ウナギ、お値段うなぎ登り今年は1匹2580円以上

 時々ウナギが無性に食べたくなる。それもそのはず、栄養学的に見て豊富なタンパク質、100グラムの蒲焼きで2日分が摂れるというビタミンAをはじめ、ビタミンB1、B2、D、E、さらにはカルシウム、鉄分と体に必要な栄養素がこれでもかというほど含まれている優秀な食品。最近の研究では、不飽和脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含んでいることも判明している。

 そのウナギが今年は値上がりしている。稚魚であるシラスウナギが不漁で、専門店が使う生きたウナギの卸値は前年比6割高の1キロあたり5200円と2013年以来、5年ぶりの高値をつけている。専門店で値上げも相次いでおり、年間で最も需要が高まる土用の丑(うし)の日は量販店にも高値が広がりそうだ。

 シラスウナギの漁は4月いっぱいまで。業者は日本や中国、台湾の沿岸に来遊した稚魚をウナギの養殖池に放って成長させる。3月末時点の池入れ量は日本が前年の6割の12トン、東アジア全体でも約18トンと3分の1以下となっている。



 日本では2月までほとんど来遊がなかったが「3月以降まとまってとれた」(水産庁)。前年に26トン池入れした中国は2~3トンと10分の1にとどまる。稚魚の取引価格は不漁が伝わった1月初旬から1キロあたり360万円と前年の3倍に高騰した。「中国や台湾でとれた稚魚も、高値が付く日本に輸出された」(日本鰻輸入組合の森山喬司理事長)という。

 ウナギ相場は不漁が伝わった年始から1カ月間で7割上昇した。仕入れ価格の高騰で3月以降、専門店では1人前あたり300~500円の値上げが相次いでいる。量販店に並ぶ加工済みの冷凍かば焼き相場も、国産が1キロ8500~1万円と前年同時期と比べ4~6割高い。

 今年の土用の丑の日は7月20日。スーパーでは昨年、国産ウナギ1匹をかば焼きにした「長焼き」を1980円前後で売っていた。「今年は安くても2580円以上を検討している店が多い」(築地の卸大手)。食品売り場のかき入れ時だが、今夏は「特売にしにくい」(大手スーパー)との声が出ている。

 2010年に、ウナギの完全養殖に成功はしたが、まだ大量生産できる段階になっていない。となると、稚魚であるシラスウナギの取れ高でその年のウナギの流通量が決まってしまう。近年の漁獲量の低下はなぜ起きているのだろうか?

 今回、海洋研究開発機構と日本大学の研究グループがこのほど発表した論文によると、風によって起きる海流の変化が、シラスウナギの漁獲量の低下に関係があるという発表を行っている。海流の流れる強さや位置が昔と今とで違ってしまい、シラスウナギが日本のほうへ流れにくくなっているという。


 シラスウナギには、いま「逆風」が吹いているのかもしれない

 ニホンウナギ(以下「ウナギ」)は日本でも養殖されているが、これは親に卵を産ませて増やすのではなく、冬から春にかけて黒潮に乗ってやってくる稚魚のシラスウナギを捕獲して育てる。そのシラスウナギが近年、減っている。日本での漁獲量はここ20年ほど、年ごとに大きく変動しながら、年に5~6%のペースで減り続けている。

 その原因として、ウナギが成長する川の環境悪化や乱獲などさまざまな候補が挙げられているが、一番の原因が何なのかは、よく分かっていない。海洋研究開発機構と日本大学の研究グループがこのほど発表した論文によると、風によって起きる海流の変化も、その候補になりそうだ。海流の流れる強さや位置が昔と今とで違ってしまい、シラスウナギが日本のほうへ流れにくくなっているというのだ。

 ウナギは、グアム島の西方、赤道のやや北にある西マリアナ海嶺の海域で産卵する。ここには西に向かう北赤道海流が流れている。この海流はフィリピンの近くで、やがて黒潮につながる北向きの海流と南向きのミンダナオ海流に分かれ、北向きの海流に乗った子ウナギが台湾や日本などに流れてくる。

 研究グループが使ったのは、過去の海流を正確に再現したデータだ。子ウナギが流されるような浅い部分の海流は、おもに海上を吹く風が作る。過去の風などのデータをもとに海の流れを計算し、その過程で海面水温などの実測データを使って結果を修正する。これを繰り返して得た海流データは、過去の実際の海流が再現されていると考えることができる。

 もちろん、北赤道海流や黒潮、ミンダナオ海流も再現されている。この海流データを使い、毎年5~7月に卵からかえった子ウナギがどのように流されて広がっていくかを、1993年から20年分にわたって計算した。

 その結果、産卵数はどの年も一定だと仮定したにもかかわらず、日本の太平洋岸に流れ着くシラスウナギの数は、1年あたり5.5%のペースで減っていった。現実の漁獲量の減少と同じペースだ。1993年からの5年間と2009年からの5年間について海流を比較してみると、北赤道海流の西向きの流れが弱まり、子ウナギが黒潮に乗りにくくなっていた。

