自然災害の猛威を記憶

 9月に入りようやく涼しくなってきたが、この夏は猛暑や自然災害の猛威を感じた人も多かった。

 2018年6月28日から7月8日にかけて、西日本豪雨が起きた。このとき梅雨前線に水蒸気を送り続けたのが、台風7号だった。7月は熱波で、日本の埼玉県熊谷市で、41度1分と観測史上最も高い気温となるなど、日本の各地で連日猛烈な暑さになった。欧米でも熱波で気温が30度を超え、干ばつや森林火災が起きた。米西部カリフォルニア州のデスバレーでは、最高気温が53度に達した。

 8月には、台風19号が発生。これは、5日連続で発生した台風で、観測史上初めてのことだった。その後20号、21号が発生して、8月の台風の発生数は9個になった。台風20号では淡路島の風力発電用の風車が倒れた。台風21号では関西空港が高波により浸水した。22号はフィリピン方面で猛威を奮った。



 そして9月6日、日本の北海道胆振(いぶり)地方中東部を震源として地震が発生した。地震の規模はM6.7、最大震度は、北海道では初めて震度階級で最も高い震度7が観測された。この地震の影響で北海道全体の電力がブラックアウトした。こんなことは想定外であった。日本のエネルギーインフラ、防災インフラが脆弱であることを改めて認識した。

 我々人類は、自然災害の前に成すすべもなく連戦連敗中である。もちろん、自然に対する畏敬の念は忘れてはいけない。だが、地震国であり、台風国である日本、このままで良いのだろうか?何とか自然災害に対して一矢報いたいという気持ちがある。

 調査によると東日本大震災のエネルギーは、2.0× 1018J(ジュール)。一方、台風(1976.9台風17号)のエネルギーは1.8×1020J(ジュール)だという。地震よりも台風のエネルギーの方が大きいのだ。

 1976年の台風17号の特徴は日本の上空で停滞したため、降水量が最も多い台風として知られている。資料では降水量を837億トンとしている。日本最大の発電用ダム、奥只見ダムを140回、空の状態から満水にできる水量だった。これだけ水の量があったら、水力発電で大量の電気エネルギーを発生させることができるのではないか。

 また、台風の風で風力発電用の風車が倒壊するのは、情けないし、意味がない。台風の時こそ大量の風力発電をすることができるのではないだろうか?そんな、新時代の水力発電や風力発電の方法を調べてみた。


 ベルの予言「日本は水力発電で発展する」

 今から1世紀以上前の明治31年(1898年)に、グラハム・ベルが来日した。ベルは電話の発明で知られているが、地質学者でもあり当時は米国地質学会の会長であった。一流の科学誌『ナショナル ジオグラフィック』の編集責任者でもあった。

 ベルは、日本列島は山が多く、雨の多い気候であることに気づき「日本は豊かな水力エネルギーを保有している」「日本は水力発電で発展する」と演説している。

 日本列島はアジアモンスーンの北限にあって、さらに海に囲まれている。世界の同じ緯度の国々は、日本のように降水量は多くない。

 雨は太陽エネルギーである。太陽が海を照らし、海水が蒸発し、その水蒸気は上空で冷やされ雨となって陸に戻ってくる。この太陽エネルギーは無限にあり、量も膨大である。ただし、雨のエネルギーは単位面積当たりのエネルギー量は薄い。太陽光や風力など他の再生エネルギーと同じ欠点を持っている。つまり、雨のエネルギーを濃くする工夫をしないと、エネルギーとして使いものにならない。ところが日本列島の場合、「山」という地形がこの問題を解決してくれる。


 日本列島は薄い太陽エネルギーを集める装置

 東京23区にいくら大量の雨が降ってもエネルギーにはならない。平らな土地を水びたしにするだけである。ところが、関東の丹沢山地や奥多摩に降る雨は谷に集まり、相模川や多摩川の水となって流れ落ちてくる。山々の谷には、大量の雨が自然に集められていく。つまり、日本の山岳が単位面積当たり薄いエネルギーの雨を集め、濃い密度の水流に変えていく。しかも、山々は標高が高く、集まった水流の勢いは強い。つまり、位置エネルギーがとても大きい。

 日本列島は平均すると68%が山地で、しかも列島の北海道から九州まで中央を脊梁山脈が走っている。太平洋側、日本海側を問わず、全ての土地が均等に川という水流のエネルギーに恵まれている。

