火震に地震はあるのか?

 火星には地震があるのだろうか?地球に地震があるのはプレートがあるからだ。地球ではプレートテクトニクスによって大陸などが動き、火山が噴火し、地震が起きる。またプレートが動くということは、地下のマントルと呼ばれる構造にも関係する。

 では、火星ではどうなのか。火星ではプレートテクトニクスはあったかも知れないが、相当昔に活動が停止したとされている。その証拠が、オリンポス山をはじめとする火星の火山群。巨大な火山ができるということは、1箇所にマグマが供給され続けるわけで、近くが動かなかったことを示している。

 では、火星のプレートテクトニクスはいつ終焉を迎えたのか、そして地球とは違う火山の成り立ちの真の理由、あるいは細かい理由は何なのか。これを調べていけば、地球と火星とを比較し、こういった天体の成り立ち、あるいは内部構造の移り変わりを知ることができるかも知れない。

 NASAの火星探査機「インサイト」は2018年11月26日に火星に着陸し、12月19日に地震観測装置「SEIS」を火星表面に設置した。インサイトの目的の一つは、「火震(火星の地震)」を観測することで火星の内部についての情報を得ることだ。

 今回、この「SEIS」で、火星着陸から128火星日が経った4月6日に弱い地震波が検出された。火星表面の風などによる震動ではなく、火星の内部で発生したと思われる震動が記録されたのはこれが初めてだ。研究チームでは、この地震波の発生源を正確に突き止めるために分析を続けている。

火星の地震を初観測

 検出された地震波はかなり小さく、マグニチュード2~2.5に相当する。地球の地震であれば、地表ではかろうじて知覚できる程度の揺れだ。しかし、2018年12月に火星表面に地震計を設置し、数週間前から正式に観測を始めていた科学者にとっては、この小さな震動には非常に大きな意味がある。

 「最初の1カ月は、『まだ大丈夫、問題なし』と見守っていました」とNASAのインサイト・ミッションの主任研究者ブルース・バナート氏は語る。「2カ月目になるとさすがに、『いつでもいいぞ、さあこい、早く見せてくれ』という気持ちになっていましたね」

 「昼も夜も、暇さえあればメールをチェックしていました」と打ち明けるのは、NASAのマーシャル宇宙飛行センターの惑星科学者でインサイトの共同研究者であるレネ・ウェーバー氏だ。「毎朝、目が覚めるとベッドの中でスマホを見て、『今日こそ最初の地震をとらえる日になるかもしれない』と期待しながら出勤するのです」

 インサイトの着陸から128火星日(131地球日)後、ついにかすかなシグナルが届いた。研究チームは早速、解析に取りかかり、地震である可能性が十分に高いと判断した。「チームからは安堵のため息が出ました」とバナート氏は振り返る。

「私は約30年間も火星の地震を追いかけてきました」と彼は言う。「私にとって、研究生活の頂点といえる瞬間でした。1980年代から夢見てきたデータが、ついに手に入るようになったのです」

 「最初の1カ月は、『まだ大丈夫、問題なし』と見守っていました」とNASAのインサイト・ミッションの主任研究者ブルース・バナート氏は語る。「2カ月目になるとさすがに、『いつでもいいぞ、さあこい、早く見せてくれ』という気持ちになっていましたね」

「昼も夜も、暇さえあればメールをチェックしていました」と打ち明けるのは、NASAのマーシャル宇宙飛行センターの惑星科学者でインサイトの共同研究者であるレネ・ウェーバー氏だ。「毎朝、目が覚めるとベッドの中でスマホを見て、『今日こそ最初の地震をとらえる日になるかもしれない』と期待しながら出勤するのです」

インサイトの着陸から128火星日(131地球日)後、ついにかすかなシグナルが届いた。研究チームは早速、解析に取りかかり、地震である可能性が十分に高いと判断した。「チームからは安堵のため息が出ました」とバナート氏は振り返った。「私は約30年間も火星の地震を追いかけてきました」と彼は言う。「私にとって、研究生活の頂点といえる瞬間でした。1980年代から夢見てきたデータが、ついに手に入るようになったのです」

 火星の地震はどうやって起こるのか

 地球の地震は主に、絶え間ないプレート運動によって引き起こされる。地球の表面を覆うプレートどうしが押したり引いたりしている場所にひずみが蓄積すると、ストレスに耐えられなくなった岩盤が急激に破壊され、地震が発生するのだ。(参考記事:「【解説】地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」)

NASAの火星探査機インサイトは、火星の赤道のすぐ北に広がるエリシウム平原という滑らかな溶岩平野に着陸した。インサイトは99%の確率で青い楕円で囲まれた地域に着陸すると予想されていた。赤い点は実際の着陸地点。(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH/ASU)

