ブラックホールの影の撮影に成功

 日本の国立天文台などの国際共同研究チームが、地球から約5500万光年離れた銀河の中心にある巨大なブラックホールの影を撮影することに史上初めて成功した。日本時間4月10日夜 、世界6カ所で同時発表した。世界各地にある8つの電波望遠鏡を連動させ、得られたデータを活用した成果で、同チームは「巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功した」としている。

 国際共同研究チームには、国立天文台水沢VLBI観測所(岩手県)など日本の研究者のほか、欧米の研究者も参加し計約200人で構成され、研究プロジェクトは「イベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクト」と名付けられた。国際チームは、日本などが運用する南米チリのアルマ望遠鏡やハワイ、南極など6カ所にある8つの望遠鏡の観測データを組み合わせる壮大な観測計画を立てた。

 そして、2017年4月、地球から約5500万光年離れた、おとめ座のM87銀河の中心にある巨大ブラックホールを狙って観測。高解像度の観測で得られた膨大なデータから画像を作成する作業を進めた。その結果、巨大なブラックホールの周辺にあるガスがリング状に輝き、中心が影のように黒く見える画像が得られた。リングの直径は約1000億キロ、ブラックホールの質量は太陽の約65億倍という。

 ブラックホールは超高密度で強大な重力を持つ天体。あらゆるものを吸い込み、光さえも抜け出すことができない真っ暗な天体だ。これまで多くの天文学者がブラックホールの解明に挑戦し、ブラックホールに吸い込まれるガスなどが放出するエックス線を観測した研究成果などはあるが、国際チームによると、今回初めてその存在を画像で直接証明できたという。

 国際チームは、今回の画像撮影について「人間の視力に当てはめると300万に相当し、月面のゴルフボールを見たようなもの」と説明している。今回の成果は、アインシュタインが提唱した一般相対性理論を裏付ける意味もあり、依然謎に包まれている暗黒の天体、ブラックホールの正体だけでなく、無数の星や銀河が形成される過程の解明につながり、宇宙の歴史にも迫る業績と期待されている。

宇宙誕生の初期に大量の巨大ブラックホール

 想像を絶する質量(重さ)が破格の重力を生み出し、あらゆるものを引き付けて飲み込んでしまう。その強烈な重力からは光さえも逃れ出ることができない暗黒の天体。それがブラックホールだ。「ブラックホールって何ですか」。この不思議な天体は、子供向けの講演会でも質問の定番だ。

 ブラックホールには、大きく分けて二つのグループがある。ひとつは、太陽の数倍からせいぜい数十倍くらいの質量の小ぶりなブラックホール。もうひとつは、太陽質量の百万倍から百億倍くらいの「巨大ブラックホール」だ。

 巨大ブラックホールは、私たちが住む銀河系をはじめ多くの銀河の中心にあると考えられている。宇宙には無数の銀河があるから、巨大ブラックホールも、ごくありふれた天体ではある。だが、これほど巨大化するには、相当な量の物質を吸い込まなければならないはずだ。時間もかかる。巨大ブラックホールは、宇宙が138億年前に誕生してからどの段階で、生まれ始めたのだろうか。

 愛媛大学宇宙進化研究センターの松岡良樹准教授らは、最近の研究で、宇宙誕生からまだ8億年くらいしかたっていない時点で存在していた巨大ブラックホールを大量に見つけた。その数は83個。こんな宇宙の初期に大量の巨大ブラックホールがあるとは考えられていなかった。

遠いクエーサーの中に巨大ブラックホール

 松岡さんらが探したのは、明るく輝くクエーサーとよばれる天体。その中心には巨大ブラックホールがあり、あらゆるものを飲み込む過程で激しく光る。だが、明るいといっても、今回は、130億年も昔に出ていま地球に届いている光をとらえるのだから、じつはとても微弱で暗い。

