食糧難の時代をどう乗り越えるか?

 世界の人口が75億人を超えた。そうなると心配なのが食料である。特に体をつくるのにはタンパク質が必要であり、そのために多くの動物たちの命を必要としている人類は生き残ることができるのだろうか。

 2013年8月、ウシの筋肉組織の幹細胞から作った人工肉のハンバーガーを調理、試食するデモンストレーションがロンドン市内で開催された。人工肉はオランダ・マーストリヒト大学のマルク・ポスト氏が開発。 作製にかかった費用は約3300万円。幹細胞を培養し、3カ月かけて作った筋肉組織2万本分の人工肉に、パン粉と粉末卵を加えて味を調えたものだった。

 牛肉らしい色を出すために赤カブの汁とサフランを加え、ひまわり油とバターで焼いた。調理を担当したシェフは、「通常よりわずかに色が薄いようだ」と語った。142グラムの肉にバンズと野菜を添えた試食セットが2人に提供された。

 「もっと柔らかいと思った。あまりジューシーではない。本物の肉に近いが塩こしょうが足りない」「慣れ親しんだ肉の舌触りだが、味が違う。脂肪がない」という感想。残念ながら本物の肉にはかなわないようだった。

 しかし、人工肉の技術も進み、現在では本格的に実用化されようとしている。数年後人工肉をスーパーの店頭に並べ、食料問題への対策などに貢献することになるだろう。

 肉は人工的に生産できる

 畜産の未来に関するひとつのアイデアを紹介しよう。食肉はいずれ、現代の製薬工業にあるようなバイオリアクターで、幹細胞から作られるようになる。このような食肉製造工場は村ごとに設置され、施設の庭では豚がのんきに遊んでいる。時折、作業員がこの豚に針を刺して幹細胞を採取する。肉を買いに来た客はこの豚を撫でていく。

 このシナリオは、「Trends in Biotechnology」誌の6月号に発表された論文をもとに、多少肉付けしたものだ。論文はオランダのワーヘニンゲン大学に所属する2人の研究者、哲学のコール・ファン・デル・ウェーレ(Cor van der Weele)氏とバイオテクノロジーのヨハネス・トランパー(Johannes Tramper)氏によるもの。2人とも肉は「割りと好き」だそうで、現代の食肉製造が地球環境や生物に与える影響を懸念している。

 この懸念への解決策として2人が提唱するのは、現在のように工場化された大規模農場で豚を飼育して屠殺するのではなく、地域ごとの小規模経営で人造肉を合成することだ。施設で豚を飼うのは“生きた幹細胞バンク”としてだが、「消費者にとっては動物と触れ合う機会ともなるし、食べ物がどこから来るかを意識することにもつながる」とファン・デル・ウェーレ氏は電子メールで取材に応じた。

 近年、食肉に代わるさまざまな選択肢が注目を集めている。地球全体での需要の急増を鑑みると、現在のような食肉製造はいずれ立ち行かなくなる、というのは衆目の一致するところだ。

 例えば、ビル・ゲイツ氏は代用肉製造の新興企業ビヨンド・ミート(Beyond Meat)社に出資している。同社の“鶏肉”は、「New York Times」紙のフードライターにも代替食品と気づかれなかったほどだ(ただし、このライターは野菜と一緒にブリトーにしたものを出された)。同社の製品は食料品スーパーマーケットのホール・フーズ・マーケット(Whole Foods Market)で販売されている。大豆とアマランサスを主原料とし、非公表の加工技術によって鶏の胸肉のような食感を再現している。

食肉の常識を変える世界のミートテック企業

 人工肉には大きく分けて、植物由来のものと、動物から採取した細胞を育てて肉をつくる培養肉がある。独自の技術で牛肉、鶏肉、魚を生産する、世界で注目を集めるミートテック企業を5社紹介する。