 雨と山岳地帯は自然が日本に与えてくれた恵みだ。しかし、雨の降りかたは極端に変動する。エントロピーが大きく使い勝手の悪いエネルギーなのだ。さらに、日本の地形は急峻で、降った雨はあっという間に海に戻ってしまう。大多数の河川の雨は、日帰りで海に帰ってしまい、大きな河川でも1泊2日、せいぜい2泊3日ぐらいしか陸地にいてくれない。

 このために、あっという間に海に戻ってしまう水を貯蔵するダムが必要となる。このダムは山岳地帯で位置エネルギーを保つことにもなる。

 ダムはピラミッドをしのぐ巨大な構造物だが、極めて強固な構造物だ。その理由は3つある。1つ目は、ダムのコンクリートには鉄筋がないので、鉄が錆びて劣化することがない。2つ目は、ダムの基礎は強固な岩盤と一体化している。3つ目は、コンクリートの厚みが桁違いに厚く安全な構造となっている。

 しかし、巨大ダムを次々と建設する時代ではない。これからは既存ダムの潜在的な水力発電能力を引き出すことが大切となってくる。


既存ダムの有効活用:【1】ダムの運用を変更する

 現在ある既存ダムの潜在的な発電能力を引き出せば、発電量の30%まで可能であると試算している。そのための方策は大きく分けて3つある。

 1つ目は、ダムの運用変更で、ダムの空き容量を利用して発電に活用すること。現在日本の多目的ダムには、夏場、水を半分程度しか貯めていない。これは、襲ってくる洪水を貯留して、下流の災害を防ぐためである。

 多目的ダムでは「利水」(水を利用すること)と「治水」(洪水を予防すること)の2つの目的がある。利水はダムに水を貯めたい、治水はダムを空にして洪水を待ちたいといった二律背反の関係にある。この両者の折衷案として、現在の多目的ダムのルールが法律で決まっている。

 この「特定多目的ダム法」は昭和32(1957)年に成立したもので、当時はテレビもなく、台風進路の予測もできない状況であった。あれから60年経った21世紀の今、気象予測の水準は当時と全く違う。

 通常はなるべくダムに水を貯め、水力発電の効果を高めておく。台風が接近してくれば、今はその予測は1週間前に分かる水準にある。大雨が降る数日間から事前に放流しておけば、洪水を貯め込む空容量は十分確保できる。

 ダムの潜在力を活かす鍵を握っているのは「河川法」という法律だ。河川法は過去2度改正されている。今は3度目の改正を行う時で、河川法第1条を改正して「河川の水エネルギーを最大限活用する」という趣旨の文言を付け加える改正が求められる。そして、日本国家として、河川の水エネルギーを積極的に利用していくことを宣言していく。


【2】既存ダムを嵩上げする

 2つ目は、既存ダムの嵩(かさ)上げがある。嵩上げとは、既存のダムを高くする改築のことを言う。例えば、高さが100メートルのダムがあるとすると、このダムをあと10メートル高くすれば、多くの水が貯められ、水位も10メートル上がり、発電力の増加につながる。水の位置エネルギーは、その水量と高さに比例する。高さ的にはわずか10%の違いでも、電力で考えると単純に計算しても発電量は70%も増加する。つまり、10%の嵩上げはダムをもう1つ造るのと同じことになる。しかも、この費用は同じ規模のダム工事なのに桁違いに安く済む。

 ダム嵩上げの場合は、水没集落への補償(人々の暮らす村を丸ごと水没させてしまうため)、付帯道路や付帯鉄道の費用はすでに支払い済みとなっている。新規のダム建設はもちろん、他の発電と比較しても圧倒的に安価になる。


【3】中小水力を推進する

 3つ目は、現在は発電に使われていないダムでも発電していくことだ。日本には発電に利用されていない多くのダムが存在している。大きなものでは、国の直轄の多目的ダムから、都道府県の多目的ダム、そして国や都道府県が管理している砂防ダム(小さな渓流などに設置される土砂災害防止のための設備)まで様々である。ダムは大きければ、発電量が多くなり効率はいいが、ダムの高さが10メートルクラスの砂防ダムでも発電は可能で、100~300kWほどの電力は簡単に得られる。中水力発電の潜在力は思いのほか大きい。将来は、砂防ダムや農業用水ダムのように、発電とは別の目的で造られた多数のダムの発電能力を積極的に活用すべきである。


