科学界のパラダイムシフト
 ノーベル賞が始まった1900年前後は科学にとってパラダイムシフト(重大な価値観の変換)が起きた時期だった。

 多くの人はアインシュタインの1900年代前半の相対性理論によって、新しいパラダイムが始まったと考えている。

 もちろんアインシュタインもノーベル賞をとっているし偉大な科学者であることは間違いない。しかし、アインシュタインの業績は他の多くの科学者の業績の上に成り立つものであり、パラダイムシフトは多くの研究者の力で起きたと考える。

 調べてみると、生涯アインシュタインの「時間空間論」に反対したノーベル賞受賞者がいた。それが1902年第2回ノーベル物理学賞のヘンドリック・ローレンツである。

 ローレンツの発表したローレンツ変換もパラダイムシフトに大きく貢献した理論であり、相対性理論にも取り入れられている。

 そしてローレンツの理論もまた、1800年代初頭のファラデーらから始まった近代「電磁気学」の研究者達の業績の上に成り立ったものである。

 このブログでは最新科学も、先人達の業績の上に成り立つものと考えノーベル賞受賞研究を紹介しているが、100年以上も前のノーベル賞の研究が現在でもまったく古くないことに驚いている。

 熱心な研究者達の「探求心」は、いつの時代でも共通しているものだと思う。

 今日は1902年、教え子のゼーマンとともに第2回ノーベル物理学賞を受けたローレンツの「放射に対する磁場の影響の研究(ゼーマン効果)」について述べたい。

 この研究により物質をつくる原子は、−や+の電気を持った荷電粒子の集まりであることがわかった。(参考HP Wikipedia)

 新パラダイム形成の時代背景

 1800年代後半から1900年前半は、めまぐるしく電磁気学が発展をとげた時期であった。1890年代に「陰極線」から「電子」が発見され、「原子」は電子や荷電粒子が集合して成り立っていることが確実になった。

 1885年「電子」の運動から「電磁波」が発見され、「光」も電磁波であることがわかった。

 「質量」のある「電子」には、ニュートン古典力学は成立したが、「質量」のない「光」や「電磁波」の運動力学が無視できないものになった。

 「電磁気学」と「古典力学」をつなげる理論が必要とされた。最初にこれを説明したのが「ローレンツ変換」である。この変換はアインシュタインに引き継がれると相対性理論として、より大きなパラダイムシフトを起こした。

 1864年、マックスウェルが電磁波の存在を予言

 1867年、マックスウェルが光の電磁波説を唱える。

 1885年、ドイツのヘルツが電磁波を発見。

 1887年、アメリカの物理学者、アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーが行った「マイケルソン・モーリーの実験」(Michelson-Morley experiment)は。「最も有名な、失敗した実験」と呼ばれ、これによって電磁波を媒介するエーテルの不存在が確認された。

 1895年、ドイツのレントゲンはクルックス管から、目には見えない電磁波「X線」がでていることを発見。

 1901年、第1回ノーベル賞を受賞。

 1896年、オランダの物理学者ピーター・ゼーマンがナトリウム原子を磁場の中で発光させた時にそのD線のスペクトルが数本に分かれるゼーマン効果を発見。

 ゼーマンの師ローレンツは物質を荷電粒子の集合と考える「電子論」によってゼーマン効果の理論的な説明に成功。ゼーマンとローレンツはこれらの研究により1902年第2回ノーベル賞を受賞。

 1897年、イギリスのトムソンは磁気と電気をもちいて陰極線の正体が負に荷電した粒子であることを発見し、「電子」と名づけた。

 ゼーマン効果とは?

 ゼーマン効果(ゼーマンこうか、Zeeman effect)は原子から放出される電磁波のスペクトルにおいて、磁場が無いときには単一波長であったスペクトル線が、原子を磁場中においた場合には複数のスペクトル線に分裂する現象である。

 1896年にオランダの物理学者ピーター・ゼーマンがナトリウム原子を磁場の中で発光させた時にそのD線のスペクトルが数本に分かれることを発見した。

 発見された1890年代は、原子の内部構造の研究が進められていた時代で、原子中に振動する荷電粒子が存在することの証拠の1つの現象とされた。

 ヘンドリック・ローレンツ、ジョセフ・ラーモアなどによってこの現象の理論的な検討がなされた。

 ローレンツの古典電磁気学による理論を元にゼーマンは光を放射している荷電粒子は負の電荷を持ち、その比電荷を約1/1600と決定した。 これはほぼ同時期にジョセフ・ジョン・トムソンらによって測定されていた陰極線の構成粒子のそれとほぼ同じ値であった。

 ゼーマンとローレンツはこれらの研究により1902年のノーベル物理学賞を受賞した。

 ローレンツ変換とは?