 その暗いクエーサーを広い宇宙から探し出し、それが本当にクエーサーなのだと確認しなければならない。そのためにまず、ハワイにある「すばる望遠鏡」の超広視野主焦点カメラでクエーサー候補を選び出した。次に、その色合いを、すばる望遠鏡、北大西洋のスペイン領カナリア諸島にあるカナリア大望遠鏡、チリのジェミニ望遠鏡で精密に計測して、求めているクエーサーであることを確認した。

 こうして新たに発見した宇宙初期の巨大ブラックホールは83個で、このほか、すでに報告されている17個の巨大ブラックホールも確認した。合計100個。これまでは例外的に大きく明るいものしか見つかっておらず、今回の発見で、確認されたブラックホールの数は5倍ほどに増えたという。新発見のうちでもっとも古いのは130.5億年前のブラックホール。いま確認されている古い巨大ブラックホールには131.1億年前、130.5億年前のものがあり、今回の発見は2位タイの記録になる。

 松岡さんは、「周囲の物質を多量に吸い込んで巨大ブラックホールになるには、10億年くらいかかるはずだ。それなのに、宇宙誕生から8億年くらいで、これだけたくさんできていた。その理由は、まだわからない。どれくらい宇宙の初期にさかのぼれば巨大ブラックホールが見つからなくなるのか、そこを知りたい」と話している。

 超遠方宇宙の測り方

 研究チームはどのように遠くのクエーサーを発見したのであろうか?

 それには、超遠方クェーサーのスペクトルを分析する。天体から届く光を分光器によって波長ごとに分解し、光の波長を横軸に、光の強さを縦軸に取って表示したものをスペクトルと呼ぶ。スペクトルの形状を分析することで、観測した天体がクェーサーであることや、その天体までの距離を決定することができる。

 ある天体の場合、波長0.122マイクロメートルで放射された水素の輝線が、宇宙膨張の効果によって波長が伸びた(赤方偏移した)結果、波長0.896マイクロメートルで強い光のピークとして観測されていると、この事実から赤方偏移の値は6.37となり、地球からの距離に換算すると約130億光年となる。

 研究チームが発見した100個の超遠方クェーサーは超遠方にあるため、宇宙膨張による赤方偏移と宇宙空間での光の吸収効果で、非常に赤く観測される。画像は全て、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCによる探査観測で得られた。

 発見されたクェーサーはどれも地球から約130億光年の距離、つまり現在から約130億年前の宇宙に存在したことになる。ビッグバンからその時代までは、現在の宇宙年齢(約138億年)のわずか5%ほどの時間しか経過しておらず、そのような若い宇宙にも巨大ブラックホールが普遍的に存在することは驚きである。

 また、研究チームの発見した中には、地球からの距離130.5億光年のクェーサーが含まれていた。現在人類の知る巨大ブラックホールの最遠と次点の記録は、いずれも欧米の研究チームによって達成され、それぞれ地球からの距離131.1億光年、130.5億年である。今回は日本主導の探査により、次点の記録に並んだことになる。

 一方で初期の宇宙では「宇宙再電離」と呼ばれる宇宙空間全体のプラズマ化が起こったことが分かっている。宇宙の歴史の中で極めて重要な出来事だが、プラズマ化を引き起こしたエネルギーが一体どこから来たのかは未解明。有力な仮説の1つとして、未検出の超遠方クェーサーが非常に多数存在しており、それらの膨大な放射エネルギーによって再電離が起こったとの予測もあった。

しかし、今回の探査によって個数密度が初めて精密測定され、宇宙空間全体をプラズマ化できるほど多数の超遠方クェーサーは存在しないことが明らかとなり、クェーサーによる再電離の仮説は棄却されることになった。再電離を引き起こしたのは別のエネルギー源、おそらくは初期の宇宙で誕生しつつある多数の銀河ではないかと推測される。

参考HP サイエンスポータル :https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2019/04/20190411_01.html

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