 研究グループの海洋研究開発機構アプリケーションラボ・宮澤泰正(みやざわ やすまさ)ラボ所長代理によると、海流の強弱や流れる位置は、海上を吹く地球規模の風に影響される。

 実際に海上の風はここ20年ほど、北赤道海流の流量を減らすように変化しているという。子ウナギを運ぶ海流の動きを妨げる文字通りの「逆風」が吹いているわけではないが、すくなくとも、風はシラスウナギに味方してくれていない。

 では、海上の風はなぜ変化したのか。地球温暖化の影響だという説もあるが、よく分かっていない。したがって、そのうちもとに戻るのかどうかも、分からない。

 今回の研究では、シラスウナギの実際の減少率と計算による減少率がくしくも一致したが、宮澤さんによると、この結果は、海流の変化がシラスウナギ減少の唯一の原因という意味ではないという。

 「年によるシラスウナギの量の変動がこの計算で完全に再現されているわけではなく、たとえばえさの量なども関係しているのかもしれない。ただはっきり言えるのは、最近は、シラスウナギが流れてきにくい海流の状態になっているということです」。そして、黒潮との関係。

 黒潮が日本の南岸をいったん離れて蛇行すると、付近の水温が変わるので、魚の分布に影響する。魚の不漁はしばしば黒潮の蛇行と結び付けて考えられるが、日本まで流れ着くシラスウナギの数は、蛇行とは関係なさそうだという。


ウナギ完全養殖の実験成功から8年、いまだ市場に出回らない理由

 ニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの不漁が続いている。いまから8年前の2010年4月には、独立行政法人「水産総合研究センター」が、ウナギの完全養殖の実験に成功したと発表。「天然資源に依存しないウナギの生産に道を開く」のだと、この成果を「悲願」とまで表現していたのだが、いまだ完全養殖ウナギは市場に出回っていない。実用化に向けた研究は今、どこまで進んでいるのだろうか?

 時間がかかるウナギ完全養殖の研究

 「完全養殖」とは、(1)受精卵を人工的にふ化、(2)仔魚(しぎょ)から稚魚のシラスウナギを経て、成魚のウナギに育成、(3)オスとメスから精子と卵を採取して人工授精、(4)ふたたび受精卵を人工的にふ化、というサイクルを人工飼育で完結させることを意味する。

 現在のウナギ養殖は、天然のシラスウナギを捕獲して養殖場で育てているので、完全養殖ではない。したがって、シラスウナギの漁獲量が減ってしまうと、市場に十分な量を供給できず、ウナギの価格も高くなってしまう。

 同センターの資料によると、日本ではかつて年間漁獲量が200トンを超える年もあったシラスウナギだが、1960年代以降より減少、1987年~2011年は5~27トンで推移している。もし、完全養殖が実現すれば、不安定な天然資源に頼ることなく、いまよりも養殖ウナギを安定的かつ安価に供給できる可能性がある。6年前、ウナギ完全養殖の研究成果が注目された背景には、そうした期待感があった。

 しかし現在、完全養殖のウナギはまだ市場にでまわっていない。一体、どうなっているのだろうか。同センター増養殖研究所資源生産部の桑田博部長は、こう説明する。「6年も経っているのに何をしているのか、とお叱りを受けることもあるが、ウナギの研究は結果が得られるまで時間がかかるのです」。

 同研究所では、シラスウナギを大量に育てる技術の研究に取り組んでいるが、桑田部長によると、ウナギは卵から稚魚に育つまで半年から1年半もかかる。ちなみに、すでに養殖技術が確立されているマダイだと、卵のふ化から大体1~2か月で稚魚に育つという。

 また、ウナギの仔魚(しぎょ:稚魚の前の段階)の飼育にはマダイ養殖などで培った従来技術があまり応用できず、生態にあわせた独自の養殖技術を新たに確立しなければならない。たとえば、ウナギの仔魚を育てる場合は水槽を毎日交換しなければならないが、マダイやヒラメは3週間くらい水槽を変えなくても済む。

 ウナギの仔魚は水槽内に発生する細菌に弱いためだ。エサも、水槽の底に置くなど独特の手法で与えている。桑田部長は「近海魚の養殖は、卵さえとれればマダイとほぼ同じだが、ウナギについては世界のどこにも前例はなくまったく未知の世界」と説明。実用化の時期は、現時点ではわからないという。


 大量のシラスウナギを育てる技術の確立へ

 ウナギ完全養殖の実用化に向けて、同研究所では(1)受精卵、(2)エサ、(3)飼育方法、の3テーマの研究を通じて、シラスウナギを大量に育てる技術の確立に取り組む。「まずはコストがかかろうがとにかく大量に作り、次にコストダウンを図る、というステップで研究を進める方針」と桑田部長。

