2020年ノーベル医学・生理学賞

 2020年のノーベル医学・生理学賞の発表が、10月5日スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表。受賞理由は「C型肝炎ウイルスの発見」である。受賞者には、C型肝炎ウイルスを発見した米国人2人、英国人1人の研究者3人が選ばれた。

 「肝炎」はほとんどの場合、A型肝炎・B型肝炎・C型肝炎が多く、E型肝炎は発展途上国を中心に流行しているが、その他の肝炎は少ない。

 その原因のほとんどがウイルスである。C型肝炎(Hepatitis C)は、C型肝炎ウイルス (HCV) に感染することで発症するウイルス性肝炎の一つ。C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus、HCV)は、フラビウイルス科ヘパシウイルス属に属するRNAウイルスで、C型肝炎の原因となる。

 有効なワクチンは無いが、抗ウイルス薬の登場により近年中の撲滅が期待されている。抗ウイルス薬としては、2015年7月に承認されたレジパスビルの登場により、96〜100%の人でウイルス除去が可能になった。現在の日本のHCV感染者数は約200万人、世界では1億7千万人(世界人口の3パーセント近く)がキャリアであると見られている。

 HCVは血液が主な感染経路で、かつては輸血による感染が多かった。ディスポーザブル注射器の普及により現在においては先進国では検査体制が確立したためほとんど見られない。

 薬害肝炎訴訟

 日本では、血液製剤(フィブリノゲン製剤、第IX因子製剤)の投与によるC型肝炎感染について、非血友病患者に対する投与に対して、日本国政府と製薬会社を相手とする訴訟(薬害肝炎訴訟)が起こされ、社会問題になっている。

 米国では、食品医薬品局(FDA)が、B型肝炎感染の危険性があること及びフィブリノゲン製剤の臨床効果を評価するのは困難であり有効とされる適応症がほとんどないことを理由に、1977年12月、フィブリノゲンと同成分の製剤の製造承認を取り消していた。

 日本でも、1979年には、一部の研究者がこうした事実を指摘していた(国立予防衛生研究所血液製剤部長の安田純一著「血液製剤」)。また、ミドリ十字社も、1978年1月に、FDAによるフィブリノゲン製剤の承認取消が掲載された米国連邦広報を入手し、社内で回覧していた。

 にもかかわらず、旧厚生省が初めて実態調査を指示して自主回収が始まったのは、青森県三沢市における肝炎の集団感染が発覚した1987年からであり、完全に回収されたのは実に10年間以上かかった。

 ノーベル医学生理学賞の米英の3研究者

 今回の受賞者は米国立衛生研究所(NIH)のハービー・アルター氏と米ロックフェラー大学のチャールズ・ライス氏、カナダ・アルバータ大の英国人マイケル・ホートン氏。

 3人の研究結果により、世界保健機関(WHO)が2030年までの目標とするC型肝炎ウイルス根絶を達成する可能性が出てきた。

 3人の研究者は、血液によって感染するウイルスがC型肝炎を起こすことを発見・証明。賞金1千万クローナ(110万ドル)を等分する。

 1980年代半ばにバイオ医薬品会社カイロンで研究チームを率いていたホートン氏が、感染したチンパンジーの血液を利用してウイルスのクローンを作成。

 フラビウイルス属のこのウイルスは後にC型肝炎ウイルスと名付けられた。ウイルスを特定したことにより血液バンクにある血液を検査し感染を大幅に抑えることができるようになった。C型肝炎ウイルスは、肝硬変や肝臓がんを引き起こす。

 その後、当時ワシントン大学セントルイス校にいたライス氏が遺伝子工学によってC型肝炎ウイルスを複製。チンパンジーの肝臓に注入すると、人の肝炎患者と同様の症状が起きることを確認した。

 ノーベル財団は、12月の祝賀式の中心となる恒例の晩餐会を中止し、メダルと賞状の授与をテレビで放送することとした。

 ハーベイ・オルター

 ハーベイ・J・オルター(Harvey James Alter、1935年9月12日 - )はアメリカ合衆国のウイルス学者。アメリカ国立衛生研究所の名誉研究員。C型肝炎ウイルスの研究で知られ、2020年にはノーベル生理学・医学賞をマイケル・ホートン、チャールズ・ライスらとともに受賞した。

 1935年、アメリカ・ニューヨークのユダヤ人一家に生まれる。ロチェスター大学で医学を学び、1960年に医学学士号を取得したのち、1961年から1964年までアメリカ国立衛生研究所(NIH)に勤務する。その後はワシントン大学とジョージタウン大学の病院でそれぞれ勤務した。1969年には再びNIHに戻り、現在は名誉研究員を務めている。

 1964年には若き研究者として、バルーク・サミュエル・ブランバーグのHBsAg(オーストラリア抗原)の発見に参加した。また後に輸血によって引き起こされる肝炎の原因解明と対策のため血液サンプルの貯蔵プロジェクトを率いた。これをもとにアメリカ政府は献血者及び臓器提供者の検診プログラムを開始し、輸血などによる感染リスクを1970年の30%からほぼ0%に引き下げることができた。

