便利なタッチパネル

 銀行でお金をおろすときに使う「ATM」。そのタッチパネルは電気を通すプラチックでできている。以前プラスチックは「絶縁体」であり、「電気を通さない」というのが常識であった。その常識は大きく変わった。

 現在、今まで絶縁体とされてきた様々な物質を導体に変える研究がされている。「絶縁体は電気を通さない」という常識を最初に変えたのが、2000年ノーベル化学賞を受賞した筑波大学名誉教授の白川英樹博士の「電気を通すプラスチック」である。

 白川博士の研究は、プラスチックにヨウ素を不純物として入れることで、「電気を流すプラスチック」を発見した。白川博士は言っている「自然に親しみ、本物を見て自然の不思議と遊ぶこと」。

 私たちは、「常識」と思われている世界の中にいる。でも「常識」を自分の目で確かめてみることは大切である。私には博士の言葉の真意はわからないが、自然界には不思議なことはたくさんあり、不思議なことは大好きなので、その気持ちだけは持ち続けたいと思う。

 今日は「プラスチック」とは何か?白川博士の「電気を通すプラスチック」とは何か?調べる。(参考HP 国立科学博物館・e-science・Wikipedia)

 電気を通すプラスチックとは何か?

ポリアセチレンフィルムの合成
 大学を卒業し、希望通りの東京工業大学の大学院に入った白川博士は、その後大学で助手をつとめるようになりました。

 1976年のある日、白川博士は韓国の一人の研究生を指導していました。ポリアセチレンというプラスチックの作り方を教えていたのです。作り方をメモにして研究生にわたし、実験をしてもらいました。

 「失敗しました」。研究生はほどなくして報告にきました。何やら黒い色の膜が実験器具の中にできています。当時、ポリアセチレンは、合成しても粉のようにしかならないことが知られていました。合成しても粉状になってしまうことから、さまざまな性質、つまり「物性」の測定はむずかしいとされてきました。

 白川博士はこの黒い色をした膜に注目し、なぜこのような物質ができたのかを注意深く検討しました。そして、後に「白川法」とよばれる、ポリアセチレンのフィルムを作る方法を発見しました。白川法で作られるポリアセチレンのフィルムは、金属のような光沢を放っていました。電気を通すプラスチックへとつながる大きな発見でした。

 ポリアセチレンの金属光沢

 金属には「光沢」があります。このことは金属であれば当然のように思われていますが、なぜ金属に「光沢」があるのでしょう?これは金属の表面にある「電子」が光を反射するためにおこる現象です。

 金属は原子同士が、「自由に動く電子」のために結びつけられる「金属結合」という方法で結びつけられるため「光沢」の他、「展性」や「延性」という性質、「電導性」「熱伝導性」という金属特有の性質が生じます。

 白川博士はポリアセチレンの「金属光沢」から、「電気的な性質」にも着目し、測定してみました。フィルムは外見こそピカピカと「光沢」を放つ金属のようでしたが、金属と同じように電気を通すことはありませんでした。白川博士はポリアセチレンの合成方法を発表しましたが、当時はそれほど話題になりませんでした。研究はこのまま埋もれていくかにみえました。

 電導性プラスチックの発見

 しかし、転機が訪れます。それはアラン・マクダイアミッド博士との出会いでした。1975年、東京工業大学に講演に訪れていたマクダイアミッド博士は、金属のように光沢のあるプラスチックを研究している人がいるという話を聞き、ぜひ見たいとということになりました。

 マクダイアミッド博士の元へ白川博士が持ってきた輝くプラスチックのフィルムを見て、マクダイアミッド博士は飛び上がるほど驚いたといいます。これが一緒にノーベル賞を受賞することになるマクダイアミッド博士との出会いとなりました。

 マクダイアミッド博士は、すぐさま白川博士に共同研究をもちかけました。白川博士は申し出を快く受け入れてアメリカに留学し、マクダイアミッド博士とアラン・ヒーガー博士の3人での共同研究が始まりました。

 個性や専門分野が異なる3人のバランスはとてもうまくかみ合い、ノーベル賞への階段を徐々に登りつめていきました。そして1976年11月23日、ポリアセチレンに少しの不純物を加えると電気が通ることを示す針が壊れそうなほどに動いたのです! 「やった、電気が通ったぞ!」電気が通るプラスチックが完成した瞬間でした。このときは不純物として臭素を使っていましたが、後にヨウ素を加えるともっとよく電気を通すことがわかりました。

