熱力学とは何か?

 熱力学(thermodynamics)とは、物理学の一分野で、熱現象を物質の巨視的性質から扱う学問。アボガドロ定数個程度の分子から成る物質の巨視的な性質を巨視的な物理量(エネルギー、温度、エントロピー、圧力、体積、物質量または分子数、化学ポテンシャルなど)を用いて記述する。

 1842年、熱をエネルギーの一形態と考えエネルギー保存の法則(つまり熱力学第一法則)をはじめて提唱したのはマイヤーであった。それ以前、熱は物質と考えられていた。そして、ほぼ同時期にジュールが行った実験などから、トムソンらと共同して熱力学第一法則は明らかにされた。

 熱は物質でないことがわかり、エネルギーの1つとして定義された。その熱エネルギーの性質を表したのが、熱力学第二法則である。一言でいうと「エントロピー増大の原理」といえる。熱エネルギーは外から仕事を加えない限り、熱いものから冷たいものへと移っていく。また、すべてのエネルギーは最終的には熱エネルギーになってしまう。



 熱力学の第2法則は「エントロピーは徐々に増大する」という法則である。エントロピーとは乱雑さのこと。例えば水は高いところから低いところに流れるように、エネルギーも高い状態から徐々に均一化してエネルギーの低い状態に変化することをいう。

 熱エネルギーとは分子・原子が無秩序に運動するエネルギーのことである。無秩序であるが故に利用効率が悪い。だから熱も無秩序に広がっていく。このことを「エントロピー増大」という。

 こうして考えると分子・原子の運動は絶対零度、すなわち温度がない状態でストップする。これを熱力学第三法則という。絶対零度でエントロピーはゼロになる。しかし、現実的には、絶対零度には到達することができない。


 熱力学の法則とは?

 こうした先人達の努力により、熱がエネルギーであることが知られるようになって、熱力学が発展する。熱力学は次の4つの法則にまとめられている。

 熱力学第零法則  物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならば、AとCも熱平衡にある。

 熱力学第一法則(エネルギー保存則)  閉鎖された空間では外部との物質や熱、仕事のやり取りがない限り、エネルギーの総量に変化はない。

 熱力学第二法則  熱エネルギーを完全に他の種類のエネルギーに変換することは不可能である。つまり、どんなエネルギーも最終的には熱エネルギーに変換される。熱エネルギーはエントロピーの増大とともに、再利用が不可能になる。

 熱力学第三法則  絶対零度でエントロピーはゼロになる。(ネルンスト・プランクの原理)

 そして、熱力学の第四法則と呼ばれることがあるのが「オンサーガの相反定理」で、熱や物質が平衡状態を目指す際、熱に関する「流れ」と「力」の不可逆的関係に関する定理を発表し、1968年のノーベル化学賞を受賞した。


 ラルス・オンサーガー

 ラルス・オンサーガー(Lars Onsager, 1903年11月27日 - 1976年10月5日)はノルウェーオスロ出身のアメリカで活動した物理学者である。

 不可逆過程の熱力学の研究により1968年にノーベル化学賞を受賞した。受賞理由は「オンサーガーの相反定理の発見、不可逆過程の熱力学への貢献」である。

 ノルウェー工科大学卒業。チューリッヒ工科大学を経て、1928年ブラウン大学の教職員となった。1933年よりイェール大学の化学科の助教授、1940年には同大学準教授、1945年から1973年までイェール大学の教授を務めた。

 1931年にオンサーガーの相反定理を発見し、熱力学第二法則の発展形である「不可逆過程の熱力学」を首尾一貫した理論体系に整備する道を拓いた。また1944年に2次元イジング模型の厳密解を導き、相転移現象の研究に一大転機を与えた。

 1953年には、国際理論物理学会で来日した。


 オンサーガの「極限法則」

 オンサーガはクリスチャニアという(現在のオスロ)で法律家の息子として生まれた。1925年にノルウェー第3の都市トロンハイムにあるノルウェー科学技術大学を卒業した。この年、電解液の中のイオンの相互作用を解析するデバイ・ヒュッケルの式の捕捉理論を完成させる。

 1925年デバイとE.ヒュッケルの電解質の新しい理論に対して反論し、これがきっかけとなり研究助手の地位を提供された。

 電解質の新しい理論とは、溶解したイオンの静電場は周囲にある反対電荷のイオンによって有効に遮蔽されるという考えに基づいたものだったが、希薄溶液中の任意のイオンに対して、活量係数を計算すると伝導度に対する計算値は実際値とかなり異なった。

 そこで彼はデバイが一つの特定イオンはすべての他のイオンがブラウン運動している間に一様に直線運動していると考えるべきであると仮定したのを、この拘束は解除するべきであるということを示した。その結果はオンサーガの極限法則として知られ、計算値は実際値と一致するようになった。


 オンサーガの相反定理

 ブラウン大学にいた1931年、オンサーガの相反定理を発見する。彼はL.ボルツマンの熱平衡の本質は統計学的であり、ゆらぎの統計はエントロピーによって決められるという原理をもとに、一組の方程式を導き、オンサーガの相反定理として発表した。

 温度差があるときは熱は高温部から低音部へ、圧力差があるときは高圧部から低圧部へ物質が流れる。

 温度差と圧力差の両方があるときは、圧力差が熱の流れを、温度差が物質の流れを生み出し、平衡を目指す両者の流れは等しくなる。

 この熱や物質が平衡状態を目指す際、熱に関する「流れ」と「力」の不可逆的関係に関するこの定理が「オンサーガの相反定理」であり、これを見出したことがノーベル賞授賞研究になった。これは、熱力学の第四法則と呼ばれることもある。

 彼はこの考えを1930年代に発表したが、実験的に確証されたのは1960年代になってからである。1968年になりようやく不可逆過程の業績によりノーベル化学賞を授与された。

 彼は渡米し、ジョンズ・ホプキンス大学、ブラウン大学を経てエール大学へ。1945年には同大学の教授になり、アメリカ市民権を獲得した。


参考 Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/ラルス・オンサーガー

不可逆過程の物理―日本統計物理学史から (数理物理シリーズ)
クリエーター情報なし
日本評論社
オンサーガーの不可逆過程の熱力学
クリエーター情報なし
太陽書房

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