 1970年代半ば、オルターのチームは輸血後に見られる肝炎の中で最もよく見られる症例はA型肝炎でもB型肝炎でもないことを証明した。そして同僚との研究によって、チンパンジーを用いた透過実験をもとに新たな肝炎の型を発見した。当初は「ノンエー・ノンビー」と呼ばれていた。これがのちのC型肝炎ウイルスの発見へと繋がり、1988年にはその存在が確かなものとされた。1989年4月に「ノンエー・ノンビー」は「C型肝炎ウイルス」と命名された。

 マイケル・ホートン

 マイケル・ホートン(Michael Houghton、1949年 - )はイギリスのウイルス学者。アルバータ大学教授。C型肝炎、D型肝炎遺伝子の発見で知られ、2020年にはノーベル生理学・医学賞をハーベイ・オルター、チャールズ・ライスとともに受賞した。

 1949年、イギリス生まれ。17歳の頃、ルイ・パスツールの伝記を読んで微生物学者を志すようになった。1972年にイースト・アングリア大学を卒業し、次いで1977年にはキングス・カレッジ・ロンドンで生化学のPhDを取得した。

 G.D. サール・アンド・カンパニーに就職ののち、1982年にはChiron Corporationにうつる。この時、Qui-Lim ChooやGeorge Kuo、Daniel W. Bradley(アメリカ疾病予防管理センター出身)と知り合う。そしてこの研究仲間とともに1989年にC型肝炎ウイルスを発見した。また1986年にはD型肝炎ウイルスの遺伝子も発見している。

 1989年と1990年に出版された、被輸血者を含む、特に罹患リスクの高い患者の血中における抗C型肝炎ウイルス抗体を特定する研究論文の共同執筆者となった。この研究によって1990年に血液検査の発展が見られ、1992年にカナダで始まったものはより精度の高い検査によって、C型肝炎ウイルスに汚染された血液を取り除くことができるようになった。

 こうして血中のC型肝炎ウイルスを検知するための診断用試薬が飛躍的に向上し、輸血によるC型肝炎感染の確率は3分の1から約200万分の1へと下がった。この抗体検査によってアメリカだけでも一年に4万件の新規感染を防いでおり、世界全体で見たらさらに多いだろうと推定されている。また同じ時期に発表された研究では、ホートンと共同研究者たちはC型肝炎と肝臓がんを結びつけて考えていた。

 2013年にはアルバータ大学のホートンのチームはC型肝炎ウイルスの単一株に由来するワクチンは同ウイルスのすべてのウイルス株に有効であることを明らかにした。2020年の段階でワクチンは非臨床試験の段階にある。

 チャールズ・ライス

 チャールズ・M・ライス(Charles Moen Rice、1952年8月25日 - )はアメリカのウイルス学者。ロックフェラー大学のウイルス学教授で専門分野はC型肝炎ウイルス。2020年にハーベイ・オルター、マイケル・ホートンとともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。

 1952年8月25日、アメリカ・カリフォルニア州のサクラメントに生まれる。1974年に動物学の学士号を得て、カリフォルニア大学デービス校を卒業。またカリフォルニア工科大学ではRNAウイルスを研究し、生化学のPhDを取得した。その後は博士研究員として4年間同校に勤務した。

 その後、1986年に彼は研究チームとともにセントルイス・ワシントン大学医学校(Washington University School of Medicine)に移利、2001年まで勤務した。

 2001年からはロックフェラー大学の教授を務める一方で、セントルイス・ワシントン大学医学校とコーネル大学でも非常勤講師を務め、またアメリカ食品医薬品局やアメリカ国立衛生研究所、世界保健機関の委員も歴任した。現在ではそのほか、アメリカ科学振興協会の研究員や米国科学アカデミーの会員でもある。

 執筆・編集活動も精力的に行なっている。2003年から2007年までには「Journal of Experimental Medicine」、同じく2003年から2008年までは「Journal of Virology」、そして2005年から現在までは「PLoS Pathogens」の編集者を務め、同時にこれまで400を超える査読論文を執筆している。

 カリフォルニア工科大学時代はシンドビスウイルスのゲノム調査やフラビウイルスがフラビウイルス科である立証などを行なっていた。彼がこの研究に使っていた黄熱ウイルスの株は最終的に黄熱病ワクチンの発展に使われた。

 シンドビスウイルスの研究をしながら、感染性のあるフラビウイルスのRNAの人工的な作り方を著述し、1989年の論文で発表した。

 当時C型肝炎ウイルスを研究していたStephen Feinstoneはこの論文を目に留め、ライスにその技術をC型肝炎のワクチンの開発に使わないかと持ちかけた。こうしてライスは1997年にC型肝炎ウイルスの感染性のある最初のクローンを培養し、チンパンジーに対しての実験で使用した。

 また2005年には人間の体内で識別された急性型のウイルスの株は人工的な環境で複製することを強いられている、ということを研究するチームの一員であった。ライスのC型肝炎治療への貢献は彼の受け取った数々の表彰に現れている。

  

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