火星の大気と気象現象

 2018年7月31日に大接近する火星。夜空に怪しい赤い輝きを放っている。やがて、火星に人類が到達する日も来るであろう。その時の火星はどんな惑星に見えるのであろうか?

 火星の大気は希薄で、地表での大気圧は約750Paと地球での平均値の約0.75%に過ぎない。逆に大気の厚さを示すスケールハイトは約11kmに達し、およそ6kmである地球よりも高い。これらはいずれも、火星の重力が地球よりも弱いことに起因している。

 大気が希薄なために熱を保持する作用が弱く、表面温度は最高でも約20℃である。大気の組成は二酸化炭素が95%、窒素が3%、アルゴンが1.6%で、他に酸素や水蒸気などの微量成分を含む。




 そんな、薄い大気を持つ火星であるが、風が吹けば嵐も吹き、雲ができ降雪もある...というような活発な気象現象が観測されている。

 火星大気は大きく変化する面がある。冬の数ヶ月間に極地方で夜が続くと、地表は非常に低温になり、大気全体の25%もが凝固して厚さ数メートルに達する二酸化炭素の氷(ドライアイス)の層をつくる。やがて、極に再び日光が当たる季節になると二酸化炭素の氷は昇華して、極地方に吹き付ける400km/hに達する強い風が発生する。

 これらの季節的活動によって大量の塵や水蒸気が運ばれ、地球と似た霜や大規模な巻雲が生じる。このような水の氷からなる雲の写真が2004年にオポチュニティによって撮影されている。また、南極で二酸化炭素が爆発的に噴出した跡がマーズ・オデッセイによって撮影されている。(Wikipedia)


 火星で大規模なダストストームが発生中

 2018年6月現在、火星の北半球で大規模なダストストームが発生しており、世界中のアマチュア観測者によって画像が撮影されている。2007年以来の大規模なダストストームとなるかもしれない。

 火星は5月22日に秋分を迎え、北半球は秋から冬へ、南半球は春から夏へと移り変わる時期だ。この時期には大規模なダストストーム(砂嵐)が発生することがある。

 NASAの火星周回探査機「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」で撮影された画像によると、5月31日ごろに北半球のアキダリア平原からアラビア大陸にかけての地域でダストストームが発生したようだ。ダストストームは成長しながら南下し、6月3日にはクリュセ平原や赤道付近のメリディアニ平原まで広がる大規模なものとなっている。

 火星の大規模なダストストームは近年では2007年に発生している。このときにはNASAの探査ローバー「スピリット」「オポチュニティ」で太陽電池の起電力が低下し、一部の観測機器の電源をオフせざるをえないなどの影響が出た。現在メリディアニ平原にいる「オポチュニティ」の観測データでは、大気の不透明度が2007年のダストストーム時以来の高い値を記録しており、今回のダストストームが11年ぶりの大規模な現象となる可能性がある。

 今年7月31日の地球最接近に向け、火星は現在、深夜から未明の空に赤く明るく輝いて見えている。視直径が15秒角を超え、ちょうど観測や撮影に適したタイミングに入ってきたが、ダストストームが火星の全球を覆うような大規模なものとなった場合には、表面の模様がよく見えなくなるかもしれない。今後の動向に要注目だ。


 火星探査車「オポチュニティ」応答なし

 NASAの探査車「オポチュニティ」は、5月31日ごろに発生した火星の砂嵐の影響で電力が急低下しており、現在は応答がない状態に陥っている。

 5月31日ごろ、火星で大規模なダストストーム(砂嵐)が発生した。その影響が、NASAの火星探査車「オポチュニティ」にも及んでいる。

 火星における全球規模のダストストームの発生は、決して驚くような現象ではないものの、頻繁に起こることでもない。火星の南半球が夏の期間、太陽光が塵の粒子を暖めて、粒子を大気中のより高度の高いところへ押し上げ、風を発生させる。その風によってさらに多くの塵が舞い上がり、結果的にダストストームが大きく成長する。

 今回のダストストームは発生から数日のうちに大規模化し、オポチュニティの現在地点である「パーサヴィアランス谷(Perseverance Valley)」を含む、1800万平方km以上の範囲にまで広がった。ダストストームによる塵の影響で大気の不透明度が増したため、オポチュニティの太陽電池パネルへと届く光の量が激減し、探査車の充電量が6月6日ごろまでに急低下してしまった。

