IWC脱退 商業捕鯨を再開する日本の今後

 最近気になる話題として、日本の国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退がある。鯨の肉というと私ぐらいの世代になると、学校給食の時、時々食べていた記憶がある。独特の味が私は好きだった。

 いつの間にか普及した牛肉とともに、忘れられた存在になっていった。昔は牛肉は高くてなかなか入手できず、鯨の肉は貴重なタンパク源だった。なぜ今、商業捕鯨の再開なのだろうか?

国際捕鯨委員会(IWC)は当初、クジラの肉などを利用する捕鯨国が多くを占めていたが、その後、クジラの数が減って、捕鯨をやめたり、捕鯨に反対する国の加盟が増えたりして、対立が激しくなっている。

 そして1982年には、肉などを利用するためにクジラを捕獲する「商業捕鯨」の一時停止が決議された。日本は、異議を申し立てていたけど、1988年に決議を受け入れ、商業捕鯨を中断せざるをえなくなった。

 日本はその後、IWCが管轄しない小型クジラの沿岸捕鯨が、一部の地域で行われている。それと「調査捕鯨」。クジラの資源量や生態などを調査するための捕鯨は認められていて、捕ったクジラの肉などがスーパーなどで売られている。

 政府は、脱退の効力が発生する来年7月から商業捕鯨が再開できるとしている。ただ、捕鯨を行うのは、日本の領海とEEZ=排他的経済水域に限定して、南極海や南半球では行わないし、IWCで決められた方式で計算した捕獲枠の範囲内にとどめる方針。

 また、国際法で捕鯨は「国際機関を通じて行うこと」と定めているから、政府は、今後も「オブザーバー」という形でIWCの総会や科学委員会に関わっていくことで、条件を満たしていきたいとしている。

 世界人口が70億人を超え、食糧難が懸念されるなか、私は新しい食材が次々に開発される方が望ましいと思う。クジラの肉を食べることには賛成だ。だが日本ではクジラの肉を食べたこともない世代が増えている。また、日本が国際的な機関から脱退することで、ほかの国との関係悪化を懸念する声も聞かれる。商業捕鯨を産業として発展させるのもハードルは高い。

 商業捕鯨の再開を提案する日本、反対する欧米

 2018年12月26日、菅義偉官房長官は、日本が国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)で商業捕鯨を2019年7月から再開することを決定したと発表した。世界で89カ国が加盟するIWCは、クジラを保全し、世界の捕鯨を管理することを目的とする国際機関で1946年に設立。1986年には商業捕鯨を禁止している。

 動物の苦痛を軽減するために活動する非営利団体、動物福祉研究所と、国際的な野生生物犯罪を追跡する環境調査エージェンシーの報告書によると、日本は鯨肉の主要な市場だが、消費量は少なく、国全体での年間消費量は4000~5000トン、1人あたりの消費にすると年間30g程度だという。

 クジラとイルカの保護に取り組む英国の非営利団体「ホエール・アンド・ドルフィン・コンサベーション」の捕鯨プログラムマネジャーのアストリッド・フックス氏は、このニュースが正式に確認される前に、日本がIWCを脱退する主な理由は政治的なもので、自国の海は好きなように利用できるというメッセージを送るためだろうと述べている。

 フックス氏は、捕鯨国の中で指導的地位にある日本がIWCを脱退したことで、韓国やロシアなどの捕鯨国がそれに続く可能性があると指摘する。 

 商業捕鯨の禁止後も、国際社会は、生物学者がクジラの繁殖状況、胃の内容物、環境変化の影響などを科学的に調べるための調査捕鯨を例外として認めていた。日本は長年、調査捕鯨として捕獲したクジラの体の一部を研究者に提供し「残りの部位は食用に販売している」と批判されていたのだ。

 国際的な動物愛護団体ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナルのキティ・ブロック会長は、「日本は商業捕鯨の一時禁止の取り決めと、国際的な市民の意思を長年にわたり軽んじてきたのです」と語っている。

 IWCの総会で、商業捕鯨の提案は再度否決

 2018年9月に開かれたIWCの総会で、日本は商業捕鯨の再開を提案。しかし、投票で否決された。 

 「商業捕鯨の再開のために、日本は多額の資金を投入してきました」とフックス氏は言う。「日本政府には、この総会の提案で国内の世論に働きかけられる期待している人もいました」

 総会後、日本の谷合正明農林水産副大臣は、IWCからの脱退の可能性を示唆した。

 日本は過去にも同様の示唆をしている。しかし、フックス氏は今回、これまでとは違うものを感じたという。「商業捕鯨を受け入れられなければ、本当に脱退するつもりなのだなと感じました」

 ブロック氏も同じ見方をしていた。「脱退をほのめかすのは、日本の常とう手段でした。何年も前から繰り返していましたが、今回は本当になりました」

 IWCから脱退することで、日本は今後、IWCが許可してきた公海(どの国にも属さない海域)での調査捕鯨ができなくなる。国連海洋法条約は、日本を含む署名国に、海洋哺乳類保護のための「適切な国際組織」を通じて活動することを要請しているからだ。IWCこそ、その組織であるというのが各国の法律学者の一般的な見解で、IWCに加盟していない国にとってもその点は変わらない。日本がIWCから脱退すれば、自国の領海とEEZでなら、監督なしに捕鯨を再開できることを意味する。

 日本のIWC脱退は、南極海のクジラにとっては良い知らせになった。日本は2016年には南極海で300頭以上捕鯨している。その中には200頭以上の妊娠した雌も含まれていた。

 もちろん、日本の海域に生息するクジラにとって、日本のIWC脱退は悪い知らせだ。なかでも心配されているのは、日本の海域の「日本海・黄海・東シナ海系群(J ストック)」のミンククジラである。ミンククジラが標的となったのは、他のクジラに比べて個体数が比較的多く、商業捕鯨がさかんだった1970年代にもあまり減少しなかったからである。

 環境保護団体グリーンピースの批判 

 国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区、以下グリーンピース)は12月20日、商業捕鯨再開のため日本政府が国際捕鯨委員会(IWC)から脱退する方針を固めたとの報道を受け、それを批判する下記の声明を発表した。

 グリーンピース・ジャパン事務局長のサム・アネスリー事務局長は次のように述べた。

 「今回の方針は、世界との歩調を乱す重大な間違いであり、グリーンピースは日本政府にその方針を再検討するよう求めます。

 多国間主義を無視することは容認できず、強く懸念します。また、過去にわたって、日本の捕鯨船が国際司法裁判所(ICJ)の判決を侵害し、捕鯨を継続してきたことを忘れてはいけません。

 日本政府は、鯨類の保護と回復を目的とした保護活動において、IWCとの協力に失敗してきた歴史があります。大規模な商業捕鯨が30年以上前に終了したにも関わらず、クジラの多くの種はまだ健全なあるべき頭数に回復していません。

 過去に、オランダのような国がIWCを離脱したのち、再度加盟したことがあります。世界の海洋および海洋生物の保護には、世界的な協力が必要です。グリーンピースは、日本政府が今回の脱退の方針を撤回し、人間活動によるクジラの頭数減少の回復に努めている国々に続くことを望みます。」

 まるで「生類憐みの令」が世界中で起きているかのような言い方だ。世界人類が70億人を超え、今も飢えている人たちが何億人もいる。食糧確保が大変な状況にもかかわらず、欧米諸国は何か食料対策を考えているのだろうか?日本と欧米の捕鯨問題は平行線を辿っている。

参考 BBC news:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35529672

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