太平洋ゴミベルトとは何か?

 太平洋ゴミベルトは世界でもっとも多くのゴミが漂う海域だ。米国カリフォルニアとハワイの間にあり、面積は日本の倍以上と言われる。

 巨大ごみ海域は、五大海洋循環の一つである北太平洋循環の内側にある。太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Patch)は、北太平洋の中央(およそ西経135度から155度、北緯35度から42度の範囲)に漂う海洋ごみの海域である。浮遊したプラスチックなどの破片が北太平洋循環の海流に閉ざされ、異常に集中しているのが特徴の海域である。

 太平洋ゴミベルトの存在はアメリカ海洋大気圏局によって公開された1988年の文書で予測された。予測は1985年から1988年の間アラスカの研究者によって得られた水表面のプラスチック粒子の測定の結果に基づいていた。この研究は、特定の海流のパターンに支配されている地域に高濃度の海洋ごみが集まることを示していた。研究者らは日本海の調査結果に基づき、類似した状況が太平洋の他の部分で起こると仮定し、特に北太平洋環流を指摘した。

 ごみ域の存在は、カリフォルニアを拠点とする船長で海洋研究家でもあるチャールズ・ムーアの論文により、広く衆目と科学的な注目を集めた。ムーアは、トランスパシフィック・ヨットレースに参加したあとの北太平洋環流を帰る途中に、莫大な漂流ごみの広がりを目の当たりにした。

 東日本大震災のプラゴミ10~20%

 世界の他の海洋ごみが集中する地域と同様に、太平洋ゴミベルトは主に海上の風系によって生じるエクマン収束によって形成される。しかしながら、黒潮続流・北太平洋海流と言った地衡流にともなう収束発散の影響も受け、実際のゴミの分布はかなり非一様である。

 今回、発表された調査の結果、太平洋ゴミベルトに漂う7万9000トンに、これまで考えられていた以上に漁具が含まれることが判明した。この論文は3月22日付けの学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

 論文によると、ゴミベルトに浮かぶプラスチックの数は1.8兆個と推定され、そのうちの94%を0.5~5ミリまでのマイクロプラスチックが占める。だが、これは重量では8%ほど。ゴミの総量は7万9000トンと推定され、従来の4倍~16倍にのぼると結論付けている。研究チームは、こうしたゴミの10~20%は2011年に日本を襲った津波によるものと見積もっている。

 加えて、ゴミの46%を化学繊維の漁網が占めており、その他にもロープ、養殖カキの間隔を空ける管、ウナギを捕るわな、かご、箱といった漁具が含まれることも明らかになった。

  ゴミベルトには何が浮かんでいるのか?

 太平洋ゴミベルトが発見されたのは1997年のこと。ヨット愛好家のチャールズ・ムーア氏が、ロサンゼルスの拠点に戻る途中、プラスチックのボトルなどのゴミが混ぜこぜになって漂う海域を通過した。シアトルで活動する海洋学者カーチス・エベスメイヤー氏が、これを「太平洋ゴミベルト」と名付けた。氏は、海流と漂流物の追跡に精通しており、お風呂用のアヒルのおもちゃやナイキのテニスシューズなどの探索も手がけたことで知られている。

 この海域ではいま、オランダ人のボイヤン・スラット氏が設立した非営利団体「オーシャン・クリーンアップ」によって、3200万米ドルという規模の清掃活動が行われている。氏は現在23歳という若さで、この問題に取り組み始めたときはまだ10代だった。

 陸地は存在しないにもかかわらず、広告業界のある経営者コンビが、この海域を実在する「国」だと宣言した。2人はこの海域に「ゴミ諸島」(Trash Isles)という国名を付け、米国の元副大統領アル・ゴア氏を1人目の「国民」として登録。2017年秋、国連に承認を申請した。この派手なキャンペーンによって、ゴミベルトのイメージはさらに強固になった。

 これが太平洋ゴミベルトの概要だ。しかし、ゴミの具体的な構成は、今までほとんど明らかになっていなかった。 「オーシャン・クリーンアップ」の海洋学者で、今回の論文の筆頭著者であるロラン・ルブルトン氏は、研究チームはこれまでよりも大きなゴミを算定しようとしたと話す。

 プラスチックゴミの構成要素

 「漁具が多いだろうと分かってはいましたが、漁網が46%というのは予想を超えていました」とルブルトン氏。「当初、漁具はきっと20%台だろうと考えていました。海洋ゴミに関しては、それが世界的に異論のない数字だからです。20%が漁業関連、80%が陸地由来というわけです」

 故意に捨てられた、あるいは誤って流された網を、研究チームは「ゴーストネット」という造語で呼んでいる。これが海を漂い、クジラ、アザラシ、ウミガメなどに絡みつく。プラスチックのゴミによって窒息したり傷を負ったりする海洋哺乳類は、毎年10万頭に上ると推定されている。

 現在「オーシャン・クリーンアップ」は、このようにゴミと化した漁具の大半を取り除く仕組みを開発しており、今年中に実行に移す計画だ。

 「興味深いのは、採取したゴミの少なくとも半分が、一般消費者が出したプラスチックではなく、漁具だったことです。これまで議論されていたのは、主に一般消費者が出すプラスチックでした」。自然保護団体「オーシャン・コンサーバンシー」の主任科学者、ジョージ・レナード氏はこう話す。