 このうち、(1)では、大人のウナギを成熟させて、良質な受精卵を産ませるためのホルモン剤を開発。これにより、卵のふ化率が従来に比べて向上したという。

 (2)のエサは現在、絶滅の恐れも指摘されるアブラツノザメの卵を使っていることから、鶏卵や魚粉を用いた代替エサの開発に着手。実際にシラスウナギが食べ、生育するところまでは到達しており、今後はアブラツノザメの卵を使ったエサと同程度の生残率・成長率の実現をめざす。

 (3)では、容量10リットルという小規模な水槽を使って水温やエサの与え方などといった基本的な飼育技術の確立に取り組むほか、大量飼育の実現に向けて同1000リットルの大型水槽の開発も進めている。

 桑田部長は「前例がない分野は、研究でトライアルアンドエラーを重ねても成果に結び付くのはほんの一部。技術開発とはそういうものだが、それでも、いつかは必ずわれわれの手でウナギの完全養殖を実現したい」と力を込める。

 天然シラスウナギの漁獲量が回復するか否かは、現時点で不透明な状況にある。実用化が当分先になろうとも、ウナギ完全養殖の研究動向には、今後も熱い視線と期待が注がれることだろう。(2016/3/9 THE PAGE)


 ウナギの受精卵発見までの歴史

 ウナギの生態は長い間謎となっており、ようやく近年になって産卵場所が日本列島から遠く離れたマリアナ諸島沖の西部北太平洋付近の深海であることが、東京大学海洋研究所や水産庁の調査でほぼ突き止められた。

 従来、ウナギの産卵場所はフィリピン海溝付近の海域とされたが、外洋域の深海ということもあり長年にわたる謎であった。しかし、2006年2月、東京大学海洋研究所の教授・塚本勝巳をはじめとする研究チームが、ニホンウナギの産卵場所がグアム島やマリアナ諸島の西側沖のマリアナ海嶺のスルガ海山付近であることを、ほぼ突き止めた。孵化後2日目の仔魚を多数採集することに成功し、その遺伝子を調べニホンウナギであることが確認されている。冬に産卵するという従来の説は誤りとされ、現在は6~7月の新月の日に一斉に産卵するという説が有力である。

 2008年6月および8月には、水産庁と水産総合研究センターによる調査チームが、同じくマリアナ諸島沖の水深200~350メートルの範囲で、成熟したニホンウナギおよびオオウナギの捕獲に世界で初めて成功した。雄には成熟した精巣が、雌には産卵後と推定される収縮した卵巣が認められた。また、水深100~150メートルの範囲で、孵化後2~3日経過したと思われる仔魚(プレレプトケファルス)26匹も採集された。さらに、プレレプトケファルスが生息する層の水温が、摂氏26.5~28度であることを初めて確認した。この結果から、比較的浅いスルガ海山の山頂付近ではなく、もう少し深い中層を遊泳しながら産卵をしているという推定を得ることができた。

 この推定を基に、塚本らの研究チームが周辺海域をさらに調査したところ、2009年5月22日未明、マリアナ海嶺の南端近くの水深約160メートル、水温が摂氏約26度の海域で、直径約1.6ミリメートルの受精卵とみられるものを発見。遺伝子解析の結果、ウナギの天然卵31個を確認した。天然卵の採集は世界初である。同時に、卵は水深約200メートルで産まれ、約30時間かけてこの深さまで上がりながら孵化することも判明した。(Wikipedia)

 ウナギの養殖はまず、天然のシラスウナギを捕ることから始まる。黒潮に乗って日本沿岸にたどり着いたウナギの子供、シラスウナギを大量に漁獲してこれを育てるのである。養殖方法は、台湾と中国南部の広東省では池を掘っただけの露地養殖、日本と中国の福建省ではビニールハウスを利用した養殖が主流である。ハウス養殖は、ボイラーを焚いて水温を約30℃に保っており、成長を早めることができる。

 なお、ウナギの人工孵化は1973年に北海道大学において初めて成功し、2003年には三重県の水産総合研究センター養殖研究所が完全養殖に世界で初めて成功したと発表した。しかし人工孵化と孵化直後養殖技術はいまだ莫大な費用がかかり、成功率も低いため研究中で、養殖種苗となるシラスウナギを海岸で捕獲し、成魚になるまで養殖する方法しか商業的には実現していない。

 自然界における個体数の減少、稚魚の減少にも直接つながっており、養殖産業自身も打撃を受けつつある。そうした中での2010年、水産総合研究センターが人工孵化したウナギを親ウナギに成長させ、さらに次の世代の稚魚を誕生させるという「完全養殖」に世界で初めて成功したと発表。25万個余りの卵が生まれ、このうち75%が孵化したと報じており、先に述べた稚魚の漁獲高減少もあって、期待を集めている。(Wikipedia)


参考 サイエンスポータル: http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/04/20180420_01.html


うなぎ・謎の生物 (水産総合研究センター叢書)
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築地書館
うなぎ 一億年の謎を追う (科学ノンフィクション)
クリエーター情報なし
学研教育出版

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