深海サンゴと造礁サンゴ

 サンゴ(珊瑚)は、刺胞動物門に属する動物のうち、固い骨格を発達させるものである。宝石になるものや、サンゴ礁を形成するものなどがある。

 腔腸動物花虫綱六放サンゴ亜綱のイシサンゴ目に属する種類が大部分で、そのほかに八放サンゴ亜綱に含まれるクダサンゴやアオサンゴ、さらにヒドロ虫綱のイタミレポラなども含まれる。

 サンゴ礁を形成する造礁サンゴにはトゲサンゴ科のハナヤサイサンゴ、ショウガサンゴ、トゲサンゴなど、ミドリイシ科のミドリイシ、アナサンゴ、コモンサンゴなど、そしてハマサンゴ科のハマサンゴ、ハナガササンゴ、アワサンゴなどがあり、もっとも造礁サンゴが豊富な南洋群島やオーストラリアの大堡礁(グレート・バリア・リーフ)などでは500種くらいはあろうとされている。



 これに対して宝石になるサンゴ類はほぼ例外なく深海産である。といっても数千メートルともなるような深さではなく、せいぜい数百メートルから千メートルくらいの「浅い深海」に生息している。

 ちなみに、日本でよく知られているアカサンゴやモモイロサンゴは相模湾以南の水深200~300mから記録されている。また、宝石に加工される骨格は白からピンク、赤など美しい色を呈し、非常に硬くて緻密であり、太い根元の部分は簡単に折れることはない。

 緻密な骨格を作るため成長は非常に遅く、枝の伸びる速さはアカサンゴで2~6㎜/年程度と言われている。こんなに硬い骨格を作るが、柔らかいソフトコーラルに近い仲間である。

 浅いサンゴ礁にすむサンゴ「造礁サンゴ」は主に六放サンゴ亜綱イシサンゴ目に属する種類で構成されている。体内に褐虫藻と呼ばれる微細藻類を共生させるのも特徴で、やはり硬い骨格を持ちますが、ほぼ白色の中がスカスカの泡状構造で研磨しても光沢は出ない。それどころかぼろぼろと崩れてしまう場合もある。

 そのため成長は速く、枝状のミドリイシ類など速いものでは15~20㎝/年で枝が伸びていく。宝石サンゴ類とは遠い親戚で、むしろイソギンチャクに近い仲間である。

 造礁サンゴは水温が18〜30℃の暖かい水が大好きで、水が透明で水深は40m未満、チッソやリンなどの栄養が乏しく塩分が高い海水にすんでいる。一方、深海に生息する宝石サンゴはサンゴ礁のサンゴとは種類が違い、水深100m以上、深いものでは1,000mを超える深海底にすんでいる。

 今回、さらに深い海に生息している深海サンゴが発見された。


深海2300mにサンゴの群体、まさかの発見

 メキシコ湾の水深2300メートルの深海で、サンゴの「秘密の花園」が発見された。米海洋大気局(NOAA)が動画を公表、科学者らもメキシコ湾でこうした群体を見たことがないという。

 サンゴの群体が見つかったのは、調査船オケアノス・エクスプローラーによる23日間の遠征調査でのこと。オケアノスは米政府が出資する唯一の海洋研究船で、調査は2018年4月中旬から行われた。メキシコ湾の深海についてはまだほとんど知られておらず、研究者は無人探査機(ROV)を使うことで、船上にいながら海中を観察できた。

 今回見つかったサンゴは、ウミトサカ目、トクササンゴの仲間。比較的深い海で見られるサンゴで、成長して「森」を作る。しかし、研究者らが驚いたのは、これほど極端に深い場所に、これほど密集したサンゴの群体があったことだ。群体は、フロリダ半島の西岸に近い海底谷のそばで発見された。このサンゴは切り立った崖の側面でも成長でき、うちわのように広げた体で潮の流れを感知したり、食べ物を捕まえたりする。

 また今回の調査では、非常に密集したカイメンも発見した。そこには、クモヒトデやワーム、甲殻類などが生息していた。


 1000年近く生きている?

