モーリシャス共和国に「環境緊急事態宣言」

 モーリシャス共和国はインド洋に位置する島国で、インド洋と言ってもアフリカのマダガスカル島に近い。イギリス連邦加盟国の1つで、首都はポートルイス。

 インド洋のマスカレン諸島に位置する共和国ながら、アフリカの国家の1つに数えられている。民族構成は多様だが、19世紀にサトウキビ農園の労働力として移入されたインド系住民が過半数を占める。

 美しいビーチ、ラグーン、サンゴ礁で知られている。山がちな内陸部にあるブラックリバー渓谷国立公園には熱帯雨林、滝、ハイキング トレイルがあるほか、オオコウモリなどの野生動物が生息している。

 この場所で事故が起きたのは2020年7月25日の事だ。日本の商船三井がチャーターし、運航していた貨物船「わかしお」がサンゴ礁で座礁した。乗員は避難したが、周辺海域に大量の燃料が流出した。事故当時、同船に積み荷はなかったものの、約4000トンの燃料を積載していた。

 今月8月6日には重油が流出したため、モーリシャス政府は「環境緊急事態」を宣言した。長鋪汽船は、サルベージ船と契約、「わかしお」船内に残っていた約3000トンの燃料油を抜き取った。

 だが、海面に流出した燃料油は約1000トンにも及ぶと見られ、サンゴ礁や沿岸のマングローブ林を汚染してしまっている。

 特にマングローブの木は「気根」と呼ばれる多数の根を水中や水上に広げているが、気根にこびり付いた重油を除去することは大変困難で、現地では人海戦術の手作業での除去活動が続けられている。

 早く重油を除去しなければ、多くの魚や魚介類の住み処であるマングローブ林が枯死してしまうことが懸念されるのだ。

 事故現場周辺の海域は世界的にも貴重な生物多様性の宝庫であり、約800種の魚類、17種の海洋哺乳類、2種のカメを含む1700種が生息。

 観光業や漁業など「宝の海」に依存するモーリシャスの人々への影響は計り知れない。

 日本政府も本腰で対応を

 新型コロナ対策のための入国規制もあり、日本での報道は断片的だ。だが、事態は重大な環境汚染のみならず、事故への対応をめぐり、モーリシャス政府へ人々の不満が爆発するなど、現地の政情不安という面も見せ始めている。

 長鋪汽船も「当事者としましての責任を痛感しており、賠償については適用される法に基づき誠意を持って対応させていただくつもりです」(長鋪汽船・代表取締役 長鋪 慶明氏)とのことであるが、今回の重油流出の影響は数十年もの長期にわたる可能性も現地NGOなどから指摘されており、長鋪汽船のみで対応できるかは不透明だ。

 モーリシャス政府は、長鋪汽船へ賠償請求する意向であることは、AP通信が報じているところであり、長鋪汽船も「当事者としましての責任を痛感しており、賠償については適用される法に基づき誠意を持って対応させていただくつもりです」(長鋪汽船・代表取締役 長鋪 慶明氏)とのことであるが、今回の重油流出の影響は長期にわたる可能性も現地NGOなどから指摘されており、長鋪汽船のみで対応できるかは不透明だ。

 対応や補償等について長鋪汽船や商船三井にどう支払わせるかは、後で論議するとして、今は現地への環境への影響を最小限にするため、日本政府として全力を尽くすべきであるし、その姿勢を真摯さと共に表すことが必要だろう。

 「イルカの死」に人々の怒りが爆発

 そして今、モーリシャス政府に対して現地の人々の不満が爆発している。AFP通信によれば、今月29日、海上安全保障の専門家ジャン・ブルノー・ローレット氏の呼びかけで、およそ7万5000人もの人々が、プラヴィン・ジャグナット首相に抗議。モーリシャスでこのような大規模デモが行われるのは40年ぶりだと言う。

 人々の怒りに火を付けたのは、事故後、イルカの死体が相次いで発見されたことについて、モーリシャス政府が「イルカの死は事故とは関係ない」との見解を示したことだ。

 だが、事故現場周辺の海域では、重油にまみれて苦しむイルカの姿が目撃されている。
米国のテレビネットワーク大手「MBC」は、「死んだイルカ達は口のまわりに重油で覆われていた」「繁殖の時期であり、死んだイルカには妊娠していたものもいた」との現地住民の声を取り上げた。

 また、ウミガメや魚、カニなども犠牲になっているという。「イルカの死因について、政府の発表は科学的な証明ができていない」と語る現地の環境コンサルタントのファビオラ・モンティさんは「解剖に関する情報に私達はアクセス出来ない。

 「透明性の高い、独立した調査が必要だ」と自身のSNSで訴えている。現在までに40頭程のイルカの死体が確認されているが、英紙「ガーディアン」の報道(今月29日付)の報道によれば、解剖による調査が行われたのは2頭だけだったという。また米紙「ニューヨク・タイムズ」(今月28日付)の報道によれば、死んだイルカは胃の内容物が無いなど餌を食べた痕跡がなく、ストレスに晒された状態だったことがうかがえるという。

参考 AFP通信: https://www.afpbb.com/articles/-/3298769?pno=20&pid=22571880

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