スピンとは何か?

 粒子の磁気にかかわる量。角運動の一種で、「自転」のイメージでとらえるとわかりやすい。電子だけではなく、さまざまな素粒子や原子核にもスピンは存在している。

 電子のもつ「電子スピン」で説明すると、地球の自転のように高速回転する電子の姿で考えるとわかりやすい。だが、このイメージは電子スピンを考えるのに便利ではあるが、スピンの本当の姿を捉えたものとはいえない。コマなどの回転(自転)と電子などのスピンとの違いについて、結論だけを先に見ておこう。

 コマの場合、はじめの力の入れ具合でいろいろな速度で回転させることができる。つまり角運動量はどんな値でもとることが許されている。また、しだいに回転速度が遅くなるにつれてコマの配向(回転軸の向き)は変化していく。これは摩擦などの影響のせいだが、とにかく重要なのは、コマの角運動量の大きさや配向は自由にとることができる。



 ところが、電子や原子核のスピンはコマの場合とはまったく違う。結論を述べると、磁場のなかでは電子のスピン角運動量はある一定の値しかとることができない。また配向は磁場に対して平行か反平行のどちらかしかとることができない。

 外から磁場が加わると、それと同じ(平行)か逆(反平行)の向きになる。電子スピンを制御すると電流の流れやすさを変えたりできるため、最近は次世代回路開発の分野でも注目される。これをエレクトロニクスに対し、スピントロニクスという言葉で表す。


光で磁石の性質が消える? 

 今回、東北大学は、金属磁石に強い光をあてることで、すべての電子のスピンが同じ向きに揃った配列から互い違いに逆向きの配列となり、瞬時に磁石としての性質を失うことを理論計算シミュレーションにより示すことを成功したと発表した。

 この成果は、東北大大学院理学研究科物理学専攻の石原純夫 教授らの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Physics Review Letters」に掲載された。

 磁石では、電子の「スピン」と呼ばれる小さな磁石がすべて同じ向きに配列することで、全体として磁石の働きが現れる。近年、このスピンをエレクトロニクスに利用する研究が盛んとなっているが、スピンを効率よく素早く操作することが大容量の情報を高速に取り扱うために重要であり、その原理を明らかにすることが求められていた。

 そして、最近のレーザー技術を用いることで短い時間でこれを操作できる可能性が出てきた。これまでの研究により、スピンが互い違いに並んだ絶縁体に光を当てると、すべて同じ向きに揃った金属になることが判明していた。

 今回の研究では、その反対の操作が可能であることが示された。つまり、電子スピンがすべて同じ向きに揃った金属に強い光を当てると、互い違いに逆向きとなり、瞬時に磁石としての性質を失うことを理論計算シミュレーションにより示すことに成功したという。

 磁石においてすべてのスピンが同じ向きに揃うのは、平行にする力がスピンの間に働くためだ。今回の計算では、レーザーを当てることで、スピンを互いに平行にする力が反平行にする力に転換したことを意味している。

 磁石の性質を担っている「スピンを平行にする力」は1950年代に発見され、それ以来半世紀以上にわたって多くの磁石の現象がこの力の原理に基づいて理解されてきた。同研究により発見以来初めて、強い光をあてることでこの力が正反対の性質を示すことが明らかにされた。また、この現象がおよそ100-1000fsという高速で起きること、またスピン配列のトポロジーが重要な役割を果たしていることも計算により明らかにされた。

 なお、研究グループは、従来の研究により判明していた反平行から平行にする機構と併用することで、スピンの配列を双方向に高速に操作することが可能となることが期待されるとしている。


 スピントロニクス

 スピントロニクス(spintronics)とは、固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を工学的に利用、応用する分野のこと。 スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語である。マグネットエレクトロニクス(magnetoelectronics)とも呼ばれるが、スピントロニクスの呼称の方が一般的である。

