火星の海の矛盾を解決する巨大火山群

 火星にはかつて海が存在した...というのは、火星に水の存在、火星の地形、存在する物質などから推定できる。もはや常識的だが、まだまだ反対意見も根強い。

 火星には太古の海に侵食されて作られたと考えられる海岸線のような地形がいくつも存在しており、かつて火星に海が存在した証拠だと考えられている。一方で現在の火星に存在する水の総量が少なすぎることから、海はなかったとする研究者もおり、海の存在に関する見解は分かれている。

 火星の極地方には極冠という形で水の氷が少し存在しているが、これだけでは海と呼べるほど広い面積を覆うにはとても足りない。したがって、もし太古に海があったとすれば、その水は今では地下の永久凍土となっていて、残りは宇宙空間に散逸したことになる。



 しかし、現在の永久凍土に含まれる水の量と宇宙に逃げた水の推定量を合計しても、火星の地形に残されている海岸線から推定されるかつての海水の量にはまだ足りない。

 また、「火星の海」仮説のもう一つの弱点として、かつての海岸線と思われる地形の標高がばらばらだという問題もある。海岸線の痕跡なら、その標高(=重力の強さが等しい面を0mとして測った高さ)はおおよそ水平に揃っていなければならないが、火星の海岸地形は場所によって1000mも標高が違っているのだ。

 今回、米・カリフォルニア大学バークレー校の最新の研究によれば、太古の火星に海が存在したという仮説について、その問題点を解決できる新たなモデルが提唱された。火星の海はこれまでの推定よりも数億年早く形成され、水深も浅かった可能性がある。


 火星の火山地帯「タルシス地域」

 米・カリフォルニア大学バークレー校のRobert Citronさんたちによる最新の研究によれば、太古の火星に海が生まれた時期と、現在火星の赤道地方にある「タルシス(Tharsis)地域」と呼ばれる巨大な溶岩台地の形成時期を考え直すことで、これらの矛盾を解決できるという。タルシスは火星表面のおよそ4分の1を占める最も標高の高い地域で、有名なオリンポス山を含む巨大な火山が数多く存在している。

 「これまで、タルシスは火星の歴史の初期に短い時間で形成され、海はその後にできたとされていました。しかし私たちは、海ができた時代はもっと昔にさかのぼり、タルシスを形作った溶岩の噴出が、海の形成と同時期に徐々に起こったと考えています」(カリフォルニア大学バークレー校 Michael Mangaさん)。

 火星の海ができ始めた時代にタルシスの巨大火山群がまだ生まれたばかりだったとすれば、火山活動による惑星の変形や地殻変動の影響もまだ少なかったことになる。つまり、火星の海はこれまでの推定よりも浅く、現在残っている海岸地形も、後世の隆起や沈降が起こるより以前にもっと標高が低い場所で作られたということになり、火星の海水量はこれまでの推定の約半分で済む。

 またMangaさんは、タルシスから放出された火山ガスで温室効果が生じて火星全体の温暖化が起こり、これによって液体の水が火星表面に存在できるようになったと考えている。さらに、火山の噴火によって地下水が表面に現れて河川などの水の流れが生じ、これらが北半球の平原に流れ込んで海が生まれた可能性があるとしている。

 彼らのモデルによれば、今から約40億年前に火星最初の海である「アラビア(Arabia)」ができた。このころタルシスは、成長史の中で最初の2割ほどが過ぎた時期だったと考えられる。

 その後、タルシスの火山が高く成長するにつれて火星の平地部分は沈降し、海岸線も地殻変動を受けた。こう考えることで、現在残されている海岸地形の標高がばらばらであるという問題にも説明がつくという。また、アラビアの海岸線よりも低い標高にある「デウテロニルス(Deuteronilus)」という海の海岸線は、タルシス火山群が成長した最後の時代にあたる約36億年前に作られたものだと推定している。

 「これはあくまでも仮説ですが、今後の研究でタルシスと海岸線の年代をより正確に決めることができれば、この仮説が正しいかどうかわかるでしょう」(Mangaさん)。

 今年5月に打ち上げ予定のNASAの火星探査車「インサイト」による探査で、この仮説が正しいかどうかの手がかりが得られるかもしれない。このミッションでは火星の表面に地震計を設置する予定で、これによって火星の内部を調査し、太古の海の名残である地下の氷や液体の水を発見できるかもしれない。


 火星探査機「インサイト」とは?

 インサイト(InSight: Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport)は、火星内部を探査する、NASAの新しい計画。火星内部構造を探査するための専用の探査機というのは、火星探査史上はじめてとなる。

 インサイト(英語の単語としては「洞察」「本質」といった意味)は、そのまま直訳すると「地震計による調査、測地学、熱流量を利用した(火星)内部構造探査」となる。その名の通り、地震波や火星の自転、そして地下からもたらされる熱流量を調べることで、火星の内部がどうなっているのかを探るのがインサイト。なお、探査形態としては「着陸機」となる。

 火星に限らず、天体の内部構造を知ることは重要。表面は周回機でも探査できるが、中身を調べるとなると、(重力などを調べるといった方法以外では)地震波など、内部構造に関連した情報を捉え、そこから推定するしかない。地球でさえ、地震波によってようやく内部構造が明らかにされたわけで、ましてや他の天体の内部構造を調べるというのはなかなか大変だ。

