原子核反応とは何か?

 原子核物理学における原子核反応(nuclear reaction)または核反応とは、入射粒子が標的核(原子核)と衝突して生じる現象の総称を言う。原子核反応といえば、原子力発電でウランの原子核が割れる「核分裂」が、その好例だ。

 原子核反応は、大別して「吸収」「核分裂」「散乱」の三つがある。だが、その反応過程は多彩で統一的に記述する理論はまだない。核反応においては、電荷、質量数、全エネルギー、全運動量が保存される。

 衝突粒子としては陽子や中性子はもちろん、一般にウランに至るまでの原子核、さらにγ(ガンマ)線や電子、中間子などさまざまなものがありうる。どの粒子によって引き起こされた反応であるかを識別するために粒子名をつけて、たとえば陽子核反応とよぶことがある。



 原子核反応には原子核の変換を伴わない弾性散乱や、反応のあと、核は変わらないが励起状態を残す非弾性散乱のほか、衝突粒子が原子核にとらえられて複合核をつくり、そこから粒子を放出して新しい原子核を残す反応などがある。

 1919年ラザフォードとブラケットが、天然放射性物質のα(アルファ)線を窒素の原子核に衝突させると、α粒子は窒素の原子核にとらえられて陽子を放出することをみいだした。これが原子核反応によって原子核の人工変換に成功した最初の反応である。

 今回、京都大学(京大)などは、雷が大気中で原子核反応を起こしている証拠を発見したと発表した。

 近年、雷や雷雲は自然界における天然の加速器として働き、電子を光速近くまで加速できるものと指摘されている。実際に、雷雲内で加速された電子が大気分子と衝突することで生じたガンマ線が、人工衛星など最先端の装置を利用して観測されていた。


 雷の「核反応」で陽電子が生まれている

 雷といえば夏、そう思うのはおそらく太平洋側で育った人で、日本海側の北陸などでは、雷は冬の風物詩だ。低くたれこめた冬の積乱雲で発生するこの雷は、「冬季雷」「雪起こし」「ブリ起こし」などと呼ばれている。雷鳴も、夏の雷のようにゴロゴロと続くのではなく、ほとんどがドカンと一発の「一発雷」だ。

 京都大学白眉センターの榎戸輝揚(えのと てるあき)特定准教授らの研究グループは、冬季雷が発生する際に雷雲の中で起きている奇妙な現象を見つけた。宇宙が誕生した瞬間にはたくさんあったのに、現在の地球ではすっかり珍しくなった「陽電子」が、雷雲で作られていたのだ。

 中学校の理科では、あらゆる物質は原子という小さな粒でできていて、原子は、プラスの電気を帯びた「原子核」とマイナスの電気を帯びた「電子」でできていると習う。

 電子は、マイナスの電気を帯びているのが標準形なのだ。ところが、宇宙が誕生した瞬間には、プラスの電気を帯びた電子もたくさんあった。これを「陽電子」という。

 電子と陽電子は、光のエネルギーからペアで生まれる。電子と陽電子が出合うと、消滅して光のエネルギーになる。138億年前に宇宙が猛烈なエネルギーの塊として誕生したときには、電子も陽電子もたくさんあったが、やがて陽電子は消滅し、今はマイナスの電子が優勢になっている。すくなくとも現在の地球では、陽電子は珍品だ。

 榎戸さんらは、雷雲から降り注ぐ放射線を測定する観測を、2006年から新潟県柏崎市などで続けている。その検出器が、今年2月6日に同市で発生した雷で、「0.511メガ電子ボルト」のガンマ線を落雷の直後に記録していた。ガンマ線は放射線の一種。「メガ電子ボルト」はエネルギーの単位で、「0.511メガ電子ボルト」のガンマ線は、電子と陽電子が出合って消滅する反応に特有のものだ。つまり、陽電子が存在していた証拠になる。

 分析の結果、この陽電子は宇宙からたまたま飛来したものではなく、雷にともなって生まれたことが分かった。雷雲の中には、ブラスの電気を多く帯びている部分と、マイナスの部分とがある。その間を光速に近い猛スピードで電子が走り、ガンマ線が発生する。このガンマ線が大気中の窒素原子に当たって原子核の構造を変化させ、引き続いて起きる反応で陽電子を生み出す。この陽電子が電子と出合って消滅し、「0.511メガ電子ボルト」のガンマ線が出た。

