深海という生態系の食物連鎖

 一般に深海とは200m以上の水深の海を呼ぶ。そして、水深200~1000mを中深層、水深1000~3000mを漸深層、水深3000~6000mを深海層、水深6000~以深を超深海層などと呼ぶ。

 深海には光も達せず、高水圧と低水温の厳しい世界である。しかし地球上の海の93%は200m以上の深海であり、海の平均水深は約3800mである。深海の生物圏は広大であり、地球上最大の広さを持っている。

 深海はその環境が過酷なために、そんなに生物は存在しないと考えられてきた。ところが、科学技術の進歩によりすべての深海には多数の生物が生息している事が分かった。



 光の届かない深海においては、光合成がされないために植物プランクトンを基礎とした食物連鎖が成り立たない。深海の生物を支えている物は、表層で行われた生物の活動後に残される排泄物や、遺骸である。

 それら有機物はマリンスノーとなって、深海まで達し、堆積してそこに生息する生物活動の基礎となっている。このマリンスノーを基礎としてわずかではあるが、深海の食物連鎖が成り立っている。

 最近では、深海の熱水噴出孔に、噴出する液体中に溶解した各種の化学物質を目当てにした複雑な食物連鎖が成立していることが発見された。熱水噴出孔周辺の生物社会は一次生産者であるバクテリアと古細菌に大きく依存している。熱水噴出孔から噴出する水は豊かな鉱物資源を溶解しており、有機物合成をするバクテリアの大量増殖が可能である。

 これらのバクテリアは各種硫化物から有機物を合成する。また、熱水噴出孔近傍の海底下に生息している好熱性の微生物も熱水に巻き込まれて大量に噴出している。多くはバクテリアだが、温度の上昇に伴いThermococcusやMethanocaldcoccusを代表とした古細菌の割合が増加する。

 バクテリアは増殖して厚いマット状に広がり、これを餌にする端脚類やカイアシ類などが集まってくる。そして巻貝・エビ・カニ・チューブワーム・魚類・タコなどより大きな生物とともに食物連鎖を形成する。

 このようにしてできる生態系は熱水噴出孔をエネルギーの供給源として存続し、太陽エネルギーに依存する地表の生態系とは異なる体系をつくる。まったくこれまでは予想もできなっかった生態系であった。地球外では木星の衛星エウロパでも熱水噴出孔の活動が活発であるとみられているほか、過去には火星面にも存在したと考えられている。


 深海に棲むクラゲのなかま

 深海(水深200メートルより下)には、クラゲの仲間もたくさんすんでいることも分かってきた。深海調査機器の発達で、これまでわからなかった生活のようすが明らかになった。

 クラゲはすき通る体の99パーセントは水分 光をかくし光をおとりクラゲ(水母、海月、水月)は、刺胞動物門に属する動物のうち、淡水または海水中に生息し浮遊生活をする種の総称。体がゼラチン質で、たくさんの刺胞(獲物をさしてつかまえる道具)つきの触手で捕食生活をしている。

 かさを持つクラゲだけではなく、細長いものもいる。大きさはさまざまで、数センチから、成長して40メートルにもなるクダクラゲの仲間が知られている。クラゲはすき通った体をしているが、多くは胃袋にだけ色がついている。これは、発光生物を食べたときに光を外にもらさないようにするためである。深海では光っていると目立つので、外敵からねらわれやすくなるのをふせぐためだといわれている。

 一方、目立つ光をうまく利用しているクラゲもいる。ニジクラゲは、光っている触手を切りはなし、光をおとりに使って、おそいかかる敵からにげる。クラゲのほかにも、生きる上で光を活用している生き物たちがいる。水深数百メートルの深海にすむホタルイカは、発光器が光り、自分の影を消して身を守る。チョウチンアンコウのように、光をおとりにして獲物をおびきよせるものもいる。

 最近の調査で、深海のクラゲが、何を食べ、何に食べられ、食物網でどのような役割を果たしているのかを調査して、カリフォルニア沖における深海の食物網では、クラゲがカギとなる捕食者のひとつであることが明らかになった。たとえば、ある種のクラゲは22種もの海洋生物を食べており、これまで考えられていたよりも深く食物網に関わっていた。クラゲの重要度は大型魚やイカに匹敵するという。


 深海の食物網、クラゲがカギ 米カリフォルニア沖

 地球の主要な生態系のうち、最大の場所であるにもかかわらず、ほとんど知られていない深海。だが、遠隔操作探査機によって撮影されたおよそ30年分の動画データから、誰が何を食べているかについてのより正確で多様な関係が明らかになった。この結果は、12月6日付けの科学誌「英国王立協会紀要B(Proceedings of the Royal Society B)」に発表された。

