夢のクリーンエネルギー「人工光合成」

 夢のクリーンエネルギー「人工光合成」とは 地球温暖化など環境負荷の大きな二酸化炭素を吸収しつつ、エネルギーを生み出し、さらに有害物質を排出しないというクリーンエネルギーの生成を実現する「人工光合成」。

 “人類の夢”ともされた技術だが、2020~2030年には現実のものとして実現する可能性が見え始めている。

 人工光合成とは、文字通り人工的に植物の光合成と同じ現象を発生させる技術である。光合成は、植物の生命活動に利用されている現象で、太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から炭水化物などの有機化合物を作り出すというもの。同様の現象を人工で発生させることができれば、地球温暖化の大きな要因であるCO2の減少に貢献するだけでなく、有害物や環境負荷の高い物質を排出しない新たなクリーンエネルギーとなることから高い関心を集めている。



 世界的な関心も高いが、人工光合成が特に日本で注目されているのは、日本が技術的な優位性を持つ分野であるからだ。人工光合成は現状では、1つのシステムで実現できてはおらず、光触媒などを利用して水(H2O)に太陽光を当て、酸素(O2)と水素(H2)に分解する。そして、この水素(H2)を二酸化炭素(CO2)と合成することで、エネルギー源となり得る有機化合物を生成するという流れだ。

 日本はこの光触媒技術で世界に先行している。水分解光触媒における日本の研究開発の歴史は古く、1970~1980年代には、酸化チタンに紫外光を照射することで水分解が可能であることを世界で初めて発見(本多・藤嶋効果)。その後、2000年代に入り可視光吸収型光触媒が発見され、多くの研究開発が進むようになった。

 人工光合成としては、2011年に豊田中央研究所が、二酸化炭素と水からギ酸(HCOOH)を合成することに成功した(関連記事)他、2012~2013年にはパナソニックがギ酸やメタンを生成するシステムを公開している。さらに東芝は2014年12月に人工光合成において、太陽エネルギー変換効率1.5%を実現したとしている。

 また2015年3月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が、人工光合成技術で世界最高レベルとなる太陽エネルギー変換効率である2%を達成したことを発表した。

 だが人工光合成の最大の課題は、低い太陽エネルギー変換効率だ。既に植物と比較すると技術レベルは、変換効率は植物を超えたといえる。しかし、生命活動だけに利用する植物とは違い、産業として活用していくためには、さらに高い変換効率が必要になる。

 NEDOでは、2021年度までに人工光合成技術で、太陽エネルギー変換効率10%を目指すとともに、最終的には基幹化学品製造基盤技術の確立を目指すとしている。パナソニックなども2020年以降に光触媒水素生成デバイスの実用化に向けた研究開発が本格化するとしており、2020年代には実用化に向けた取り組みが本格化してくるものとみられている。


 人工光合成が太陽光電池を超えるか - 水から水素が高効率で生成可能に

 今回、大阪大学(阪大)は、黒リン、グラファイト状窒化炭素との2成分からなる完全金属フリー光触媒を開発し、可視光・近赤外光の照射によって、水からの水素の高効率生成に成功したと発表した。

 同成果は、大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗 教授、藤塚守 准教授らの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

 現在の太陽光エネルギー(主に太陽電池)のコストは化石燃料と比較して高価なため、十分に広まっていない。そこで、太陽光エネルギーを利用して水素を高効率に製造できる光触媒の開発が望まれていた。

 今回の研究では、紫外・可視光のみならず近赤外光にも強い吸収をもつ層状の黒リンと、数層からなるg-C3N4との2成分からなる複合体を合成。この複合体に可視光・近赤外光を照射し、複合体の光触媒作用によって、水から水素が効率的に生成できることを確認した。

 また、この複合体において、黒リンが可視光・近赤外光に応答する光増感剤として働き、g-C3N4が可視光に応答する光増感剤として働くこと、ならびに黒リンとg-C3N4はともに層状構造のためその界面を形成しやすく界面間での電荷移動が容易になりその結果電荷分離が効率的に進行すること、特に、これらとの界面にP-N結合が生成して電子捕捉部位となり、水から水素が生成することが明らかになったという。

 今回の成果を受けて研究グループは、次世代エネルギーとして検討されている、水素を基本とするエネルギー社会(水素社会)において、その根幹となる、太陽光による水素製造の実現へつながること、同時に環境問題の解決にも大きく貢献することが期待されるほか、水素を再生可能なエネルギーである太陽光と水から効率的に製造できれば、化石燃料社会から水素をエネルギー源とする水素社会への移行が現実のものとなるとコメントしている。


 人工光合成とは何か?

