恐竜絶滅、なぜ鳥だけが生き延びた?

 ここ数年、鳥類の進化を解明する手がかりになるような発見が続いている。米国のニューメキシコ州では最近、原始的なネズミドリの化石が断片ながら見つかった。6200万年前のものと推定されるこの化石は現在のところ、大量絶滅後に生息していた鳥類のうち、最も古い部類に属する。このほか、ニュージーランドでは6100万年前の太古のペンギンの化石が最近見つかったが、同時代のほかのペンギンとは異なる外見をしていたと考えられる。

 こうした化石のすべてが、最新の遺伝子解析で明らかになった進化の道筋と一致しているようだ。

 「数千万年に及ぶ進化の結果、前肢を羽ばたかせて空を飛ぶ小型の恐竜が誕生しました。その後、小惑星が衝突した際、そうした体の構造が実に好都合だとわかったのです」と、英エディンバラ大学の古生物学者スティーブン・ブルサティは語る。「こうした鳥の一部が大量絶滅を生き延び、ほかの動物がほとんどいなくなった地球で繁栄することになりました」



 しかしまだ、より難解な謎が残っている。なぜ、現在の鳥類の祖先だけが生き延びたのかということだ。その理由に関しては、さまざまな説が唱えられている。

 バース大学のダニエル・フィールドと彼の同僚たちは、森林の大規模な消滅が関係しているのではないかと考えている。白亜紀末の地球は現在よりも温暖で湿潤だった。生い茂った森には、さまざまな種類の初期の鳥たちが生息していて、現生の鳥と似たものも多かったと考えられる。

 繁殖能力の高さが鍵を握ったとする説もある。2017年、米フロリダ州立大学のグレゴリー・エリクソンが率いる研究チームは、非鳥類型の恐竜は卵を抱いて孵化させるのに数カ月かかっていたとする証拠を示した。一方、現生鳥類の多くは一般に繁殖頻度が高く、数日から数週間という短期間で孵化するので、小惑星衝突後の過酷な状況を生き抜くことができた可能性がある。


 進む全鳥類の遺伝子解析

 世界各地で、研究者たちは鳥類の進化の謎に挑んでいる。南米やニュージーランド、南極で進行中の発掘調査から、新たな発見が近々もたらされると期待されている。さらに今後数年のうちに、より詳細で豊富な遺伝情報が得られることになりそうだ。

 中国広東省の深センにある国家遺伝子バンクでは、従来よりも高速で精度の高い技術を駆使して、2020年までに1万種を超す現生鳥類すべての全遺伝子のドラフト配列(おおよその配列)を解明する取り組みを進めている。このプロジェクトの成果を応用すれば、化石となった太古の鳥の特徴と現生の鳥の特徴を照合できるようになるはずだ。

 ある種の鳥だけが絶滅を免れたのは、それに適した条件をいくつも備えていたからだと考えるのが、生き残りの謎に対する最も妥当な答えといえそうだ。だからこそ、これからも証拠を積み上げ、新たな説を次々と検証していくことが大切なのだ。

 「私たちが取り組んでいるのは、6000万年以上も時間をさかのぼり、地球規模で起きた極めて複雑な出来事を解明することなのです」とフィールドは話す。それでも「相互に関連するこうした疑問を詳細に研究することによって、地球史上でも最大規模の深刻な大量絶滅を生き延びた鳥という生き物に対して、少しずつ理解が深まっています」


 恐竜絶滅後、生き残った鳥類と哺乳類

 およそ6500万年前、なぜ恐竜だけが絶滅したか?

 まず、ここに大きなイメージとしての間違いがある。単弓類(哺乳類の近縁脊椎動物)だってほとんどが絶滅してる。

 もちろん、鳥や哺乳類に分類されているものも多くがというよりほとんどが絶滅している。だから、哺乳類も恐竜もほとんど絶滅してしまった。

 ごく一部生き残ったものの子孫が今の哺乳類であり鳥類である...。というのが、より公平な見方だろう。0.01%が生き残る(99.99%が死ぬ)事件が起きたとき、全個体数が1万以下ならほぼ確実に絶滅し、100万以下でもたぶん絶滅する(種の維持には100頭の集団では小さい)。

 現在の地球上に目立つ大きさの動物で100万頭以上の生息数がある生き物は多くない。もちろん白亜期末でも恐竜のような大きな動物は個体数が少なかった。

 ようする鳥類と哺乳類も偶然小型種のごく一部が生き残っただけだろう。たぶん、いわゆる地上性の恐竜には個体数が稼げるある程度以下の小型種が居なかった。(そのニッチはおそらく哺乳類やトカゲなどが占めていた)

 現にニワトリクラスが見つかっている最低の大きさの恐竜です。恐竜の生存時点でも、数の上では哺乳類や鳥類はいわゆる恐竜よりもずっと多くなっていたとされている。つまり、哺乳類や鳥類が生き残った真の要因は事件時点での「絶対数」。あんまりダメージ受けていない大型の脊椎動物はリクガメぐらい。ワニも大ダメージを被っている。