 このサンゴの「庭園」は、深海の完全な暗闇の中でも、生態系がいかに繁栄できるかを示している。NOAAの推定によると、このサンゴは1000年近く生きている可能性があるそうだ。サンゴがこれほど密集して成長するためには、多くの条件がそろう必要がある。餌となる動物プランクトンや藻類のような小さな生物と、安定した環境が必要だ。

 オケアノスによる今回の調査では、このほかにも、テキサス州とフロリダ州西部に挟まれた海域の、深海魚が生息する領域や、泥火山や難破船がある領域を探査した。NOAAはこれらのデータを収集することで、重要な海域の地図を作成し、自然保護政策を策定するための基礎資料を提供しようとしている。


 深海に眠る希少なサンゴ「日本産宝石サンゴ」の繁殖生態を解明

 2014年7月、沖縄美ら島財団の研究チームは、日本産宝石サンゴ(アカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴ)は雌雄異体であり、幼生でなく卵や精子を海中に放出する繁殖様式であることを初めて確認した。

 繁殖の時期は夏季(5~8月)であることを明らかにした。本研究の成果は、資源の枯渇が危惧される宝石サンゴ類の保全に役立つことが期待される。

 宝石サンゴ類は、国内では沖縄、四国、九州、小笠原諸島周辺の数十mから数百mの深海域に生息している。装飾品やアクセサリーとして珍重され、現在でも、高知県、鹿児島県、沖縄県などで許可制により漁業が行われている。

 成長が非常に遅いため、その資源は枯渇状態にあると言われているが、その生態については解明されておらず、資源保護などの観点からも新たな研究が待たれている。野中チームリーダーらの研究グループは、沖縄の深海生物多様性調査の一環として、宝石サンゴ類の繁殖生態の解明に取り組んだ。

 研究は、琉球列島にて潜水艇で漁獲されたアカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴの枝先部分を標本として譲り受け行った。172標本の組織切片を顕微鏡で観察し、大きさや成長段階、卵や精子の有無などを調べた。

 その結果、宝石サンゴ類は雌雄異体であり、幼生でなく卵や精子を海中に放出する繁殖様式であることを初めて確認した。繁殖の時期は5月から8月の夏季だと推定される。

 また、餌を食べる個体(ポリプ)とは別の場所に卵や精子を蓄えることが解明された。これは、サンゴの仲間では珍しい特徴である。ポリプ内に卵や精子を蓄えると胃袋の部分が圧迫され、その間は餌が食べにくくなることが推察される。造礁サンゴのように共生する褐虫藻を持たず、またエサも少ない深海に生息する宝石サンゴ類は、繁殖時期でも餌を効率よくとるために、このような繁殖方法をとっているものと考察される。

 本研究の成果は、謎の多い宝石サンゴ類の生態解明につながるほか、宝石サンゴ類の資源保護に向けた漁獲ルール策定の基礎的データ等に活用されることが期待される。今後も宝石サンゴ類の保全に関する研究材料として役立てていきたいと考えている。


 宝石サンゴについて

 日本の宝石協会ではサンゴを3月の誕生石としている。結婚35周年を珊瑚婚式ともいう。仏教における七宝の一つ。 サンゴは生息海域が限られ、成長が遅いにもかかわらず現代において宝飾品需要が高まっているため、資源保護が課題となっている。

 古くから珊瑚が珍重され、密輸や乱獲が大きな問題となっている中国の申し入れにより、Paracorallium japonicum (アカサンゴ), Corallium elatius (モモイロサンゴ), Corallium konjoi (シロサンゴ), Corallium secundum (ミッドサンゴ)の四種が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」附属書Ⅲ類に掲載された。

 2008年7月1日より国際輸出の際は、輸出国管理当局が発行する輸出許可書、または原産地証明書等が必要とされている。取引規制の機運はさらに高まっており、2016年のワシントン条約第17回締約国会議(COP17)でサンゴの資源量や貿易状況を議論する場を設ける提案が採択された。2017年の付属委員会で、各国がサンゴの資源管理や流通について2018年夏に報告することが決まった。

