ハイパーループシステム開始

 次世代交通システム「ハイパーループ」を米国の中西部に拡大する動きが始まった。ミズーリ州でのハイパーループ建設を目指す「ミズーリ・ハイパーループ連合(Missouri Hyperloop Coalition)」は1月30日、州内のカンザスシティからコロンビア経由でセントルイスを結ぶ路線の採算性調査を開始すると発表した。

 ハイパーループは、アメリカ合衆国の実業家のイーロン・マスクが構想を発表した次世代交通システム。2013年8月に公表された。

 2016年にカリフォルニア州の州間高速道路5号線沿いの街にテスト路線を建設し、2018年を目処に旅客輸送を予定している。サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶカリフォルニア高速鉄道の計画(総工費約700億ドル)が、イーロンには建設コストが高過ぎて遅過ぎるうえに実用的でないとの認識があり、自身が経営するスペースX社とテスラ社の従業員からアイデアを募った。



 減圧されたチューブ内を高速で列車を運行するという概念は1970年代にランド研究所の物理学者であるロバート M.サルター (Robert M.Salter)がロサンゼルス-ニューヨーク間を21分で輸送するVery High Speed Transit System または VHSTという高速輸送システムを提案していた。

 減圧(100Pa程度)されたチューブをガイドとして、チューブ内を空中浮上(非接触)して進む。当初の計画では先頭車両は鋭角ノーズとし、1車両あたり28人を想定。チューブ内の空気を車両前面に搭載したファンで吸い込み、底面から圧縮排出して車体を浮上させる構想だった。

 建設を想定している区間はロサンゼルスとサンフランシスコ間(全長610km)で、加速度0.5G程度で加速し、30分で結ぶ。最高速度は時速1,220km。建設には、期間が20年以上で全体建設費用見込みは75億ドル(7,100億円)を見込む。チューブの建設費用が必要経費の主要部分を占め、車体の経費は合計で10億ドル未満だという。


 産学官連合のプロジェクト

 ハイパーループは、州間高速道路70号線(I-70)に沿って開発され、建設と運営は「Virgin Hyperloop One」が担う。採算性の調査はカンザスシティに本拠を置くエンジニアリング会社「Black and Veatch」と「Virgin Hyperloop One」が実施。さらにミズーリ大学も参加し、“産官学”の取り組みになる。

 車ならセントルイスからカンザスシティ間の移動に4時間を要するが、このプロジェクトが実現すれば31分に短縮される予定だ。Virgin Hyperloop Oneは昨秋、米国内に建設するハイパーループの最終候補10ルートを発表したが、セントルイスとカンザスシティ間を結ぶルートは含まれていなかった。

 Virgin Hyperloop OneのDan Katzによると、最終候補地の発表以来、同社の方針に変更があったという。「背景には産学官連合が生まれたことがある。ファイナリストを選定したときには、まだ連合は発足していなかった。これらのパートナーを得たことで、今後のプロジェクトの進め方に変更が生じた」

 Black and Veatchのヴァイスプレジデント、David Leligdonによると、採算性調査には7-9ヶ月を要するという。作業には入手可能な電子データを用いるほか、ドローンや人力の調査も行い、エンジニアリング面や経済面の検証に重点を置くという。

 ミズーリ州運輸省も調査に参加し、同省が保有するI-70の乗用車やトラックの交通量に関するデータをBlack and Veatchに提供する。Katzによると、Virgin Hyperloop Oneにとっても貨物と旅客の交通量データは貴重だという。「我々は、旅客用ポッドと貨物用ポッドの両方を運行することを想定している」


 地元のテック業界もプロジェクトを歓迎

 ミズーリ州運輸省によると、ミズーリ州内を走るI-70の貨物輸送量は年間3150万トンを超え、金額に換算すると590億ドル(約6.5兆円)以上に相当するという。また、I-70の交通量は当初の計画の2-5倍に達しており、同省は、ハイパーループには旅客、貨物ともに大きなビジネスチャンスがあるとしている。

