日本版GPS体制の本格運用始まる

 「みちびき」は日本上空に長くとどまる準天頂軌道をとる衛星で、2010年に1号機が打ち上げられた。従来のGPS衛星と一体で運用でき、GPSの電波が届きにくい山間部や高層ビルが立ち並ぶ場所でも安定して精度が高い位置情報が得られる。現在4機体制となり安定運用が可能になったため18年11月にサービスを開始した。2023年度をめどに7機体制にする予定。そうなれば日本上空に必ず4機が存在し、米国GPSに依存しない継続測位が可能になる。

 日本版の衛星利用測位システム(GPS)を担う衛星「みちびき」4基体制の本格運用が2018年11月1日からスタートした。まだ米国のGPS衛星も活用しているが、「みちびき」の参加により、山間部や高層ビルの谷間などで生じていた位置表示の乱れや大きな誤差の問題が大きく改善される。今後は幅広い分野で正確な位置情報の活用が可能になるという。

 「みちびき」は、2010年9月に1号機が、17年の6月、8月、10月にそれぞれ2、3、4号機が相次いで打ち上げられた。1,2,4号機は日本からオーストラリアにかけた上空で8の字を描く「準天頂軌道」を周回する。3号機は静止軌道を飛行している。4号機の打ち上げ成功で、日本版GPSの本格運用に必要な4基体制になり、その後さまざまな試験が行われてきた。

 内閣府の宇宙開発戦略推進事務局によると、「みちびき」4基の本格運用が始まったことにより、常時少なくとも1つの衛星は、日本のほぼ真上の軌道を飛行する。このため、これまでは米国GPS衛星からの信号受信が遮られる高層ビル街や山間部でも安定して高い精度の位置情報が得られる。米国GPS衛星に不具合が生じると社会、経済活動への影響も懸念されたが、今後はそうした心配は不要になる。

 このほか、「みちびき」が発信する「補強信号」と呼ばれる特殊な信号を受信できる専用の装置を取り付ければ位置表示の誤差を6センチ程度にまで縮めることが可能になるという。これにより、自動車の自動運転の実用化や、田畑で無人で移動する新たな農作業機械の誕生、さらに正確な位置情報が不可欠な小型無人機ドローンによる宅配といった幅広い分野での活用に期待が寄せられている。

 ただし、この専用装置は現状ではまだサイズが大きく、高価なものが多いため、スマートフォンなどには搭載できない。今後、「誤差数センチ」の位置表示を広く利用、普及するためには、専用装置の小型化とコストダウンが課題となる。

 GPSとは何か?

 グローバル・ポジショニング・システム(Global Positioning System, Global Positioning Satellite, GPS、全地球測位システム)とは、アメリカ合衆国によって運用される衛星測位システム(地球上の現在位置を測定するためのシステムのこと)を指す。

 ロラン-C(Loran-C: Long Range Navigation C)システムなどの後継にあたる。 アメリカ合衆国が軍事用に打ち上げた約30個のGPS衛星のうち、上空にある数個の衛星からの信号をGPS受信機で受け取り、受信者が自身の現在位置を知るシステムである。

 元来は軍事用として開発されていたが、大韓航空機撃墜事件の発生後、運用が開始されれば民間機の安全な航行のために非軍事的な用途(民生的用途)でも使えるよう開放する事がレーガン大統領により表明された。その後、民生運用に足る精度を満たした「初期運用宣言」は1993年に、軍事運用可能な精度を満たした「完全運用宣言」は1995年に成された。

 GPSは地上局を利用するロラン(LORAN)-Cと異なり、受信機の上部を遮られない限り、地形の影響を受けて受信不能に陥る事が少ない。

 GPS衛星からの信号には、衛星に搭載された原子時計からの時刻のデータ、衛星の天体暦(軌道)の情報などが含まれている。GPS衛星からの電波を受信し、その発信時刻を測定し、発信と受信との時刻差に、電波の伝播速度(光速)を掛けることによって、その衛星からの距離がわかる。

 もしもGPS受信機に搭載されている時計の誤差が100万分の1秒あったとしたら、距離の誤差は300mにも及んでしまう。そこで、多くの受信機は4つ以上のGPS衛星からの電波を受信することで現在時刻を頻繁に校正し、正確な受信時刻と受信機座標(3次元空間上の点)とを測位計算により同時に求める。

 GPS衛星は約20,000kmの高度を一周約12時間で動く準同期衛星である(静止衛星ではない)。いくつかの軌道上に打ち上げられた30個ほどの衛星コンステレーションで地球上の全域をカバーできる。また中地球軌道なので信号の送信電力としても有利であり、ある地域からみても刻々と配置が変化するため、全地球上で誤差を平均化できる(地域によってはカバーする衛星の個数が常に少ない場合もある)。

 GNSSとは何か?