 さらにその後もダストストームは成長を続け、6月12日ごろの時点では火星の表面の4分の1にあたる3500万平方kmもの範囲に広がっている。ダストストームの悪化にもかかわらず、オポチュニティからは10日に応答があった。しかし、13日に再びオポチュニティとの通信を試みたところ、応答はなかった。

 オポチュニティの運用チームでは、オポチュニティは電圧が下がったために「低電力モード」に入ったと考えている。その場合、探査車は定期的にコンピューターを起動させて電力量を確認するための「ミッションクロック」を除いて、すべてのサブシステムを停止している。

 2004年1月に火星に着陸したオポチュニティがダストストームに遭遇するのは、今回が初めてではない。2007年にも同様の事態が発生しており、そのときには約2週間にわたって探査車の稼働状態が制限され、消費電力節減のために数日間地上との通信も控えられた。


 火星の南極に“ドライアイスの雪”

 二酸化炭素の氷(ドライアイス)の存在が知られてきた火星の南極で、その氷を降らせる雪雲の存在が2012年9月に初めて確認された。

 火星の南極には二酸化炭素の氷(ドライアイス)が存在していることが数十年前から知られてきた。また、水の氷も2008年に見つかっている。そして今回、ドライアイスの雪を降らせる雲の存在が初めて明らかになった。

 研究を行ったNASAジェット推進研究所のPaul Hayneさんは、「ドライアイスの雪を降らす雲の存在を決定的に確認した初めての例です。雲が二酸化炭素でできていることはまちがいなく、厚みもじゅうぶんで、火星の表面に積もるほどの雪を降らせたはずです」と話す。

 研究では火星探査機「マーズ・リコナサンス・オービターMRO」に搭載された火星気候観測機(MCS)を使って、大気の温度や含まれる粒子の大きさ、濃度などを調べた。最新の分析に利用されたのは、火星の南極が冬を迎えた2006年から2007年に南緯70度から80度付近の領域を観測したデータだ。

 分析の結果、高高度には極の上空にいすわる幅約500kmの二酸化炭素の雲を、そして低高度には、すぐに消えてしまうような小さいドライアイスの雲を、それぞれ確認した。

 「降雪の根拠の1つは、雲の中に含まれる二酸化炭素の氷の粒子が地上に落ちるほどの大きさだったことです。また、雲を水平方向から観測すると、明らかにドライアイスの粒子が検出されました。しかもそれが地上までつながっているのです。地表だけではなく大気中の粒子であるということが、このようにしてわかりました」(研究チームのDavid Kassさん)。

 南極の極冠は火星で唯一、凍った二酸化炭素が一年中残る場所だ。雪が降り積もった結果なのか、それとも表面が凍って霜のようになったのかははっきりわかっていない。だが今回の研究成果で、特に南極付近で活発な降雪があることがわかった。

 「今回の発見を見ると、極冠にドライアイスが堆積するプロセスと、それがずっと解けずに残っていることは関連性があるのかも知れません」(Hayneさん)。(2012年9月14日 NASA)


 火星の南極・北極の違い

 地球の南極大陸が氷河で覆われているように、火星の北極と南極にも白い部分が広がっているのが見られる。これは、北極冠、南極冠と呼ばれ、それぞれの夏に小さくなり、冬には大きく広がるが、南北で多少異なる変化を見せている。地球上からの観測では、北極冠は北半球の春から夏にかけて縮小し、夏至の頃に最も小さくなる。秋分の頃になると、極地方は雲におおわれてしまう。一方、南極地方は南半球の冬至をすぎてから雲が現れ、春分の頃までおおわれる。極冠の大きさは、それぞれの春分の頃でくらべると、南極冠の方が北極冠よりかなり大きく見える。

 また、それぞれの夏季の縮小は南極冠の方が北極冠より速く進む。この南北の違いは、火星の公転軌道が地球にくらべ、楕円であるためである。火星は、公転の速さが比較的遅くなる遠日点(太陽から一番離れる位置)付近で、南半球が冬至、北半球が夏至になる。そして、近日点付近で日射量が多い頃に南半球が夏至、北半球が冬至になる。つまり、火星の南半球は、北半球にくらべて、冬はより寒くて長く、夏はより暑くなる。