Impossible Foods/インポッシブル・フーズin US

植物由来の人工肉の先駆「インポッシブル・フーズ」は、カリフォルニアの生産施設で毎月50万ポンドの人工肉を生産している。これは、毎月200万人に同社のパティを使用した「インポッシブル・バーガー」を供給するのに十分な量に当たる。

主な原材料は大豆、じゃがいも。ジューシーな食感は、遺伝子組み換えのヘモグロビンで再現をしている。当初、高級レストランとの取引を中心に事業を展開していたが、現在は5000を超えるレストラン、さらにファストフードチェーンの「ホワイトキャッスル」でも商品を展開。

2019年1月にはIT技術イベント「CES」で新作「インポッシブル・バーガー2.0」を披露し、年内に食料品店での販売を開始することを発表した。

Finless Foods/フィンレス・フーズin USA

近年、世界的に魚の消費量が増える一方、海の汚染により、今後も安全な魚を食べることできるかどうかが危ぶまれている。そんな中、環境を守りながら健康でおいしく安価なシーフードの提供を目指しているのが、2016年創業、魚の培養肉を手がける「フィンレス・フーズ」だ。

第一段階の目標は、クロマグロをペースト状にしたネギトロのような商品をレストランで展開すること。将来的には市場で売られているマグロと同品質のものを、より安く一般にも販売することを目指している。また、今後はサケやティラピア(鯛のような味の外来種)の培養肉も開発予定。

全て商品化の前段階だが、アジア市場の開拓も視野に入れており、すでに複数の小売店と提携の話を進めている。

Beyond Meat/ビヨンド・ミート in USA

「ビヨンド・ミート」は高級スーパー「ホールフーズ・マーケット」で初めて精肉売り場に並んだ人工肉。主原料はエンドウ豆で、少量のビーツが赤い色味、ココナッツオイルと片栗粉が、ジューシーな肉汁の元だ。

従来のパティをMRIで分析し、タンパク質や脂質の構造を模し、本物の肉のような食感を再現することに成功。コレステロールゼロであることも、ビーガン以外の消費者からも支持を集める理由となっている。

現在、ソーセージやパティも展開しており、すでに3万2000以上の小売店やホテル、大学で味わうことができる。「ビヨンド・バーガー」は現在、世界15か国以上で販売され、今後は日本を含む50カ国以上の現地販売代理店と提携して販売される予定。

Memphis Meat/メンフィス・ミートin USA

2015年に創業した、培養肉を提供するミートテック企業のリーディングカンパニー。2016年、牛と豚の幹細胞から得た筋肉繊維から、世界ではじめて培養肉でミートボールを完成させた。

ビル・ゲイツや、イギリスの多国籍企業ヴァージン・グループの会長・リチャード・ブランソンなど、各界の大物からも出資を受けている。「メンフィス・ミート」が今最も注力しているのは、市場に出たときの鶏肉、鴨肉、牛肉のコストを最低限まで抑えること。現在の製造コストは、初期の数分の1まで抑えられているという。

また、同社の注目すべき点は、 培養肉としてはじめて「食肉」の認定を得られるよう、米国農務省および米国食品医薬品局に働きかけていることだ。

Super Meat/スーパーミートin ISRAEL

イスラエルには約250社のフードテックスタートアップがあり、食に関する事業は大きな盛り上がりを見せている。「スーパー・ミート」は、メンフィス・ミートと同じく、動物細胞の培養から鶏肉をつくるミートテック企業だ。

詳しい製造方法は公開されていないが、iPS細胞で話題になった動物の幹細胞を元に培養するという。2021年までに、高級レストランに提供できるまでの価格へ下げることを目指している。すでにアメリカ、ヨーロッパ、シンガポールのベンチャーキャピタルから400万ドルを調達するほか、ヨーロッパの大手家禽会社PHWグループと提携している。

また、イスラム教では豚肉食が禁止されているが、これは人工肉にも適用されるのか議論がされている。(Forbes JAPAN)

参考 マイナビニュース: https://news.mynavi.jp/article/20190326-795322/

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