強い力の正体は?

 世界を支配する4つの力というと、重力、電磁力、強い力、弱い力(基本相互作用)である。

 このうち強い力は、基本相互作用の一つである。ハドロン間の相互作用や、原子核内の各核子同士を結合している力(核力)を指す。その名の通り電磁相互作用に比べて約137倍の強さがある。強い力の理解は、歴史的には湯川秀樹による、パイ中間子の交換によって核子に働く核力の説明に始まるが、1970年代前半の量子色力学の成立によって、ゲージ理論として完成した。

 強い力は核力ともいい、原子核をつくる力であるが、陽子、中性子には作用しない。では何に作用するかというと陽子、中性子を構成するクォークに対して作用する。クォークは赤、緑、青のカラーチャージといわれるものをもっていて、それぞれに作用する。



 これは2008年ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎氏が提唱した量子色力学(ゲージ理論)に基づく。クォークは3つ合わさって、陽子や中性子を構成するが、カラーチャージはひとつの粒子の中で、赤、緑、青が必ずセットとなって白になるようになっている。

 つまり単独のクォークは確認されていない。強い力を例えれば、テレビに映った白いTシャツのようなものだという。遠くから見た場合、白に見えるので、目の中の色を感じる錐体細胞は反応しない。でも近づいてみると赤、緑、青のそれぞれの画素が見えてくる。

 強い力は本来遠隔作用を持つものであり、もし画面全体を赤にすることができれば遠くからも強くそれを確認できる。強い力は、その名のとおり4つの力の中で最も力が強い。核分裂、核融合などの原子力エネルギーはこの強い力に基づくものであるが、実際、この強い力のほんの一部しか利用していない。核分裂、核融合が利用するのは、核子同士をつなげている余剰結合力の一部を開放するだけだからである。

 では、強い力の大きさはどのくらいであろうか?おおよその目安であるが、一番弱い力「重力」を1とすると、強い力は10の40乗という大きさになると考えられてきた。


陽子内部の圧力を測定、中心部は中性子星よりも高圧

 今回、米トーマス・ジェファーソン国立加速器施設(ジェファーソンラボ)の研究チームは、陽子内部の圧力分布を測定することに成功したと発表。

 複合粒子である陽子はクォーク3個で構成されているが、陽子の中心部ではクォークに10の35乗Pa(パスカル)という超高圧力がかかっているという。研究論文は科学誌「Nature」に掲載された。

 研究チームによると、陽子の中心部では外側に向かって10の35乗Paの超高圧力が働いており、超高密度天体である中性子星の中心部よりも高い圧力になっている。その一方で、陽子の周縁部にはもっと弱い圧力が内側に向かって働いているという。陽子内部におけるこのような圧力分布は、3個のクォークを結合している強い力によって決まると考えられている。

 今回の圧力測定には、「一般化パートン分布(GPD:generalized parton distributions)」および「陽子の重力子形状因子」という素粒子物理の理論枠組みと既存の観測データが利用されている。

 GPDは、1969年にリチャード・ファインマンが陽子などのハドロン粒子の衝突を解析するために考案したパートン模型におけるパートン(今日クォークやグルーオンと呼ばれている素粒子と同じもの)の分布関数をより精緻にしたものである。

 陽子の重力子形状因子は、仮に重力をプローブとして用いた場合の陽子の力学的構造を表現するために使われる。重力子形状因子の概念は1966年に物理学者Heinz Pagelsが発表したものであるが、近年の理論的研究から重力形状因子をGPDと関連付けることによって、重力プローブの替わりに電磁気力を利用できるようになった。このため、GPDを利用することで、電磁気力プローブによって陽子の内部構造の三次元イメージを得ることができるという。

 今回の研究で用いた電磁気力プローブは、ジェファーソンラボに設置された連続電子ビーム加速器施設(CEBAF:Continuous Electron Beam Accelerator Facility)で作られている。

