絶滅危惧種から危急種に

 愛嬌たっぷりのパンダ。いつの時代も大人から子どもまで多くの人に愛されている人気者だ。日本では東京の恩賜上野動物園、和歌山のアドベンチャーワールド、兵庫の王子動物園でパンダたち計7頭が暮らしている。

 ジャイアントパンダは、中国の四川省、甘粛省、陜西省の標高約1300~3500メートルの高地の竹林に生息しており、絶滅のおそれのある哺乳類の一つだ。1970年代、生息数は約1000頭とされ絶滅危惧種に指定されていた。

 その後、ワシントン条約や中国政府の保護対策により、2016年には、約1600頭と若干頭数が増加していた。国際自然保護連合(IUCN)がジャイアントパンダを絶滅危惧種のリストから外したのだが、中国当局はこの決定に追随しない姿勢を示していた。

 ところが2021年7月、中国当局は、ジャイアントパンダの絶滅危険度を「絶滅危惧種」から「危急種」に引き下げると明らかにした。なぜだろうか?

 中国政府の保護政策

 中国は50年をかけてジャイアントパンダの個体数を増やす試みを進め、絶滅防止策として山間部に広大なパンダの保護区を建設してきた。

 国際自然保護連合(IUCN)は2016年の時点ですでに、ジャイアントパンダの危機の度合いを絶滅危惧種(Endangered)から危急種(Vulnerable)に引き下げていたが、中国の一部の研究者と当局は、この評価は時期尚早であり、パンダ保護活動を弱体化させかねないとして、引き下げを受け入れていなかった。 

 だが、2016年以降、状況は大きく進展した。中国は、四川省を中心に、既存のパンダ生息地の70%を包括する新たなジャイアントパンダ国立公園を設立することを決めた。さらに、気候変動がパンダとその餌である竹におよぼす影響は、従来考えられていたほどに深刻ではないとする研究成果も発表された。

 「現在の個体数1800頭までの増加は、20年前にはとても実現できないと考えられていました。パンダは、すばらしい成功例なのです」と、中国、復旦大学生命科学学院の保全生物学者ファン・ワン氏は語る。

 野生のパンダの生息地はおよそ1%に減少

 しかし、専門家たちは、今回の成功は限定的なものであり、パンダの回復が保証されたわけではないと警告している。

 広範囲に及ぶ森林破壊と生息地の分断によって、野生パンダは、過去の生息域の1%にも満たない土地に追いやられており、新たな脅威も迫っているからだ。

 現在のジャイアントパンダの個体数はまだ、およそ1,800頭あまり。その1,800頭がすむ中国南西部の山林も、切り拓かれるにつれて小さく分断されている。

 中国政府は、これまでに30カ所以上のジャイアントパンダ保護区を設立した。しかし、パンダの多くは保護区外にすんでいるため問題の解決にはならず、生息地破壊も続いている。このことは、中国の急速な経済発展とも決して無関係ではない。

 保護区の維持や、人材の育成に必要な資金は、決して十分ではなく、長年の調査で蓄積された膨大なデータを活かすためのデータベースも、早急に整備する必要がある。