の時計遺伝子発見した3者の功績が再評価される結果になった。


 ジェフリー・ホール

 ジェフリー・C・ホール (Jeffrey Connor Hall, 1945年5月3日 - ) はアメリカ合衆国の遺伝学者、時間生物学者。ニューヨーク市ブルックリン区出身。ブランダイス大学、メイン大学名誉教授。2017年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞理由は、「体内時計を制御する分子メカニズムの発見」である。

 1969年アマースト大学卒業後、1971年ワシントン大学で遺伝学の博士号を取得。その後はカリフォルニア工科大学のシーモア・ベンザーの元で博士研究員となった。

 1984年、ホールとマイケル・ロスバッシュの研究チームは、キイロショウジョウバエの遺伝子(period)をクローニングし、ショウジョウバエが体内時計を調節することができることを発見した。彼らはまた、この遺伝子によってコードされる伝令RNAおよびタンパク質は概日振動に応じて変化することを解明した。

 主な受賞歴、2009年 グルーバー賞神経科学部門 2011年 ルイザ・グロス・ホロウィッツ賞 2012年 ガードナー国際賞、マスリー賞 2013年 ショウ賞生命科学および医学部門、ワイリー賞 2017年 ノーベル生理学・医学賞


 マイケル・ロスバッシュ

 マイケル・ロスバッシュ(Michael Rosbash、1944年3月7日 - )はアメリカ合衆国の遺伝学者、時間生物学者。ブランダイス大学の教授でありハワード・ヒューズ医学研究所の研究者でもある。彼の研究グループは1984年にキイロショウジョウバエのPeriod遺伝子をクローニングし、1990年に概日時計(英語版)における転写翻訳の負のフィードバックループ(概日TTFL)を提唱した。

 1998年、ロスバッシュらはキイロショウジョウバエでフォワード・ジェネティクス(英語版)を利用して変異表現型を初めて同定し変異の原因となる遺伝的性質を特定することで、Cycle遺伝子(英語版)、Clock遺伝子、クリプトクロムの光受容体を発見した。2003年、ロスバッシュは米国科学アカデミーに選出された。

 2017年、「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」の業績によりジェフリー・ホール、マイケル・ヤングと共にノーベル医学・生理学賞を受賞した。


 マイケル・ウォーレン・ヤング

 マイケル・ウォーレン・ヤング(Michael Warren Young、1949年3月28日 - )はアメリカ合衆国の生物学者。キイロショウジョウバエにおける睡眠と覚醒のパターンの遺伝子による制御を30年以上研究している。

 ロックフェラー大学で彼の研究室は概日リズムを形成する体内時計の制御に関連する主要な遺伝子を同定し、時間生物学の分野に大きな貢献をした。彼はまたハエの正常な睡眠周期に必須の遺伝子Period (per)の機能を解明した。彼の研究室はtimeless遺伝子(英語版)とdoubletime遺伝子(英語版)の発見にも貢献したが、この2つの遺伝子から転写翻訳されるタンパク質も概日リズムに必須のものだった。

 ヤングは2017年にジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュと共に「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞した。

 彼が10代前半のとき、両親は息子に進化と生物学の謎を題材にしたダーウィンの本を1冊贈った。彼は数年前に日中は花を閉じ夜間に開花する奇妙な植物を見たことがあったのだが、この本ではその現象の理由である生物時計について説明していた。生物時計が何処にあり何でできているのかは当時判明しておらず、若かりし頃のヤングはこれに興味をもったという。

2017年のノーベル生理学・医学賞は,サーカディアン・リズム(体内時計)を生み出す遺伝子とそのメカニズムを発見した米ブランダイス大学のホール(Jeffrey C. Hall)博士とロスバシュ(Michael Rosbash)博士,ロックフェラー大学のヤング(Michael W. Young)博士の3氏に授与されることになった。  


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