世界一深い海で棲息している魚は何だろう?

 それは、マリアナ海溝の水深8,178mで撮影に成功したシンカイクサウオ(Pseudoliparis swirei)かもしれない。2017年8月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、日本放送協会(NHK)と共同で、フルデプスミニランダーに搭載した4Kカメラにより撮影した。

 海溝やさらに深い海淵における生物やその生態は古くから興味の対象となっており、海溝域における魚類の存在は、1960年にチャレンジャー海淵の海底に潜航したジャック・ピカールとドン・ウォルシュらが「ヒラメのように平たい形をした魚を見た」と証言したが、これまで記録された魚類の種類や生息深度などから、彼らが見たものは魚ではなく、別の生物でないかという論文が発表された。

 ところが、2014年、マリアナ海溝の水深6,198~8,145mの海底において2種類のシンカイクサウオが撮影され、動画サイトと論文上に発表されたほか、2017年4月には中国科学院がマリアナ海溝の水深8,152mの海底で魚類の撮影に成功したと発表している。

 この生物は「超深海層」と呼ばれる暗く冷たい海域にいる。このたびようやく新種記載となった。地球上で最も深い海は水深1万1000メートルと、この魚が見つかった場所よりさらに3000メートル以上も深いが、今回の魚よりも深いところにすむ魚が見つかる可能性は低いと科学者らは考えている。  海の最深部では巨大な水圧がかかるからだ。水深が約8200メートルよりも深くなると、高い水圧によってタンパク質の安定を失い、魚が化学的に耐えられない可能性があるという。

 超深海に新種の魚、ゾウ1600頭分の水圧に耐える  2017年11月28日、この魚が正式に論文に記載され、世界で最も新しく、かつ最も深海にすむ魚となった。クサウオの一種で学名をPseudoliparis swireiといい、小ぶりの不思議な姿をしている。水深7966メートルのマリアナ海溝で採取された。

 この生物は「超深海層」と呼ばれる暗く冷たい海域にいる。2014年に初めて目撃され、2017年初めにも再び確認されたが、このたびようやく新種記載となった。地球上で最も深い海は水深1万1000メートルと、この魚が見つかった場所よりさらに3000メートル以上も深いが、今回の魚よりも深いところにすむ魚が見つかる可能性は低いと科学者らは考えている。

 海の最深部では巨大な水圧がかかるからだ。水深が約8200メートルよりも深くなると、高い水圧によってタンパク質の安定を失い、魚が化学的に耐えられない可能性があるという。

 有孔虫、十脚目の奇妙なエビ、ナマコ、微生物など、深海でも多種多様な生物が繁栄している。しかし、これまで最深部で魚が採取された例はない。2014 年の時点で、太平洋の5つの海溝における最深部に14回にわたってエサを取り付けたカメラトラップを仕掛けたが、魚の姿をとらえた記録はなかった。

 米ワシントン大学フライデー・ハーバー研究所の博士研究員、マッケンジー・ゲリンガー氏は、「このような海溝では、生命にとって大きな制約があります」と言う。クサウオはゾウ1600頭分に相当する水圧に耐えられると考えられる。「これだけの圧力に耐えられるように適応し、酵素を働かせ、膜組織を動かし続けているのです」

 もちろん、いつの日か認識が覆される可能性があることは研究者も承知している。

 極めて高い圧力がかかる深海

 今回見つかった新種の学名Pseudoliparis swireiは、1870年代に探検航海を行った英国の調査船HMSチャレンジャー号の士官にちなんでいる。この航海で数千もの新たな海洋生物が発見され、マリアナ海溝の発見につながった。同船の士官だった航海士、ハーバート・スワイア中尉による航海中の日誌が後に出版されている。「彼の名を取ったのは、海洋調査船で働く乗組員に謝意を表すためです」とゲリンガー氏は話す。「船が航行を続けるにはたくさんの人が必要です。こうした人たちに深く感謝したかったのです」

 この種はほぼ確実にマリアナ海溝に固有の生物とみられ、数も豊富らしい。2014年に、自律型の深海探査機のカメラに数匹写ったのを科学者たちが目にした。卵はやや大きめで、幅1センチ近くある。採取した個体をいくつか解剖したところ、餌に困ってはいなかったと考えられる。ゲリンガー氏は、魚の腹の中に細かい甲殻類が数百匹いるのを発見。庭にいるダンゴムシのような形だった。  このクサウオは、深海生物と聞いて多くの人がイメージする姿とは違っているかもしれない。

 ゲリンガー氏は、「一般の人が思い浮かべるのは、チョウチンアンコウやホウライエソのような姿です」と話す。深さ2000~3000メートルの深海でよく見られ、黒い体で怪物のようなあごを持ち、発光器をぶら下げているような魚だ。「今回調査したような水深になると、魚の姿は大きく変わります。私たちが知っているようなうろこも、大きな歯もなく、生物発光もしません」  もちろん、この分野の例にもれず、確実に言えることは少ない。クサウオは世界で350種以上が知られているが、マリアナ海溝での最近の探査で撮影されたのは2種だけであり、今回記載されたのがその1つだ。科学者たちは、複数回の探査でPseudoliparis swireiを37匹採取。水深8178メートルの地点でも1匹を撮影した。