 カメ以外の(個体数の少ない)大型陸性脊椎動物はほぼ例外なく全滅した。ゾウやトラは絶滅してもネズミはなかなか絶滅しない。絶対数が違うからだ。余談だが、昆虫は化石で明確にわかるほどのダメージを被っていない。少なくとも大きな分類群ごと絶滅したりはしてない。昆虫の数は当たり前だが小型哺乳類や鳥類の比ではないからだ。


 鳥類進化の証「気嚢」というシステム

 鳥類の祖先をたどってみよう。鳥類の祖先をたどることが、恐竜の進化につながるから、私たちの祖先の生活にも深くかかわってくる。

 鳥類の最大の特徴は空を飛ぶ能力だ。鳥類は、空を飛ぶことによって独自の生態的地位を築いて繁栄し、種数は哺乳類の2倍にも達する。また、哺乳類と同様に体温が代謝熱で維持される内温性を獲得し、自律的に体温を制御できる(恒温性)。このため体温が外部環境によって決まる外温性動物よりも広範囲の環境に適応でき、外温性の爬虫類が住めない極地にも進出している。

 鳥類にはさらに哺乳類よりもすぐれた点がある。それは気嚢(きのう)を使った呼吸システムだ。

 青海チベット高原ココシリの6月、標高およそ4,500mにて。 冬をインドで過ごした彼らは、春になるとヒマラヤの標高1万m近くの上空を飛んで青海チベット高原にやってきてそこで繁殖する。秋になると彼らは再びヒマラヤを越えてインドに戻る。

 冬をインドで過ごした彼らは、春になるとヒマラヤの標高1万メートルの上空を飛んで青海チベット高原にやってきて繁殖する。秋になると彼らは再びヒマラヤを越えてインドに戻る。

 このような往復の途中彼らは標高8,848メートルのチョモランマ(エベレスト)よりもさらに何百メートルも上の空気の薄いところを飛ぶ。人は4,500メートルあたりでさえも、高山病に悩まされるし、チョモランマの頂上まで酸素ボンベなしで登れる人はまれだ。ところがインドガンはそれよりも高いところを平気で飛べる。それを可能にしているのが「気嚢」である。


 実は効率が悪い哺乳類の肺

 私たち哺乳類は、先が行き止まりになった袋状の肺に空気を取り込んだあと、それを吐き出します。肺が膨らんだり縮んだりすることによって、空気が肺を出入りします。その際に肺を流れる血液は運んできた二酸化炭素を酸素と交換します。しかし、これでは吸い込んだ新鮮な空気が肺のなかの古い空気と混ざってしまいます。この点で哺乳類の呼吸システムは効率がよくない。

 一方、鳥類では肺の前部と後部に気嚢という付属器官がつながっています。新鮮な空気はまず後気嚢に取り込まれます(吸気)。後気嚢から新鮮な空気が肺に供給されると、肺のなかの空気が前気嚢に押し出されます(排気)。

 こうした貫流式の換気法だと、肺には常に新鮮な空気が留まります。鳥類にはこのような気嚢があって、効率的な呼吸が可能になっている。古生物学者のピーター・ウォードは、このようなシステムは大気の酸素濃度が減少した時代に鳥類の祖先が進化させたと考えている。


 酸素濃度の進化への影響

 2億年前頃、大気の酸素濃度が非常に減少しました。それより前の三畳紀前期には哺乳類型爬虫類という僕たち哺乳類の祖先にあたる動物が栄えていた。

 ところが、三畳紀が進むにつれて次第に哺乳類型爬虫類の勢力が衰え、代わりに恐竜が栄えるようになってきた。実はその間、地球大気の酸素濃度が次第に低くなってきた。2億年前のジュラ紀が始まる頃に酸素濃度は極小になる。

 リストロサウルスなどの哺乳類型爬虫類が、一番栄えていたのは三畳紀よりも前の古生代ペルム紀でした。今からおよそ2億9,900万年前~2億5,100万年前で、地球の歴史上最も酸素濃度が高かった頃である。つまり、哺乳類型爬虫類は高酸素濃度に適応した動物だった。ところが三畳紀を通じて大気中の酸素濃度が減少し、彼らにとって住みにくい環境になってきた。

 なぜペルム紀で大気中の酸素濃度が極大になり、ジュラ紀で極小になったのだろうか?

