小惑星「リュウグウ」の目的

 優れた日本の科学技術が快挙を達成した。2019年2月22日、地球から3億キロ以上も遠い小惑星「りゅうぐう」に探査機「はやぶさ2」が着陸に成功した。

 リュウグウ(竜宮)は、地球近傍小惑星で、軌道が地球と火星の間にある。将来的に地球に衝突する恐れもあるアポロ群の小惑星である。

 発見は1999年5月10日。小惑星は、太陽の光を反射して輝いているが、小惑星からの光のスペクトルを調べると、いくつかのグループに分類できることがわかる。

 前回の「はやぶさ」が探査した「イトカワ」は、主な材料が岩石質と推定される「S型小惑星」に分類される(Sは石質を意味する英語のStonyまたはケイ素質を意味するSilicaceousに由来)。これに対して、「はやぶさ2」が目指しているのは、表面の岩石の中に有機物などを多く含むと考えられている「C型小惑星」であるリュウグウである(Cは炭素質を意味するCarbonaceousに由来)。

 C型小惑星はS型小惑星よりも「始原的(太陽系初期の情報を多く保っている)」とされている。小惑星の多くは、火星と木星の間の「小惑星帯」とよばれる部分に存在している。その中でも太陽からの距離が近いところにはS型小惑星が多く分布しており、小惑星帯の中程にはC型小惑星が多く分布している。さらにより遠くの木星の軌道に近いあたりには、C型よりもさらに始原的な天体と考えられるP型やD型小惑星という天体が存在している。

 火星や地球など、太陽系の内側にある惑星は「地球型惑星(岩石惑星)」と呼ばれている。「S型小惑星」を探査することによって、これら岩石質の惑星たちの原材料の手がかりが得られる。これまで、S型小惑星は、地球上で最もたくさん発見されている隕石である「普通コンドライト」のふるさとではないかと予想されていたが、それを立証する手立てはなかった。

 2005年、小惑星探査機「はやぶさ」はS型小惑星「イトカワ」に到着し、その観測データからこの予想が正しいことを示した。さらに、2010年、「はやぶさ」はイトカワの物質を地球に持ち帰ることに成功した。その物質を分析したところ、S型小惑星が普通コンドライトの母天体であることが完全に証明された。

 小惑星「リュウグウ」は、1999年5月10日に米国のLINEARプロジェクトによって発見された。これは「イトカワ」を発見したプロジェクト。仮符号は1999 JU3というもので、軌道が正確に推定されたときに162173番という確定番号が付与された。

 1999 JU3は、「はやぶさ2」が最初に提案された2006年から探査候補に挙げられていたが、「はやぶさ2」が2014年12月に打ち上げられた後の2015年9月に、「リュウグウ」という名前が付けられた。

 これは、JAXAが名前を公募した中から選ばれたもので、LINEARプロジェクトから国際天文学連合に提案していただき、正式に認められたもの。 リュウグウの軌道はイトカワの軌道と似ていて、地球と火星の間を公転するような軌道になっている。

はやぶさ2、遠い小惑星りゅうぐうに着陸

 地球から約3億4千キロメートル離れた小惑星「りゅうぐう」上空に昨年6月に到達していた日本の探査機「はやぶさ2」が、りゅうぐうに22日午前7時半ごろに着陸に成功した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトチームは探査機が上空に到達してから、2台の小型探査ローバを放出、着陸させるなどして着陸地点を慎重に検討してきた。

 着陸後は探査計画の最大の目標である試料を採取。地球から遠く離れた小惑星での難作業への挑戦は成功した。先代の「はやぶさ」に続く偉業、快挙だ。着陸成功が確認された後の記者会見でJAXAの担当者は「本日人類の手が新しい小さな星に届きました。想定した中ではベストの状態で着陸ができた」などと安堵の表情で語った。

 JAXAによると、着陸地点はりゅうぐうの赤道付近にある幅6メートル程度の狭い場所で「トリトニス」と名付けられている。これまでの事前調査では、りゅうぐうの地表面は岩が散在し、平たんな場所が少ないことが判明。当初は昨年10月に着陸する予定だったが、これを延期して慎重に着陸作戦を練ってきた。

 はやぶさ2はりゅうぐうの上空20キロに待機していたが、21日から少しずつ降下し、搭載コンピューターが自律的にコントロールして着地。着陸と同時に機体の底から筒状の装置を延ばして金属の弾丸を発射、舞い上がる砂ぼこりを採取。採取後はすぐに上昇して再び上空で待機している。

 はやぶさ2とは何か? 

