見過ごせないプラスチック問題

 今年の夏、OECDは「Improving Markets for Recycled Plastics: Trends, prospects and policy responses」と題し、約160ページに及ぶ報告書によると、世界のプラスチックの生産量は、1950年時点では200万トンだったが、2015年には4億700万トンに達した。

 このうちリサイクルされるのは推定でわずか14~18%。一方プラスチックごみの発生量は増加の一途をたどり、2015年に3億200万トンに上り、あらゆるごみの総量の3~4%に当たるという。

 プラスチックごみの問題が深刻なのは、発生するごみのかなりの量が海に流出して海洋汚染を進めるため。報告書は、投棄されたり、埋め立て地から流出して2010年時点で年間推定400万~1200万トンが海に到達している、とした。そして海岸の汚染による観光客の減少、漁業への悪影響などによる損害が総額年間130億ドルに達している、と指摘した。



 「スターバックスコーヒー」や「スカイラーク」などの企業で、プラスチック製のストローを自主規制することが話題にもなった。欧米ではプラスチック製品に対する取り組みはすすんでいる。日本でもようやく、環境省が中心になってすすめていくようだ。


 国内の河川で初めて、マイクロプラスチック調査

 最近ではマイクロプラスチックという小さなプラスチックが注目されている。マイクロプラスチックは、大きさが5ミリメートルより小さいプラスチックのごみだ。もとから小さい場合もあれば、砕けて小さくなったものもある。

 海岸にポリタンク、発泡スチロールなどのプラスチックごみが大量に打ち上げられているという話は昔からあるが、近年、マイクロプラスチックについての調査や研究が進み、さらに主要国の首脳会議で取り上げられたこともあり、ここにきて一気に世界的な社会問題になった感じだ。

 マイクロプラスチックの話は海を対象にしたものが多い。だが、忘れてはいけないのが川だ。河原を掃除する催しでは、たくさんのペットボトルやレジ袋が集まる。それらが、大雨のときなどに流されて海に出る。これらが海で小さく砕けてマイクロプラスチックになる。もちろんそうしたマイクロプラスチックもあると考えられているが、それ以前の川の段階で、すでに相当数のマイクロプラスチックが流れていることが、東京理科大学の片岡智哉(かたおか ともや)助教らの全国調査で初めて確認された。

 片岡さんらは2015年8月から2018年5月にかけて、北海道から沖縄県まで日本全国の29河川36地点でマイクロプラスチックの調査を行った。プランクトンを採取するためのネットを川面に下ろし、1立方メートルの水に含まれるマイクロプラスチックの個数を調べた。

 その結果、26河川31地点でマイクロプラスチックが見つかり、全体の平均個数は川の水1立方メートルあたり1.6個だった。日本近海のマイクロプラスチックは海の水1立方メートルあたり3.7個という報告が過去にあり、それに比べると少なかったが、今回の調査では場所や季節により個数に大きな幅があった。もっとも多かったのは千葉県の手賀沼に注ぐ大堀川の平均12個。片岡さんによると、多いときには50個にもなったという。

 マイクロプラスチックは関東などの都市部を流れる河川で多かった。これらの川は、たとえば汚れを分解するために必要な酸素量を示す「生物化学的酸素要求量(BOD)」の値も高く、汚れたきたない河川ほどマイクロプラスチックの量も多いことが確認された。

 また、交通量の多い道路の近くに植えてある街路樹の根元の土を調べたところ、小さく砕けた多数のマイクロプラスチックが見つかった。片岡さんによると、これらが雨水とともに側溝に流れこみ、そのまま川や海に出ていく可能性もあるという。

 これまで日本は、プラスチックごみを「資源」としてアジアの国々に輸出してきた。しかし、中国は2017年に輸入を規制する方針を発表し、タイもそれに続いている。プラスチックごみは、行き場を失いつつある。10年後、片岡さんらの調査をはるかに上回る数のマイクロプラスチックがあちこちの河川で確認された――。そんなことにならないよう、社会の意識を変える早めの対策が必要だろう。


市街化が進み汚れた川ほど、マイクロプラスチックの濃度も高かった

 東京理科大学理工学部土木工学科・片岡智哉助教,二瓶泰雄教授及び愛媛大学工学部環 境建設工学科・日向博文教授の研究グループは,マイクロプラスチック(Microplastics, MP)という微細なプラスチックの汚染状況に関して日本全国の 29 河川 36 地点におい て調査する...という世界でも稀な大規模調査を実施しました。

 その結果,29 河川中 26 河 川(全体の 9 割)にて MP が発見されました.また,河川流域の人間活動の影響が大き いほど,河川の MP 汚染が進行していることを世界で初めて明らかにした。

 これにより、海洋の MP 汚染問題の解決には、発生源である陸域における MP 及びプラスチッ クごみ削減対策の実施がより一層重要であることが示された。本研究成果は Elsevier の国際学術雑誌「Environmental Pollution」に 10 月 29 日付けで掲載された。(https://doi.org/10.1016/j.envpol.2018.10.111)

 本研究は、日本学 術振興会科研費・若手研究 A(17H04937)の助成、並びに公益財団法人河川財団の河川基金助成事業によって実施された。


 マイクロプラスチックとは何か?

