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先日インフルエンザの治療薬「タミフル」の次の新薬開発に役立つ、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授(ウイルス感染)らのグループの研究について紹介した。この研究では、インフルエンザウイルスが細胞の中のどのたんぱく質を利用して増殖しているかをつき止めた。(参考HP アイラブサイエンス 2008.7.13

新薬創製
病気に効く薬品のつくりかたは、病気のとき病原体が細胞にどのように感染し、どのように増えていくかを研究し、そこではたらくタンパク質や酵素を見つける。次にこれらをはたらかせないようにする物質を見つけ出す。最後に見つけた物質が人に対して有害ではないか、副作用はどの程度かなどを臨床試験で確かめ、製品化する。

インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスの増えるしくみと、これを抑えるいくつかの医薬品のはたらくしくみについて考えてみよう。

上の図はインフルエンザウイルスが細胞に感染して、遺伝子を増殖。細胞を破壊して外に出るまでの過程を表している。

ここで働くのがさまざまなタンパク質や酵素などである。まずインフルエンザウイルスの表面にある「ヘマグルチニン」というタンパク質が細胞を認識。細胞にくっついて細胞内に侵入する(�@)。次に細胞内にある「M2タンパク質」の働きでインフルエンザウイルスは遺伝子を放出(�A)。「ポリメラーゼ」の働きで遺伝子を複製する(�B)。最後にインフルエンザ表面にある「イノラミニターゼ」の働きで細胞膜を溶かし外に出る(�C)。

抗ウイルス剤のはたらき
インフルエンザの薬としては、「タミフル」がある。この薬は�Cの「ノイラミニダーゼ (neuraminidase, NA)」 というタンパク質を阻害することによりインフルエンザウイルスが感染細胞表面から遊離することを阻害し、他の細胞への感染・増殖を抑制する。

またインフルエンザ既存薬「シンメトレル」は�AのM2タンパク質を阻害し、遺伝子を放出させないようにする。

富士化学が開発中の「T-705」という薬品は、�Bのポリメラーゼの働きを阻害し遺伝子を複製させないようにする。

「タミフル」を凌ぐ「T-705」のはたらき
今回、富山化学が臨床試験を進めるインフルエンザ治療薬「T-705」の治療効果がこれまでのものに比べて大きいことがわかってきた。まずタミフルではA・B両型のインフルエンザに作用するが、B型には効きにくく、C型インフルエンザには効果がない。それに対して「T-705」は、A・B・C型の何れのインフルエンザウイルスにも強い効果が認められる。

マウス実験ではH1N1型に感染させたマウスの生存率は14%。そこに感染1時間後「T-705」を投与した所、生存率100%になった。タミフルの場合も感染後1時間に投与したところ、生存率は90%である。ところが感染後25時間後に投与した場合では、「T-705」が生存率70%のところ「タミフル」は50%であった。新型インフルエンザへの変異が心配されているH5N1型に対しても同様の結果が得られているという。

どの「タイプ」のインフルエンザにも効き、「タミフル」より「効き目がある」となると早く手に入れたいところだが、実用化にはまだ、臨床試験を残している。「臨床試験」とは何だろうか?
(参考資料 朝日新聞2008.8.22「新型インフルに切り札か」)

臨床試験とは
医学における介入研究を臨床試験という。臨床試験の中でも、新薬の承認、あるいは既存薬の新たな適応の申請のために、製薬企業が行う臨床試験を治験と言う。

企業においては臨床開発部門がこれを執り行う。日本においては医師主導型臨床試験の実施が少なく、臨床研究の不足を指摘されがちであり、これを打開するために2002年7月31日に公布され、翌年7月30日より施行された改正薬事法により医師や医療機関が主体となって治験を行うことができるようになった。

なお、臨床試験は全て人間を対象とする実験である。動物による実験を臨床試験以前の基礎研究という。

フェーズ1:健常人を対象に薬の安全性と薬物動態を検討する。抗癌剤など明らかに有害な薬では例外的に患者を対象とする。
フェーズ2:
患者を対象とし、薬物に効果があるかということを評価する試験である。
フェーズ3:従来の薬より効果があるかどうかを調べる。この段階で無作為化と盲検法が必要となる。
フェーズ4:新薬発売後、一般臨床医から有効性、安全性に関する情報を収集する。
(出典: Wikipedia「臨床試験」) 
 

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