 最近ではGPSではなく、GNSSという言葉が使われるようになった。衛星測位システム(英:Satellite positioning system) は、人工衛星から発射される信号を用いて位置測定・航法・時刻配信を行うシステムをいう。

 地理空間情報活用推進基本法(平成19年法律第63号)の第二条4項に「衛星測位」が定義されている。これによれば「人工衛星から発射される信号を用いてする位置の決定 及び当該位置に係る時刻に関する情報の取得 並びにこれらに関連付けられた移動の経路等の情報の取得をいう」と規定されている。この規定に基づいて日本では「衛星測位システム」と呼ばれることが多い。

 2011年(平成23年)4月からは国土地理院では全地球型のシステム(全地球航法衛星システム)を、GNSSと呼称することになった。

 よく誤解されるが、GPSはあくまでも衛星測位システムの中の1つ(米国のシステム)であり、一般の衛星測位システムそのものを指すものではない。また一般の航法衛星を指して「GPS衛星」と呼ぶことも誤用である。

 日本の政府文書や産業文書では、「測位衛星」と呼ばれている。 衛星航法のシステムを指す一般的な用語としては「航法衛星システム」"Navigation Satellite System" (NSS) が用いられることがある。

 英語圏では、その衛星を「航法衛星」"navigation satellite" と呼ぶ。日本では「衛星航法システム」"satellite navigation system" も使用される。

 また、衛星システムとは、「人工衛星」(宇宙セグメント)および「地上系」(管制セグメント)からなるもので、利用者セグメントは含まれないのが通常である。そのため、「航法衛星システム」には、利用者セグメントが含まれず、インフラ側のシステムを指している。

 これに対して、「衛星測位システム」には、利用者セグメントが含まれている。2000年代以降、インフラ側は政府や特定企業が構築することが多くなり、産業上の責任を明確にするため、「衛星システム」と「利用者セグメント」を区別することが重要になってきた。「衛星システム」と「利用者セグメント」を合わせたものが「衛星測位システム」である。

 QZSSとは何か?

 準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System、QZSS)は、日本及びアジア太平洋地域向けに利用可能とする航法衛星システムである。

 内閣府の特別の機関の宇宙開発戦略推進事務局が、準天頂衛星を用いてシステム構築した。2010年9月11日に準天頂衛星初号機みちびき (QZS-1)が打ち上げられた。2016年4月の宇宙基本計画で、2017年に衛星3機が追加で打ち上げられ、2018年に4機体制でシステムを運用開始し、さらに2020年に初号機の後継1機と2023年に衛星3機を追加して7機体制で運用することが閣議決定された。

 衛星測位において、利用者の受信機の位置を測定するためには、4機以上の人工衛星から信号を受信することが必要であり、高精度な測位には、8機以上からの受信が望ましい。

 しかし、日本では山間部や、高層建築物が立ち並ぶ都市部が多く、平地が少ないため低仰角の人工衛星から信号を受信することが難しく、現状のGPS衛星のみでは見通しが遮られ、利用者位置から見た可視衛星数が少なくなり、測位精度が落ちたり、不可能となる場合がある。

 仮に、現在30機程度を運用中のGPSに対して、GPS衛星もしくはGPS互換衛星を10機程度追加すれば、可視衛星が増えることが期待され、測位が可能となる場合が増えるが、現在数以上の人工衛星を既存のGPSに追加することは、アメリカ合衆国連邦政府自身にとって費用対効果が悪く、実現の見込みは薄い。

 そこで、日本の準天頂衛星システムでは、GPS衛星とは異なる軌道を持たせることで常時可視衛星を増加し、より高精度の測位を可能とするために準天頂衛星を3機以上用意して、日本の真上を通る軌道から測位信号を送信することで、地上から高仰角で観測できる準天頂衛星を常に1機以上は見通せることができるようにする。

 上下非対称の8の字(numeral-"8"-shaped)軌道をとる場合、東京都区部では常に70度以上の高い仰角で1機以上の準天頂衛星を見通すことができる。

 そして、準天頂衛星からの信号とGPS衛星からの信号と組み合わせることで、測位できる場所や時間帯を、複数のGNSSの統合運用と同等程度に広げることができる。また、日本の利用者はGPS信号を捕捉するまで、30秒~1分ほどかかっていたのが15秒程度に短縮できる見込みでもある。

 準天頂衛星システムでは、専用の測位信号を受信・処理できるように改修・開発した受信機が必要である。また準天頂衛星は高高度軌道にあるので、人工衛星からより強い電波を送信する必要がある。

 このため衛星が大型化されており、これにより衛星を打ち上げるロケットも高性能なものが必要とされる。さらに各準天頂衛星は、衛星軌道面が全く異なるため、GPS衛星(ナブスター衛星)のように、複数機を1機のロケットで同時に打ち上げることも難しい。これらの結果、準天頂衛星システムの構築にはより高度な技術と多額の費用がかかる。

参考 日刊工業新聞: https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00504496

GNSS – Global Navigation Satellite Systems: GPS, GLONASS, Galileo, and more
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図解よくわかる 衛星測位と位置情報
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