 ダム湖は国産の油田

 私は(1)運用変更と(2)嵩上げだけで、343億kWの電力量が増やせると試算している。これに(3)現在は発電に利用されていないダムを開発(技術的には何ら問題がなく、再生可能エネルギーの固定買取制度のおかげで、経済的にも好条件となっている)して、少なく見積もって1000kWを加えると合計で1350kWの電力量が増やせる計算になる。これに既存のものを合わせると、約2200kWとなり、日本全体の電力需要の約20%を賄うことができる。

 これだけの純国産電力を安定的に得られる意味はとても大きい。仮に家庭用電力料金では、1000億kWの増加で、1kW当たりを20円とすると、年間で2兆円になる。100年で200兆円の電力が新たに生まれることになるというわけだ。

 ダム技術者の私から見れば、ダムに貯められた雨水は石油に等しく、ダム湖は国産の油田のように思える。しかも、このエネルギーは、ダム湖に雨が貯まるほど増え、まるで魔法のように涸れることはない。

 私は近代文明のシンボルとも言える巨大ダム(川治ダム、大川ダム、宮ヶ瀬ダム)建設に従事してきた。しかし、巨大ダムの建設には大きな犠牲が伴った。水源地域の大きな犠牲と引き換えに、洪水を防ぎ、飲み水を供給し、近代化のエンジンであった電気エネルギーを得て、日本は高度経済成長を成し遂げた。

 現在の日本の繁栄は、私たちの先人、巨大ダムに沈んだ集落の多くの人々の犠牲があって成り立っている。だからこそ、この巨大遺産を無駄にすることは許されない。有効に使っていかなければ、過去に犠牲を強いた人々(生まれ育った家、学んだ学校、遊んだ小川、恋人と歩いた丘、夫婦で将来を誓った神社やお寺など全てを失った人々)や自然環境に対して申し訳が立たない。

 水力発電の問題は、国交省(河川の管理)、経済産業省(エネルギー問題)、農水省(土地改良)、環境省(自然環境)、財務省(国有財産処理)、総務省(地方自治)など、多くの省庁が関係している。具体的な行動に移していくためには、それら関係省庁を指導する国会議員のガバナンスが絶対に必要になってくる。この構想が日本の将来にとって、多大な恩恵をもたらす。水力発電は天から日本列島が授かった純国産エネルギーなのだ。(JBPress:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53762 竹村公太郎)


台風のパワーを電力に!最強の風力発電への挑戦

 9月といえば台風シーズンのイメージがあるが、自然災害を引き起こす台風をエネルギー源として電力を生み出そうというプロジェクトが進められている。特許を取得した独自の技術でこの壮大な計画に挑む株式会社チャレナジー 代表取締役CEO 清水敦史氏に話をうかがった。

 日本は年間十数個にも及ぶ台風が接近・上陸する台風大国。それは時に家屋や農作物などに甚大な被害をもたらし、内包するエネルギーも膨大だ。

 「日本は風力発電大国になれるほどのポテンシャルがあるといわれています。一方で、風の強さや向きが変わりやすい環境のため、プロペラ式風車には厳しい環境であり、さらには台風による事故も起きています。そこで、台風でも安全に発電できる『プロペラのない風力発電』の実用化を目指しています」

 そんな突拍子もないアイデアを語るのは、「台風発電」に取り組んでいるチャレナジー代表取締役CEO清水敦史氏だ。台風が直撃している環境下で使える発電方法は現状ないと清水氏は語る。

「風力発電は、風が強ければ強いほど発電量が増えていきます。台風のような強風ではたくさん発電可能に思えるかもしれませんが、実際には秒速25mを超える強烈な風速下では、暴走や破損の可能性があるため停止する仕様になっています。

 莫大なエネルギーがすぐ近くにあるのに、それを使えないのはもったいない話だと思いませんか?そこでどうにかして電力に利用できないか──という発想がチャレンジのきっかけでした」


 日本にあった風力発電の方法

 元々は大手電機メーカーのエンジニアとして、産業用センサーなどの開発に携わっていた清水氏。環境意識については高かったが、風力に限らず再生可能エネルギーに関しては素人だったという。