 「この研究によって、捨てられたり流されたりした漁具が、多くの動物の死因として見過ごせないことがあらためて確認できました。問題を確実に解決するために、プラスチックに関する議論の幅をもっと広げる必要があります」

 プラスチック汚染をなくす活動をしているNPO「ファイブ・ジャイルズ・インスティテュート」の共同設立者で、海洋ゴミに詳しいマーカス・エリクセン氏は、この研究について注意を促した。限定的な調査のみに基づいているため、ゴミベルト全体の規模を正確に見積もるのは難しいという。だが氏は同時に、漁具がこれほど多く蓄積されていることを示す重要なデータだとも指摘した。

 太平洋ゴミベルトの調査結果の発表と時を同じくして、英国からも最新の報告書「Foresight Future of the Sea」が提出された。それによると、プラスチックの海への流出を防ぐ「広範囲な対策」に着手しなければ、プラスチックゴミによる海洋汚染は、2050年までに3倍になる可能性があるという。報告書は、プラスチック汚染は海面上昇や海水温上昇と並び、海にとっての大きな脅威の1つと明言している。

 海がプラスチックゴミで埋まる日

 ルブルトン氏らの研究成果は、上空からの2度の調査と、海面のトロール調査に基づいている。前者は2016年10月に7000枚の画像を撮影。後者は2015年7月、8月、9月に18隻の船を使い、652回にわたって網で海面のゴミを集めた。

 海面トロールの結果が、論文に詳しく記されている。集められたプラスチックのうち、製造日を読めた物は50個だった。1977年が1個、1980年代が7個、1990年代が17個、2000年代が24個、そして2010年が1個。また、単語または文章が読み取れる物は386個あり、書かれていた言語は9種類だった。

 文字が読み取れたゴミのうち、日本語が書かれた物と中国語が書かれた物がおよそ30%ずつだった。製造国が判読できた物は41個で、出どころは12カ国に上った。

 研究チームは結論の中で、太平洋ゴミベルトのプラスチック汚染が「急激に悪化しており、周囲の水域よりもペースが速い」とも述べている。その一方で、彼らの結論の通りに、海洋ゴミの分布が劇的に変わると確信していない研究者もいる。世界中の海洋ゴミの大半は、大海の真ん中ではなく沿岸部にあると考えられているからだ。

 レナード氏は、この研究の範囲の広さに感心したとし、「説得力のある科学的成果です」と評価する。「しかし同時に、この分野では、詳しく調べれば調べるほどプラスチックが見つかってしまうのも、また事実です」

 野生動物への影響

 プラスチックによる汚染の問題は広範囲で急速に悪化している。毎年800万トンあまりのプラスチックが海に流入し、海洋生態系に数十億ドル規模の損害を与え、推定100万羽の海鳥、10万頭の海洋哺乳類および無数の魚を死に追いやっていることが、過去の研究で示されていた。

 アホウドリのひなは、親鳥によりプラスチックを与えられ、それを吐き出すことができなかった。そして飢えか窒息により死亡した。浮かんでいる粒子は動物プランクトンに似ており、それがクラゲに誤食されることで海洋食物連鎖に入る。

 2001年にそこから採ったサンプルでは、プラスチックの質量が(この地域の最有力な動物である)動物性プランクトンの7倍を上回った。これら長く残る欠片の多くが、クロアシアホウドリなどの海鳥やウミガメなどの海洋生物の胃に行き着く。

 野生生物による誤飲や魚網に絡まってしまう問題の他に、浮遊する小片は、PCBsやDDTやPAHsを含む残留性有機汚染物質を海水から吸収する。毒性作用に加え、摂取された物質の一部は脳にエストラジオールと間違えられ、影響を受けた野生生物のホルモンを撹乱させる。

 しかし、もっと危険なのは何年も海にもまれて微粒化したプラスチックゴミだと言われている。このようなゴミ粒に汚染物質が付着し「毒のスポンジ」化したものを、魚や海鳥、微生物が餌と間違えて食べてしまうこともある。

 少しでも分解しやすいプラスチックに置き換える必要性

 最近ではプラスチックを消化する生物もいくつか発見されている。南極海のオキアミなどにプラスチックの消化能力があることが分かった。英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表された研究では、排出される残留物は元のマイクロビーズより平均で78%小さくなった。中には94%小さくなったものもあったという。

 「これはマイクロプラスチックが生態系と相互作用するための新たな経路だ」と発表者の川口氏は話す。だが、今回の結果がもろ刃の剣になる恐れもあると警告する。プラスチック粒子がより小さな形態で排出されることにより、元の大きさのものを消化できない生物がそれを摂取できるようになるため、毒素が食物連鎖で次々と受け継がれる恐れがあるという。

 そして、何より生物によって分解されるプラスチックより、廃棄されるプラスチックの方がはるかに多い。今回、海で廃棄されるプラスチックに漁網が多いということだが、漁網であれば津波、高波などに流されるケースや、海底の岩などにひっかかり廃棄されるケースは非常に多いだろう。生分解性プラスチックなどに置き換えていく必要がある。

参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/032600132/

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