 インサイトは、非常に精度の高い地震計を搭載していく。NASAではこの地震計の精度を「原子1個分の揺れ幅でさえ感知できる」と述べているが、火星では人工的な雑音(振動)が発生しないから、地震計の精度を非常に高くすることができる。

 これに加え、火星の自転のふらつきや、地下からもたらされる熱の流れ(熱流量)を調べることで、火星の地下構造全般に迫ろうとしている。


 火星から地球型惑星一般へ

 火星の内部構造を知る理由の1つは、火星がどのようにしてできたかを知るということにある。

 これまで数多くの周回機が火星の表面については探査を行い、地形については非常に詳しいことがわかってきた。しかし、そういった地形がどのような力によってできたのかを考えるためには、地下に目を向ける必要がある。

 例えば、地球ではプレートテクトニクスによって大陸などが動き、火山が噴火し、地震が起きる。またプレートが動くということは、地下のマントルと呼ばれる構造にも関係する。

 では、火星ではどうなのか。火星ではプレートテクトニクスはあったかも知れないが、相当昔に活動が停止したとされている。その証拠が、オリンポス山をはじめとする火星の火山群。巨大な火山ができるということは、1箇所にマグマが供給され続けるわけで、近くが動かなかったことを示している。

 では、火星のプレートテクトニクスはいつ終焉を迎えたのか、そして地球とは違う火山の成り立ちの真の理由、あるいは細かい理由は何なのか。これを調べていけば、地球と火星とを比較し、こういった天体の成り立ち、あるいは内部構造の移り変わりを知ることができるかも知れない。さらには金星や水星といった他の地球型惑星にも、その成果は応用できる。

 探査機はフェニックスのシステムを応用、2018年打ち上げ予インサイトは、かつて打ち上げられた火星着陸機「フェニックス」の設計を大幅に流用し、探査コストを低減する。また、4つの探査機器を搭載し、地震計はフランス宇宙機関(CNES)から、熱流量測定装置はドイツ航空宇宙センター(DLR)から提供される。主要な観測機器がヨーロッパから提供されるという意味でも珍しいミッションといえる。

 インサイトは、NASAの低コスト月・惑星探査計画の一環である「ディスカバリー計画」の1つとして2012年8月に選定され、2016年3月の打ち上げが予定されていたが、NASAは2015年12月23日、搭載されている地震計に不具合がみつかり、その修理に時間がかかるとして2016年の打ち上げを断念していた。

 2015年3月、NASAは新たな打ち上げプランを発表した。それによると、打ち上げは2018年5月5日(正確には、この日から打ち上げ可能期間が始まる)、この日に打ち上げられた場合、火星到着は同年11月26日となる予定。


火星にはやっぱり、巨大な海があった

 2015年3月、赤い惑星には昔、少なくとも2,000万立方キロメートルの水があった、ということが研究の成果として判明した。その大洋は、大西洋よりも大きかったようだが、時の経過とともに宇宙に蒸発してしまったようだ。

 今日、そこに水の痕跡はもはや存在しない。しかし、遠い過去に、火星は広大な海を擁していた。地球上の大西洋よりも大きく、場所によっては1.5km以上もの深さを有する海だった。

 このことを明らかにしているのが、国際的な研究チームが『サイエンス』で発表した新しい研究だ。彼らは、大気中に存在する水の分子の性質をマッピングするために、ESO(European Southern Observatory: ヨーロッパ南天天文台)のVLT(Very Large Telescope: 超大型望遠鏡)とNASAの赤外線望遠鏡設備(Infrared Telescope Facility)によって集められたデータを利用した。

 「研究の結果、過去に火星上に存在した水の量を推定できるようになりました」と、NASA・ゴダード宇宙飛行センターの研究者、ジェロニモ・ビリャヌエバは説明する。「これらの施設を使うことで、地表の水分のうち、どれだけが宇宙空間に失われてしまったかを確定できるようになったのです」


 「H2O」と「HDO」の存在比率

 彼らは、火星の大気中に存在する、少し異なる原子の性質を示す2つの水分子を分析した。通常の「H2O」と、いわゆる「HDO」、つまり、通常の水分子の2つの水素原子のうち1つがより重い同位体、重水素に置き換わっている半重水だ。後者のタイプの分子はより大きな質量をもち、科学者たちの説明によると、蒸発がもとで宇宙空間へと失われる可能性が前者に比べて低い。

 水が地表から蒸発して宇宙空間に失われれば失われるほど、残存する水における半重水の分子の割合はより多くなる。ESOの望遠鏡とNASAの望遠鏡によって集められたデータを利用することで、研究者たちは、6年の期間にわたって、火星の全表面におけるH2OとHDOの分子の比率をマッピングすることができた。そして、その結果を地球の海で確認できるものと比較することで、彼らは、火星がその歴史において失った水の量を計算することに成功したのだ。

 結果は、火星の極地において、半重水の分子の量が、地球上に存在するものよりも8倍上回っていることを示した。そしてこれらのデータを用いて、研究者たちは、過去にこの惑星が少なくとも2,000万立方キロメートルの水を有していたはずだと計算した。おそらくこの惑星の表面の約19%を覆っていた、本物の大洋だ。

 「火星がこれほど多くの水を失ったことを考えると、この惑星には恐らく、考えられていた以上に長い期間、水が存在していたのです」と、研究の共著者、マイケル・ムンマは結論づけている。「そしてこのことは、これまでわたしたちが考えていた以上により長い間、火星が居住可能だったかもしれないということを示唆しています」


参考 アストロアーツ: http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9805_mars


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