 しかし、火星には地球のようなプレートはないようだ。火星は、長い年月をかけてゆっくり冷えながら収縮している。火星の地震は、そのときに表面が割れることによって起こると考えられている。そのほか、隕石の衝突や、地下深くのマグマの流動によっても発生しうる。

 研究者たちは、火星の地震を利用して、その内部構造を調べたいと考えている。この方法は、超音波を使って体の中を調べるのに似ている。火星の内部で地震波がどのように反射するかを調べることで、内部構造を推定できるのだ。

 火星の地震からわかること

 今回の地震のほかにも、まだ確認されていない地震波が3つある。だがどれも、火星の赤い大地の下で起きていることを解き明かすには小さすぎる。とはいえ、これらのシグナルは無意味ではない。

「火星がどんなに活動的か、私たちに教えてくれるからです」とバナート氏は言う。

インサイトは2018年12月19日に火星の表面に地震計を設置、2019年2月4日に風熱シールドをかぶせた。(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH)

 地球の場合、地震の発生頻度と規模(マグニチュード)の間には、グーテンベルク・リヒター則という関係が成り立つことが知られている。これによると、地震のマグニチュードが1小さくなる(放出されるエネルギーが約32分の1になる)ごとに、地震の頻度は約10倍になる。バナート氏によると、月についても同じ近似が当てはまるという。それなら火星でも、小さな地震の頻度を測定することで、大きな地震がどのくらい頻繁に起こりうるかを予想できるかもしれない。

 興味深いことに、火星の地震は約10分も続いた。これもまた、火星の表面を知るための手がかりを与えてくれそうだ。ウェーバー氏は、火星の地震は、地球の地震よりも、アポロ計画で記録された月の地震に似ていると指摘する。

 揺れ方の違いは地質のせい? 

月と地球の地震の違いは、地質の違いによって説明できるかもしれないとウェーバー氏は言う。月の表面は、数十億年にわたる隕石の衝突や風化によってできた、細かい砂礫に覆われている。これに対して地球では、活発な地質活動があるため、砂粒はどんどん風化して細かくなり、土壌の固まり方が変わってくる。その結果、地球と月の表面では、地震波の伝わり方も異なってくる。地球表面の地震波は短時間で鋭いが、月表面ではもっと減衰せずに広がる。

 ただし、火星の地震が長いのは土壌の性質のせいだと断定できるわけではないとウェーバー氏は釘をさす。インサイトの科学者チームは、今も詳細部分の解明に取り組んでいる。

「私たちは、地震が発生したらすぐに解析できるようにプログラムを組み立てていました。最初のシグナルが、それで解析するのに最適なものでなかったのは、少々残念です」とウェーバー氏は言う。「けれども、新しいプログラムを作ればいいわけですから、これは面白いことなのです」

インサイトの地震計SEISは、フランス国立宇宙研究センターが、ほかの欧州諸国の研究者やNASAのジェット推進研究所の支援を受けて製作したもの。地震計の感度は非常に高く、水素原子の直径よりも小さい震動を検出できる。(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH)

これからも地震は観測できるか

 インサイトの活動期間が長くなれば、より多くの現象が観測されるだろう。最初のシグナルが本当に地震であるなら、さらなるデータによってそのことが裏付けられるはずだ。ウェーバー氏によると、人工衛星の観測に基づいて推定される隕石の衝突頻度から考えて、インサイトの活動期間中に、隕石の衝突による地震が観測されるのはほぼ確実だという。

「ほかの原因による地震をとらえるのは時間の問題です」と彼女は言う。

 インサイトの地震計が何を発見するにせよ、検知する現象はすべて、火星についての私たちの知識を豊かにしてくれるだろうと米アリゾナ州立大学の火星科学者ターニャ・ハリソン氏は言う。「火星がまだ活発に動いている場所であることを、私たちに教えてくれるでしょう。それは、(1970年代に火星の表面に着陸した)バイキング・ミッションの時代とも大きく異なる印象になると思います。私たちは、物語を書き換え始めたばかりなのです」

 火星で新しい発見がなされるたび、この星の複雑さを思い知らされると彼女は言う。火星の衝突クレーター、地すべり、極冠の季節変化に加えて、内部で地震活動があることを示唆する証拠まで出てきた。

 科学者たちは今回の発見を喜んでいるが、今後の発見にはさらに大きな期待を寄せている。バナート氏も言う。「さらなる発見が続くと思うので、どうぞご期待ください」

ノアキス大陸にある古いクレーターの底には砂丘が広がっている。火星で最も古い場所の一つだ。

参考 National Geogrphic news:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/042600256/