 これまでのエレクトロニクスではほとんどの場合電荷の自由度のみが利用されてきたが、この分野においてはそれだけでなくスピンの自由度も利用しこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスが実現されている。この分野における代表的な例としては1988年に発見された巨大磁気抵抗効果があり、現在ハードディスクドライブのヘッドに使われている。

 ほとんどの場合、これまでのエレクトロニクスは電子の電荷に基礎をおいていた。つまり「+(もしくは帯電せず)/-」を「0/1」に対応させて情報処理を行っていた。

 しかし電子にはもう一つ重要な性質、スピンが存在している。やはりスピンにも、「アップ/ダウン」というように二つの状態があるのだが、近年、電子スピンをエレクトロニクスに積極的に取り入れようとする試みが強まってきた。このような新しい分野を、「スピントロニクス(spintronics, spin+electronics)」などと呼んでいる。

 スピントロニクスの可能性を挙げればきりがないが、実際のところスピンという概念は分かりにくい。そこで、今回はスピンがどんなものかということを見ていこう。

 スピンエレクトロニクスは、電子が「0/1」を表現するのを、単に「+/-」から「アップ/ダウン」に変更するだけではない。スピンの特性をいかして、電荷に基づいた従来のエレクトロニクスでは不可能だったようなデバイスも実現できるようになる。

 これまでに成功したスピンデバイスにはGMR素子などがあるが、これはハードディスクの記憶容量を飛躍的に増大させた。また、数年後には不揮発性の高速メモリ「MRAM」も実用化されると期待されている。


 スピンの発見

 しかし、スピンというこの奇妙な性質はいったいどうやって発見されるに至ったのだろうか?実はこのスピンというのは、そう簡単に出てきた概念ではない。回転運動に関する従来の知識だけでは説明できない現象にぶつかったときに、物理学者たちが試行錯誤を重ねた上にやっとたどり着いた概念だったのだ。

 量子力学が産声を上げてまだ日の浅かった1920年代ごろ、物理学者たちを悩ませていた問題があった。それはナトリウムD線(トンネルの照明などに使われているオレンジ色の光)のスペクトルについてである。写真に示すようにナトリウムD線の原理は、エネルギーの高い軌道に励起された電子が再び下の軌道に落ち込むときに、失ったエネルギーを光として放出するというものである。そのため観測される光の波長は1つだけだと考えられていた。

 ボーアモデルでは、原子核のまわりに電子が、特定の軌道を回っているように描かれている。今ではこのモデルは部分的にしか正しくないことが分かっているが、少なくとも当時はこれが主流だったし、今でもよく教科書に使われている。

 ところが、実際ナトリウムのスペクトルをよく観察してみると、非常に狭い範囲で589.76nmと589.16nmという二つのスペクトルに分裂していることが分かったのだ。つまり、同じ軌道内に振る舞いの異なる二種類の電子が存在しているのだ。

 結局、多くの物理学者の試行錯誤のうえ、電子もコマのように自転していると考えた。そのように考えた根拠は次のようなものだった。(ボーアモデルによれば)電子は原子核のまわりを軌道回転しているが、これは循環電流にあたるので磁気モーメントを持つ。一方、電子はスピンによっても磁気モーメントを持つ。つまり、スピンの磁気モーメントと軌道回転の磁気モーメントが相互作用をする(スピン-軌道カップリング)。したがって、仮にスピンが図で示すように上向きと下向きの二通りの配向を持てば、二つのエネルギー状態は異なるので、電子が高い軌道から低い軌道に移るときに、二つのスペクトルが観測されうるというわけだ。

 この説明はうまくいき、実験によってスピンの角運動量は+1/2(h/2π)と-1/2(h/2π)の二通りしかとらないことが分かった。そしてのちに若年の天才ディラックが、このことを特殊相対性理論を考慮した複雑な解析によって理論的に説明した。


参考 マイナビニュース: http://news.mynavi.jp/news/2017/11/17/196/


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