2012年のノーベル物理学賞
スウェーデン王立科学アカデミーは10月5日、2021年のノーベル物理学賞を、コンピューターによる気候変動予測を始めた世界的な気候学者の真鍋淑郎(しゅくろう)米プリンストン大上席研究員(90)ら3人に授与すると発表した。
真鍋淑郎氏クラウス・ハッセルマンは、地球の気候に関する知識と人類がそれに与える影響の基礎を築いた。ジョルジョ・パリシは、無秩序でランダムな現象の理論に貢献した。
真鍋氏への授賞理由は「地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発」で、コンピューターによる地球気候モデルを開発し、二酸化炭素(CO2)の増加が地球温暖化や気象、海洋などの変化の要因であることを予測した研究が評価された。
日本人のノーベル賞受賞は2年ぶりで、28人目(うち米国籍は真鍋氏含め3人)となる。物理学賞は15年の梶田隆章・東京大宇宙線研究所長に続き、6年ぶり12人目。
違和感の残るノーベル賞
日本人のノーベル受賞者があったことは誇らしいことだ。しかし、今回の授賞には驚いた。その理由の一つは、これまで気象学についてのノーベル賞の受賞はなく、今回初めての受賞であったことだ。
ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏でさえ、「気候モデルは現在の気候を理解するには役に立つが、気候の予測には無力である」と口を酸っぱくして言っていたという。つまり、二酸化炭素がこのまま増えれば、気温はこれぐらい上がるといった予測はできない。
気候変動に利用されたノーベル賞
この受賞には、別の意識が働いた可能性がある。例えば、最近グーグル社は「気候変動を否定するコンテンツに規制をかける」…と発表している。
グーグルは今回の措置を策定するにあたって、気候変動に関する国連政府間パネル(IPCC)に関係する専門家などに相談したという。IPCCは、アル・ゴア氏とともに2007年ノーベル平和賞を受賞している。一方で、気候変動を否定する専門家には相談していないようだ。
また、「ノーベル物理学賞の選考委員は、今回の賞が世界の首脳に対して気候変動の危機がいかに重要であるかメッセージを込めているのか」...という記者の質問に対して「世界の首脳でまだこのメッセージをしっかり受け止めていない人ならば、私たちがこう言ったからといって理解するものではないと思う。私たちが言えることは、温暖化は確固たる科学に基づいて解明しているということだ」と述べている。
しかし、IPCCの報告書には大きな疑問や反論等が提示されており、温室効果ガスによる地球温暖化という仮説が科学的に決着したわけではない。どうもEUや米国には、二酸化炭素=地球温暖化を結び付けたい人たちが多くいて、ノーベル賞が気候変動を問題にしたい人たちの政治的な意図に利用されてしまっている。
二酸化炭素と気候変動の関係を予測
しかし、それまで占いのような予報しかできなかった気象現象を科学的に分析して確率を高め、分かりやすくした点は素晴らしいと思う。
真鍋氏は、1958年に米気象局(当時)の研究員として渡米。1967年、高速コンピューターを使い、大気の運動と気温の関係を定めるモデルを開発し、「CO2が2倍に増えると地上気温が2~3度上昇する」と世界で初めて予測した。
さらに、1989年には大気、海洋、陸上の気象の相互影響を組み込んだ本格的な温暖化予測に成功。その成果は、世界の科学者らでつくる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が1990年に発表した第1次報告書に取り入れられ、温暖化シミュレーションの発展に道を開いた。1997~2001年には日本を拠点に、科学技術庁(現・文部科学省)の研究組織で、地球温暖化を研究するチームを率いた。
真鍋氏は王立科学アカデミーからの電話インタビューで、この研究を始めた動機について聞かれて、「東京大学の大学院に進んだ際に、ちょうどフォン・ノイマンがコンピューターで流体力学の方程式を解いて物理法則に基づいた天気予報を実現しようと少人数での研究を始めていた。それまで天気予報は過去の天気図と経験に基づく“芸(art)”の一種で、科学とはいえなかった。(ノイマンの影響で)気象学を専攻することに決めた」と回答した。
明日の気象予報は外れても気候変動を予測できる
クラウス・ハッセルマン氏はその約10年後の1976年、場所や時間によってほぼランダムかつ急激に変動する気象と、非常にゆっくり変動する気候を統一的に説明する理論を発表した。これによって、明日や数日後の天気予報の難しさと、長期的な気候変動の信頼性の高い予測が両立することを示した。
地球温暖化問題の“懐疑派”の中には、今でも「明日の天気予報が当たらないのに数十年後の予測ができるわけがない」という人は多いが、その問題はすでに45年前に解決しており、地球温暖化問題を予測できる出発点を確立した。
スピングラス理論が気候変動理論に類似
一方、ジョルジョ・パリシ氏の研究は上の2人とは分野が大きく異なる。授賞理由の中の「物理系」とは具体的には、磁性を持たない金属に鉄など磁性を持つ金属を微量加えた合金のことで、その微小な磁性体(スピン)だけをみれば、非晶質に似た分布になることから「スピングラス」と呼ばれる。
例えば、磁性を持たない銅(Cu)に鉄(Fe)を少量混ぜた合金は、スピングラスである。パリシ氏は1980年ごろから、このスピングラスの理論的研究で大きな業績を残した。
一見すると気象や気候とは全く関係がないが、スピングラス中のバラバラの方向を向いた個々のスピンとその平均を取った巨視的な磁性の関係は、ハッセルマン氏が解明した気象と気候の関係に似ているともいえる。
ちなみにスピングラスを一部単純化した理論が「イジングモデル」で、その振る舞いはカオス力学系の一種と考えられる気象や気候とよく似ている。
イジングモデルの応用範囲は非常に広い。組合せ最適化問題をイジングモデルを使って解く手法「シミュレーテッドアニーリング(SA)」が1983年に開発され、最近ではその専用マシン(イジングマシン)が続々と開発されている。このほか、数学、機械学習、脳神経学などへの応用が広がっている。
賞金は1000万スウェーデン・クローナ(約1億2700万円)で、真鍋氏には4分の1が贈られる。授賞式は、アルフレッド・ノーベルの命日の12月10日にストックホルムで行われる。新型コロナウイルス対策のため、受賞者を招かない形で開かれ、受賞者は居住国でメダルを受け取る。
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