 ローレンツ変換(ローレンツへんかん、Lorentz transformation)は、2つの慣性系の間の座標(時間座標と空間座標)を結びつける変換で、電磁気学と古典力学間の矛盾を回避するために、アイルランドのジョセフ・ラーマー(1897年)とオランダのヘンドリック・アントーン・ローレンツ(1899年、1904年)により提案された。

 アルベルト・アインシュタインが特殊相対性理論 (1905年)を構築したときには、慣性系間に許される変換公式として、理論の基礎を形成した。

 時間・空間・光速度の関係

 ローレンツは、時間の流れや光速度はすべての基準座標系において同一と考えたため、「大きな速度で動く座標系では、2点間の距離(物体の長さ)は縮む」というローレンツ収縮を結論した。

 しかし、ローレンツ収縮は実験結果と矛盾した。後に、アインシュタインは、光速度の不変性と物理法則の相対性(「物理法則はあらゆる慣性系間で同一である」)の2つを原理として、特殊相対性理論を築いた。そこでは、ローレンツ変換から帰結される事実として、時間の進み方が観測者によって異なることを結論した。

 ローレンツ力とは?

 ローレンツ力 (Lorentz force)は、電磁場中で運動する荷電粒子が受ける力のこと。モーターが回る原理である。

 この力は F qE + × )  

 と表される。F は荷電粒子が受ける力(これをローレンツ力と言う)、E とB は荷電粒子が存在する位置における電場と磁束密度(つまり磁場)である。q は荷電粒子の持つ電荷。v は荷電粒子の速度である。× は外積である。

 ヘンドリック・ローレンツとは?

 ヘンドリック・アントーン・ローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz, 1853年7月18日 - 1928年2月4日)は、オランダの物理学者

 マクスウェルの電磁気学理論を発展させ、物質を荷電粒子の集合と考える電子論によって光学的・電磁気学的なさまざまな現象を説明し、電子の実在性を確立した。

 電子論によってゼーマン効果の理論的な説明に成功したことは、そのもっとも代表的な業績といえる。また、荷電粒子が電場や磁場の中で力を受けることを導き、この力は現在ローレンツ力と呼ばれている。

 1909年にコロンビア大学での一連の講義(Ernest Kempton Adams Lecturerとして)をまとめて「Theory of Electrons」を出版した。

 このほか、マイケルソン・モーレーの実験の結果を受け、フィッツジェラルドと独立にフィッツジェラルド‐ローレンツ収縮の仮説を提唱したり、これを発展させてローレンツ変換を導出したことでも知られる。

 これはアインシュタインの特殊相対性理論と数学的には同一の形式をしており、相対性理論においてもそのままの名称で呼ばれている。そのため、ローレンツはポアンカレらとともに相対性理論に肉薄した科学者の一人と見なされている。

 「放射に対する磁場の影響の研究」によって、教え子のゼーマンとともに1902年のノーベル物理学賞を受賞した。

 ローレンツはソルベー会議で第1回(1911年)から第5回(1927年)まで毎回議長をつとめ,さらに国際連盟の知的協力国際委員会の委員または委員長をつとめ,現代物理学への転換をめぐる会議と科学者の国際組織に大きく貢献した。

 誘電物質や金属による電磁波の反射および屈折の理論を手始めに,光の分散の考察などを経て,物質中における電子の存在を仮定した理論によってゼーマン効果を説明,物質の性質を説明するために電子論を展開した。

 1904年のローレンツ変換で,翌年のアインシュタインの特殊相対性理論の完成に大きく寄与する数学的理論を発表したが,空間,時間概念のアインシュタインの理論には反対し続けた。

 ピーターゼーマンとは?

 ピーター・ゼーマン(Pieter Zeeman, 1865年5月25日 - 1943年10月9日)は、オランダの物理学者。1902年にゼーマン効果の発見によりノーベル物理学賞をローレンツとともに受賞した。

 ライデン大学でローレンツの教えを受ける。1896年に光に対する磁場の影響を研究して、ゼーマン効果を発見した。

 ゼーマンは1900年にアムステルダム大学の教授になり、1908年に物理学研究所(現在のゼーマン研究所)の所長になった。

 ゼーマンはライデン大学でちょうどひとまわり(12歳)年長のローレンツの教えをうけた。彼は強い磁場中におかれた光源からのスペクトル線が数本に分かれること,つまりゼーマン効果を発見,師ローレンツの電子論を実証し,師ローレンツとそろって1902年の第2回ノーベル物理学賞を受賞した。

 ゼーマンは,「ゼーマン効果」の発見のほかに,カナル線のドップラー効果に関する実験的研究,フレネル随伴係数におけるローレンツ項の存在の実証,質量分析器を用いてアルゴン38,ニッケル64などの同位体を発見したことなどがあげられる。
参考 Wikipedia: ピーター・ゼーマン ヘンドリック・ローレンツ

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please