 はやぶさ2は、りゅうぐう上空に到達した後に放出した2台の小型探査ローバは2台合わせて「ミネルバ2-1」と呼ばれていたがその後、「イブー」と「アウル」と命名されている。今年11~12月までさまざまな探査を実施。探査終了後、地球への復路を飛行し、2020年末にオーストラリアの砂漠上に試料を収めたカプセルを落とす計画だ。

 はやぶさ2は、世界で初めて小惑星から岩石を採取して地球に持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」の後継機で重さは約600キロ。推進装置はイオンエンジンで、光学カメラやレーザー高度計など先端技術を駆使した機器類や着陸機を積んでいる。

 2014年12月に鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられた。地球とほぼ同じ軌道を周回した後打ち上げ約1年後に地球に最接近。地球の重力を利用する「地球スイングバイ」で方向を変えて太陽の方向に飛行を続け、昨年6月27日に「りゅうぐう」上空に到達した。それまでの飛行距離は約32億キロにも及んだ。

 「りゅうぐう」は、地球と火星の軌道付近を通りながら1年余りをかけて太陽の周りを回っている1999年に発見された小惑星。はやぶさ2の観測でそろばん玉のような形をしていることが判明している。地球との距離は変化するが現在は約3億4千キロ離れている。幅は約900メートル。先代のはやぶさが調べた小惑星イトカワの2倍ほど。水分や有機物を含む岩石が存在して原始太陽系の痕跡をより多くとどめているとされている。

 「はやぶさ2」の帰還は2020年末

 日本の探査機「はやぶさ2」は2月22日午前7時半ごろ、地球からおよそ3億4000万キロ離れた小惑星「リュウグウ」への着陸に成功した。「はやぶさ2」は、ことし7月までに多くてあと2回、着陸を予定している。このうち、1回は小惑星の表面にクレーター状の穴を開け、そこに着陸して内部の岩石を採取する世界初の取り組みにも挑戦する。

 宇宙航空研究開発機構は計画どおり岩石を採取できた可能性が高いとしている。JAXAでは「はやぶさ2」が数日かけて送ってくる着陸に関わる膨大なデータの解析を急ぎ、小惑星の地表の固さなど、まだ知られていない天体の姿を明らかにしていくとしている。

 また「はやぶさ2」はことし7月までに多くてあと2回着陸を行う予定。このうち1回は「インパクタ」と呼ばれる装置を使って小惑星の表面にクレーター状の穴を開け、そこに着陸して内部の岩石を採取する世界初の取り組みにも挑戦する。

 計画の責任者の津田雄一プロジェクトマネージャは「最初の着陸が成功しほっとしているが、まだ、やるべきことが多くある。大きなものの1つが「インパクタ」。今後、クレーターを作るための調査と運用の計画を立てることになる」と話し、気を引き締めていた。

 神奈川県相模原市にある「はやぶさ2」の管制室では、JAXAの職員らが笑顔で抱き合ったり、握手したりして喜んでいた。JAXAは今後、岩石の採取などに関わる詳しいデータの分析を行うことにしていて、吉川真ミッションマネージャは「非常にほっとした。惑星科学にとって新しいスタート地点になったと思う」と話した。

 「はやぶさ2」はこのあと、小惑星の上空2万メートルまで戻り、あと1度か2度行われる予定の着陸に備えることになっていて、今年11~12月までさまざまな探査を実施。探査終了後、地球への復路を飛行し、2020年末にオーストラリアの砂漠上に試料を収めたカプセルを落とす計画だ。

 JAXAは22日午前11時からの記者会見の中で、はやぶさ2が、小惑星に着陸したあと、上昇する途中に、はやぶさ2の底に備え付けられたカメラで撮影した画像を公開した。この画像には、はやぶさ2の影が見えるほか、小惑星の表面が黒くなっている様子が確認できる。

 この黒い部分について、JAXAは「はやぶさ2が小惑星に着陸したあと、上昇した際にガスを噴射した痕だと考えられる」と説明した。そのうえで、「同じ画像にはガスの噴射などによって舞い上がったとみられる砂のようなものが大量に映り込んでいて、それなりの量の岩石などを採取できたと思っている」と話した。

 着陸成功がもたらすものは

 地球と小惑星「リュウグウ」の距離は現在、およそ3億4000万キロ。「はやぶさ2」に管制室から信号を送って、探査機から反応が返ってくるまで40分程度かかる。そうした条件の中で「はやぶさ2」は小惑星「リュウグウ」の直径6メートルという極めて狭い範囲へピンポイントに着陸することに成功した。

 日本は月面着陸に挑む探査機「SLIM」を2021年度に打ち上げる計画だ。これまでの月に着陸した海外の着陸機は数キロメートルの誤差があったが、「SLIM」はそれを大幅に縮めることを目指している。

 また、生命の存在が期待される火星の成り立ちに迫ろうと、火星の衛星「フォボス」か「ダイモス」に探査機を送り込み、岩石などを地球に持ち帰る計画もあり、2024年度の打ち上げを目指している。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)の久保田孝研究総主幹は、「日本は月や火星の衛星への着陸して探査する計画を進めている。重力は違うが、正確に狙った場所に探査機を着陸させる技術を確立したことは今後に生かせるもの。天体への着陸技術の幕開けを迎えたといっていい」と話した。

参考 サイエンスポータル:https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2019/02/20190222_01.html