初の国産量子コンピューター 無料公開へ

 今年2017年秋9月22日、東京大学の古澤明教授と武田俊太郎助教授は、大規模な汎用量子コンピュータを実現する方法として、1つの量子テレポーテーション回路を無制限に繰り返し利用するループ構造の光回路を用いる方式の発表をした。

 これまで量子コンピュータの大規模化には多くの技術課題があったが、発明した方式は、量子計算の基本単位である量子テレポーテーション回路を1つしか使用しない最小規模の回路構成であり、「究極の大規模量子コンピュータ実現法」だという。

 11月20日、この方式を使った「量子コンピューター」の初の国産機の開発に成功したと国立情報学研究所やNTTなどのチームが発表した。複雑な組み合わせを解く問題でスーパーコンピューターの100倍のスピードを発揮したという。世界中の研究者が利用できるようインターネット上で無料公開するという。



 量子コンピューターは、光の粒や電子など量子と呼ばれる極めて小さな物質の世界でおきる物理現象を応用した次世代のコンピューター。スーパーコンピューターをはるかにしのぐ性能が期待される次世代のコンピューターである。

 量子コンピューターは、カナダのベンチャー企業が6年前、世界で初めて販売を始め、グーグルやIBM、マイクロソフトなどの大手IT企業も開発を進めるなど世界中でしれつな競争が展開されている。量子コンピューターが開発されるのは今世紀末だとされていたが、こんなに早く、しかも日本で開発されるとは思っていなかった。


世界最高水準の国産量子コンピューター

 初の国産量子コンピューターの開発に成功したと発表したのは、国立情報学研究所やNTT、それに東京大学など国のプロジェクトチーム。

 従来のコンピューターでは、半導体の電圧で「0」か「1」の情報を表現し計算処理を行う0がdx0、この量子コンピューターでは、全長1キロのループ状の光ファイバーに光の粒を大量に入れ、この光の粒が「0」であると同時に「1」でもあるという量子力学の特殊な物理現象「重ねあわせ」を応用することで超高速の計算を行う。

 チームでは、送り込む光の粒を2000個にまで増やし計算能力を高めることに成功した結果、10の600乗以上という宇宙空間に存在するとされる観測可能な原子の数よりも多い組み合わせの中から最適な組み合わせを選ぶ問題を、スーパーコンピューターの100倍のスピードで解くことに成功したという。

 この能力を使えば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムで観客数万人が同時にスマートフォンなどの無線LANを使った場合近隣の基地局にどうつなげば混乱を起こさないかや、大都市の交通渋滞の解消、病気の原因となるたんぱく質に結合してその働きを抑える物質を膨大な数の化合物から探しだし画期的な新薬を開発することなどが期待できるという。

 プロジェクトチームによると国産の量子コンピューターの開発に成功したのはこれが初めてで、11月27日から世界の研究者が利用できるようインターネット上で公開し、利用方法を広げるためのソフトウエアの開発や性能の向上を目指すことにしている。

 スタンフォード大学名誉教授の山本喜久プログラムマネージャーは、「今回公開する量子コンピューターの性能は現時点で世界最高峰だと自負している。世界に公開することで改善点や新たな利用法を見つけ出し、量子コンピューターを日本のお家芸としたい」と話している。


量子コンピューターの原理「重ね合わせ」

 今回、開発された国産量子コンピューターは、光の粒など極めて小さな世界で起きる「重ねあわせ」と呼ばれる物理現象を応用し、超高速の計算を実現した。

 量子コンピューターの中に入っているのは、全長1キロのループ状の光ファイバー。この光ファイバーに光の粒を大量に入れると「0」と「1」の両方の状態を示す「重ねあわせ」とよばれる現象を示しながら超高速で回転する。

 そこにどのような組み合わせ問題を解くのか問題内容を表す別の光の粒を入れてやると光の粒が互いに影響しあい、全体のエネルギーが最も低い状態、つまり最も最適な組み合わせの計算結果が一瞬にして出る仕組みだ。

 「重ね合わせ」とは何だろうか?

 原子の内部構造のような極めて微細なスケールの世界は、物体に働く古典力学とは原理の異なる量子力学が支配している。素粒子の状態を表す属性は、複数の状態が同時に実現している「重ね合わせ」という状態にある。これを「量子ビット」(qubit:quantum bit)と呼ばれる情報の表現として利用する。

 従来の計算機では1ビットにつき、「+」か「-」の情報を、「0」か「1」の数字に置き換えて利用しているのに対して、量子コンピューターでは量子ビット (qubit; quantum bit) により、1ビットにつき任意の割合で「重ね合わせ」て保持することが可能になる。

 例えば、「光」を使えば「波」と考えた場合、光には「周波数」がある。また波と波がぶつかると波が強くなったり弱くなったりと相互に作用する「干渉」がある。また、光には「偏光」という向きもある。このような性質まで使うと、今の電気による通信よりも、はるかに多くの情報量を伝えることができる。n量子ビットあれば、2のn乗の状態を同時に計算できる。

