都市が明るいことは繁栄の象徴

 夜道を歩くとき「街灯」があるとホッと安心する。都市の鮮やかなネオンサインは、遠くから見て時に「100万ドルの夜景」と評されることもある。

 だが、夜明るいことは、よいことばかりではないらしい。夜空が明るくなり、天体観測に障害を及ぼしたり、生態系を混乱させたり、あるいはエネルギーの浪費の一因になるというように、様々な影響がある。このような過剰な光による公害を光害(light pollution)と呼ぶ。

 光害は、夜間も経済活動が活発な都市化され、人口が密集したアメリカ、ヨーロッパ、日本などで特に深刻である。イタリアの光害科学技術研究所(Light Pollution Science and Technology Institute)のファビオ・ファルキ(Fabio Falchi)らは、光害が地球上のどの地域でどのぐらい進んでいるかについて、数万箇所の地上観測点および地球観測衛星スオミNPPからのデータにより推測し、可視化している。



 それによれば、世界人口の83%、日本のほぼ全人口が明るい人工光のもとで暮らしており、天の川を肉眼で視認できない人口は全世界の1/3以上、欧州の60%、北米のほぼ80%に達している。

 今回、エネルギー革命をもたらすと考えられてきたLED(発光ダイオード)照明が広く利用されることが、世界中で過剰な光による「光害」の拡大に拍車をかけているとの研究論文が11月22日、発表された。光害の増加により、人間と動物の健康にも悲惨な結果がもたらされるという。


省エネLED、世界の光害拡大に拍車

 科学誌「サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)」に発表された今回の論文が根拠としている人工衛星観測データは、地球の夜の明るさがますます増しており、屋外の人工照明に照らされた範囲の表面積が2012年~2016年に年2.2%のペースで増加したことを示している。

 専門家らは、この事態を問題視している。夜間の光は体内時計を混乱させ、がん、糖尿病、うつ病などの発症リスクを高めることが知られているからだ。動物に関しては、夜間の光は昆虫を引き寄せたり、渡り鳥やウミガメの方向感覚を失わせたりなどで死に直結する可能性がある。

 論文の主執筆者で、ドイツ地球科学研究センター(German Research Center for Geosciences)の物理学者のクリストファー・カイバ(Christopher Kyba)氏は、同じ量の光を供給するために必要な消費電力がはるかに少ない、より効率的な照明のLED光自体だけが問題なのではないと説明する。

 そうではなく、人間がますます多くの照明を設置し続けることが問題なのだと、カイバ氏は今回の研究について議論する電話会議で記者らに語り、「以前は明かりがなかった場所に新たな照明を増やすことがある程度、節約分を相殺してしまう」と指摘した。

 専門家らが「リバウンド効果」と呼ぶこうした現象は、低燃費の自動車にもみられる。必要な燃料がより少ない車を買うと、車をより頻繁に使うようになったり、より遠くから通勤することにして通勤時間が長くなったりする可能性がある。


 地球観測衛星の放射計で夜間光量を測定

 今回の研究は、夜間光向けに特別に設計された史上初の放射計「可視赤外撮像機放射計(VIIRS)」の観測データに基づいている。VIIRSは、2011年10月から地球を周回している米海洋大気局(NOAA)の地球観測衛星「スオミNPP(Suomi NPP)」に搭載されている。 研究チームは、休暇シーズンの光量の増加を回避するために、各年の10月の夜間光量に限って分析した。

 論文によると「南米、アフリカ、アジアなどの全域でほぼ例外なく、照明の増加が発生した」という。照明が減少した地域はほとんどなかったが、シリアやイエメンなど戦闘で荒廃した国々では照明の減少が顕著だった。

 イタリア、オランダ、スペイン、米国などを含む世界で最も明るい地域の一部はみな比較的変化が少なかった。これは、例えばイタリアでは2012~2016年の期間に、ミラノでLED照明への切り替えによる放射光の減少がみられたとしても、国内の他の地域で光の増加が起きたということだ。

 また、衛星は多くのLED照明で顕著な青色の波長を捕捉できないため、衛星データでは夜間光全体が過小評価されている可能性が高いと、研究チームは注意を促している。


「重大問題」への解決策はあるのだろうか?