 光合成は、太陽のエネルギーを使って、二酸化炭素と水から、有機物の一種である糖質と酸素を産生する反応として知られている。しかし、これは光合成の全過程を1つにまとめたもの。光合成は1つの反応ではなく、多くの反応から構成されている。

 その反応は、太陽の光エネルギーを吸収して化学変化がおこる「明反応」と、その産生物をもらって二酸化炭素から糖質を合成する「暗反応」の2つの経路に大別される。

 明反応の最初のステップでは、光エネルギーを使って、水を分解し、酸素と水素イオンと電子を生成する。酸素が生成するのは、この最初のステップだけだ。つまり、このステップで生成する酸素が、大気中に存在する酸素の源になっている。さらに、このとき放出する電子は、順々に次のタンパク質へと受け渡され(電子伝達といいます)、NADPHという物質にたくわえられる。

 また、葉緑体の中の膜を隔てて水素イオンの濃度差が生じ、これによってATPという物質を合成するための原動力が生まれる。もし、最初のステップを人工的に再現して、水から電子を取り出すことができれば、これを電気エネルギーとして使うことができる。光合成生物は、地球に到達する太陽光の0.1%しか使っていない。あり余っている太陽エネルギーを人間が使えるエネルギーに変えることが、私たちが目指している人工光合成だ。


 ついに光合成の全貌があきらかに

 実は何十年も前から、多くの研究者がこのような人工光合成の実現に向けて研究をしてきた。しかし、その道のりは険しく、研究者たちは今も挑戦し続けている。

 当たり前だが、水に光を当てるだけでは、水の分解は起こらない。水を分解するには、この反応を手助けする触媒の働きが必要。光合成では、「光化学系II(PSII)」というタンパク質複合体が触媒の役割をしている。葉緑体の中には、チラコイドという平たい袋状の構造物があり、PSIIはチラコイドの膜に埋め込まれた状態で存在する。

 PSIIには、水分子が入り込む「通路」と、その通路の先に、実際に水を分解する「触媒中心」と呼ばれる部分があります。通路に水分子が入り込むと、PSIIは、光のエネルギーを利用して、触媒中心を含む自分自身の立体構造を変化させ、水を分解する。そして反応を終えたあとは、再びもとの立体構造に戻る。このときのPSIIの触媒中心の立体構造の変化を詳しく知ることができれば、その構造を模倣して、PSIIの触媒作用をもつ化合物を人工的につくりだすことができるはず。

 しかし、それは簡単なことではなかった。まずタンパク質の構造を調べるには、十分な量のタンパク質を調製し、それを精製したのちに、乱れのない結晶にする必要がある。PSIIは、19個のタンパク質からなる巨大なタンパク質複合体で、しかも膜に埋め込まれて存在している。このような「膜タンパク質複合体」は、扱いが極めて難しく、研究者たちは、PSIIのきれいな結晶をつくることに苦労を重ねた。

 2011年、ある大発見が世界を驚かせた。植物の光合成の全貌が、ついに明らかにされたのだ。明反応で水が分解する過程は、19個のタンパク質でできた酵素が行う、PS(光化学系)IIと呼ばれている。どの構造が水を分解するのかよくわかっていなかったが、その謎を解いたのが、大阪市立大学の神谷信夫教授と岡山大学の沈建仁教授のチーム。

 植物には、水を分解する重要な物質が潜んでいた。それは、マンガンやカルシウムが、ゆがんだ椅子の形でつながった物質だった。これこそが、植物の光合成を支えていたのだった。


参考 マイナビニュース: http://news.mynavi.jp/news/2017/09/29/233/


人工光合成―光エネルギーによる物質変換の化学 (複合系の光機能研究会選書)
クリエーター情報なし
三共出版
光触媒/光半導体を利用した人工光合成―最先端科学から実装技術への発展を目指して
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エヌティーエス

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