宝石の色

 宝石のあの美しい輝きはどこから来るのだろうか?

 まず光とは何か考えてみると、人の目で見える光のことを可視光線と言い、その波長は紫の380mmから赤色の780mmまである。

 色のスペクトルは赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7つ。 光は波や粒子の働きを持っている。鉱物の結晶に白い光が入ると特定の波長のみ吸収され、残った波長の色になる。

 結晶に入った光がすべて吸収されると黒色になり、全く吸収されないと無色透明になる。すべての光がバランスよく反射されると白色になる。宝石が透明になるかどうかはその構造的要因により決まる。

 宝石自身の化学式に遷移元素が主要な成分として含まれているものを自色鉱物と言い鉱物種ごとに特有の色を示す。つまりその鉱物固有の色であり、粒状にしてもかたまりにしても同じ色をする。自色鉱物の例としてはトルコ石、マカライト、ラピスラズリ、ペリドット、アイオライト、アズライトなどがある。

 エメラルド(emerald)という宝石は、ベリル(緑柱石)の一種で、強い緑を帯びた宝石である。和名は、翠玉(すいぎょく)、緑玉(りょくぎょく)である。その組成は、Be3Al2Si6O18で、アクアマリンと組成を同じくするが、クロム Cr やバナジウム V がドーパントとして混入している。

 内部に特有の傷が無数にあり、これが天然ものの標識ともなっている。当然ながら、大きく、傷が少ないほうが価値が高く、明るく濃い緑色のものが最上級とされる。エメラルドは天然には良質の石がほとんど産しないため、かなりの傷物も宝石として流通させることが一般に認められており、その場合オイルや樹脂に浸すなど化学的処理を施して傷を隠したり、石の耐久度を高めたりする。

「エメラルド氷山」の色の謎、ついに解明か

 様々な色をもつのは宝石だけとは限らない。南極の氷にも緑色の氷が発見されている。

 地球の極地で見られる氷山の色は、ほとんどの場合、白から青だ。しかし、利用できるものは何でも使う芸術家のように、自然は鮮やかな緑色の氷山を作り出すことがある。

 このエメラルドグリーンの氷山は、南極でしか見られない。謎めいたエメラルド色の氷塊についての科学文献は数多く、100年以上前の報告もある。それでも、色の原因をきちんと説明したものはこれまでなかったが、この謎をついに解明したかもしれない研究結果が、2019年2月7日付けの学術誌「Journal of Geophysical Research: Oceans」オンライン版に発表された。

 今回の研究によると、この珍しい緑色は、2つの異なるプロセスが合わさった結果だという。まず、南極海に突き出た棚氷の底で、気泡のない氷が形成されること。同時に、黄赤色の南極大陸の土が、棚氷によって南極海に運ばれなければならない。

 「まるで、青と黄色の絵の具を混ぜて緑色を作るということを、南極大陸がやっているかのようです」と英リバプール大学の雪氷学者ジェームズ・リー氏は話す。なお同氏は、今回の研究には関わっていない。

 なぜ氷山は青く見えるのか

 今回の論文の著者で、長年の南極愛好家でもある米ワシントン大学の名誉教授のスティーブン・ウォーレン氏によると、米国のジャーナリストの多くは、この珍しい氷山を「エメラルド氷山」と呼ぶという。おそらく、英国の詩人コールリッジが1798年に発表した叙事詩「老水夫行」で水夫が南極で見たものを評した一節「氷は、帆柱ほども高く、エメラルドのような緑だった」が念頭にあるのだろう。一方、南極海でこの奇妙な氷山をよく目撃する科学者は、「ヒスイ氷山」と呼ぶ。

 その名が何であれ、氷山の色は、物理的・化学的性質と何らかの関係があるに違いない、と科学者は考えていた。氷河の氷は、青みがかる傾向がある。波長の長い赤い光は氷に吸収され、私たちの目には残った波長の短い青い光が散乱されて見えるからだ。

 しかし、氷に気泡が含まれていると、氷中を進む光の方向が頻繁に変化するため、光は氷の中をあまり移動することなく表面から出てきやすくなる。すると光の吸収が減り、氷は白っぽく見える。対照的に、南極の一部の場所では、高圧下で氷ができるため、気泡は一切含まれない。すると、光が氷中を長く進み、私たちの目には、信じられないほど澄んだ鮮やかな青に映る。