これまで、深海生物が何を食べているのかを知るには、生物を切り裂いて胃の内容物を直接見る方法に頼ってきた。今回の研究を行なったモントレー湾水族館研究所の海洋研究者であるアネラ・チョイ氏いわく「古くさいやり方」だ。

 また、安定同位体や脂肪酸など自然界に存在する生化学的トレーサー(追跡子)を測定する方法もある。これは主に、捕食者の主要な餌を調べるときに役立つ。

 だが深海のクラゲに関しては、何を食べ、何に食べられ、食物網でどのような役割を果たしているのかを調べるのは難しい。クラゲの体はほとんどが水分でできており、食べられればあっという間に消化されてしまうし、捕まえようとすれば簡単に壊れてしまうからだ。

 そこでチョイ氏の研究チームは、約30年にわたって同研究所が撮りだめてきた動画を詳しく調べることにした。

 他の海洋生物と違って、クラゲは探査機の光や音から逃げないため、捕食の様子を直接観察できる。おまけに透明度の高いクラゲなら、腹の中まで透けて見える。

 「恐ろしく長い時間がかかりました」とチョイ氏は言うが、おかげで、カリフォルニア沖における深海の食物網で、クラゲがカギとなる捕食者のひとつであることが明らかになった。たとえば、ある種のクラゲは22種もの海洋生物を食べており、これまで考えられていたよりも深く食物網に関わっていた。クラゲの重要度は大型魚やイカに匹敵するという。


 30年分の動画解析 743例の捕食行動を観察

 「ひとつひとつの捕食行動を、独立した物語として考えています」。研究チームの一員であるスティーブン・ハドック氏は言う。つまり、観察した食う食われるの関係のそれぞれが全て深海を理解する上で役に立つということだ。

 特にハドック氏の印象に残っているのは、クラゲばかり食べていたタコの動画である。タコは、足を使って獲物を完全に包み込んでしまった。

 また別の動画には、クラゲに捕らえられようしているイカが、自分とそのクラゲよりもはるかに大きな魚を捕らえようとしている様子が撮影されていた。めったに見ることのない生き生きとした海の世界がそこにはあった。

 深海の食物網を理解することは、保全活動に重要であると、チョイ氏とハドック氏は口をそろえる。

 しかも、人の住む場所からは遠く、ほとんど知られていないものの、海洋汚染の影響はこんなところにまで及んでいる。2017年2月に発表された研究で、地球上で最も深いマリアナ海溝ですら、驚くほど汚染されていることが明らかになった。

 「食物網は、地図のようなものです。水の表面で繁殖する小さな植物がなければ、クジラも海で生きてはいられません。また、深海でこれほど多くの生物が食べたり食べられたりを繰り返していなければ、大型の魚も存在できません」と、チョイ氏。

 「マグロが何を食べているのかわからなければ、保護もできないでしょう」と、ハドック氏も言う。2人とも、この研究がこれからの保全活動に活かされることを願っている。


 クジラの死骸は生態系の重要な要素

 クジラの死骸は住み心地が良いのかもしれない。

 その命を全うし巨大な体を海の底に横たえる時、深海の個性的な生物たちにとって、大量の“ごちそう”が手に入るまたとないチャンスとなる。1頭でみんなが数十年は暮らしていけるという試算結果もある。

 2010年に、イギリス領サウス・サンドウィッチ諸島沖合の海底で遠隔操作無人探査機(ROV)で海底調査を行っていた際に発見されたクジラの死骸は、南極大陸の近海で見つかった初のケースとなった。

 現在は周囲に生息する深海生物の分析を進めている。海底のクジラの死骸には多様な海洋生物が集まり、「鯨骨生物群集」という生態系が作り出されている。クロミンククジラ(学名:Balaenoptera bonaerensis)の死骸では、少なくとも9つの新種が発見された。

 海底に沈んだクジラには、特殊な死後の世界が待ち受けている。まず、サメやカニなど、死肉をエサとする動物たちが群がり、脂肪や筋肉といった軟らかい部分をほとんど食べ尽くす。

 軟らかい部分が食べつくされると局面が変わり、骨食海洋虫や貝類など、「栄養便乗者(enrichment opportunist)」のグループが死骸の内部や周囲に住み着き出し、骨から栄養分を抽出するようになる。

 栄養便乗者グループの段階は短く、取得可能な栄養分が無くなると、次の住人である細菌に部屋を明け渡す。細菌が骨の表面を埋め尽くし、細菌の“牧草”が広がると、拡がった細菌をエサに巻貝が集まるようになる。最初の2段階は比較的早く過ぎ去り、数年程度で終わるが、最後の段階は数十年単位で展開する。