 日本では東京都、高知県、沖縄県などで各都県の許可を受けた漁船により年間5t程度のサンゴが採取されている。加工前の宝石サンゴの価格(2017年時点)は1kg100万円以上と2011年比で5割以上高くなっており、出漁船が増える傾向にある。乱獲防止のため採取方法の規制や禁漁期間が設定されているものの、内容は各都県にゆだねられており、日本政府としての統一した規制はない。


 宝石サンゴの歴史

 西洋でも宝石サンゴには長い歴史と様々な関連文化がある。ギリシア神話によると、英雄ペルセウスが怪物メドゥーサの首を掻き切った時、溢れた血からペガサスが、地中海に滴り落ちた血の雫から珊瑚が生まれたとされている。ローマ時代から護符として愛用された。

 12世紀のカスティリヤ王アルフォンソ10世がまとめた『宝石誌』には、「珊瑚は金星と月に結びついた宝石」と書かれている。イタリアの農婦の間の俗信では「持ち主の女性の月経の間は珊瑚の色が褪せる」と考えられていた。伝統的に金星は肉体的な愛を司るヴェヌス、月は妊娠をつかさどるダイアナに結びつく惑星とされている。イタリアでは古くから地中海の珊瑚C. rubrum(ベニサンゴ)を使った工芸が発達し、海にちなむことから船乗りや血のような赤い色から妊婦の厄除けとして珍重されてきた歴史がある。

 赤い珊瑚で角を象った「コルノ」という護符は厄除けとして現在でもよく好まれる。中世の夢判断においては夢に珊瑚が現れると病から回復する予兆であるとされた。

 一方で、珊瑚の色が褪せることは持ち主の健康が脅かされている予兆だと恐れられていた。1584年にイワン雷帝に謁見したサー・ジェローム・ホーシーは、皇帝が美しい珊瑚をホーシーの手に取らせて間違いなく美しい色合いをしていると確認させた後、自分の手に乗せた珊瑚が「棺衣の色」に白く褪せて自分の死を予知している。と言ったと記録している。三年前に癇癪から妊娠中の皇太子妃を蹴り殺し、妻を助けようとした皇太子を撲殺、皇太子妃の身ごもっていた初孫をも殺害しており失意の底にあった皇帝は、ホーシーが謁見して間もない1584年の3月18日に自らの言葉通り発作を起こして死んだ。


 日本サン宝石サンゴの発見

 日本では奈良時代以来、シルクロードを渡ってきた地中海産珊瑚を珍重していた。産地イタリアでは地中海珊瑚は乱獲が原因により絶滅に近い状態に陥り、代替品が求められていた。

 19世紀、土佐沖でシロサンゴが発見されるや否や、インドに駐留していたイタリア商人が中国商人を通じて買い付けイタリアに送った。次いで土佐沖でアカサンゴ、モモイロサンゴが発見されるにいたり、日本が開国を決めるとイタリアの珊瑚商人が自ら買い付けに土佐に乗り込んだ。イタリアの人々は久方ぶりに輝くような赤や桃色の珊瑚を手に取れるようになった。

 日本産珊瑚のうち、日本、中国、台湾で最も人気があるのはアカサンゴで、そのうちでも深みのある赤を市場では血赤珊瑚(アメリカでは「オックスブラッド」ヨーロッパでは「トサ」などの名称で呼ばれることがある)と呼んで最高ランクとされ、台湾や中国の富裕層に人気が高く2国の発展に伴い値段の高騰が激しい。この人気のため日本の海域でアカサンゴが大規模に密漁されている(中国漁船サンゴ密漁問題)。

 モモイロサンゴは桃色の名を冠するものの朱色から桜色まで色調が広くアカサンゴより大型のものが多いので広く使われる。ヨーロッパではアカサンゴより本種が人気。本種も含め透明感のある淡いピンク色のものは市場では天使の肌という意味の「エンジェルスキン」とロマンチックな名で呼ばれるが、日本の流通業界では「ボケ」と呼ばれている。

 一般的に植物のボケの花の色に由来するといわれるが、商売上手のイタリア人が日本人や中国人の仲買人を騙すために「色がぼけていて安価でしか買いとれない」と嘘をついて安く仕入れて大もうけしたという俗説もあり、正確な語源はいまだに不明である。

参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/052100221/