超深海で生きられるよう独特の進化

 マリアナ海溝の水深7000メートルほどの「超深海」に、オタマジャクシを大きくしたような形の、半透明の魚が生息している。

 この魚、マリアナスネイルフィッシュ(学名はPseudoliparis swirei)はクサウオの仲間で、体長は最大30センチほど。この辺りの海では最上位の捕食者だ。しかし、真っ暗できわめて水圧が高い過酷な環境で、この魚はなぜ生きていられるのだろうか? 最新の研究で、その手がかりが得られた。中国の研究者グループが、無人探査機が採集したマリアナスネイルフィッシュの体の構造や遺伝子、タンパク質などを調べ、超深海で暮らせる秘密を学術誌「Nature Ecology & Evolution」に掲載した。

 論文によると、深海生活に適応するためのいくつかの特性が明らかになった。その一つは、頭の骨に隙間があること。これが「体内と体外の圧力のバランスを取っているのかもしれない」と、論文の筆頭著者である中国、西北工業大学のクン・ワン氏は言う。つまり、この隙間がなければ、水圧によってつぶれてしまうということだ。

 さらに、マリアナスネイルフィッシュは硬骨魚類の仲間であるにもかかわらず、骨の大部分が軟骨であることもわかった。研究チームは、石灰化(カルシウムが骨に沈着して骨を硬くすること)をつかさどるおもな遺伝子が変異していることも突き止めた。この変異によって、この遺伝子は部分的に機能しなくなる。そのおかげで骨が柔らかくなり、水圧に耐えられるようになったのではないかと、ワン氏は述べている。

 また、これほどの水圧がかかると、体のタンパク質が変性してしまう可能性もある。今回の研究では、魚の組織内に「トリメチルアミンNオキシド」(TMAO)と呼ばれる物質が高濃度で存在していることもわかった。タンパク質の機能を維持し、安定させる役割を果たすという。

 論文では細胞膜の機能にも言及している。高圧下でも細胞膜を介して物質が行き来できるよう、マリアナスネイルフィッシュは必要な物質を運ぶタンパク質を大量に生成しているらしいと、ワン氏は考えている。

 この魚の目は視覚として機能しておらず、探査機のライトにも反応しなかった。この点は、以前の研究結果とも一致している。その原因について、研究チームはいくつかの重要な光受容体遺伝子がないためではないかと考えている。真っ暗な環境で暮らし、決して光を目にしないため、光を検知する必要自体がないからだ。

 シンカイクサウオとは何か?

 シンカイクサウオ(Pseudoliparis amblystomopsis)は、カサゴ目クサウオ科に属する魚類の一種。深海性カサゴ目のクサウオ科魚類と共通し、体は柔軟でぶよぶよとしている。頭部は大きいが尾部は尻すぼみで、上から見るとオタマジャクシに似た体型をもつ。

 体長は10-20cm程度で、最大で全長23.8cmだが、35cmに達する個体もいる。体は淡桃色かつ半透明で、内臓の一部は透けて見える。目は黒くて小さい。

 水深6,000m以深の超深海層に分布し、海溝の海底付近で生活する底生魚である。深海魚の中でもとりわけ深い領域に暮らす種類の一つで、同様の水深からは同じクサウオ科の数種と、ヨミノアシロ(アシロ目)などのわずかな種類が生息することが知られる。

 これまでに明らかになっている生息域は太平洋北西部における海溝の深部に限られ、日本海溝および千島海溝の水深6,156-7,587mの範囲から報告されている。

 イギリスのアバディーン大学と東京大学大気海洋研究所の合同研究チームが2008年に行った調査で、日本海溝の水深7,703m地点においてシンカイクサウオの生態映像が撮影された。映像に記録されたシンカイクサウオは計17匹で、餌として設置されたサバに群がるヨコエビを、活発に遊泳しながら捕食する姿が観察された。

 水深6,000mを越える深海では栄養供給が著しく乏しい上に、極度の低水温と800気圧近い高水圧(指先に小型車一車両分に匹敵する質量の力がかかる)に曝される。このような過酷な環境下で生存を維持するために、海溝深部における深海魚の生息密度および運動性は非常に低いと考えられてきたが、そうではないとされる事で観察者達を驚かせ、新たな謎となった。

 本映像はこれらの常識を覆す貴重な資料であるとともに、シンカイクサウオが家族単位の群れを構成し得るような何らかの子育てを行うかもしれないという、新たな可能性を示すことになった。この映像は魚の撮影では最深記録となったが、マリアナ海溝の8,145m地点での調査でクサウオの一種が撮影され、記録が破られた。(Wikipedia)

参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/041600232/