太陽系外から2番目の使者到来

 2017年10月19日に謎の天体が発見された。その存在に世界中の天文学者は驚愕した。何しろこの天体は太陽系のものではなかったからだ。天体望遠鏡の発達により、人類は何億光年も離れている銀河を観測する技術は手に入れたが、太陽系の外はおろか、地球の重力を振り切って宇宙空間に出ることさえ大変だ。宇宙飛行士という特権のある人にのみそのチャンスがあるだけだ。

 人類が打ち上げた惑星探査機にボイジャー1号・2号があるが、ボイジャー1号・2号が打ち上げられたのは1977年、40年も経てようやく太陽系の端っこに辿り着いたかどうかのところにある。太陽系のすぐ外に何があるかまったくわからないのが現状だ。

 そこに現れた天体「A/2017 U1」は、米ハワイ大学の研究者が10月19日に同大の「パンスターズ1望遠鏡」を使って発見した。その後天体は、ハワイの言葉で「遠方からの最初の使者」を意味する「オウムアムア(‘Oumuamua)」と名付けられた。

 月日は過ぎ、2019年8月30日の夜明け前、太陽系外から2番目の使者がやってきた。ウクライナのアマチュア天文学者ゲナディー・ボリゾフ氏は、おかしな方向に進む奇妙な彗星を発見した。この天体は「ボリゾフ彗星(C/2019 Q4)」と名付けられた。

 現在、ボリゾフ彗星は速すぎて太陽の引力にはとらえられないことが、天文学者により暫定的に確認されている。つまり、太陽系を通り過ぎる恒星間天体の可能性が極めて高い。

急接近する奇妙な彗星を発見

 今後の観測でもこの結果が変わらなければ、ボリゾフ彗星は、2017年に発見された「オウムアムア」以来、他の恒星系から飛来した天体を追跡できたケースとしては2例目になる。

 その起源はまだまったくわかっていないが、C/2019 Q4が彗星だということは確認された。これまでの観測結果から、おそらく大きさは数キロで、コマ(太陽熱により放出された、彗星の核を取り巻く塵やガス)が存在することが判明した。

 おかげで、ボリゾフ彗星の組成については、オウムアムアよりはるかに多くのデータ収集が可能だ。さらに、ボリゾフ彗星の方が大きくて明るいため、その光を調べて化学的な手がかりを得る機会も多い。また、オウムアムアを発見したのはすでに太陽系から離れていくところだったが、ボリゾフ彗星はまだ近づいている最中だ。12月7日に太陽に最接近し、地球に最接近するのは12月29日。その距離は、2億9000万キロ以下になるとみられている。

 「これは、太陽系の外からやって来る、観測史上初の非常に活発な天体です」と英クイーンズ大学ベルファスト校の天文学者ミシェル・バニスター氏は話す。太陽との位置関係で、10月中旬までは本格的な観測は無理だと、バニスター氏は付け加える。しかし、その後数カ月は、観測に最適な条件が続く。

 「本当に素晴らしいのは、観測可能な期間が1年もあることです」と国際天文学連合小惑星センターの臨時ディレクターを務めるマシュー・ホルマン氏は話す。同センターは9月11日夜、ボリゾフ彗星の軌道検証結果を公表した。

 「別の恒星系を垣間見ることができるのです」と同氏は付け加える。「どこから来たのかを必ずしも知らなくても、わくわくします」

 ベテランの彗星ハンターであるボリゾフ氏は、クリミア天体物理天文台で北東の地平線近くに浮かぶふたご座周辺を集中的に観測し、ボリゾフ彗星を発見した。天文学者は、地平線近くのこうした「明るい」空の観測を避ける傾向がある。見えにくいことに加え、望遠鏡の繊細な光学系を傷める可能性があるからだ。

 ボリゾフ氏の発見は、天文学者の間を駆け巡った。米メリーランド大学の叶泉志(イェ・カンジ)氏がボリゾフ彗星のことを知ったのは9月8日、同僚がグループメールでその奇妙な軌道についてコメントした時だった。同氏はまた、NASAのジェット推進研究所が運営する彗星・小惑星追跡サービス「スカウト」の計算が、円形や楕円形ではない軌道を示していることに気が付いた。

 特に、軌道を示すあるパラメーターに、同氏は興味をそそられた。「離心率」だ。軌道の離心率が0ならば、その天体は完全な円を描いてある星の周りを回っている。そして、離心率が大きくなるほど軌道はより細長い楕円になり、1を超えるともはや楕円ではなくなる。つまり、太陽系の天体の離心率が1より大きい場合、1度だけ太陽系に近づき飛び去っていく。小惑星センターによると、ボリゾフ彗星の離心率は3を超えるという。

 ボリゾフ彗星が太陽系の端で生まれた彗星で、何らかの理由で弾き飛ばされて今の軌道に入った可能性は低い、と叶氏は言う。それほどの衝撃が加わるためには、進路を変えるほど大きな惑星のような天体の引力の影響を受ける必要がある。だが天文学者が知る限り、ボリゾフ彗星は太陽系内で、そのような天体の近くを通ってはいない。なにしろ、太陽系の惑星の周回軌道はほぼ同じ平面内に並んでいるが、ボリゾフ彗星はその平面に対して44度の急角度で突っ込んで来るのだ。

 「したがって、引力により軌道が変わったとは考えられません」と同氏は話す。

 「オウムアムア」やはり葉巻型UFOだった?

 天文学者の推定では、火星の軌道より内側のどこかには、他の恒星系から飛来した彗星か小惑星が常に1つは存在しており、海王星の内側となると1万個ほどもあるという。だが、こうした天体は小さく極めて暗いため、まず見えない。

 太陽系で最初に発見された恒星間天体オウムアムアは、2017年の秋にあっという間に通り過ぎた。天文学者がこの奇妙な天体を発見した時には、時速約15万キロという猛烈な速さで太陽系から飛び去るところだった。しかしながら、そのわずかな時間で、世界中の科学者が熱心に望遠鏡を向け、この宇宙のがれきについて驚くほど多くのことを明らかにした。

 はるか彼方のオウムアムアは、最高の望遠鏡でも針の先ほどの光の点にしか見えなかった。だが、数時間ごとに非常に暗くなったり明るくなったりすることから、細長い形で回転しながら太陽系を高速で通過していることが示唆された。長さは180~400メートルだが、幅は最大でも40メートルしかなく、鉛筆のような形だと天文学者は推定した。

 さらに興味深いことに、オウムアムアは同じ速度で飛び続けたわけではない。2018年初頭、太陽の引力を振り切った後、意外なことに速度が上がったのだ。ただちに、その原因についてさまざまな憶測が渦巻いた。米ハーバード大学のシュムエル・ビアリー博士研究員とアブラハム・ローブ教授は、突拍子もない説を提唱した。それは、地球外文明により送り込まれた宇宙船だったのではないか、というものだった。

 しかし、もっと現実的な現象であることは、ほぼ間違いない。別の研究によると、天体表面からガスが噴出して加速したが、あまりに暗いため望遠鏡では観測できなかったと考えられるという。あるいは、オウムアムアは、太陽光の圧力だけで推力を得られるほど十分に軽い多孔質の氷塊だった可能性もある。

 オウムアムアが通った後には、決して解き明かされることのない多くの謎が残った。このため、ボリゾフ彗星をはるかに詳細に研究できる期待で、天文学者は沸き返っている。叶氏に小惑星センターの軌道検証結果を受けて何をするかとメールで聞くと、こう返ってきた。「イエーーーーイ、望遠鏡の時間だよ!!!」

参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/091700535/

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