 鯨骨生物群集の不思議な生物たち

 1987年に初めて発見されて以来、天然の鯨骨生物群集は6例に留まっているが、その中では実に多種多様な新種の生物が発見されている。クロミンククジラの場合でも、カサガイ類や骨食海洋虫、ワラジムシなどの新種が見つかっている。深海底は変化に乏しい世界ではあるが、クジラの死骸の周囲や内部には、サンゴ、イソギンチャク、イカ、巻貝、ワラジムシなど、多様な生命があふれていた。

 オセダックス(Osedax)属の新種骨食海洋虫の場合は、内臓に住む共生細菌の助けを借りてクジラの骨に入り込んでいく。そもそも、オセダックス属が最初に発見された場所もクジラの死骸だったのだが、このような奇妙なライフスタイルを進化させた理由は、いまだ判然としない。

 発見された新種の中でも特に注目されているのは、フネカサガイ類(学名:Lepetodrilus)の新種だ。フネカサガイ類は通常、さまざまな化学物質が噴出する深海の熱水噴出孔やメタン噴出孔に生息していて、その独特の生態系は深海のオアシスと呼ぶに相応しい。

 しかし、今回発見された新種は、250メートル先の熱水噴出孔のフネカサガイと同種の可能性があり、熱水噴出孔の間の“飛び石”としてクジラの死骸を利用している可能性がある。

 比較的短命な生態系であるクジラの死骸で生存可能な進化を遂げ、“ジャンプ”して他の海域に拡散するという独自の生物的戦略を勝ち得たのかもしれない。

 鯨骨生物群集の生物種は極めて個性的であり、海底で希少な栄養源を見つけ、ほとんど移動しないで生きる閉鎖系の生態系を構成するにも関わらず、実に多種多様な生物群集を持ちうる点で、深海における生物の進化や共生関係等の研究において注目が集まっている。


 熱水噴出孔の生物群集に見られる食物連鎖

 熱水噴出孔とは火山活動が活発な部分によく見られる、地熱で熱せられた水が噴出する割れ目の事。特に深海で噴出する熱水噴出孔付近では、噴出する液体中に溶解した各種の化学物質を目当てにした複雑な生物社会が成立している。

 熱水噴出孔周辺の生物社会は一次生産者であるバクテリアと古細菌に大きく依存している。熱水噴出孔から噴出する水は豊かな鉱物資源を溶解しており、有機物合成をするバクテリアの大量増殖が可能である。これらのバクテリアは各種硫化物から有機物を合成する。

 また、熱水噴出孔近傍の海底下に生息している好熱性の微生物も熱水に巻き込まれて大量に噴出している。多くはバクテリアだが、温度の上昇に伴いThermococcusやMethanocaldcoccusを代表とした古細菌の割合が増加する。

 バクテリアは増殖して厚いマット状に広がり、これを餌にする端脚類やカイアシ類などが集まってくる。そして巻貝・エビ・カニ・チューブワーム・魚類・タコなどより大きな生物とともに食物連鎖を形成する。

 このようにしてできる生態系は熱水噴出孔をエネルギーの供給源として存続し、太陽エネルギーに依存する地表の生態系とは異なる体系をつくる。ただし、この生物社会は太陽とは無関係に存在するといわれることが多いが、そのなかには光合成により生じた酸素に依存するものも混じっている。それ以外のものは太古と変わらぬ嫌気性生物である。

 熱水噴出孔の動物と密接な関係にある微生物社会を嫌気性・金属耐性の面から計数観察した結果、対象とした熱水噴出孔周辺の動物相を支えるバクテリア社会の大部分に金属耐性があり嫌気的に金属を還元すること、嫌気性金属呼吸(テルル酸呼吸)が熱水噴出孔の動物相と共生するバクテリアにおいて重要なプロセスであるらしいことがわかる。

 熱水噴出孔で無機物や有機物から生命が誕生したという仮説も複数存在する。日本の海洋研究開発機構と理化学研究所は、熱水噴出孔の周囲で微弱な電流を確認し、これが生命を発生させる役割を果たした可能性があるとの研究結果を2017年5月に発表した。

 しかし、この仮説に対しては「熱水の組成には必須元素のマグネシウムが欠落している」という反論もある。


参考 National Geographic: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/122000494/


ジェームズ・キャメロン 深海への挑戦 (字幕版)
クリエーター情報なし
メーカー情報なし
カレンダー「深海生物図鑑」2018年版
クリエーター情報なし
日宣テクノ・コムズ

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ ←One Click please