 カナダのベンチャー企業が6年前、世界で初めて発売した量子コンピューターでは、この「重ねあわせ」を摂氏マイナス273度ほどという絶対零度近くまで冷やし超伝導状態にした金属の中で電子を使って作り出していたが、今回の国産量子コンピューターは光を使うため室温で動作する点がすぐれているという。


 熾烈化する開発競争

 量子コンピューターは1980年代にその理論が提唱され、多くの研究者が開発に取り組んできたが、実現するのは早くても今世紀の末頃だろうと言われていた。

 ところが6年前の2011年、カナダのベンチャー企業、「D-Wave Systems社」が世界初となる量子コンピューターを発売し、世界を驚かせた。

 このマシンは膨大な組み合わせの中から最適な解を探す「組み合わせ最適化問題」に特化した「アニーリングマシン」と呼ばれるタイプのものでグーグルやNASAなど世界的な企業や機関が次々と導入し、高い能力が明らかになった。

 これに対し、グーグルやマイクロソフト、IBMなどの大手IT企業も独自に量子コンピューターの開発を進め、このうちマイクロソフトは量子コンピューターで使用する独自に開発したプログラム言語をことし9月、初めて公開した。

 またIBMも、開発中の量子コンピューターをインターネット上で公開し、性能を試験できるサービスを始めている。

 次世代のコンピューターと期待される量子コンピューターは、世界のスタンダードとなればばく大な需要が見込まれることから、先陣争いの開発競争はしれつを極めている。


 複雑な人間関係 2000人の分け方

 今回、国産量子コンピューターが性能を発揮したのは、「組み合わせ最適化問題」と呼ばれる問題。

 互いに仲のいい悪いの人間関係がある人を、仲の悪い人が最も少なくなるよう2つのグループにわけるとする。全体の人数が増えていくと組み合わせの数は指数関数的に増え、その計算には膨大な時間がかかるようになる。

 今回、国産量子コンピューターが挑んだのは、2000人にまで増えた場合。組み合わせは、10の600乗以上。宇宙空間に存在するとされる観測可能な原子の数よりも多いと言われるが、計算を始めると一瞬で2つのグループにわけられた。

 かかった時間0.005秒以下。スーパーコンピューターの100倍のスピードでした。こうした量子コンピューターの能力は大都市の複雑化した交通網や電力網、それに無線通信のネットワークを最適化したり、膨大な組み合わせが考えられる化合物から新たな薬を開発したりするなど現代社会のさまざまな分野で大きな力を発揮すると期待されている。


 消費電力はスーパーコンピューターの100分の1

 量子コンピューターは、その計算速度だけでなく消費電力量の面からも注目されている。現在使われているコンピューターは、半導体の電圧の切り替えなどで情報処理を行うため、計算量が増え大型化するとそれだけ消費電力も大きくなる。大手IT企業も巨大化したデータセンターなどの消費電力量をどう削減するのか課題に直面している。

 これに対し、量子コンピューターは量子の「重ね合わせ」状態を作り出すために、コンピューターの回路を絶対零度近くまで冷やしたり、光の信号を発生させたりする際に電力が必要になる程度で、消費電力ははるかに少なく済むという。

 プロジェクトチームの山本喜久プログラムマネージャーによると、今回の国産量子コンピューターの単位時間当たりの消費電力は1キロワットほどで、計算能力を比較したスーパーコンピューターのおよそ100分の1だという。


 光量子コンピュータで光ループ方式を発明

 東京大学工学系研究科教授の古澤明氏と同助教の武田俊太郎氏は2017年9月22日、大規模な汎用量子コンピュータを実現する方法として、1つの量子テレポーテーション回路を無制限に繰り返し利用するループ構造の光回路を用いる方式を発明したと発表した。

 東京大学工学系研究科教授の古澤明氏と同助教の武田俊太郎氏は2017年9月22日、大規模な汎用量子コンピュータを実現する方法として、1つの量子テレポーテーション回路を無制限に繰り返し利用するループ構造の光回路を用いる方式を発明したと発表した。これまで量子コンピュータの大規模化には多くの技術課題があったが、発明した方式は、量子計算の基本単位である量子テレポーテーション回路を1つしか使用しない最小規模の回路構成であり、「究極の大規模量子コンピュータ実現法」(古澤氏)とする。

 現在のコンピュータは「0か、1か」で表されるビットという情報単位を用いるが、量子コンピュータは「0と1の重ね合わせ」で表される量子ビットという情報単位を用いる。0と1が同時並行で存在するような一種の中間状態である量子力学特有の「重ね合わせ」をうまく利用することで高い処理性能を実現できる。