 電子ビームは原子核に向けて撃ち込まれ、深部仮想コンプトン散乱(DVCS:deeply virtual Compton scattering)と呼ばれる過程によって、陽子内部においてクォークと電磁的に相互作用する。DVCS過程では、電子1個が陽子内部に入り、クォーク1個とのあいだで仮想の光子1個を交換する。この交換によってエネルギーがクォークと陽子に渡されるが、その直後に陽子がエネルギーを別の光子として放出するため、陽子の状態は最初と変わらないまま持続する。

 この過程は、かつてPagelsが仮説上の粒子である重力子ビームを用いた重力プローブを想定して行った計算と類似したものであるという。研究チームは、陽子を出入りするスピン1の光子2個を使うことで、スピン2の重力子1個を用いた場合と同じ結果が得られると説明している。

 よく知られている電磁気力の理論と仮説的な重力理論の類似性を利用することで、陽子内部の圧力分布を測定できるようにしたところに今回の研究の特徴があるといえる。

 研究チームは次の課題として、今回の方法をより精密なデータに適用することによって、分析の不確実性を減らすことを挙げている。また、陽子の内部せん断力や力学的半径など、圧力分布以外の力学的性質についても解明していきたいとしている。


 自然界の4つの力とは何か?

 強い力は、陽子と中性子をもとに原子核を形成する。また、太陽エネルギーを作り出して、地球上の全生物のエネルギーの源となっている。電磁気力は原子、分子を作り、また、虹、雷、オーロラなどの自然現象を起こす。弱い力は不安定な原子核を崩壊させまるが、地熱はまさに地球内部の物質の放射線崩壊によって作り出されたと考えられている。

 重力は渦巻き星雲(M51)などの天体を形作る。強い力から重力まで、力の大きさは40桁も違う。現在、素粒 子の世界では重力は無視できるが、宇宙創成時にはこれら4つの力は同じ大きさであったと考えられている。

 重力

 私たちにとって最も馴染みのある力は重力である。すべての素粒子に引力(万有引力)として働く。他 の力と比べると非常に小さく、通常、素粒子の世界では無視することができる。重力は遮られれることな く無限遠まで働くため、マクロの世界を支配している。地球、太陽、銀河系などの天体の運行を司り、巨大な宇宙の構造を作り出している。また、ビックバンによる宇宙創成直後の超々高エネルギーの素粒子の 世界では、他の力とともに重要になっている。

 電磁気力

 次に馴染み深い力は電磁気力である。電荷や磁気能率を持つすべての素粒子に働く。電磁気力は電気力 と磁気力の2つの力として私たちの身近にあるが、それらが同一のものであることは19世紀には、すでに、 わかっていた。この電磁気力は電子と原子核から原子を作り、また、幾つかの原子から分子を作っている。

 粒子加速器の加速原理ともなる力で、放射光も作り出している。また、エレクトロニクスを始めとして、現代社会では最も有用な力となっている。

 弱い力

 弱い力はひじょうな短距離間でのみ働く。通常、 電磁気力よりもはるかに弱いものだ。すべてのクォ ーク、レプトンに働く。弱い力は原子核を放射崩壊させる。また、中性子、パイ中間子などの粒子も崩壊させる。

 強い力

 カラー荷を持つ素粒子に働く。電磁気力の100倍程の大きさを持つ最も強い力である。そのため、陽子同士の間に働く電気的な斥力に打ち勝って、中性子とともに原子核を作る。ただし、この力は陽子、中性子内部のカラー荷を感ずるくらい互いに十分に重な り合ってやっと働く短距離力である。

 それは、陽子など が赤、青、緑の3種類の『カラー(色)』をそれぞれ持 つ3つのクォークの作る複合粒子で、全体として白色となりカラー荷を持っていないためだ。また、クォークと反クォークから成るパイ中間子などは、そのクォークのカラー荷が反クォークの反カラー荷と打ち消し合い白色となっている。このように直接観測される粒子はすべて、裸のカラー荷を持っていない。


参考 マイナビニュース: https://news.mynavi.jp/article/20180525-636182/


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