
人類が光をいくつかに分け、「赤外線」を利用することになったのはつい最近のことである。この「赤外線」は、われわれ人類だけが有効利用していると考えていた。ところが35億年も前からこれを利用し、しかも地球上のあらゆる所へ広がった微生物が存在した。
クロロフィルd
クロロフィルは葉緑素ともいい、植物が光合成の反応で光エネルギーを吸収する役割をもつ化学物質である。消臭・殺菌効果のほかに、ビタミンCとの相乗効果で美白・美顔などの化粧品・口臭予防液に入れられている。
光合成は光エネルギーを用いて、水と二酸化炭素から有機物を合成するが、この光エネルギーを集めるアンテナの役目を果たしているのがクロロフィルである。それらは発見された順番に、クロロフィルaからdまで4種類に分けられる。
クロロフィルaは、430nmと680nm の波長の光をよく吸光する。クロロフィルbは480nmと630nmの波長の光をよく吸収する。先に見つかっていたa.b.cの3種類が可視光を吸収するのに対し、クロロフィルdだけは、近赤外光を吸収して光合成に利用していることが分かっている。約700nm〜750nmちょうど赤色と赤外線の間、人に見えるか見えないかの境目の光をよく吸収する。
シアノバクテリア
「シアノバクテリア」は酸素発生型の光合成を行う原核生物。浮遊性から付着性まで多様な生態を示す。「藍藻」ともよばれる。最古の生物の1つで、35億年前の地層から「シアノバクテリア」に似た化石が発見されている。
1996年、宮下英明・京都大学准教授が珊瑚礁域に生息するホヤに共生する「シアノバクテリア」の1種Acaryochloris marinaに「クロロフィルd」が存在することを初めて報告した。
これまでの研究によると、このクロロフィルdは海洋の非常に限定された海域にしか見出されておらず、地球上における生物生産における役割は、無視できるほど小さいと考えられてきた。
クロロフィルdの分布とCO2吸収量
海洋研究開発機構は京都大学と共同で、クロロフィルdのグローバルな分布や存在量について解析を進めてきた。極域から温帯域にいたるまでの海底堆積物(北極海、ベーリング海、内浦湾、大槌湾、相模湾、東京湾)および各種湖(琵琶湖と南極の塩湖(ふなぞこ池)および淡水湖(すりばち池))の堆積物について分析した結果、クロロフィルdおよびその分解生成物(フェオフィチンd,パイロクロロフィルd,パイロフェオフィチンd)が全ての堆積物に含まれていることを発見した。
このクロロフィルdおよび分解生成物の濃度は、クロロフィルaに比べると最大で4%程度しかないが、これまで光合成には、利用されていないと考えられてきた近赤外光が、実は光合成に利用され、かつ、地球上の炭素循環に影響を及ぼしていたことが明らかになった。
海洋機構の大河内直彦グループリーダーは「今回検出された濃度などから、見落とされていたCO2吸収量をざっと見積もると地球全体で年10億トン程度(炭素換算)」もあり、これは大気中の年間CO2増加量の約4分の1にあたるという。
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「赤外線で光合成」世界の海で CO2吸収量に影響も
赤外線を光合成に使う特殊な葉緑素「クロロフィルd」が、世界中の海や湖に無視できない規模で存在することを海洋研究開発機構と京都大のグループが見つけた。地球規模の二酸化炭素(CO2)吸収量の推計に影響を及ぼす可能性がある。米科学誌サイエンスに発表した。
植物や藻類は、ふつう目に見える光(可視光)を使って光合成を行う。赤外線を使うクロロフィルdは、シアノバクテリアという原始的な微生物の一種しか持っていないと考えられ、赤外線を使う光合成は無視できるほど少ないというのが定説だった。
グループは、北極海や相模湾、琵琶湖、南極の池など、水温や塩分濃度が大きく異なる世界9カ所の水域の底に堆積(たいせき)した泥を分析した。その結果、すべての泥から一般的な葉緑素の1〜4%の濃度でクロロフィルdを検出した。
クロロフィルdが光合成に使うのは近赤外線で、可視光とほぼ同じ深さまでしか届かない。このため、光が届く水域で光合成する生物の死骸(しがい)が底に沈んだ痕跡とみられる。生物の種類はまだ特定できていないという。
海洋機構の大河内直彦グループリーダーは「今回検出された濃度などから、見落とされていたCO2吸収量をざっと見積もると地球全体で年10億トン程度(炭素換算)」という。これは大気中の年間CO2増加量の約4分の1にあたる。(asahi.com 2008年8月3日)
参考HP 海洋研究開発機構「グローバルに分布するクロロフィルd」
→ http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20080801/index.html
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