変わった動物「ハダカデバネズミ」 

 ハダカデバネズミはとても変わった動物である。まず姿が変わっている。体長10.3 - 13.6センチメートル。尾長3.2 - 4.7センチメートル。体重9 - 69グラム。体表には接触に対して感度の高い細かい体毛しか生えていない。名前の通りハダカなのだ。属名の「Heterocephalus」は「変わった頭部、変な頭部」の意味。種小名glaberは「無毛の、毛のない」の意味がある。

 またデバの由来は口唇が襞状で門歯の後ろで閉じるようになっており、穴を掘るときに土が口内に侵入するのを防いでいる。体毛が無いことや環境の変動が少ない地中で生活するためか、体温を調節する機能がなく体温も低い。

 生活スタイルも変わっている。アリのように地中の巣で集団生活を営む。しかも女王アリ、働きアリのように役割が決まっている。10匹以上290匹以下(平均75 - 80匹)もの大規模な群れ(コロニー)を形成し生活する。群れの中で1つのペアのみが繁殖を行い、群れの多くを占める非繁殖個体のうち小型個体は穴掘りや食料の調達を、大型個体は巣の防衛を行う。



 このような社会構造を「真社会性」というが、哺乳類では数少ない社会構造である。繁殖様式は胎生。群れの中でもっとも優位にある1頭の雌(繁殖メス)と、1頭または数頭の雄のみが繁殖に参加する。

 妊娠期間は66 - 74日。飼育下では80日の間隔を空けて幼獣を産み、1回に最大27頭の幼獣を産んだ例がある。野生下・飼育下でも年に4 - 5回に分けて50匹以上の幼獣を産む。繁殖メスが死んだ場合は巣内が平和であれば複数のメスの性的活性が活発化するものの、そのうち1匹のメスのみが急に成長し争いも起こらず2 -3週間ほどで繁殖を行い新しい繁殖メスになる。

 このような社会構造をつくるのは、繁殖メスによる化学物質(フェロモン)が群れ全体に作用し他の個体の繁殖が抑制されていると考えられ、集団で排泄を行う便所での尿や巣内での集合場所で密着することでフェロモンを発散している可能性が示唆されていたが、今回、麻布大学の研究グループが、この「秘密の仕掛け」が、女王ネズミの糞(ふん)にあることを発見した。


ハダカデバネズミは、アリと同じ真社会性

 ハダカデバネズミの社会では、「女王ネズミ」が産んだ子を「働きネズミ」が世話する。女王バチと働きバチの関係と同じだ。毛がないハダカデバネズミは体温が下がりやすいので、働きネズミは子ネズミにくっついて体を温めてやる。おしりをなめて排せつをうながしてやるし、子ネズミが離れていきそうになると、「ダメダメ、遠くに行っちゃ」と連れ戻す。授乳するのは女王ネズミだけだが、子育てには働きネズミたちがこうして参加するのだ。

 なぜ働きネズミは、自分の子でないネズミをどうして育てようとするのか?かれらを親のような子育てに駆り立てる、なにか秘密の仕掛けがあるのだろうか?

 この「秘密の仕掛け」を麻布大学博士課程の度会晃行(わたらい あきゆき)さん、茂木一孝(もぎ かずたか)准教授らの研究グループがみつけた。それは、女王ネズミの糞(ふん)だった。

 子育て中の働きネズミは、子ネズミの声に反応する。声のするほうに近づいていくのだ。この行動を利用して、度会さんらはこんな実験を行った。四角いアクリル製の箱に働きネズミを入れる。この箱の左右両側からは長さ16センチメートルの筒がそれぞれ突き出していて、箱の中とつながっている。

 片方の筒の先にはスピーカーが取り付けてある。このスピーカーから、子ネズミの声を流す。そのとき、ネズミは声の聞こえる筒に向かうのか。筒の中の滞在時間に左右の筒で差がなければ、子ネズミの声には反応していないことになる。スピーカーのある筒にいる時間のほうが長ければ、子ネズミの声に反応して近づく「子育てマインド」をもった状態だと判断できる。


 妊娠中のネズミの糞を食べる

 ハダカデバネズミは、糞をよく食べる。自分の糞でも、仲間の糞でも食べる。度会さんらが注目したのは、この習性だ。妊娠中の女王ネズミの糞を雌の働きネズミに食べさせたところ、働きネズミは子ネズミの声に反応するようになっていた。

 妊娠していない女王ネズミの糞を食べさせてもこのような現象はみられなかったが、この糞に、妊娠している雌の体内に増えるホルモン「エストロゲン」を添加して与えると、子ネズミの声に反応するようになった。

 働きネズミは卵巣が発達しないので、自分の体の中でエストロゲンが自然に増えることはない。それなのに実際には、女王ネズミの妊娠期間には、働きネズミの糞の中にもエストロゲンが増える。実験でも、エストロゲンを添加した糞を食べさせると、働きネズミの糞にエストロゲンは増えた。