 「最初は再生可能エネルギーの入門書を読むところから始め、日本の風力発電の可能性について知りました。そこで疑問に思ったのは、世界では風力が再生可能エネルギーの主流なのに、日本での普及率はごくわずか。その理由は何なのか?ということでした」

 理由はすぐに判明した。日本は山々が連なり、起伏に富んだ地形が多い。それゆえ風が吹く方向や強さが定まらず、乱流になりやすい。加えて、台風や暴風雨のような過酷な状況にも見舞われやすい。この自然環境こそが、風力発電の普及を妨げる一因だったのだ。

「欧州や中国のように、大陸で風が比較的安定した環境であれば風力発電を導入しやすいでしょう。欧州で粉ひき風車が大昔から利用され、風力発電としても100年以上前に開発されたのは、そうした地の利があったからだと思います。

 しかし日本ではそうはいかない。現在主流のプロペラ式風車は風向きの変化に対応しずらく、強風下では破損や暴走のリスクがあるという欠点があります。日本で風力発電を普及させるためには、日本の環境に合った風車を新たに開発する必要があると感じました」

 そこで清水氏は、風力発電に関する約5000件もの特許を片っ端から調べ、たどり着いた一つの答えが“マグナス効果”だった。


 身近にあるのに知られていない、マグナス効果の潜在能力

 マグナス効果についてごく簡単に説明すると、空気の流れ(風)の中に回転する円筒や球を置いたときに、流れの方向に対して垂直方向の力(揚力)が発生する現象のこと。

 例えば、野球や卓球、サッカーなどの球技で、球を放出するときに回転を加えると、曲がったりあるいは浮き上がったりするが、これはマグナス効果によるものだ。

 自転する円筒や球を風の流れがある状況に置くと、風向きに対してマグナス力が垂直方向に働く。さらに円筒の回転数によりマグナス力の制御も可能

 この力を機械の動力に利用しようとする試みは、実は古くから行われてきた。1920年代には、胴体の脇に翼の代わりとなる円筒が付き、マグナス効果によって飛行する飛行機の開発が進められていたという。

 「マグナス力の大きさは円筒の回転数により簡単に調整できる。回転を止めればゼロになり、回転数を上げれば、固定翼よりも大きい力を得ることができます。この試作飛行機も実際に飛んだそうですが、実験中に墜落してしまったそうです。そもそも、何らかの理由で円筒の回転が止まってしまうと、マグナス力がゼロになり墜落してしまいますから、現在、マグナス力を使う飛行機はありません」


 垂直型マグナス風力発電

 垂直軸型マグナス風力発電機は、モーターにより円筒を駆動させマグナス力を発生させる。強風下であっても円筒の回転数を調整すれば、風車が暴走することなく、発電し続けることができるのだ。

 万一の場合には、円筒の回転を止めてしまえばマグナス力がゼロになり、ブレーキなどを使わずとも確実に運転を止めることもできる。これが清水氏のいうマグナス力を風力発電に使うことのメリットだ。

 マグナス効果を風力発電の新たな仕組みに活用しようと決めた清水氏の試行錯誤の末に誕生した「垂直軸型マグナス風力発電機」。

 「さて、日本の環境に対応するためには、風向きにも左右されにくくする必要があります。一般的なプロペラ式風車のような水平軸の風車には向きがあり、正面を風に向ける必要がありますが、風向きの変化に追従しきれない場合があります。そこで、垂直軸の風車にしています。垂直軸の風車には向きがないので、風向きの変化に影響されません。

 また、垂直軸型マグナス風力発電機は風車全体がゆっくりと回転するため、騒音が小さく、鳥が機械に巻き込まれるバードストライクなどの事故も起こしにくいと考えられます」

 しかし、この方式には致命的ともいえる問題があったという。

 「マグナス力の向きは、風向きと円筒の回転方向で決まります。単純に円筒を風車に複数個取り付け、時計回りに回して風車全体の回転で発電しようとすると、円筒が風上にあるときに発生するマグナス力は風車を時計回りに回す方向になります。風車が回転して円筒が風下に移動してもマグナス力の向きは同じなので、今度は風車を反時計回りに回す方向になり、相殺して風車の回転が止まってしまいます」

