水星探査機「みお」スイングバイ

 太陽に最も近い惑星である水星の探査機「みお」は10日、地球に接近して重力で進路を変える「スイングバイ」を行ったとみられ、探査機が、近づく地球を撮影した映像が公開された。

 運用を行っているヨーロッパ宇宙機関は、探査機が9日午後8時すぎからおよそ9時間にわたって、接近する地球を10分おきに撮影した映像を公開した。探査機には時速10万キロ余りで飛行して、地球が徐々に近づいている様子が映っている。

 JAXAによると、探査機は10日午後1時半ごろに地球に最も近づいて、重力を利用して進路を変える「スイングバイ」を行い成功したと思われる。

 この水星探査計画はJAXA(宇宙航空研究開発機構)とヨーロッパ宇宙機関が共同で進めるプロジェクトで、JAXAが開発した探査機「みお」と、ヨーロッパの探査機を連結した形で一緒に打ち上げ、5年後に水星を周回する軌道に入れることを目指している。JAXAとESA合わせて、ベピコロンボ(BepiColombo)と呼ぶ。 

 2機の探査機は今後、金星と水星で合わせて8回のスイングバイを行って、5年後の2025年に水星を周回する軌道に入り、その後分離されて観測を開始することになっている。

 探査機の名前は、イタリアの数学者で、水星の研究や水星探査機の軌道設計などで活躍したジュゼッペ(ベピ)・コロンボ氏にちなんでいる。

 近くて遠い水星探査

 水星探査は難しく過去に水星を探査したのはアメリカの2機だけで、今回のベピ・コロンボは3回目。探査機「みお」は水星の磁場を調べるなどして誕生の過程などを調べることにしている。

 2020年時点で、マリナー10号とメッセンジャーが水星の接近観測の事例である。メッセンジャーは2008年1月14日に水星をフライバイし、1975年のマリナー10号以来の観測を行った。

 水星は地球からの距離の近さとは裏腹に、探査の難易度は他の惑星に比べて非常に高い。これは、水星に近づくためには太陽にも接近することになり、太陽の重力によって探査機が加速してしまうこと、水星の重力が小さいため単に接近するだけでは周回軌道に乗ることができず通り過ぎてしまうことが原因である。

 水星に到達するための「減速」に必要なエネルギーはかなり大きく、さらに太陽に近いことから水星周回軌道は不安定で、軌道維持に要するエネルギーも大きい。もちろん太陽から受けるエネルギーも地球近傍に比べて格段に大きいため、荷電粒子や放射線、熱への対策も万全に施す必要もある。メッセンジャーは、こうした困難を乗り越えて水星を周回した初のプローブとなった。

 ベピ・コロンボのミッション

 マリナー10号やメッセンジャーと同様に、ベピ・コロンボも金星と地球のフライバイを利用する。打ち上げは2018年10月20日、水星到着は2025年12月の予定である。「ベピ・コロンボ」のミッションは、以下の12の目的がある。

1.原始太陽系星雲の組成や惑星系の形成について、水星から何が学べるか?
2.水星の密度は、なぜ他の全ての地球型惑星や月よりもかなり高いのか?
3.水星の核は液体か固体か?
4.水星の地質は今日でも活動しているのか?
5.なぜこれほど小さな惑星が、金星、火星、月が持たないような強い磁場を持っているのか?
6.なぜ分光学的観測により、主な構成元素であるはずの鉄の存在が検出できないのか?
7.極地方の永久影のクレーターには、硫黄や水の氷があるのか?
8.未だ観測されていない半球は、マリナー10号が観測した部分と大きく異なるのか否か?
9.外気圏の形成の機構は何か?
10.電離圏がない状況で、太陽風は磁場とどう相互作用しているのか?
11.地球で見られるようなオーロラ、ヴァン・アレン帯、磁気嵐等は存在するか?
12.水星の近日点は、時空の湾曲から説明できることから、水星を用いて一般相対性理論の精度を更に高めることができるか?

 ノミナルミッション期間は水星到着後1年間であるが、さらに1年間のエクステンドミッションを行うことが期待されている。

 ベピコロンボの運用を担うESAのミッション・コントロール・センターは、新型コロナウイルスの影響で通常より少ない人数での運用を強いられたものの、大きな支障はなかったという。

 スイングバイ後の探査機の状態は正常だという。また、今回の地球スイングバイの結果については、今後1~2週間かけて軌道力学の専門家による詳細なデータ解析を行い、判断するとしている。

 ベピコロンボは今後、2020年10月15日に金星に接近し、スイングバイを実施。さらにその後、もう1回金星スイングバイを行い、続いて水星で6回のスイングバイを行う。

 また、スイングバイの回数の多さもさることながら、探査機をスイングバイさせるためには惑星に近づくタイミングに合わせなければならず、そのため太陽のまわりを何周もしながら、そのタイミングを待ち続ける必要がある。そのため水星を回る軌道への投入は、いまから5年後、打ち上げからじつに7年後の、2025年12月に予定されている。

 水星についてわかっていること

 水星(Mercury)は、ご存じの通り、太陽に最も近い公転軌道を周回している惑星である。「地球型惑星」に分類され、太陽系惑星の中で大きさ、質量ともに最小のものである。表面の平均温度は 452K(179 ℃)。最高は700K(437℃)に達し、鉛を融かすのに十分なほどの暑さに達する。

 これほどの灼熱の世界であるにもかかわらず、日陰部の最低温度は平均110K(-163℃)。極に近く深いクレーターの中には太陽光が当たらない永久影となる部分があり、温度が102K以下に保たれている。1992年、ゴールドストーン深宇宙通信施設の70m電波望遠鏡と超大型干渉電波望遠鏡群 (VLA)が、強いレーダー反射を観測した。この反射現象は他にも原因を考えうるが、天文学者は氷が存在する可能性が最も高いと考えた。

 水星は月より大きく(水星は直径4879km、月は3476km)、鉄のコアのせいで高い密度も持っている。その結果、水星の表面重力は0.377gで月(0.1654g)より大きく、火星の表面重力と同じぐらいである。

 また、水星の土には、綺麗な核融合の燃料として重要で将来の太陽系の経済の鍵となると思われる、大量の“ヘリウム3”が含まれているのではないかという予測がある。また、その構造から、鉱業に利用できる重要な高価値の鉱石があることも期待される。こうしたことから、驚いたことに水星に植民する計画がある。

参考 アストロアーツ: http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11202_bepicolombo

  

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