 電気の流れとは、すなわち電子の流れのことだ。このように電気が流れる現象や、あるいは塩酸と水酸化ナトリウムから食塩ができるような「化学反応」では、原子核は変化しない。原子核が変化する反応といえば、原子力発電でウランの原子核が割れる「核分裂」が、その好例だ。原子核が変化するこのような「核反応」は、電気の流れや化学反応とはまったく別種の反応だ。それが雷の際に起き、陽電子が生み出されていた。

 雷雲の中にプラスの電気を帯びた部分とマイナスの部分が偏在し、たまった電気の量がある限度を超えると、耐えきれなくなって雲の内部で、または雲と地面の間で電気が流れる。それが昔からいわれている雷の仕組みなのだが、じつは雷の引き金となる直接の「きっかけ」は、よく分かっていない。もしかすると、今回の研究のような「核反応」にともなう粒子が関係しているのかもしれないという。まさに雷研究の新分野開拓だ。


 雷が大気中で原子核反応を起こしている証拠

 今回の成果は、京都大学白眉センター 榎戸輝揚特定准教授、東京大学大学院理学系研究科の大学院生 和田有希氏および古田禄大氏、元理化学研究所 湯浅孝行博士、東京大学大学院理学系研究科 中澤知洋講師らの研究グループによるもので、11月23日付の英国科学誌『Nature』に掲載された。

 研究グループはこれまでに、雷雲や雷から放出されるガンマ線を北陸の日本海沿岸付近の地上から観測する研究を行ってきた。これにより雷雲の通過に伴って数分間にわたりガンマ線が地上に降り注ぐ現象「ロングバースト」と、1秒以下の短時間に強力なガンマ線が到来する突発現象「ショートバースト」があることがわかっていたが、その詳細は不明だった。

 現在、同研究グループの小型放射線検出器10台以上が、金沢市、小松市、柏崎市などへ設置されているが、今回の論文は、柏崎市に設置された4台の検出器による2017年2月6日の観測がもととなっている。

 観測では、落雷の瞬間に非常に強いガンマ線が検出され、その後100mm秒ほどで急速に減衰。それから約35秒後に、0.511MeVのエネルギーを持つガンマ線が捉えられた。前者はショートバースト、後者は、雷による原子核反応によって放出された陽電子が大気中の電子と対消滅したことによる「対消滅ガンマ線」であると考えられるという。

 さらに、雷からのガンマ線は大気中に含まれる14Nと相互作用し、この際、高速中性子が原子核から叩き出され、放射性同位体13Nが生成するという「光核反応」が起こる。13Nの半減期は10分程度であり、陽電子を放出しながら13Cに変わっていく。この際、陽電子が電子と対消滅し0.511MeVのガンマ線が放出されるが、これが今回35秒遅れて検出された対消滅ガンマ線に対応している。

 したがって、今回検出されたショートバーストと対消滅ガンマ線は、雷が原子核との光核反応を起こした明確な観測的証拠といえる。

 一方、叩き出された高速中性子は最終的に大気中や地表の原子核に吸収されるというが、中性子が14Nの原子核を構成する陽子と入れ替わる反応が起こる場合もあり、この際には14Cが生成される。14Cは年代測定に利用されており、今回雷が14Cを生成すると明らかになったことで、年代測定に何らかの影響がある可能性もある。

 榎戸特定准教授は、「今回観測された雷による原子核反応は、非常に強い雷でしか起きないものではないか」と話しており、今後ロケットを利用して雷を人工的に発生させる実験を行うなどさらなる研究が待たれる。また、「気象観測や大気計測の分野と連携し、『高エネルギー大気物理学』という新しい研究分野を発展させていきたい」とも語っていた。


参考 マイナビニュース: https://news.mynavi.jp/article/20171124-a029/


神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器
クリエーター情報なし
日経ナショナルジオグラフィック社
加速器がわかる本―小さな素粒子を“見る”巨大な装置 (ニュートンムック)
クリエーター情報なし
ニュートンプレス

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please