 多くの報告によると、緑の氷山も驚くほど透き通って見えるという。つまり、気泡が含まれていないということだ。この観点が、謎を解く手がかりとなった。

 次に、その澄んだ鮮やかな緑が作り出されるプロセスを説明しなければならない。氷山自体の形成プロセスは、ウォーレン氏の研究チームが南極東部のアメリー棚氷から採取したコアサンプルのおかげで、1980年代にはほぼ確かめられていた。しかしながら、緑の着色メカニズムは謎のままだった。

 未解決の謎に再び挑む

 ウォーレン氏の研究チームは、水中の溶存有機炭素が原因ではないかと疑った。溶存有機炭素とは、海洋生物の死骸などが分解されてできた微小な物質で、黄色味がかっている。これが青く見える氷に混ざると、たしかに緑の色合いになるだろう。当時、氷の中の溶存有機炭素量を明らかにはできなかったが、蛍光技術を用いてその存在は確かめられた。

 1993年に発表した論文の内容は当時広く報道されたものの、その栄光も長くは続かなかった。1996年、ウォーレン氏の研究チームは、オーストラリア南極プログラムで2回目の氷山調査を行い、前回より多くの緑がかった氷山を見つけた。この時は、溶存有機炭素の検出に成功したが、青い氷山と緑の氷山に含まれる溶存有機炭素の量は同程度だった。しかも、目で見てわかるほど色に影響を与えるには、その量が少なすぎることも明らかになった。

 「この結果に確信が持てませんでした。しかし、再実験するだけのサンプルを持っていなかったのです」とウォーレン氏は言う。「なので、このことについては何も発表しませんでした」

 その後、2016年、当時オーストラリア、タスマニア大学の海洋物理学者だったローラ・ヘライス=ボレゲーロ氏が率いた研究により、幸運にも欠けていたパズルのピースが見つかった。同氏は現在、英サウサンプトン大学で研究している。アメリー棚氷から採取したコアの一部に、その上にある氷と比べると、最大で500倍もの鉄の化合物が含まれていたのだ。

 酸化鉄は、土壌や岩石の一般的な成分であり、氷床が南極東部の岩盤の上を流れた際に、侵食作用により削りとられたと考えられるという。その結果、粉末状の堆積物、いわゆる岩粉になり、やがて海に流れ込む。それが棚氷の底の海氷に閉じ込められ、最終的に棚氷から分離して、氷山が形成される。このとき、酸化鉄は黄色がかった赤色になる傾向がある。

 「氷は赤い光を通さず、酸化鉄は青い光を通しません。そのため、太陽光が屈折され氷山から出てきたときに残っているのが、緑の光なのです」とウォーレン氏は説明する。

 氏の論文によると、氷の色を青から緑に変えるのに必要な鉄の量を計算したところ、アメリー棚氷から採取した海氷には、十分な量が含まれていることがわかったという。

 鉄分豊富なエメラルド艦隊

 これはやや間接的な証拠であり、新説を裏付けるには、さらなるフィールドワークが必要だ。しかし、「このメカニズムは、これまでの観察結果を説明する本当によく考えられた仮説です」とリー氏は話す。

 もしこの説が正しいとすれば、エメラルドグリーンの氷山を生むベルトコンベヤーは、周囲の環境に重要な影響を及ぼすはずだ、と同氏は付け加える。海に突き出た棚氷の底が海底と接するラインは、近年、南極中で後退し続けている。この後退により、棚氷の最前部が不安定になって分離し、エメラルド氷山が大量に発生する可能性がある。

 そうなれば、残念なことに、その後ろの陸上にある氷も海に崩れ落ち、海面上昇につながる。一方、リー氏によれば、この鉄分豊富なエメラルド艦隊が、「生きてゆくために何よりも鉄分を必要とする藻類に、ご馳走を届けることになる」ことを今回の研究は示唆しているという。

 つまり、アメリー棚氷の近くに生息する藻類は、南極海全体で最高の食物配達サービスを受けているのかもしれない。

参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/031900168/

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