台風1号発生!気象庁の監視域外へ出て21年ぶりにサイクロンに

 先日、台風1号が発生した。その後、1月5日(土)0時には、マレー半島のタイ付近で東経100度を越えたことで気象庁の監視域から外れ、台風でなくサイクロンになった。台風が勢力を維持したままインド洋域へ出たのは、1997年11月の台風26号以来で、約21年ぶりのことだ。

 台風の数え方はその年の始めから1号、2号と数えていく。今回の台風ずいぶんと早い時期に発生したようだが、もっと早い台風もある。それが1979年の台風1号で、1月2日0:00UTC(日本時間午前9時)に発生している。

 台風の定義は、北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在する熱帯低気圧で、低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s以上のもの、とされる。

 台風が気象庁の監視域外から出るのは、インド洋域へ出る場合だけではない。台風の勢力を維持して太平洋の180度経線を越えて西経域(中部太平洋域)に出る場合も「域外へ出る」扱いとなる。この場合、監視担当機関はアメリカの中部太平洋ハリケーンセンター(CPHC)へ変更となり、強度が基準以上と認められた場合は「ハリケーン」や「トロピカルストーム」になる。

 これとは逆に、西経域からハリケーン等が入ってくる事があり、数年に一度の頻度で台風になっている。この場合はいわゆる「越境台風」と呼ばれる。

 また、台風は地球の自転による「コリオリの力」によって渦を巻いている。コリオリの力は、北半球と南半球では逆向きに働くため、南半球の熱帯低気圧は渦が逆向きとなる。赤道直下ではコリオリの力が働かないため、台風が出来ることはない。同様に、北半球で発生した台風が、赤道を越えて南半球へ出ることもない。

 台風の名前は、国際機関「台風委員会」の加盟国などが提案した名称があらかじめ140個用意されていて、発生順につけられている。台風1号のパブーク(Pabuk)は、ラオスが提案した名称で、淡水魚の名前に由来する。台風の名前は監視担当機関が変わった後も引き継がれるため、今回もインド洋域で用意された独自の名前ではなく、パブークがサイクロン名に引き継がれた。

 どうして天気予報ができるのか?

 最近は天気予報がよくあたるようになった。観測技術の向上で、台風の進路もほとんど外れることはない。凄いものだと思うが、いったいどうやって天気予報を出しているのだろうか。

 天気予報は、いろいろな情報を集めて判断している。基本的には全国各地にあるアメダスによる雲量・気温・湿度・気圧・風向・風力などによる気象データをもとに天気図を作成、低気圧、高気圧、前線の位置を特定、その時間的変化をもとに天気を予測しているがそれだけではない。

 現代における天気予報は、気象のメカニズムを解明する気象学の発達と並んで、多種多様で世界的な気象観測網の構築、コンピューターの発展に支えられた数値予報インフラの整備、そして情報を一般に広く伝えるメディアなどによって支えられ、運用されている。

 観測・情報収集・研究に関しては、研究機関や大学、防災担当の国家機関、世界各国の気象機関、世界気象機関(WMO)や国際民間航空機関(ICAO)・国際海事機関(IMO)等が担う部分も大きく、連携して行われている。世界各国においても、同様に法的な規定をもって責任機関を定め、気象に関する業務を担当させている。観測や情報収集には国際協力が不可欠であり、ノウハウの少ない途上国に対しての予報支援などの協力も行われている。

 数値予報が台頭してくるまで、天気予報は観測記録をもとにした過去のノウハウや経験則の蓄積に頼る部分が大きく、予報官の経験に左右されるところが大きかった。数値予報の登場によって解析業務の負担が軽減されるとともに、精度が向上して予報の幅も広がってきている。近年は、予報業務の自由化(民間開放)も進められている。また、観測の自動化・無人化も急速に進んでいる。なお、日本では気象予報業務の国家資格として気象予報士があり、予報業務を行うに当たってこれを取得するのが一般的である。

 近年の天気予報は、ゲリラ豪雨や激化する猛暑などに代表される気象災害の増加・変化やニーズの変化への対応、ENSOやAO等の最新知見を取り入れた予報精度の向上などが大きなテーマとされている。そのため、そういった豪雨などの異常気象、ENSOやAOなどの気候パターン、地球温暖化などの気候変動の解明が求められているほか、気象機関は市民に対して天気や気候変動に関する説明・解説を行う一定の責任も負っている。

 熱帯低気圧のタマゴをAIで高率に検出することに成功

 最近、なにかと話題の人工知能(AI)も、気象学に応用するための研究が急速に進んでいる。AIが得意とする「深層学習」により画像のパターンを見分ける手法も、そのひとつだ。

