クジラの死因は脱水と飢え

 なかなか解決しないプラスチックごみの問題。よく話題になるのは、環境中に広がったプラスチックごみを動物が食べ死んでしまうケースだ。今回、死んだクジラの胃の中から約40キロ分のビニール袋が見つかったという。クジラは十分な餌が摂取できなくなり、脱水と飢えのために死んだとみられている。

 死骸を調べた海洋生物学者のダレル・ブラッチリー氏によると、死んでいたのはまだ若いオスのアカボウクジラで、やせ衰えて脱水症を起こし、死ぬ前に吐血した形跡があった。

 死骸はミンダナオ島のコンポステラバレー州マビニの海岸で見つかり、ダバオで自然史博物館を運営するブラッチリー氏に3月15日に連絡があった。

 死骸を解剖した結果、クジラはプラスチックをのみ込んだことが原因で死んだことが判明。胃の中からは、コメ袋や買い物袋、バナナ栽培に使われる袋など約40キロのビニール袋が見つかった。あまりの量の多さに一部は石灰化していたという。

 ブラッチリー氏によると、クジラやイルカは水を飲む代わりに餌から水分を摂取する。しかしこのクジラは大量のプラスチックをのみこんだために十分な量の餌が摂取できなくなり、脱水と飢えで死に至った。

 クジラの胃の中からこれほど大量のプラスチックが見つかったのは初めてだと同博物館は述べ、水路や海にごみを廃棄し続ける行為に対して各国の政府が行動を起こすよう訴えている。

ハワイの海をすくったら、生き物とゴミがこんなに

 環境中には思った以上にプラスチックごみが広まっていいる。きれいだと思われた海域にも広まっていて驚かされることがある。

 今回、米国ハワイ島の沖の表層海水から採取された海水に、多数のプラスチック片が発見された。その中にはとカワハギの仲間と思われる魚も存在していた。カワハギは、サイズから生後50日ほどとみられる。

 ハワイの海には、海流や風の影響で多くのプランクトンが集まり、それらを目当てに腹をすかせた魚もたくさんやってくる。しかし同時に、ごみも集まってくる。なかでも多く見つかるのが、プラスチックだ。

 「比較的少量のサンプルの中からもこれほど多くのプラスチックが見つかるとは、ちょっと驚かされました」と、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある写真家のデビッド・リトシュワガー氏は語る。

 2018年7月、リトシュワガー氏は、米国ハワイ沖の海水サンプルを集める研究者たちに同行した。彼らは、海流が集まってプランクトンがひしめく海の表層から、網を使って400立方メートル分の水をすくい取り、バケツに入れてハワイ島の研究所へ持ち帰った。

 リトシュワガー氏は海水をトレイにあけ、そこに含まれているものを接写する。写し出されるのは、プランクトンとプラスチックとが互いに絡み合った世界。小さな稚魚が、色鮮やかなプラスチックや釣り糸と一緒に浮かんでいる。なかには、あまりにごちゃごちゃとしていて、生物とごみを見分けにくい写真もある。

 ハワイ沖で採取した358立方メートルの海水に入っていた海洋生物(左)とプラスチックごみ(右)。別々に撮影することで、コントラストを際立たせた。

 カラフルな抽象画のようにも見えるこれらの写真は、同時に、海中でひっそりと恐ろしいことが進行していることを教えてくれる。プラスチックごみが摩耗や紫外線によって細かく砕かれた5mm以下の小さなプラスチック片は、マイクロプラスチックと呼ばれ、世界中の海で見つかっているだけでなく、川や深海底にも到達している。

 プラゴミとともに生きる野生動物

 科学者らは現在、マイクロプラスチックが人間と海洋生物に与える影響について調査している。2017年のある研究では、カタクチイワシがプラスチックをエサと間違えて食べることが報告されている。

 ごみに付着していた藻のにおいに引き付けられた可能性があるという。こうした小魚が、食物連鎖の上層にいる大きな魚に食べられることで、いずれはプラスチックが人間の食卓にも到達することが懸念されている。2018年10月に発表された研究では、すでに9割の食塩の中にマイクロプラスチックが入っていることが明らかになった。

 ゴム手袋やプラスチック片と一緒に泳ぐ、シイラの稚魚(中央)などの小さな魚たち。「プラスチックはすばらしい素材です」とリトシュワガー氏は言う。「それでも、使い捨ての製品を作るというのは、あまりに思慮が足りません」

 リトシュワガー氏は、20年前から幾度も、プラスチックによって自然が損なわれている光景を目撃してきた。1994年に見たのは、ハワイのごみだらけのビーチだった。ハワイには、太平洋ゴミベルトから流れてくるごみが行き着くビーチが複数ある。

 その10年後、氏は科学者たちと一緒にハワイの離島にいた。アホウドリのひなが小さなうちに死んでしまう原因を突き止めるためだった。ひなの死骸を解剖すると、胃の中からはボトルキャップなどのプラスチックのかけらが出てきたという。

 リトシュワガー氏は自らの使命を、ただ現実を記録することだと述べている。「人々に、現実にそこにあるものを見てもらいたいのです」 包装フィルムを使って身を隠すカニから、ごみの山をあさるハイエナまで、人間が捨てたプラスチックごみに翻弄される野生生物の姿をとらえた。

参考 National Geographic:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/020500081/

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