 今回発表されたルートを歓迎している団体の一つが、「カンザスシティ・テック評議会(Kansas City Tech Council)」だ。この組織は、カンザスシティにおけるテック業界のエコシステム構築を推進している。

 代表を務めるRyan Weberによると、カンザスシティ・テック評議会は、Virgin Hyperloop Oneに対してルート提案を行った当初からプロジェクトに参画している。彼は、ハイパーループの建設が地元のテック業界に大きく貢献すると考えている。


米国の砂漠のど真ん中で、「ハイパーループ」が実現しつつある

 ヴァージン・ハイパーループ・ワンが、真空チューブを利用した輸送システム「ハイパーループ」の試験施設を完成させた。砂漠のど真ん中にできたチューブのスケール感と、その実現可能性はいかなるものか。

 2013年にハイパーループ構想が明らかになったとき、それはおなじみの「イーロン・マスクの無謀なアイデア」のひとつに過ぎなかった。つまり、わくわくするし、もしかしたら実現可能なのかもしれないが、どう考えても信じられない何かだ。

 あれから5年。チューブを使った未来の輸送システムが。ネヴァダ州の砂漠地帯で現実のものになりつつある。

 ラスヴェガスから北に35マイル(約56km)離れた建設地は、砂と岩、とげだらけの低木に囲まれ、はるか彼方には美しい赤みがかった山々を臨む。ヴァージン・ハイパーループ・ワンのための巨大な白いチューブがあっても、エンジニアたちがかわいがっている砂漠に住むカメを除けば、それほど人目を引かない孤立した世界だ。

 シニアテストエンジニアのケヴィン・モックは「建設期間は約10ヶ月でした」と話す。現場取材が許可されたのは今回が初めてで、チューブの片側を歩きながらその長さを実感するのも初めてだ。


 砂漠に延びゆく巨大な鋼管

 直径11フィート(約3.35m)に近い鋼管が、沈む夕日のオレンジの光を反射しながら3分の1マイル(約536m)にわたって延びている。基本的には補強材で包んで塗装を施しただけのただの鉄だが、モックは「水道管に似ていますが、細かい仕様に基づいてつくられています」と説明する。

 この無謀なアイデアは、マスクが57ページに上る文書を公開したことで世に広まった。テスラとスペースXで忙しかったマスクは、ほぼ真空のチューブに旅客や貨物を乗せたポッドを浮かせて、時速1,000km超で走らせるというこの輸送システムの実現に興味のある者を募った。

 ヴァージン・ハイパーループ・ワンは、そこに名乗りを上げた1社だ。同社はハイパーループ・テクノロジーとして設立し、17年12月にリチャード・ブランソンが会長に就任するまではハイパーループ・ワンという名前だった。

 ハイパーループはマスクらしい急進的で未来志向なアイデアだが、その素晴らしさは実現するのに革命は必要ないという点にある。この輸送システムは実際、既存の輸送および産業テクノロジーの組み合わせにすぎない。高架構造物、金属チューブ、高速列車、圧力容器、そして真空システムで構成されるキメラなのだ。

 難題はここに運賃を払ってくれる乗客(言い換えれば利益だ)をうまく組み込むことで、ハイパーループ・ワンは21年には商業運用が可能との見通しを示している。だからこそ、彼らは前段階として砂漠に「デヴループ(DevLoop)」を建設した。この試験システムを利用して無数の工学的難題を解決し、商業ベースで展開できるものをつくり上げるのだ。

 チューブから空気を吸い出すには、片側にある金属の建物の中に置かれたいくつかの小さなポンプを使用する。普通に購入できる製品で、スチール工場や食肉処理場で使われている(どう使うかの詳細は知らないほうがいいだろう)。

 このポンプでチューブ内の空気圧を海抜ゼロメートルの大気の1,000分の1以下に落とすことができる。標高20万フィートとほぼ同じで、ここまでいくと大気中に残ったわずかな分子は高速の乗り物の邪魔をしない。


 気温の変化による膨張にどう対処するか

 チューブの片方の端にある長さ100フィート(約30.5m)ほどのパイプはエアロックとして機能する。12フィート(約3.7m)の鉄の円盤がスライドすることでパイプをチューブから切り離すようになっており、この仕組みでチューブ内部の真空状態を保ったまま、ポッドやそのほかの乗り物を出し入れする。なお、チューブを真空にするには4時間かかる。

