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がんが遺伝子の異常で起こる病気である以上、「遺伝子治療」の対象となるのは当然の成り行きでした。がんの遺伝子を組み換えることができれば簡単に直ってしまう理屈にあった治療法だからです。

「遺伝子治療を受けたいのだけど、どこでやっているのか」と考えている方も大勢いらっしゃると思います。しかし、どの国でも一般の医療機関で行われるような現状ではなく、ごく限られた施設で、限られた疾患の患者さんを対象に行われるような段階です。

厚生労働省のホームページによると、1994年以降、約20カ所の大学付属病院で行われています。参考にしてください。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1012-5c.pdf のP142参照)

現在世界で、5000例ぐらいの遺伝子治療が行われています。これはがん以外のものも含めていますが、内訳ではやはりがんに対するものが圧倒的に多く、全体の7割ぐらいを占めています。

しかし、遺伝子治療の第1号から14年の歳月が流れるにもかかわらず、遺伝子治療が世界で5000例というのは、けっして多い数字ではありません。その理由としては、遺伝病に関しては一定の成果をあげているものの、がんやエイズなどのターゲットに対して、顕著な成果がまだあげられていないという実情があります。

なぜ、がんに対して思ったような成果があがっていないのでしょうか?今日はがんに対する遺伝子治療の現実と可能性について調べます。
(参考HP qolelifeline・IM clinic)

遺伝子治療の現実


遺伝子治療の効果はまだはっきり有効なものと、決まったものにはなっていません。というのは遺伝子治療が、体細胞に対する遺伝子組換えを行っているだけなので、完全に問題の遺伝子を変えることはできないからです。

生殖細胞への遺伝子治療が可能であれば体細胞のすべてまで遺伝子を変えることは可能です。しかしそこには倫理的な問題がありまだ許されていません。

がん遺伝子治療の現在


遺伝疾患やがんの原因が自殺遺伝子がん遺伝子(DNA)やがん抑制遺伝子の変異による事がわかってきています。

その変異をきたした遺伝子を正常にして、がんを治療するというのが本来の意味での遺伝子治療です。

しかし、現時点で異常ながん細胞の遺伝子を正常に直す事は不可能です。ヒトゲノムの研究が進み、遺伝子の構造、機能が充分に解明されれば可能になるのかもしれませんが、新しい細胞を組み込めば、本来なかった蛋白質がつくられ、免疫反応により拒絶反応が起きる可能性も否めません。

身体の全細胞を組み換える事は現在受精卵の段階でしかできませんし、その遺伝子が受け継がれるという倫理的な問題もあります。

よって、現在のがん遺伝子治療と呼ばれているものは、がん細胞を正常にもどすことではありません。さまざまな戦略が考えられています。基本的には、「免疫強化」「治療薬の副作用回避」「癌細胞を自殺させる」「癌化を抑制する」が戦略です。

「免疫遺伝子治療」とは、免疫力を高める方法です。がんに対する免疫療法というのは以前からありますが、しばしば、その効果が必ずしもはっきりしない、あらかじめ予測できないという点が問題でした。それを遺伝子を使ってもっと効くようにして、患者さんのがんと闘う免疫力を高めようとします。

「骨髄保護療法」は、抗がん剤の補助療法です。がんを完全に消すために抗がん剤を大量に使いたくても、副作用が出てくるので、使える量には限界があります。特に「骨髄抑制」という正常な血液細胞を減らしてしまう副作用が問題になるケースが多いのですが、そういう場合にあらかじめ患者さんの血液を造る骨髄に遺伝子を入れ、骨髄が抗がん剤でやられないように保護してから化学療法を行う方法も検討されています。

「自殺遺伝子治療」という方法も考えられています。「自殺遺伝子」という奇妙な名前で呼ばれる遺伝子がありますが、これはある種のウイルスがもっている特殊な遺伝子で、この遺伝子が入った細胞は死んでしまいます。ですからこれをがんに導入できれば、がん細胞は死んでしまうはずです。そういう考え方の遺伝子治療もあります。

「抑制遺伝子治療」という方法では、P53(がん抑制遺伝子) という、がん抑制遺伝子が壊れている場合があり、正常ながん抑制遺伝子を外から補充したり、逆にがん遺伝子が働きすぎているのだったら、その遺伝子の働きを抑える。そういう治療法も考えられています。

以上の「遺伝子治療」は、がんの原因である遺伝子異常、「遺伝子のケガ」を直接治すという意味での遺伝子治療ではなく、あくまでも遺伝子を道具として使い、これまである治療法をより有効にするために行う遺伝子治療です。

P53(がん抑制遺伝子)とは?


がん抑制遺伝子の一つです。P53はゲノムの保全状態を監視している為「ゲノム管理人」と呼ばれています。

このP53は細胞内での半減期が20分と言う不安定な蛋白質です。
正常細胞内での存在量は低く、不活性ですが、放射線や化学物質によりDNAに傷がつくと大量に発生し、間違ったDNAの合成を阻止する為細胞周期をG1期で停止させ傷害が修復するまでの時間稼ぎをする働きがあります。

また修復不能な傷害を持つ細胞にはアポトーシス(自らが属する個体をよりよい状態に保つために細胞が自ら死ぬこと。細胞の自殺行為)を起こさせ殺してしまう働きも持ちます。

P53はこのような手段でDNAの安定を保っています。

がん遺伝子治療の未来


がん遺伝子治療の成果があがっていない第一の理由は、導入遺伝子の定着率が低く、遺伝子が体内で十分な効果を発揮していないという点にあります。

この点を改善するためには、ベクターの改良が必要とされます。また日本国内では、ベクターを供給する企業も少なく、さらには安全性を検査する専門機関がないために、技術のほとんどをアメリカに頼っているという現状もネックになっています。

世界的に見ても、遺伝子治療が画期的な成果をもたらすためには、さらに技術レベルと安全性を高めていく必要があり、日本での課題はさらに数多いわけですが、医学界の遺伝子治療への期待感が失われているわけではありません。

遺伝子の研究、さらにベクターの改良などが進み、症例を増加させていけば、将来的には、薬物療法や外科的治療に代わり、不可能を可能にしていく潜在力を秘めています。 

 
「ガン」遺伝子治療
深見 輝明
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ガンを治す108の方法
石黒 謙吾(構成),帯津 良一
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