金井さんがISSから帰還

 2017年12月から国際宇宙ステーションに長期滞在していた金井宣茂さんたち3人が搭乗したソユーズ宇宙船が6月3日、カザフスタン共和国に着陸した。金井さんは、国際宇宙ステーション(ISS)に約5カ月半(168日)滞在した。

 金井さんは日本人宇宙飛行士としては12人目だが宇宙ステーションでの長期滞在は7人目。滞在中ISSの運用に関わる任務や科学実験などをこなした。 米航空宇宙局(NASA)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、金井さんは日本時間午後3時ごろ、ロシアのアントン・シュカプレロフ飛行士、NASAのスコット・ティングル飛行士と一緒にソユーズ宇宙船に乗り込んだ。

 その後宇宙船は同午後6時すぎにステーションを離脱、大気圏に突入後、パラシュートで草原に着陸した。NASAテレビによると、金井さんは帰還直後にもかかわらずカメラの前で笑顔で手を振り、報道陣の質問に「着陸の様子はジェットコースターみたいだった」などと元気に話していた。



 金井さんは海上自衛隊の医師出身で、今回が初飛行だった。宇宙に長期滞在中、創薬に役立つ可能性があるタンパク質の結晶を作ったり、無重力環境が生物に与える影響を調べるマウスの飼育実験などを行った。

 2月には、日本人飛行士としては4人目となる船外活動を行い、4月には地球から物資を運んできた米国の無人補給機をロボットアームで見事にキャッチした。

 昨年12月17日からの168日間にわたるISS長期滞在を終えた金井さんは、ソユーズから抱え出されながら元気に手を振って笑顔を見せていた。

 金井さんは今後、アメリカ経由で6月中に帰国する。重力に慣れるためのリハビリの様子を公開するほか、7月下旬にはミッションの報告会も行う予定となっている。


金井飛行士帰還 宇宙滞在の成果は?

 国際宇宙ステーションに半年近く滞在した金井宣茂宇宙飛行士が地球に帰還した。

 金井飛行士は期待以上の活躍ぶりだった。同期には、油井飛行士と大西飛行士がいて、宇宙3兄弟と言われるが、すでに宇宙滞在を経験したパイロット出身のお兄さん2人とは違って、医師出身の金井さんは「機器の操作はもともと不慣れ」と話し、事前の訓練でロボットアームの操作がうまくできなかったこともあった。

 ところがふたを開けてみると輸送船をロボットアームで見事にキャッチ。そして兄2人も経験できなかった船外活動をNASAからの指名を受けて行い、ロボットアームを修理。機器の操作は不慣れと言いながらも、作業は順調で予定時間より早く終えた。

 さらに医師の経験を生かし、病気の予防にもつながる実験に力を注ぐなど、活躍ぶり。最も成果を上げたのはマウスの飼育実験。

 高齢になると骨や筋力が弱るが、細胞内の特殊なたんぱく質に、こうした悪影響を抑える効果があるかもしれないことがわかってきた。そこでこのたんぱく質を詳しく調べて予防薬の開発につなげようと、金井さんはたんぱく質があるマウスとないマウスを飼育。

 金井さんは医師らしく手際よくマウスから血液を採り、現在地上の研究者がその解析を行っているところ。金井さんは何事にも慎重で、打ち上げ前には研究者を訪問して実験の意義を確認していたし、船外活動が早くできたのも事前に入念に手順書を読んでいたからで、人一倍の努力家。

 金井さんはリハビリのため今月中旬にも日本に帰国予定。そのとき今回の宇宙飛行の意義についてどう語るのか、注目したい。また金井さんプライベートでは打ち上げ前に宇宙機構の職員と婚約し、帰還後に結婚すると発表していたので、そのあたりも聞いて見たい。(NHK news)


 宇宙を旅したマウス、12匹無事帰還 - 金井宇宙飛行士が給餌

 JAXAは2018年5月24日、2017年12月から約6か月間国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、6月3日にソユーズ宇宙船(53S)にて帰還する金井宇宙飛行士のミッション成果に関する説明会を実施した。