 1977年、アメリカのニューヨークで開かれた科学アカデミーで、3人はこの電気を通すプラスチックを発表することにしました。嫌がる白川博士に、マクダイアミッド博士が強くすすめて「プラスチック・マジック」を披露(ひろう)させたのです。

 「プラスチックは電気を通さない」。これは当時の常識でした。ポリアセチレンのフィルムにそのまま電気を流しても、もちろんうまく流れることはありません。しかし、ほんの少しの不純物(ヨウ素)を加えると……どうでしょう? なんと流れるはずのない電気が流れ、電球が点灯したのです。発表を見ていた研究者たちは目を疑いました。この発表に多くの企業家や研究者が関心を示しマクダイアミッド博士の作戦は大成功を収めました。

 携帯電話の中に使われている小さな電池やコンデンサー、タッチパネルのような感圧スイッチなど、電気が通るプラスチックは、現在ではさまざまな場所で使われています。今後、もっと研究が進めば、たとえば紙のように折れ曲がるディスプレイや腕時計型のパソコンだってできるかもしれません。夢はどんどん広がっていきます。

 ところで、1978年にみんなをあっと驚かせるプラスチック・マジックを披露した白川博士は、その後筑波大学で教授となり、2000年には筑波大学で定年を迎えました。「そろそろ、趣味としての科学を始めよう、高校時代から大好きだったサボテンなどの植物を独学で研究してみよう。」そんなことを計画していた矢先、電気を通すプラスチックの発表からすでに20年以上が経過した2000年10月、ノーベル賞受賞の知らせが博士の元に舞い込みました。白川博士の仕事が世界中の人に認められ、祝福された瞬間でした。

 「自然に親しもう、本物に出会おう」。白川博士は、受賞後の多くのインタビューでこのように発言しています。その原点は、高山で泥だらけになって遊んだ子供のころの体験です。

 「自然に親しみ、本物を見て自然の不思議と遊ぶこと」。遊びながら考えたあなたの今日の発見が、何十年後かのノーベル賞につながっていくかもしれません。学校で1番じゃなくたって世界中の人をあっと驚かせ、みんなが認めてくれるような大きな仕事はできるのです。

「科学系ノーベル賞受賞者9人の偉業」より記事引用

 プラスチックとは何か?

 主に石油を原料として製造される。炭素原子がいくつもつながった構造を持つ。成形が簡単なため、大量生産される各種日用品や医療分野、工業分野の製品などの原材料となる。

 作り方としては、1種類の炭素化合物の基本物質(モノマーと呼ぶ)を多数つないで高分子(ポリマー)にする重合という方法と、2種類以上のモノマーを結合させた共重合という方法がある。

 一般的な特徴としては電気を通さない(絶縁体)、水や薬品などに強く腐食しにくい(これは廃棄後の処理がしにくいということでもあり、環境問題を引き起こす原因の一つでもある)、燃えやすい、紫外線に弱く、太陽光に当たる場所では劣化が早い等が挙げられる。

 しかし現在では、使用目的に応じてこれらの性質に当てはまらないプラスチックも開発されている。電気を通す導電性プラスチック、微生物によって分解される、生分解性プラスチック難燃性プラスチック などが製品化されている。

 プラスチックの種類

 ポリエチレン (PE) 高密度ポリエチレン(HDPE) 中密度ポリエチレン(MDPE) 低密度ポリエチレン(LDPE) ポリプロピレン (PP) ポリ塩化ビニル (PVC) ポリ塩化ビニリデンポリスチレン (PS) ポリ酢酸ビニル (PVAc) テフロン® — (ポリテトラフルオロエチレン、PTFE) ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂) AS樹脂 アクリル樹脂 (PMMA) フェノール樹脂 (PF) エポキシ樹脂(EP) メラミン樹脂(MF) 尿素樹脂(ユリア樹脂、UF) 不飽和ポリエステル樹脂(UP) アルキド樹脂 ポリウレタン(PUR) ポリイミド(PI) など 


私の歩んだ道―ノーベル化学賞の発想

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白川英樹博士と導電性高分子

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