 これらの結果について、茂木さんはつぎのように説明する。ハダカデバネズミは、ふだんから糞を食べる習性がある。女王ネズミが妊娠すると、働きネズミは、エストロゲンが増えている女王ネズミの糞を食べることになる。

 すると、働きネズミの体内には、自分が妊娠しているわけではないのにエストロゲンが増え、やがて産まれる子ネズミを世話する準備が整う。そして子ネズミが産まれると、働きネズミの子育てが始まる。糞に含まれる性ホルモンが他の個体の行動を決める現象を哺乳類で発見したのは、これが初めてだという。

 写真 女王ネズミが産んだ子の世話を焼く働きネズミたち(度会さんら研究グループ提供

 図 実験装置の概念図。子ネズミの声がするスピーカーがある「音源側の筒」と、スピーカーがない「非音源側の筒」のどちらに長い時間いるかを調べた。(度会さんら研究グループ提供)


 ハダカデバネズミとは何か?

 ハダカデバネズミ (Heterocephalus glaber) は、デバネズミ科ハダカデバネズミ属に分類される齧歯類。齧歯類であるからネズミやリスと同じ仲間だが、本種のみでハダカデバネズミ属を構成する。他の齧歯類とは一線を画す。生息場所はアフリカ大陸、エチオピア、ケニア、ジブチ、ソマリアである。

 体長10.3 - 13.6センチメートル。尾長3.2 - 4.7センチメートル。体重9 - 69グラム。体表には接触に対して感度の高い細かい体毛しか生えていない。属名Heterocephalusは「変わった頭部、変な頭部」の意。種小名glaberは「無毛の、毛のない」の意で、和名や英名(naked=裸の)とほぼ同義。口唇が襞状で門歯の後ろで閉じるようになっており、穴を掘るときに土が口内に侵入するのを防いでいる。

 体毛が無いことや環境の変動が少ない地中で生活するためか、体温を調節する機能がなく体温も低い。染色体数は2n=60。

 完全地中棲。アリのように地中の巣で集団生活を営む。しかも女王アリ、働きアリのように役割が決まっている。10匹以上290匹以下(平均75 - 80匹)もの大規模な群れ(コロニー)を形成し生活する。群れの中で1つのペアのみが繁殖を行い、群れの多くを占める非繁殖個体のうち小型個体は穴掘りや食料の調達を、大型個体は巣の防衛を行う。

 このような社会構造を真社会性というが、哺乳類では数少ない社会構造である。(哺乳類で真社会性を持つものは他にCryptomys damarensisが知られる)。門歯で穴を掘り、後肢を使い掘った土を後ろへ掻き出す。地表へ土を排出する際も、後肢を使い勢いよく土を蹴り出す。複数の個体により穴掘り・トンネル内の土の運搬・地表への土の排出を分担して行う。60 - 70匹のコロニーで長さ約3キロメートルに達する巣穴も確認されている。地中は温度の変動が少ないが体温が低くなると密集したり、逆に体温が高くなるとトンネルの奥へ避難する。

 植物食で、地下植物や植物の根を食べる。幼獣は成獣の排泄物も食べる。捕食者はヘビ類が挙げられ、掻き出した土の匂いを頼りに巣穴に侵入したり土を掻き出している最中の個体を捕食する。

 繁殖様式は胎生。群れの中でもっとも優位にある1頭の雌(繁殖メス)と、1頭または数頭の雄のみが繁殖に参加する。妊娠期間は66 - 74日。飼育下では80日の間隔を空けて幼獣を産み、1回に最大27頭の幼獣を産んだ例がある。野生下・飼育下でも年に4 - 5回に分けて50匹以上の幼獣を産む。繁殖メスが死んだ場合は巣内が平和であれば複数のメスの性的活性が活発化するものの、そのうち1匹のメスのみが急に成長し争いも起こらず2 -3週間ほどで繁殖を行い新しい繁殖メスになる。

 そのため繁殖メスによる化学物質(フェロモン)が群れ全体に作用し他の個体の繁殖が抑制されていると考えられ、集団で排泄を行う便所での尿や巣内での集合場所で密着することでフェロモンを発散している可能性が示唆されている。授乳は繁殖メスのみが行うが、幼獣の世話は群れの他個体も参加して行われる[3]。飼育下の寿命は15年以上で、繁殖メスでは最長で28年2か月の生存記録もある。

 巣の中で産まれた個体は同じ巣に留まってワーカーや繁殖個体になることが多いので、巣内で近親交配が繰り返されることになる。そのため巣内の個体間の血縁度が非常に高くなる。これが本種の真社会性の進化を促したとする説がある(血縁選択による血縁利他主義の進化)一方で、親による操作説のほうが上手く説明できる証拠も示されており(女王による監視など)、議論が続いている。


参考 サイエンスポータル: https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/09/20180906_02.html


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