 この分野の情報処理に詳しい海洋研究開発機構の松岡大祐(まつおか だいすけ)技術研究員は、「1年ほど前までは、人間にできることを、AIにもやらせてみようとしていた。最近は、人間にできないことをAIで実現する可能性を探る研究が出始めている」という。

 松岡さんらの研究グループがこのほど発表した論文は、やがて台風になるかもしれない熱帯低気圧を、まだその手前の「熱帯低気圧のタマゴ」の段階でAIに発見させることをテーマにしている。

 地球温暖化や台風などの気象を研究するために使っている「道具」は、いまのところおもに物理学だ。そのなかでも中心になるのは「力学」。

 物体に力が加えられたとき、その物体がどちらの向きにどのようにスピードを変化させるか。それを数式の形で整理してある。台風の中心は気圧が低いので、外から内向きに大気を押す力が働く。そのとき大気はどう動くのか。実際に台風の予報で使われる数式にはたくさんの種類があり、とても複雑なのだが、「こういう原因があれば、その結果としてこういう現象が起きる」という因果関係が基本になっている。これが、まさに力学の考え方だ。

 AIを使ったパターン認識で台風のタマゴを予測

 そこにいま、AIを使ったパターン認識が加わってきた。「深層学習」では、この因果関係を基本にしていない。

 小さな子ども、とくに男の子は乗り物が大好きだ。大人が「2本のレールの上を走っていて架線からパンタグラフで電気を取るのが電車」「レールがなくても道路を走れて、黒いタイヤが四つあるのが自動車」などと理屈を教えなくても、何度となく電車と自動車を見ているうちに、その両者を確実に区別するようになる。

 これが「学習」だ。なにが「原因」となって、電車と自動車を区別できるという「結果」が生じたのかわからなくても、ともかく区別できるようになる。この人間の脳のしくみをコンピューターにまねさせるのが深層学習だ。ある結果が生じれば、どうしてもその原因を突き止めたくなる物理学の流儀とは、まったく別の行き方だ。

 ものの考え方からすると、物理学を基本とする従来の気象学と深層学習はなじみが悪い。だが、実際の台風予報では、その両者はすでに共存している。観測機器の乏しい洋上の台風の強さは、気象衛星が撮影した画像をもとに、雲の形などから人間が判断している。この「ドボラック法」は、まさに人間の「学習」によって生み出されたパターン認識の技法だ。同様のことをAIにやらせたら、熱帯低気圧やその手前の「タマゴ」を上手に発見できるのではないか。それが松岡さんらの研究だ。

 松岡さんらがAIに学習させるために使ったのは、全地球の気象状態をコンピューターでシミュレーションした約30年分のデータだ。もちろん、この中には、熱帯低気圧などの雲も再現されている。まず、このうち20年分から、熱帯低気圧のタマゴや発達中の熱帯低気圧の雲画像を5万枚用意した。熱帯低気圧にならない雲の画像も100万枚あるので、そのうちから5万枚ずつ10組を用意し、それぞれにさきほどの熱帯低気圧の画像5万枚を組み合わせた。つまり、「熱帯低気圧(5万枚)か否(5万枚)か」の10組の画像データ集が用意されたことになる。熱帯低気圧の5万枚は共通だ。

 この10組のデータを使って、AIによる10通りの「熱帯低気圧識別器」を作った。それぞれに10万枚の雲画像を読み込ませ、「これは熱帯低気圧」「これは違う」と覚えこませるのだ。そして、この学習に使っていない新たな雲画像を識別器に見せ、それが熱帯低気圧かどうかを判定させる。それぞれの識別器は別々のデータで学習させてあるので、識別能力に若干の違いがある。その総合評価で、最終的な判定を下す。ちょうど、雲画像を見た10人の人間が合議で判定するようなものだ。

 その結果、たとえば、10通りの識別器がすべて「熱帯低気圧またはそのタマゴ」と判定した場合だと、実際に発生していた9個のうち8個が正しく検出されていた。約9割の高い捕捉率だ。風がやがて強まって熱帯低気圧になる3日半も前のタマゴも捉えられていた。また、「熱帯低気圧またはそのタマゴ」と判定したのに外れた「空振り率」は、約1割と低かった。

 台風や熱帯低気圧の発生数が多く、個々の寿命が長い海域や季節で的中率が高いこともわかった。夏から秋にかけての北西太平洋では好成績だという。

 松岡さんによると、雲画像を見て人が判定するよりAIの捕捉率は高い傾向にあるという。ただし、今回の研究で学習に使ったのはシミュレーションによるデータなので、雲画像のほかにさまざまなデータがそろっている。その点で、実際の衛星画像だけを使う方法より有利だ。今回の研究は、熱帯低気圧の検出にAIが使える可能性を示した。松岡さんらは今後、実際に観測されたデータにもとづく方法についても検討を進めていくという。

参考 サイエンスポータル: https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/12/20181227_01.html

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