 チューブは地面に専用の線路を敷設する手間を省くために、鉄の柱を使って空中に浮かせる計画である。これに関して、技術的に大きな問題はないという。また完全に水平ではなく地表の傾斜に沿ってわずかに傾けてあり、モックは「こうすることで、傾斜角をコントロールしながら建設コストを最小限に抑えることができます」と説明する。

 建設総額220万ポンド(約3.4億円)のチューブと、それを支えるT字型のコンクリートの柱の間には、受け皿のようなものが置かれている。金属を使った建造物では気温の変化による素材の膨張・収縮に悩まされるのが常だが、ハイパーループも例外ではなく、砂漠に建設された比較的短い試験チューブでも全長は数フィート変化する。

 モックは「かなりの大きさの変化が起こるため、設計ではそれも計算に入れなければなりませんでした」と言う。実物はロサンゼルスからサンフランシスコまでの350マイル(約563km)を結ぶことになるため、金属の熱膨張に対応可能なジョイントが必要になる。

 昨年の夏からはプロトタイプのポッドを使った試験運転が始まり、これまでにさまざまなスピードであらゆるデータを収集しながら200回以上のテストを実施した。12月には可能な最高速度を調べるために、わずか数秒でポッドの時速を386kmまで加速する実験が行われている。これはハイパーループの新記録だという(もちろん、今後数年でたくさんの新記録が樹立されることになるだろう)。

 プロジェクトのシステムエンジニアリング責任者のアニータ・セングプタは、「1種類のポッドで旅客と貨物のどちらにも対応する計画です」と話す。何かあっても生命が失われる危険のない貨物から始めるのが、合理的なやり方だ。


 まだまだ課題は山積

 ハイパーループ・ワンも、ロサンゼルス港から内陸部の倉庫へのコンテナ輸送などでの試験展開を計画している。これには大気汚染物質を撒き散らす輸送用トラックが、人口の密集する都市部を通過する機会が減るというメリットもある。

 イーロン・マスクの夢の実現に向けて、ヴァージン・ハイパーループ・ワンと競う企業はたくさんある。ハイパーループ・ワンの共同創業者で元最高技術責任者のブローガン・バンブローガンが立ち上げた「Arrivo」は、コロラド州デンヴァーで「ハイパーループにインスピレーションを受けたシステム」[日本語版記事]の建設を予定している。

 また、マスクがロサンゼルスにつくったミニチュアのチューブを使って、世界の学生チームがスペースXが主催するコンペで競っている。マスク本人もこのゲームに再び興味をもっているらしく、昨年はアメリカ各地で建設中のトンネルでハイパーループを試す計画に言及している。

 もちろん、エンジニアリング面での課題を解決するだけでは、ハイパーループは実現しない。建設地をめぐる争いや環境への影響の調査、政治的な調整も必要だろう。さらに、一般的にインフラ建設を非常に困難なものにしている資金の問題もある。

 しかし、すべてをクリアすることができれば、ネヴァダ州の砂漠のこの一画には、カメの観察以外の目的を持った訪問者が増えるはずだ。

 「カンザスシティにテック企業を誘致するためには、ハイパーループのような資産が不可欠だ」とWeberは話した。


 ハイパーループとは何か? 

 ハイパーループ(英: Hyperloop)は、アメリカ合衆国の実業家のイーロン・マスクが構想を発表した次世代交通システム。2013年8月に公表された。

 2016年にカリフォルニア州の州間高速道路5号線沿いの街にテスト路線を建設し、2018年を目処に旅客輸送を予定している[1]。サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶカリフォルニア高速鉄道の計画(総工費約700億ドル)が、イーロンには建設コストが高過ぎて遅過ぎるうえに実用的でないとの認識があり、自身が経営するスペースX社とテスラ社の従業員からアイデアを募った。