 それを説明するにはペルム紀の前の石炭紀にまでさかのぼらなければならない。石炭紀はその名のとおり、陸上にはヒカゲノカズラ、木生シダ、トクサ、ソテツシダなど巨大な樹木が生い茂り、それが枯れて地中に蓄積し石炭になった。


 進化していなかった菌類

 現在でもたくさんの樹木が生えているが、1億年後に文明をもった生物が現れたとしても、それが石炭として掘り出されることはない。なぜなら、現在の地球上にはたくさんの菌類が進化していて、枯れた樹木を分解してしまうからだ。それによって物質循環が起っているが、石炭紀やペルム紀の時代にはまだそのような菌類が十分に進化していなかった。

 木材にはリグニンという化学物質が含まれていますが、これを分解できる能力は菌類の子嚢菌の一部と坦子菌で、随分あとの時代に進化した。そのために、当時の枯れた木材は分解されることなく地中に蓄積して石炭になった。

 植物は光合成する際に二酸化炭素を消費して酸素を出すが、枯れた樹木が分解されるときには逆に酸素を消費して二酸化炭素が放出される。木材が分解されずに地中に蓄えられるということは、大気中の酸素が消費されずにたまり続けるということ。こうして石炭紀とペルム紀を通じて膨大な量の木材が地中に蓄積し、大気中の酸素濃度は上昇を続けた。

 ペルム紀初期には酸素濃度は35%にも達したが、現在は21%だから、その1.7倍ほどだったことになる。その頃が哺乳類の祖先にあたる哺乳類型爬虫類の全盛時代だった。


 植物が二酸化炭素が吸収し、地球は寒冷化した

 酸素濃度が上昇すると逆に二酸化炭素濃度は減少する。炭素が地中に蓄積して大気中に戻ってこないから。二酸化炭素は温室効果ガスとして知られているが、これが減少したことによって地球の温度が下がり、大規模な氷河が形成された。

 二酸化炭素濃度が低くなるということは、植物にとっては光合成の材料がなくなるということだから、気温の低下も追い打ちとなって、多くの植物が絶滅した。このように植物のバイオマスが少なくなり、酸素量も次第に減少した。

 石炭紀とペルム紀を通じて大量の木材が蓄積したが、そのことがリグニンを分解し、酸素を消費して二酸化炭素を放出する菌類の進化を誘発したと考えられる。ペルム紀初期には35%にも達していた酸素濃度が三畳紀を通じて減少し、ジュラ紀が終わる2億年前には12%になる。

 現在の半分近い酸素濃度だから、高酸素濃度の大気に適応していた哺乳類型爬虫類にとってはとても厳しい時代だった。彼らの大部分はこの頃までに絶滅した。


 なぜ恐竜は繁栄したのか?

 三畳紀後期からジュラ紀にかけて衰退した哺乳類型爬虫類に代わって陸地を支配したのが恐竜。それではなぜ恐竜が繁栄できたのだろうか?

 前出のウォードによると、それが現在の鳥類がもっている気嚢だという。酸素濃度が減少した三畳紀に恐竜が気嚢を用いた効率のよい呼吸システムを進化させた。

 三畳紀後期からジュラ紀に恐竜で気嚢が進化したと考えられる。この仲間の恐竜は獣脚類と呼ばれる。初期の獣脚類恐竜の前足(手)は5本指だが、その後、獣脚類恐竜の指の数は次第に減っていき、白亜紀のティラノサウルスでは2本だけになってしまう。

 恐竜には「竜盤目」と「鳥盤目」という2つのグループがあったが、気嚢が両方のグループで進化したのかどうかは分からない。でも少なくとも鳥類の祖先であった竜盤目では気嚢が進化した。気嚢そのものは化石としては残らないので直接確認できないのだが、鳥類において気嚢を入れる空洞を形成する骨の形状が、竜盤目恐竜の骨にも見られる。


 時代に適応した鳥類

 2億年前から始まるジュラ紀から6,600万年前に幕を閉じる白亜紀までの長い期間、恐竜は陸上の支配者としての地位を占め続けたのだが、恐竜が哺乳類型爬虫類にとって代わることを可能にしたのが気嚢だった。酸素濃度はジュラ紀前期まで低く、ジュラ紀後期から白亜紀を通じて次第に増加する。

 気嚢をもった竜盤目恐竜から、現在確認されている中で最古の鳥類である始祖鳥が進化した。始祖鳥は、ジュラ紀後期の約1億5,000万年前に生きていた。また中国では白亜紀初期の1億3,100万年前頃に孔子鳥という長い尾羽をもった鳥がいた。

 始祖鳥と孔子鳥はどちらも、現在の鳥のように自由に空を飛ぶことはできなかったと考えられている。その頃の空の支配者は空飛ぶ爬虫類と称される「翼竜」だった。

 しかし白亜紀の後期になると翼竜の多くがすがたを消し、6,600万年前に最終的に絶滅して、鳥類全盛の時代を迎える。鳥類の特徴は羽毛をもっていることですが、最近多くの恐竜が羽毛をもっていたことが分かってきた。

 羽毛はもともと体温を保つために進化したと考えられるが、鳥類はこれを使って空を飛べるようになった。生物進化において、このように転用された形質の元の機能を「前適応」と言う。生物は、ありあわせのものを最大限有効に使うように進化している。


参考 National Geographic news:natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/050100197/


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空を飛ばない鳥たち: 泳ぐペンギン、走るダチョウ 翼のかわりになにが進化したのか? (子供の科学★サイエンスブックス)
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