蛍光発光生物

 生物発光は、生物が光を生成し放射する現象である。化学的エネルギーを光エネルギーに変換する化学反応の結果として発生する。ケミルミネセンスのうち生物によるものを指す。生物発光はほとんどの場合、アデノシン三リン酸(ATP)が関係する。この化学反応は、細胞内・細胞外のどちらでも起こりうる。

 生物発光はルミネセンスの一種で「冷たい発光」とも言われ、放射する光の20%以下しか熱放射を起こさない。 生物発光を蛍光や燐光、光の反射とは異なる。発光は暗黒条件下で生物のエネルギーによって光を放つものである。たとえばヒカリモやヒカリゴケは反射光を強く放つものであり、発光ではない。

 2008年のノーベル化学賞の受賞対象となった緑色蛍光タンパク質(GFP, Green Fluorescent Protein)は、1960年代に下村脩博士によってオワンクラゲから発見された。このタンパク質は蛍光であり、発光ではない。



 最近ではクラゲだけでなく、カエル、ウナギ、サンゴ、サメ、サソリなどの多くの生物が蛍光を発することが分かってきた。その多くが蛍光タンパク質によるものである。

 今回、英ノッティンガム大学の研究生、ジェイミー・ダニング氏が研究室でブラックライトのスイッチを入れると、パフィン(ニシツノメドリ)のくちばしがクリスマスツリーのネオンのように輝きはじめたのを発見した。ダニング氏は、鳥の遺伝について研究している。


 光るパフィンを発見、紫外線でくちばし輝く

 研究の一環で、死んだパフィンを調べていたとき、ダニング氏は同僚のある言葉を思い出した。エトロフウミスズメの羽に紫外線を当てると、光って見えるというのだ。

 パフィンとウミスズメは近縁種だ。ダニング氏はそのことを思い出し、パフィンにブラックライトを当てたのだ。くちばしが蛍光に輝くのを見て、「とても興奮しました」とダニング氏は振り返る。「なにしろ、まだ発表されていないことでしたから」

 体表面に青い光などがあたると違う色の光を放出する能力を「生物蛍光」という。たいてい緑、赤、オレンジ色に光る。生物蛍光は、生物自身が化学反応によって発光したり、発光する微生物を寄生させて光ったりする「生物発光」とは別物だ。

 現在、蛍光生物は180種類以上が報告されている。その多くは、サメやサンゴなどの海洋生物だ。今回の発見でパフィンが新たに加わったことになる。

 かつて、米ニューヨーク市の自然史博物館の魚類担当のジョン・スパークス氏は、蛍光に光る海洋生物が多いことから「生物は、人間には見えない方法で光を何かの目的で使っていることがわかります」とインタビューで述べたことがある。


 パフィンのサングラス

 ダニング氏は、この発見を論文にまとめることにした。ダニング氏に注目したのが、カナダのニューブランズウィック大学の鳥類学者トニー・ダイアモンド氏だった。

 ダイアモンド氏は、数年前に死んだパフィンが蛍光に光ることを観察していたが、発表しようとは考えなかった。そこでダイアモンド氏は、当時のデータをダニング氏の新発見と合わせて発表できないか申し入れた。2羽の死んだパフィン(1羽は英国、もう1羽はカナダ)の蛍光についての論文は、現在科学誌の査読段階で、まだ正式には公表されていない。

 死んだ2羽のパフィンで、蛍光が確認されたのはくちばしの部分だった。

 現在、研究チームは、生きたパフィンのくちばしも蛍光を放つのかを確かめようとしている。しかし、手当たり次第に紫外線を当てればいいという話ではない。目を傷つけてしまう可能性があるからだ。

 そこでダニング氏は、ロンドン大学ゴールドスミス校の専門家たちに声をかけ、パフィンの目を保護するものを作ってもらうことにした。「電話をかけてパフィンのサングラスを作ってもらうことになるなんて、想像もしませんでした」とダニング氏は言う。

 カスタムメイドのサングラスをつけたパフィン。

 現在、ゴールドスミスのチームは、パフィン用の黄色く柔らかいサングラスの設計と開発を行っている。夏には、ダニング氏が実際にそれを使って実験を行う予定だ。それまで、パフィンのくちばしが蛍光(オレンジ色)に輝く理由は謎のままということになる。


