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iPS細胞(人工万能細胞)樹立の成功により、様々な可能性が開かれた。ES細胞(胚性幹細胞)に匹敵する万能性を持つiPS細胞(人工万能細胞)を使うことで、ES細胞(胚性幹細胞)の持つ生命倫理的問題を回避することができるようになったし、ES細胞(胚性幹細胞)では存在した、免疫拒絶の無い再生医療の実現に向けて大きな一歩となった。

これまでの倫理的な問題


これまで問題となった、ES細胞(胚性幹細胞)を樹立するには、受精卵ないし受精卵より発生が進んだ胚盤胞までの段階の初期胚が必要となる。ヒトの場合では、将来ヒトになることが約束されている受精卵を材料として用いることは、生命の元を滅失してしまうために、これを再生医療や難病治療などの分野で使ってよいか倫理的な論議を呼んでいた。

先進国においては、例えば米国ブッシュ政権が2001年8月に公的研究費による新たなヒトES細胞の樹立を禁止しているように、いずれヒトになりうる受精卵を破壊する事に対する倫理的理由から、ヒトES細胞の作製を認めない国が多い。日本においても、その作成許容範囲は限定的である。

今回、iPS細胞が樹立でき、これらの倫理的問題の多くは解決できることになった。宗教界からの評価の一例として、ローマ法王庁の生命科学アカデミー所長のスグレッチャは「難病治療につながる技術を受精卵を破壊する過程を経ずに行えることになったことを賞賛する」との趣旨の発表を行った。

iPS細胞をめぐる安全性の問題


しかし、iPS細胞の問題点もたくさんある。安全面での課題としては、「レトロウイルスベクター」を使っていること、体細胞に組み込む4つの遺伝子のうちの一つは発癌性遺伝子「c-Myc」を使っていることである。

「レトロウイルスベクター」は染色体内のランダムな位置に遺伝子を導入するため、変異が起こり、内在性発癌遺伝子の活性化を引き起こしやすい点が問題とされている。この問題は「遺伝子導入法」を「化合物を添加する方法」に置き換える研究が進んでおり、マウスの実験で遺伝子3種類の導入と化合物添加によりiPS細胞を作ることに成功している。

また、発癌性遺伝子「c-Myc」を使ったiPS細胞ををマウス胚盤胞へ導入した胚をマウスに着床させ、キメラマウスを作製したところ、およそ20%の個体において癌の形成が認められた。この問題は発癌性遺伝子「c-Myc」を使わないで、iPS細胞をつくることに試みた結果、iPS細胞の作出には成功したが、作出効率が極めて低下(1/100といわれる)する問題点が残っている。

iPS細胞をめぐる社会的な問題


社会的な問題としては、難病で苦しむ人たちのためにも、いかに産業界と国が一体となって取り組んでいくかが問われている。ところが、ここにきて懸念されているのがバイエル薬品の特許問題である。

ヒトiPS細胞の樹立が、京都大学の山中伸弥教授らのチームより、バイエル薬品のチームの方が速い?というのだ。iPS細胞の作製成功は、山中教授らのチームは2007年11月23日サイエンスに発表。バイエル薬品のチームは2008年1月31日付のオランダ科学誌(電子版)に発表と遅い。しかし論文の中でiPS細胞の作製成功は2007年5月上旬より以前ということで、日本を含む各地で特許を申請している。

もしバイエル薬品が特許権を取得した場合、「莫大な特許料の発生や、バイエル薬品が産業応用をゆっくり進めた場合、産業応用はスピードダウンする」(医薬業界関係者)というおそれが出てきた。

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バイエルもヒトiPS細胞を作製か?


京都大学の山中伸弥教授らのチームが作製したヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、ドイツ製薬大手バイエルの日本法人、バイエル薬品(大阪市淀川区)に所属していた研究チームも、作製に成功していたことが11日、分かった。

研究内容は独本社で管理され、すでに特許申請しているもようだ。バイエル側が先に特許を取得した場合、日本でのiPS細胞の活用などに支障が出ることも予想される。

関係者によると、1月31日付のオランダ科学誌(電子版)に、バイエル薬品の神戸リサーチセンター(神戸市中央区)に所属していた研究チームが、ヒトiPS細胞の作製について投稿した論文が掲載された。

どちらが先行して作製できたのかは不明だが、論文が掲載されたオランダの科学誌について「『サイエンス』や『ネイチャー』に比べて知名度が低く、「学会に受け入れられたとは言い難い」(関係者)と指摘する声もある。

京大によると、同社の研究チームの論文発表については、山中教授らも把握していたという。「特許出願の内容が公表されていないため、現時点では対応しようがない」としている。  

元バイエル薬品神戸リサーチセンター長の桜田一洋氏は産経新聞の取材に対し、バイエルとの秘密保持契約のため詳細は明かせないとしながらも、「iPS細胞の作製が昨年5月上旬より以前であり、日本を含む各地で特許を申請中」と述べた。

また、オランダの科学誌「ステム・セル・リサーチ」に掲載された論文について、「内容を専門的に見ていただければ、他のiPS細胞と比べて質が高いのは明らか」と自信をみせている。

バイエル薬品によると、研究チームが「体性幹細胞に関する研究をしていたのは間違いないが、ヒトiPS細胞まで作製していたかどうかは把握できていない」(同社広報)という。チームのメンバーは昨年12月のセンター閉鎖後、いずれも退職している。(MSN Sankei2008.4.11)

参考HP 京都大学山中研究室 
 →
 http://www.frontier.kyoto-u.ac.jp/rc02/index-j.html
 

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