「穴あき雲」関東や四国などで発生

 11月30日朝、広がる雲にぽっかり穴が空いたような雲が関東や四国など各地の空で目撃され、その写真がインターネットのSNSなどに相次いで投稿された。専門家によると、これは秋から冬への変わり目に発生しやすい「穴あき雲」と呼ばれる雲で、「同じ時間帯に各地で見られるのは珍しい」そうだ。

 このうち、午前8時ごろ千葉市若葉区で撮影された写真では、雲の合間に大きな穴があいたようになっていた。撮影した60代の女性は「初めて見る雲でとても驚いた。同じような穴が見える範囲だけでも2、3個あった」と話していた。

 また、四国の上空でも撮影され、高松市で午前7時半ごろに撮影された写真では空一面に広がった薄い雲の中に大きな穴のようなものが見られた。

 こうした現象はたしかに不思議だが、理論的にも解明されている。秋から冬への変わり目に発生しやすい「穴あき雲」と呼ばれる雲だという。

 上空高いところにあるうろこ雲は過冷却と呼ばれる水滴でできていて、そこに氷の粒が発生すると、その粒に周りの水蒸気が次々に付着する。するとまわりの水蒸気量が低くなるので、まわりのうろこ雲の水滴が蒸発する。そのため、穴の空いたような雲ができるという。

 この日は各地にうろこ雲が広がったことが「穴あき雲」の原因とみられる。同じ時間帯に各地で見られるのは、珍しい。

 穴あき雲とは?

 穴空き雲とは、層状に薄く広がった巻積雲や高積雲でみられる、円形の隙間が空いた雲である。英語では "fallstreak hole"、"hole punch cloud"、"skypunch"、"canal cloud"、"cloud hole" などと呼ばれる。日本語の別名としては、英語音写主体の「ホールパンチ雲(hole punch cloud)」、音写の「スカイパンチ(skypunch)」、後者に「雲」を付け足した「スカイパンチ雲」がある。隙間の下には垂れ下がるような筋状の尾流雲(降水条)がみられることが多い。

 層状の雲を構成する雲粒が、氷点下にありながら凍結していない過冷却の状態にあって、ある一点で凍結が始まると、飽和水蒸気圧の差によって周囲の水滴が次々に蒸発して氷晶表面に昇華し、氷晶が急速に成長する現象(ライミング)が発生する。

 そして、成長した氷晶は落下を始める。これにより、雲粒が無くなった部分に円形の穴が空き、その中心付近から筋状の尾流雲が降りる。尾流雲は氷晶からなることが多いので、羽毛のような巻雲の形状をしていることが多い。凍結開始のきっかけとしては、層状の雲が2層以上に重なっていて、上層の雲から落下してきた氷晶が過冷却雲層に達すること、などが指摘されている。

 同様の条件の雲をジェット機が通過した跡には細長い穴空き雲が発生することがある。これは、ジェットエンジンの排気に含まれる微粒子が氷晶核となって細長い領域にライミングを発生させるためである。衛星写真で見ると、結露した窓を指でなぞったような形の隙間ができた様子が観察できる。その形は細長い運河を連想させることから、運河雲 (canal cloud) とも呼ばれる。

 一般的に目にする機会は少なく、UFOあるいはUAP(Unidentified Aerial Phenomenon=未確認空中現象)などと誤認された例もあるが、学術的には決して珍しい現象ではなく、ロシアやアメリカではしばしば写真が撮影されている。

 雲ができるまで

 気温が0度(氷点、凝固点。気圧変化にはほとんど関係なく一定)以上のとき、雲粒はすべて水滴である。

 このとき、飽和水蒸気圧がどの場所でもほとんど差がない関係で、水滴の成長速度は非常に遅い。このため、水滴がさらに成長するためには、次の併合過程を経る必要がある。併合過程を経ずに空気中を浮遊しているのが雲であり、霧である。

 雲核に最初の水滴が凝結、または氷晶が昇華した後、しばらくは、さらにほかの水滴や氷晶が凝結や昇華をし続ける。このとき、その空気の気温と雲粒(はじめて水滴が凝結した時点で、あるいは氷晶が昇華した時点で、これを雲粒という。)の状態によって、異なる成長を遂げる。

 過冷却水とライミング

 気温が0度以下であっても、0度〜-40度くらいの範囲では、ある条件を満たさなければ水滴は過冷却のままである。ある条件とは、空気や過冷却水滴内に氷晶核が存在することである。

 氷晶核は4種類存在する。水蒸気がそのまま昇華して氷晶となる昇華核、水滴内に取り込まれて凍結させる非吸湿性の凍結核、凝結核と凍結核の両方の働きを持つ凝結凍結核、水滴に衝突して凍結させる非吸湿性の衝突凝結核、である。

 少しでも氷晶があれば、周りに大量の過冷却があっても、あるメカニズムによって氷晶は急速に成長を遂げる。そのメカニズムとは、氷晶のまわりと過冷却水滴のまわりで飽和水蒸気圧に差がある(過冷却水滴の周りのほうが圧が大きい)ことが原因で、過冷却水滴が蒸発しやすくなり、蒸発した水蒸気が氷晶のまわりに昇華してどんどんと成長していくことである。これをライミング(riming)という。

 この成長時に、氷晶は雪として、独特の形をした結晶を形成していく。これにより、非常に小さかった雲粒は急速に大きく成長するが、大きくなるにつれて水蒸気の供給が少なくなるので、成長速度も遅くなってくる。しかし、このころには雲粒はある程度の大きさに成長していることが多く、次の併合過程に移る。

 併合過程

 雲粒がさらに集まって成長していく過程を併合過程(coalescence process)という。十分な大きさに成長し、自身を浮遊させている上昇気流の力を上回る重さを得た雲粒は、次第に落下を始める。

 このとき、大量の雲粒が存在しているが、それぞれの大きさにはばらつきがある。大きな粒は落下が速い。このため、大きな雲粒は落下の際により小さな雲粒に衝突し、水滴ならば1つの大きな水滴に、氷晶ならば過冷却水滴を蒸発させてその水蒸気を昇華させながら、さらに大きく成長していく。

参考 NHK: 「穴あき雲」 関東各地で目撃相次ぐ

  

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