 魚の目から見た世界

 ところで、海における光の重要性というテーマは、あまり注目されることがない。前述のとおり、スパークス氏も述べているが、海全体で考えれば、太陽の光が届くのはごくわずか。 だから、暗い海に暮らす生物の中には、自ら光ってコミュニケーションをとるものもいる。

 米ニューヨーク市立大学の海洋分子生物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるデビッド・グルーバー氏は、以前のインタビューで、「私たちは、生物が光を使う世界に注目し始めたばかりで、まだ謎だらけです」と述べた。

 グルーバー氏の研究グループは、ハイパースペクトルカメラを使って水中の生物の目に映る景色をとらえようとしている。「私たちの目では、ほかの生物たちの世界で実際に起きていることを見逃してしまいますからね」

 夏の夜、米国テネシー州では繰り広げられる光の乱舞が見られる。体を光らせて飛び回るのは、交尾の相手にアピールするホタルたちだ。蛍光に光る生物は多いが、パフィンもその一種であることがわかった。果たしてその目的は何であろうか。


 パフィン(ニシツメドリ)とは何か?

 ニシツノメドリ(西角目鳥、学名 Fratercula arctica)は、チドリ目ウミスズメ科に分類される鳥類。北大西洋と北極海に分布する派手な外見の鳥である。英名は Atlantic Puffin だが、一般には単に Puffin と呼ばれる。

 ヨーロッパ北部、フェロー諸島、アイスランド、および北アメリカ北東部など、北極圏からフランス北部、アメリカのメイン州に至る沿岸部で繁殖する。

 冬季の数か月は、陸から離れた海上ですごし、ヨーロッパではビスケー湾から、モロッコ、地中海西部まで、北アメリカではメリーランド、ノースカロライナまで南下するものもある。

 3亜種に分けられる。体長は30cmほどで (28-34cm) 、ドバトより少し小さい。翼開長56cm (50-60cm) 。体重380g。太くて派手なくちばしが特徴で、縦に平たくて数本の溝があり、先から赤、黄、青灰色にいろどられている。胸から腹および下尾筒は白く、腹や顔以外の羽毛は黒い。尾羽は短い。虹彩は青みのある黒色で、目の周りに赤い環がある。足は橙色から赤色。

 冬羽(9-2月)では顔が灰色でくちばしもくすんだ色だが、夏羽(3-8月)ではくちばしの色が鮮やかになり、顔が白くなる。また、目の上と後ろに黒くて細い模様ができ、名前のとおり目から角が生えたようになる。雌雄同色。幼鳥の顔は暗色で、くちばしは灰色みを帯びて嘴先には赤みがあるが、小さくて、4-5年で完全に大きくなる。

 非繁殖期は外洋で過ごす。くちばしから油を排出し体中に付着させることにより水分を弾いている。短い翼をたくみに使って潜水し、おもに魚類(特にイカナゴ、スプラットイワシ 〈Sprattus〉、ニシン、カラフトシシャモ)を捕食する。水深50m以上まで潜ることができる。くちばしの縁は鋭いギザギザで、くわえたイカナゴなどの魚を逃がさない。飛翔時の翼動は速い。

 3月中旬以降、繁殖期には海に面した断崖の上の地面に集団で営巣し、通常70-110cmの浅い巣穴を掘って草や羽毛を敷く。春季に雌雄が求愛行動を行い、互いにくちばしをたたき合う。卵は5-7月にみられ、5月中旬に1個の卵を産み、雌雄が36-43日間抱卵する。卵の大きさは6.3 × 4.4cmで、重さは64g。

 雛(ひな)が孵化すると親鳥は海で採餌し、くちばしに魚を多数ぶらさげて巣に戻ってくるようになる。一度に多数の魚をくわえられるわけは、とらえた魚を上のくちばしと舌ではさみ、上のくちばしと下のくちばしでさらに魚をとらえることができるからである。雛は巣立つまで38-44日かかるが、7-8月になると親鳥は雛を残して渡去する。

 5年で成鳥として繁殖するようになり、一般的な寿命は18年とされるが、最長33年以上生き、35年11か月13日(2010年)の生存例もある。アイスランドでは狩猟の対象となっており、アイスランド料理では肉を使ったジビエ(狩猟料理)がある。


参考 National Geographic news: 


光る遺伝子 オワンクラゲと緑色蛍光タンパク質GFP
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丸善
バイオ・ケミルミネセンスハンドブック
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丸善