 以前弊誌でも取り上げた小動物飼育ミッションについても説明がなされ、実験に用いた遺伝子欠失マウス(ノックアウトマウス)が全数生存帰還に成功したことが語られた。

 同氏のISS長期滞在のメッセージは、「健康長寿のヒントは、宇宙にある」というもの。もともと医師として働いていた金井氏は、「健康長寿」に関する課題解決型研究へ貢献すべく、ISSにて宇宙における生物のストレスを計測するための小動物飼育、アルツハイマー病や糖尿病の原因となる「アミロイド繊維」形成機構を解明するためのタンパク質結晶合成などといった研究を進めてきた。

 同氏は長期滞在中、数多くのミッションについて作業を担当し、JAXAの利用ミッションでは、29ミッション・134時間(5月20日現在)のタスクを実施しているという。

 金井飛行士が実施したミッションの例。高品質タンパク質結晶生成、小動物飼育、長期宇宙滞在が脳循環調節機能に与える影響の調査……など、医師としての経験が活きるミッションが多い。

 JAXA 有人宇宙技術部門の松本聡インクリメントマネージャは、これまでの金井宇宙飛行士の仕事ぶりについて「事前の準備を入念に行い、わからないことがあれば地上の専門家にタイムリーに質問する。これにより、メリハリの良い効率的な作業を行っている」と語った。

 さらに、「医師としての経験を存分に発揮し、医学実験やマウス飼育に関連した作業では非常に手慣れた様子でタスクをこなしていた。予定の時間を残して作業を終えることもしばしば」ともしており、金井氏の手際の良さを評価している様子が窺えた。


 遺伝子欠失マウス、宇宙より無事帰還

 さらに小動物ミッションについての進捗について東北大学 大学院医学系研究科の山本雅之教授(東北メディカル・メガバンク機構 機構長)は、「研究に用いるマウスは、宇宙空間での飼育後、すべて地上に元気に帰ってきた。宇宙空間で生活したノックアウトマウスが無事に地上に帰還したのは、世界で初めて」とコメント。研究が無事に進んだことに嬉しさをにじませている様子だった。

 今回実施されたのは、マウス計12匹を用いた動物実験だ。マウス12匹はふたつの群に分けられ、片方は野生状態のマウスの群、もう片方は「NRF2」という転写因子を遺伝子ノックアウト技術で欠失させたマウスとなっている。NRF2とは生体防御を司る因子だ。酸化ストレスや毒物ストレスに応答し、生体防御系を活性化する。これを欠失するとストレスに敏感になるため、欠失マウスの健康指標の悪化を確認することを通して、NRF2の防衛機能を証明する。

 これらのマウスは2017年4月にSpaceX-14 ドラゴン宇宙船によって打ち上げられ、その後31日間船内飼育がなされたのち、再度地上へと送り返されていた。


 実験に用いられた遠心機能付き生物実験装置

 JAXAでは「きぼう」を加齢者研究支援プラットフォームとして活動することを掲げており、同ミッションは、宇宙空間における「ストレス」が生体におよぼす影響を調査することを目指して行われるもの。宇宙滞在のリスクを軽減させる方策を見つけることで、将来的に、宇宙飛行士のような特殊な訓練を受けた人だけでなく、一般の人であっても宇宙に行ける時代を模索していく考えである。

 今回、金井宇宙飛行士はこれらのマウスへの給餌・採血作業を行った。そのことに関して山本氏は、「JAXAによって研究されたキット、そして金井宇宙飛行士の技術が合わさり、マウスに大きな負荷がかかることなく、飼育・採血などといったタスクが滞りなくなされた」とコメント。

 さらに山本氏は、「帰還後のマウスを調査した結果、Nrf2欠失マウスは、通常のマウスと比べて体重増加に抑制傾向があるほか、脂肪減少傾向があることがわかった。給餌量に変化はないことから、この原因を調べることで、ネズミがどのようなことにストレスを感じたのか? ということを今後明確にしていきたい」と説明した。

 地球帰還後のマウスの解析速報では、Nrf2欠失マウスは、通常のマウスと比べて体重の増加が抑制されていることに加え、体脂肪も減少していることがわかる。


参考 サイエンスポータル: https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/06/20180604_02.html


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