 減圧されたチューブ内を高速で列車を運行するという概念は1970年代にランド研究所の物理学者であるロバート M.サルター (Robert M.Salter)がロサンゼルス-ニューヨーク間を21分で輸送するVery High Speed Transit System または VHSTという高速輸送システムを提案していた。

 減圧(100Pa程度)されたチューブをガイドとして、チューブ内を空中浮上(非接触)して進む。当初の計画では先頭車両は鋭角ノーズとし、1車両あたり28人を想定。チューブ内の空気を車両前面に搭載したファンで吸い込み、底面から圧縮排出して車体を浮上させる構想だった。

 建設を想定している区間はロサンゼルスとサンフランシスコ間(全長610km)で、加速度0.5G程度で加速し、30分で結ぶ。最高速度は時速1,220km。建設には、期間が20年以上で全体建設費用見込みは75億ドル(7,100億円)を見込む。チューブの建設費用が必要経費の主要部分を占め、車体の経費は合計で10億ドル未満。

 現在はロサンゼルスを拠点とするHyperloop Transportation Technologies(HTT)、Hyperloop Genesis と、Hyperloop One(旧称Hyperloop Technologies)の2社が開発を競う。ポッド等、各要素技術はコンペ形式で採用する見通し。

 2016年3月10日にハイパーループ・トランスポテーション・テクノロジーズはスロバキア政府と合意書に署名した。HTTはハイパーループ実現に向けて、カリフォルニア州中央部にあるクエイ・バレーに5マイル(約8キロ)の試験走行トラックを建設中。

 ハイパーループ・ワンは2016年5月11日にネヴァダ州で初の公開テストを実施して4秒間の走行で時速186kmを達成した。

 ハイパーループ・ワンは、2016年にラスベガスに初めての工場である「ハイパーループ・ワン・メタルワークス」を設立した。2017年に完成予定のプロトタイプ“Devloop”で使用する金属製のチューブなどの部品を製造する予定。

 カリフォルニアでの高速鉄道の建設費は650億ドルといわれているが、ハイパーループは60~70億ドルと予想される。

 2017年10月12日、ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソンは、ヴァージン・グループのハイパーループ・ワンへの投資を発表した。社名はヴァージン・ハイパーループ・ワンに名称変更するとともに、リチャード・ブランソンが役員として参加するとされている。

 2018年2月18日、リチャード・ブランソンはインド・ムンバイとプネを結ぶハイパーループ・ワン路線を計画し、マハラシュトラ州政府との基本合意書に署名した。6か月以内に企業化調査を始め、2019年に着工、2021年末までに開通予定という。


 現状と課題

 綿密に調査を進めていくと様々な課題が浮上した。減圧した管内の維持に必要なエネルギー、車両へのエネルギーの供給(車載の蓄電池を使用する案があるものの、それでは不十分であることが判明)、減圧下での浮上高の維持、管内の放熱、高速走行時の空気抵抗(管の直径が不十分だと空気抵抗が増すことが判明)等、問題が浮上している。それらの課題の中には空気浮上、空気推進という当初の概念を維持する限り解決の目処の立たないものもある。

 上述の理由により、従来進めてきた空気浮上を放棄してHyperloop Transportation Technologies (HTT)は2016年5月9日、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)との間で、ハイパーループ・システムの浮上方式としてローレンス・リバモア国立研究所のリチャード・ポスト博士により開発されたインダクトラック方式を独占的に使用するライセンス契約を締結したことを発表した。

 リニアモータを推進に使用する場合、トランスラピッドで使用されたような車上集電の不要な地上一次式リニア同期モータが想定される。その場合、軌道の全線に渡りリニアモータの界磁を配置しなければならず、車上一次式リニアモータと比較して建設費が高騰する要因となる。

 チューブに鋼鉄のような磁性体の材料を使用した場合、浮上用の希土類磁石と十分な距離を離さなければ吸引力が生じて浮上に悪影響を与える可能性がある。また、チューブを金属製にした場合、走行時にリニアモータから生じる磁場で管壁に誘導電流が生じて、IH調理器のように発熱する可能性がある。


参考 WIRED: https://wired.jp/2018/01/16/virgin-hyperloop-one/


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