 米科学誌「エコロジカル・エコノミクス(Ecological Economics)」に発表された2010年の研究によると、過剰な夜間光は、野生動物が生息する自然環境に害を及ぼしたり星空の観測を不可能にしたりするだけでなく、「野生動物、健康、天文学などへの悪影響とエネルギーの浪費」で年間70億ドル(約7800億円)近くの損失を引き起こすという。

 今回の研究には参加していない南カリフォルニア大学(University of Southern California)建築学部のトラビス・ロングコア(Travis Longcore)助教(建築学など)は、夜間照明面積の年2.2パーセント増加について「持続不可能」と表現した。

 解決策としては、光量が低い照明を使用する、人がいない時は照明を消す、動物や人の健康への悪影響が最も大きい傾向のある青色や紫色の代わりに黄橙色のLED光源を選ぶなどが挙げられる。

 また、夜間照明が治安を向上させるなどの世の中の思い込みについては疑う必要がある。ロングコア助教は、AFPの取材に「照明を増やすと犯罪が減るという決定的な証拠は存在しない」と語り、「実際、照明の追加によって人々が何をしているかを犯罪者が見やすくなるために犯罪が増加することを示す部分的な証拠がある」と続けた。

 「必要と思い込まれている多くのことはまったく不要だ。それは行き過ぎなのだ」(AFPBB News)


 天体観測への影響

 光害の影響として最も代表的なのは、夜空が明るくなり、星が見えにくくなってしまうことである。自然のままの状態の夜空であれば、月明かりがない時には、肉眼で数千の星や、天の川が見える。しかし、光害が進んだ地域では、天の川が全く見えないのはもちろん、肉眼で見ることのできる星も極めて限られてしまう。現在の日本では、都市部で天の川を見ることはほとんど不可能と言ってよい。

 人工光により夜空が明るくなると、天文台での天体観測や、アマチュア天文家の天体観望や写真撮影(撮像)などの妨げとなることが多い。観測限界等級の上昇(可視光の波長域では顕著であるが、赤外線の波長域ではほとんど問題にならない)、水銀灯などに由来する水銀輝線の混入が代表的なものである。

 ナトリウム灯のオレンジ色の光の影響は、光量で見れば水銀に比べて軽微であり、観望や撮像の時には無視できる。分光観測においても、ナトリウム輝線は2本のみであることと(ナトリウムそれ自身を除いて)天体観測に重要な輝線と重ならないことにより、判別・分離が容易である。このため、天文台近辺で照明が必要な場合はナトリウム灯を採用することが多い。


 生態系への影響

 研究者の中には、光害が人間や動物、昆虫の行動に影響を及ぼしていると考えているものもいる。ウェルズリー大学で動物プランクトンについて研究したマリアン・ムーアは、湖の周囲の光害が、魚が水面の藻を食べるのを妨げ、赤潮などの有害藻類ブルームが魚を全滅させる原因になっていると考えている。

 また、光害は他にも生態系に影響を及ぼしている可能性がある。例えば、夜に開花する花を受粉させる蛾の行動の変化などである。多くの鱗翅類学者や昆虫学者は、夜間の照明が、蛾の飛行能力を妨害していると考えている。鳥類にも同じ事が言えると考える学者もいる。

 また、植物への影響も報告されている。明るい街灯のそばで夜間も長時間光を浴びつづける街路樹などには、紅葉の遅れなどの異常が起きることがある。これにより、植物の寿命が短くなってしまうことがある。稲にも、至近距離の明るい街灯から照らされつづけた場合、異常出穂や稔実障害が発生することが報告されている。


 エネルギー資源への影響

 大量の光が空へ漏れることは、エネルギーの浪費である。過剰な照明使用や、人の生活圏外である空に向けて光が漏れることは、エネルギーの浪費である。国際エネルギー機関による2006年の記者発表によれば、現状のまま不適切な照明利用が続けば2030年には照明に使われる電力は80%増加するが、適切な照明利用が行なわれれば2030年でも現在と同等の消費電力に抑えることができるという。


 その他の影響

 街灯の過剰な明かりは歩行者や車の運転者に危険を及ぼすこともある。夜、街灯の光源から届く眩しい光(グレアと呼ばれる)が目に入ると、目がくらんで、暗いものまで見えるように開いていた瞳孔が収縮してしまい、影になった暗い部分が見えなくなってしまい危険である。

 また、防犯のために家庭に取り付ける明かりも、設置の方法が不適切な場合、照明で照らされた明るい場所のみが見えて、その影に侵入者が隠れていると逆に侵入者が見えなくなり、防犯灯としての正しい効果が得られなくなる場合がある、というテスト結果もある。理屈としては、夜間に自動車を運転している際に、自車のライトで照らすことで歩行者の顔は視認できるが、対向車に乗っている人の顔は(たとえハイビームにしても)全く見ることができないのと同じである。

 これと同様の理由から、道路を横断している歩行者を、歩行者の向こう側にある強力な光源=対向車のライトが逆光になる事によって全く視認できなくなり(蒸発現象)、車ではねてしまうという事故例がよく知られるが、これがグレアによる危険の典型例である。もちろん不適切な構造の街灯などでも同じ危険が生じるので、順次対策品と入れ替える動きが広まってきている。