 実は、これこそが垂直軸型マグナス風車がこれまで実用化されていない理由であり、この問題を克服しようとする特許が世界中で出願されているが、いずれも実用化には至っていない。

 「物理法則だけにこの特性は変えられません。円筒が風下に回ったときのマグナス力をいかにして発生させないかが、マグナス力を発電に利用しようと試みる研究者共通の課題でした。私はこの問題を、2個で1組の円筒を組み合わせることで解決した……と思っていました」

 清水氏は反対方向に回る2本の円筒を1組として据え付け、風に当たる円筒は常に同じ回転方向になる(風下側の円筒は風上側円筒の影に隠れる)方式を発明した。

 「しかし、いざコンピューターシミュレーションしてみたら、発電効率が絶望的に低いということが分かったんです」


 思いがけずに革新的なアイデアを発見!

 「それまでに考えた方式を、いったん白紙に戻して仕組みを根本的に考え直す必要がありました」

 そう語る清水氏は、円筒の表面形状を変えるなどの工夫を施した。発電効率は改善したが、それでも実用化にはほど遠かった。一般的なプロペラ式風力発電機と同等のレベルになるには、さらに効率を高めるブレークスルーが必要だったのだ。

 しかし、ここで奇跡が起こる。マグナス力を計測する実験中、ある条件でトルクが変化することに気が付いたのだ。清水氏自身、全く予想していなかった変化。早速、即席で試験機を改造し、再度測定すると確かに効果があることが確認できた。

 「新しいアイデアをもとに再度シミュレーションしたところ、発電効率を30%程度まで高められることが分かりました。これはプロペラ式風車にも十分太刀打ちできる性能です」


 改良を重ねてたどり着いた最新の垂直軸型マグナス風車

 そして、チャレナジーの台風発電プロジェクトは風車の研究開発を進めながら実証実験へ。2016年、沖縄県南城市に定格出力1kWのフィールドテスト機を設置し、発電量の変化や耐久性をテストしている。

 「台風直撃下での性能をテストするために沖縄を選びました。いざ台風が来たら、きちんと発電できるかと同時に、必要に応じて確実に止めることができるかもテストします」

 これまで風洞実験やシミュレーションでしかテストできなったマグナス風車が、実際に屋外で稼働する。世界初の開発に執念を燃やしてきた清水氏にとっては、何物にも代えがたい喜びだっただろう。

 沖縄県南城市に設置されたチャレナジーの1kWフィールドテスト機。台風接近時に風速25m/s前後の状況下での安定稼働と安全停止を確認


 自然災害に一矢報いる!“発生した台風に船で出向いてその場で発電”

 現在、チャレナジーでは沖縄での稼働実験と並行して、より大きな出力が得られる定格出力10kWの量産機を開発しており、将来的には定格出力100kW以上の大型機の実用化を目標にしている。

 実用化されれば既存の発電機に取って代わることも可能になるこの大型風力発電装置。今後普及するのだろうか?

 「垂直軸型マグナス風車は、台風のみならず、あらゆる環境下で発電できる風力発電システムです。国や場所を選ばず、さらに既存のプロペラ式風車にないメリットがあるので、特に自然環境に対して意識の高い国々での普及が期待できます」

 その中で清水氏が最も注目しているのがフィリピンだ。

 「フィリピンは日本同様、年間にいくつもの台風に見舞われています。そして点在する小さな島ではほとんどの電力を小さなディーゼル発電機でまかなっているところも多いのですが、燃料の輸送も大変ですし、地球環境的にも望ましくありません。でも風力発電なら、そうした島々にもクリーンで十分な電力を提供できると考えています」

 今後の展望を語る清水氏。その表情が物語る通り、グローバルな視点で見ても垂直軸型マグナス風力発電機の未来は明るい。続けてさらなる可能性についても言及してくれた。

 「将来的にはタンカーに大型の垂直軸型マグナス風力発電機を搭載し、台風の近くに出向いて発電。その場で海水を電気分解して水素に変換し、運んでくる。そんなことも実現可能かもしれません」

 これぞまさに“台風発電”といえるだろう。清水氏が心ときめかせる“マグナス力が持つ無限の可能性”が今、少しずつ形になろうとしている。地球が持つ巨大なエネルギーを電力に変える、革新的なチャレンジが始まった。(EMIRA: http://emira-t.jp/ace/2879/ 田端邦彦)


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