 マイクロプラスチック(MP)は、0.3〜5.0mm の微細なプラスチックであり、海洋環境中に低濃度に浮遊し、疎水性をもつ残留性有機汚染物質を高濃度に吸着するという特徴をもつ。有害物質を高濃度に吸着した MP が食物連鎖に取り込まれることで海洋生態系の汚染因子として危惧されている。

 この懸念の拡大により、2018 年 6 月にカナダ・シャルルボワで開催された先進 7 カ国(G7)首脳会議(サミット)では、「海洋プラスチック憲章」が提起された。

 一方、我が国の周辺海域には、世界平均の 27 倍の濃度で MP が高集積している「MP の ホットスポット」であることが報告されている。プラスチックは陸域で消費されることから、陸域で発生した MP が河川を介して海洋に流出していることが想定されるが、現時点で国内河川における MP 調査は限定的であり、国内河川の MP 汚染実態は明らかになっていなかった。


 プランクトンネットで、マイクロプラスチック調査

 本研究では、国内河川の MP 汚染実態を明らかにするため、国内 29 河川 36 調査点(図 1)で平常時に橋梁から簡易プランクトンネットを下ろしてMPを採取した。このような多くの河川、地点数でのMP 調査は、世界でも類を見ない大規模な調査。

 この調査の結果、26 河川 31 調査点(86%)で MP が見つかった。本研究の調査点におけ るMP 濃度の平均値は1.6 個/m3であり、世界平均の 27 倍に相当する日本周辺海域 の平均 MP 濃度(3.74個/m3)に対して約半分のMP 濃度であった。

 MP 濃度は、かつて湖沼水質ワースト1 であった千葉県手賀沼に注ぐ大堀川で最も高く、12個/m3だった。調査地点によって MP 濃度がなぜ異なるのかを明らかにするため、調査点より上流の河 川流域の情報として人口密度,市街地率と比較したところ、MP濃度と両者 には有意な正の相関関係があった。

 このことから市街化して人口密度が高い河川ほど MP濃度が高いことがわかった。人口密度や市街地率は人間活動の活発さの指標であるため、人間活動がより活発な河川ほど、MP 濃度が高くなっていると言える。すなわち、本研究により、人間活動と河川のMP汚染の関係性が実証された。

 また,MP 調査点近傍で測定された公共用水域水質測定結果の年平均値と比較したところ、生物化学的酸素要求量(BOD)、溶存酸素量(DO)、全リン(T-P)、及び全窒素(T-N)と有意な相関関係があり、人為的影響が大きい河川ほど MP 濃度が高いという結果だった。

 MP 濃度と河川水質は、河川の流れの状態に応じていずれも時間的に変動が大きいと考えられることから、MP 観測点近傍の公共用水域水質測定点における環境省が定める「水質汚濁に係る環境基準水域類型」に基づき、平均MP濃度を 算定したところ、汚濁レベルの高い類型ほど MP 濃度が高い結果となった。 以上の調査結果から、人口密度が高い市街地を流下する汚濁河川ほど MP 濃度が高いことがわかった。

 本研究により,河川流域の人間活動の影響が大きいほど,河川の MP 汚染が進行してい ることを世界で初めて明らかにしました.これにより,海洋のMP 汚染問題の解決には,発生源である陸域における MP 及びプラスチックごみ削減対策の実施がより一層重要である ことが示された。本研究では MP 濃度の計測に留まっているため、今後は国内河川から海洋に流出するMP 輸送量を明らかにしたいと考えている。そのため、現在洪水時における MP 濃度 の計測、並びに河川横断面における MP 濃度の分布の計測を行っている。


参考 サイエンスポータル: https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/11/20181105_01.html


プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する
クリエーター情報なし
NHK出版
DAYS JAPAN 2017年11月号 (特集シリーズ 「豊かな暮らし」の向こう側 「使い捨て」がもたらす世界 海がプラスチックに支配される日)
クリエーター情報なし
デイズジャパン