 なお、古澤氏らは、量子ビットを用いた量子コンピュータと呼ばれるものには2種類あるとする。1つは、量子アニーリングと呼ばれる組み合わせ最適化問題を解くもので、多数の量子ビットを集合体として制御するもの。量子アニーリング装置としては、カナダのD-Wave Systemsが2000量子ビットを扱う装置を開発、実用化している。もう1つの量子コンピュータは、1つ1つの量子ビットを個別に制御し、あらゆる計算を実行できる汎用の量子コンピュータとし、古澤氏らは、この汎用量子コンピュータの実現に向けて研究開発を進めている。


 1つの量子テレポーテション回路を繰り返し利用

 そうした中で古澤氏らは、量子テレポーテーションを用いた汎用量子コンピュータの実現を目指す。量子テレポーテーションとは、量子ビットの情報をそっくりそのまま別の場所に移動する通信手法で、この手法を少し改良することにより量子ビットに何らかの計算処理を施した上で、別の場所に移動できる。加減乗除のような基本的な計算の1ステップを行う量子テレポーテーション回路を1ブロックとして連ねれば、量子ビットにさまざまな計算処理を実行できるようになり、汎用量子コンピュータが実現できる。

 汎用量子コンピュータの基本計算回路となる量子テレポーテーション回路については、2013年8月に古澤氏らが、光パルスで光量子ビットを転送する完全な量子テレポーテーションを行うことに成功している。

 また、古澤氏らは、量子テレポーテーションに不可欠な量子もつれ状態にある多数の光パルスを発生させることにも成功しており、2013年に1万6000個以上の光パルス、2016年には100万個の光パルスでの量子もつれ状態を観測している。

 これまでの研究で、汎用量子コンピュータの実現に着実に近づいてきたが、現状、4.2×1.5mサイズに及ぶ1ブロック分の量子テレポーテーション回路を何ブロックも連ねて大規模化することは現実的ではなく、大規模化が困難という課題が存在した。古澤氏によると「数十量子ビットの計算が限界だった」とする。

 今回、古澤氏と武田氏が発明したのは、従来のように量子テレポーテーション回路を空間的に並べるのではなく、時間的に一列に並べた光パルスを1ブロックの量子テレポーテーション回路で処理するもの。光ファイバーなどで光パルスを周回させるループを構成し、1つの量子テレポーテーション回路の機能を「ある時は乗算、ある時は除算」というように都度切り替えて、所望の処理を行うという方式である。

 古澤氏は「アナログコンピュータに例えれば、量子テレポーテーション回路がオペアンプに相当する。アナログコンピュータはオペアンプの周辺回路を変えてさまざまな演算を行ったように、量子テレポーテーション回路の周辺をアドフォックに切り替えて処理を行うもの」と説明する。

 この方式であれば、1個の量子テレポーテーション回路とループ構造だけで構成でき、最小限の光学部品だけで済む上、光パルスをループで周回させ続ければ、回数無制限で使用でき、どれほど大規模な計算でも実行できることになる。古澤氏は「100万個以上の量子ビットを何ステップも処理するような大規模な量子計算が実行できる」とする。

 古澤氏は「今回の発明によって、量子コンピュータ実現の課題は、誤り訂正をどのように実現するかに絞られ、われわれは誤り訂正の問題に集中できるようになった」とする。

 汎用の光量子コンピュータの実現時期については「トランジスタ発明前に、コンピュータはいつ実現できるのかを問われているようなものであり、全く分からない」とした上で、「量子コンピュータ実現まであと20年ほどとすれば、今回の発明で5年ほど縮んで15年になったのではと思う」と今回の成果を評価した。


初の国産量子コンピューター 計算能力の体験サイト公開

 スーパーコンピューターをはるかにしのぐ性能が期待される次世代のコンピューター、「量子コンピューター」の初の国産機の計算能力を体験できるインターネット上のサイトが公開され、国内外の研究者らから多数のアクセスが続いている。

 NTTや国立情報学研究所などが開発した初の国産量子コンピューターは、光の粒などの量子と呼ばれる、極めて小さな物質の世界で起きる物理現象を応用した次世代のコンピューターで、「組み合わせ最適化問題」という特定の問題で、スーパーコンピューターの100倍の計算処理能力があるという。

 11月27日からインターネットを通じてその計算能力を体験できるサイトが公開され、午後4時の公開以降、国内だけでなくアメリカやロシア、中国など世界各国の研究者らから多くのアクセスが続いている。

 公開されたサイトに利用者登録をすると、10の600乗以上という宇宙空間に存在するとされる観測可能な原子の数よりも多い組み合わせがある問題を、瞬時にとく計算能力を実際に試せる。

 国立情報学研究所の加古敏特任准教授は「多くの人に使ってもらい、社会問題の解決にどのように貢献できるのか、議論が深まることを期待したい」と話している。


参考 朝日新聞: http://www.asahi.com/articles/ASKCN45CYKCNULBJ004.html


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