 夏季の北極冠の直径は約1,100km、面積はおおよそ100万平方km(地球の南極にある氷河面積の1/12)で、平均の厚さ1,000m、一番高い地点の高さ3,000m、氷の量は最大で120万立方km(地球の南極にある氷河体積の1/24)と推測されている。南極冠の方は、白く見える部分は直径約420kmで、北極冠の1/3程度だが、表面が風に運ばれてきた堆積物などで覆われて白く見えていない部分が、その周囲に広がっていると考えられていて、それをあわせて面積144万平方km(地球の南極にある氷河面積の1/8)、体積200万~300万立方km(地球の南極にある氷河体積の1/12)と推測されている。


 北極冠・南極冠の正体

 また、地球の両極で一年中氷に覆われている部分の面積(それぞれの夏季、小さくなった時の面積)をあわせると、海氷も含め地球表面積の約5%を占めるが、上記の値を用いると、火星では火星表面積の約2%を占めることになる。実際には、北極と南極で季節が逆になるため、特に火星では冬季側の極周辺で面積がこれより大きく広がるのが見られる。

 火星の極冠の正体については、まだ直接、採取した観測はないが、火星を回る探査機のデータから、南北とも氷(H2O)の本体をドライアイス(CO2)が覆っていると推測されている。ドライアイスは、冬に氷全体と周囲の地表を覆って白く見える部分の範囲を広げ、夏には昇華して、その下にある氷を露出させると考えられている。

 火星の極冠には、地球上の氷河には見られない渦巻き状の溝がある。この溝がどのようにしてできるのか、まだよくわかっていないが、北極冠ではこの溝は深さが500mに達する。溝の側面をマーズ・オービター・カメラの画像で見ると、極冠は厚さ数m~数十mの層が多数積み重なってできていることが観察されている。

 火星極冠への氷の供給(涵養)については次のような観測がされている。探査機データの分析結果から、北極冠上空に春季と夏季にH2Oの雲が広がることが示された。さらに北極冠の表面温度と大気中水蒸気濃度の観測からは、夏に暖かくなる(マイナス73℃以上)と大気中水蒸気が急激に増加し、夏が過ぎると水蒸気が減少して表面のアルベドが増加することがわかった。このことから、極冠への氷の供給(涵養)は夏季を過ぎた頃に行われると考えられている。

 供給(涵養)方法については、大気中の水蒸気が直接、極冠表面に霜として凝結する、あるいは、雪として降り積もると推測される。氷を覆うドライアイスをもたらすCO2雲については、秋に発達し始め、冬季に最大となってその後減少するということが、探査機による観察で明らかになっている。火星でも雪が降っているのかもしれない。(平塚市博物館)


 火星の大気にメタンが存在

 2003年に地球からの望遠鏡による観測で大気にメタンが含まれている可能性が浮上し、2004年3月のマーズ・エクスプレス探査機の調査による大気の解析でメタンの存在が確認された。現在観測されているメタンの量の平均値は体積比で約11±4 ppb である。

 火星の環境下では不安定な気体であるメタンの存在は、火星にメタンのガス源が存在する(または、少なくとも最近100年以内には存在していた)という興味深い事実を示唆している。ガスの生成源としては火山活動や彗星の衝突、あるいはメタン菌のような微生物の形で生命が存在するなどの可能性が考えられているが、いずれも未確認である。

 地球の海では、生物によってメタンが生成される際には同時にエタンも生成される傾向がある。一方、火山活動から放出されるメタンには二酸化硫黄が付随する。メタンは火星表面の所々に局所的に存在しているように見える事から、発生したメタンは大気中に一様に分布するよりも短時間で分解されていることがうかがえる。

 それゆえ、おそらく持続的に大気中に放出されていると推測される。発生源に関する仮説でどれが最も有力かを推定するために、メタンと同時に放出される別の気体を検出する計画も現在進められている。

 火星は短い時間尺度では温暖化していることを示唆する証拠も発見されている。しかし21世紀初頭の火星は1970年代よりは寒冷である。(Wikipedia)


参考 アストロアーツ: http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9961_duststorm