2007年 6月大阪府堺市

 2007年6月、大阪府堺市で食中毒事件が起きた。塗装業を営む家の家族と従業員の9人で食事会を開いてたところ、食事後、9人全員に激しい嘔吐と下痢、激痛に襲われた。うち2人は緊急入院。

 不思議なことに水を飲むと口がしびれ、コップを持つ手もまるでドライアイスを触ったように電気が走る「温度感覚異常」という症状が見られた。長い人はこのような症状が1年も続いた。診断した医者もこの原因が何かすぐにはわからなかった。この原因は何だろう?

 原因はその日9人が食べた「イシガキダイ」。和歌山・南紀で家のご主人が釣ってきたものだ。イシガキダイに毒があることは今まで聞いたことがない。



 実はイシガキダイそのものに毒があるわけではなく、イシガキダイが食べる藻に毒があった。その毒が魚に蓄積するとおきる現象で、毎年2万人以上の患者を出す世界最大規模の食中毒。藻の名前は有毒渦鞭毛藻ガンビエールディスカス」という藻。この名前はフランス領ポリネシアの「ガンビエール諸島」からきている。


 1986年 ガンビエール諸島

 ここは澄み切った青い海と美しいサンゴ礁で囲まれた美しい島、約600名が暮らしている。ところが島民達が「顔を洗うとき水が冷たくて触れない」「漁に出たとき海水に触ると、激しい痛みがある」というような、生活に支障をきたすほどの「温度感覚異常」の症状を島民たちが訴えた。

その後、原因不明のまま患者は増え続け、やがて島民達はこの症状を引き起こした原因は1966年7月の「水爆実験」ではないかと噂し始めた。実は謎の奇病が発生する2年前、ガンビエール諸島の北西約400kmに位置するムルロア環礁でフランスによる「水爆実験」が行われていたのだ。

放射性物質が原因か?と考えられたが、フランス軍、調査班が現地を調査、島周辺の魚に放射性物質などの影響は確認されなかった。ではなぜ?


 WHO(世界保健機関)からの依頼

 1976年、この原因不明の奇病に対処するために、WHO(世界保健機関)は調査チームを編成し、海の毒物に関する世界的な権威である東北大学食糧化学科の安元健名誉教授(当時助教授)に調査を依頼した。安元教授は放射能の影響ではないとすると、何らかの理由で魚が毒を持ったに違いないと推測。

 安元教授は魚の消化器官から、見慣れない丸い新種の藻を発見する。これが「ガンビエールディスカス」だった。ガンビエールディスカスを成分分析した結果、「シガテラ毒」と呼ばれている神経毒の一種が見つかった。通常一匹の魚に含まれる量は非常に微量で人間が食べても死亡することはほとんどないが、この藻が増え体内に蓄積すると食中毒が起きる仕組みだ。


 15世紀コロンブス時代からの謎

 では、この藻はどんなとき増えるのか?

 安元教授はかつて読んだ資料の中のある記述を思い出した。15世紀、コロンブスの時代から大西洋を航海する船乗りたちの間で『大型船がサンゴ礁に座礁すると、そこに住む魚が毒を持つ』という話。

 安本教授はサンゴとこの藻の生育場所を探るため調査を続けた。すると、島の東側の目に色鮮やかなサンゴ礁が広がる一角に一直線上に続く灰色に変色した場所を目にした。その範囲は、全長約500mに及び、幅10m海底から3m程サンゴ礁がえぐり取られサンゴが死滅していた。ここに「石灰藻」が大量に発生していた。

 実は謎の奇病が発生するおよそ3年前、フランス軍はガンビエール諸島に水爆実験の観測ステーションを建設し、建築資材を積んだ大型の船を接岸させるため、水深の浅い珊瑚礁の一部を削リ取り、海底水路を作っていたことがわかったのだ。そしてそこに多くの「石灰藻」が繁殖し、灰色に変色して見えていた。

 そして「石灰藻」の枝の根元部分に、「ガンビエールディスカス」をついに発見した。

 15世紀のコロンブスの時代から、およそ500年後サンゴの死滅により起こる魚の食中毒の謎が解明された瞬間であった。


 2008年 沖縄・和歌山南紀

 ここは沖縄本島、かつてサンゴ礁だったある磯場。海藻を採取し、顕微鏡で見ると、有毒渦鞭毛藻ガンビエールディスカス」がうじゃうじゃいた。

 近年、沖縄本島のサンゴは、地球温暖化による海水温の上昇による「白化現象」や「オニヒトデ」による食害で壊滅的打撃を受けた。サンゴの死滅した跡に「石灰藻」はよく生える。あの「ガンビエールディスカス」もともに増える理屈だ。

 沖縄の地元の漁師はこういった海に食中毒を起こす魚がいることを昔からよく知っている。

 一方、和歌山県・南紀の海にもサンゴは生息している。しかし現在、至るところでサンゴが死滅、真っ白になった部分がある。実は、この一帯では、3年間で6万匹もの「オニヒトデ」が確認されている。 ここで採取した海藻の分析でも、はっきりとガンビエールディスカスの姿が発見された。本州で確認されたのは初めてのことであった。

 現在、オニヒトデは三宅島でも増えている。オニヒトデのDNAを調査すると沖縄・和歌山・三宅島とすべて一致した。黒潮によりオニヒトデの幼生は運ばれるのである。地球温暖化に伴い確実に「シガテラ毒」の北上は進んでいる。

 「オニヒトデ」の天敵「ホラガイ」は乱獲により激減している。もともとサンゴ礁の生態系の一つだったオニヒトデの数のバランスが崩れ、「悪魔」にしたのは人間なのかもしれない。


参考HP → Wikipedia「シガテラ毒」「渦鞭毛藻」「オニオヒトデ」
特命リサーチ200X「謎の温度感覚異常の原因を突き止めろ!」
 → http://www.ntv.co.jp/FERC/research/20031026/f1590.html
TV朝日:素敵な宇宙船地球号「北上する海の悪魔」 
 → http://www.tv-asahi.co.jp/earth/ 

これだけは知っておきたい食中毒・感染症の基礎知識
橋本 秀夫
中央法規出版

このアイテムの詳細を見る
食中毒性微生物 (食品安全のための物質・事典シリーズ 1)

産業調査会

このアイテムの詳細を見る

ブログランキング・にほんブログ村へ ランキング ←One Click please