 光害の原因

 光害の原因となる光は、家庭や会社、工場、街灯、スポーツ場の照明、パチンコ店のライトなど、様々なところから出されている。

 光害の主な原因のひとつとして、不適切な形態の街灯が挙げられる。例えば、光源の周りをただのガラス球などで覆ったような街灯は、光があらゆる方向に発されるが、上の方への光は全く無駄になってしまう。また、横方向の光は、グレアとして、運転者などの目をくらませる原因となる。このような不適切な街灯の使用により、日本で1年間に無駄にされるエネルギーは、電気代に換算して少なくとも2000億円相当になるという試算もある。

 日本では、イカ釣り漁船の漁火によって、海までもが非常に明るいときがある。漁火の光は、船の消費燃料の約半分という莫大なエネルギーを使って点されているが、上空にそのまま逃げたり、船の甲板や海面で反射されたり、吸収されたりして、大半が無駄になっている。海岸地域では、光害の原因の一つとなっている。

 また、道路脇などによく自動販売機が設置されており、夜間明るい光を放っている。これも光害の原因の一部となる。


 光害への対策

 他の公害と同様で、光害を防ぐのは非常に難しい。明かりを消せば、暗い空がすぐに戻ってくる。しかし実際には、光害は社会の工業化と深く関わっている。

 街灯は、上部に反射材を伴う覆いを付けるなどして、不必要な方向への漏れ光を防ぐとともに、それらを適切に反射し、必要な方向だけに効率よく光が当たるようにした街灯への切り替えが求められる。また、使用光源に関しても、水銀灯に代表されるエネルギー効率の悪い光源の使用を避け、効率の良い光源の利用の促進が求められる。しかし、まだまだそのような対策が全くなされていない照明も多い。

 光害は、屋外での不要な照明を消すなどしても防ぐことができる。例えば、スポーツ場などの照明を、人が中にいるときにだけつけるなどの対策をとれば、その分光害を防ぐとともにエネルギーを節約できることになる。また、より暗い照明を使うことで、グレアを軽減させることができる。


  法律・条例等による規制

 アメリカでは、主な天文台の周囲に、直径数十kmの、光の放射が厳しく制限されている地域が設けられていることがある。1980年には、カリフォルニア州のサンノゼで、近くにあるリック天文台への影響を防ぐために、全ての街灯が低圧ナトリウムランプに取り替えられた。

 アリゾナ州ツーソン市では条例により市内全域に光源規制を行っている。特に、キットピーク国立天文台(Kitt Peak National Observatory)の半径35マイル及びマウントホプキンス天文台(Mount Hopkins Observatory)の半径25マイルについては屋外照明として石英灯(quartz lamp)、メタルハライドランプを使用禁止としているほか、その他の光源についても完全遮光、あるいは上方集束の遮光を求めている。似たような事業がハワイ州などでも行われている。

 日本でも、1988年から、光害と大気汚染問題に関心を持ってもらおうと、全国の一般市民に参加を募り全国星空継続観察が開始された。また、1998年3月30日には、環境庁(現環境省)により、「光害対策ガイドライン」が策定された。

 全国各地の自治体でも、パチンコ店などから発せられる無駄なサーチライトを禁止する条例が制定されている。岡山県美星町(現井原市)で、1989年11月22日に、美しい星空を守るための「光害防止条例」が制定されたのをはじめ、岡山県、佐賀県、熊本県では県としてサーチライト禁止条例を制定している。また、群馬県では群馬県立ぐんま天文台の設置を機に「星空憲章」を制定し、群馬県高山村では「高山村の美しい星空を守る光環境条例」を1998年3月10日に制定している。

 漁火の問題への対策としては、青色発光ダイオードを用いた集魚灯が試験中である。従来のメタルハライド灯を用いる集魚灯と比較して消費電力は1/50~1/100程度で、指向性が高いために必要外の方向への漏れ光も少なく、機器の寿命も長い。現段階では必ずしも従来のメタルハライド灯と同等の漁獲を得られるわけではないといった問題点もあるが、実用化されればイカ漁業者の経費の大幅削減、イカ漁船による二酸化炭素排出量の大幅削減、周辺地域の星空の改善といった効果が期待されている。


参考 AFPBB news: http://www.afpbb.com/articles/-/3152655


本当の夜をさがして―都市の明かりは私たちから何を奪ったのか
クリエーター情報なし
白揚社
農作物の光害―光害の現状と新しいLED照明による防止対策
クリエーター情報なし
農林統計出版

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please